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オンラインニュースレター:2013年10月号

2013年10月号



ニュースレター第4号に寄せて (e01)

高濱 洋介(徳島大学疾患プロテオゲノム研究センター)

新学術領域研究とは、「研究者または研究者グループにより提案された、我が国の学術水準の向上・強化につながる新たな研究領域について、共同研究や研究人材の育成等の取り組みを通じて発展させる」と規定された科学研究費の研究種目で、ひとつの領域に5年の期間が定められています。すなわち、本研究班を担う研究者には、5年間のうちに、共同研究や研究人材の育成等の取り組みを通じて、標榜する「免疫四次元空間ダイナミクス」研究領域を発展させることが求められているのです。
5年間という限られた期間のうちに、共同研究や研究人材の育成等の取り組みを実践し、それらを通して「免疫四次元空間ダイナミクス」研究領域の発展を実現させるのは並大抵のことではありません。参画する研究者ひとりひとりが新学術領域研究とは何かを理解し、本研究領域を発展・定着させる意思を持ち、それらの共有を基盤に、班員相互の生産的な共同研究を推進するとともに、次世代研究者の育成企画に寄与することが求められていることを自覚する必要があります。
今回のニュースレターは、第2号に引き続いて、公募班員の皆さんに自己紹介を兼ねて本領域に対する考えや抱負を執筆いただき発行するものです。このことについて計画班員各位とともに発足当初に検討した内容は、領域概要や領域代表者挨拶の欄に記載しております。班員各位におかれましては、是非とも「免疫四次元空間ダイナミクス」という新学術領域の目標と活動について引き続き積極的に考察・発信し、共同研究の推進を含め本学術領域の発展と定着に向けて主体的に取り組んでいただければとお願い申し上げる次第です。(2013年10月1日)

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第2回班会議に参加して (e02)

七田 崇(慶應義塾大学医学部)

京都大学芝蘭会館で行われた第2回班会議に公募班員として初参加させて頂きました。「免疫四次元」という壮大なテーマのもと、幅広い免疫研究の最先端にじっくりと浸ることができました。研究の内容はどれも興味深く、思わず聞き入ってしまうものばかりでした。リンパ器官形成、骨髄ニッチ、リンパ球の遊走に関する詳細なメカニズム、さらに免疫細胞の動きをとらえたイメージング技術、と今でも心に残っています。また、様々な分野で研究をされている先生方と直接お話しできたことも非常に幸せな経験でした。ありがとうございました。
どの研究発表にも斬新な視点があり、自分も多角的な視点を持つ必要があると思います。また、脳と免疫のつながりを研究するために、日常の研究生活では見過ごしていた、もっとたくさんの切り口があることに気付かされました。次の班会議でも新たな出会いを楽しみにしております。これからもどうぞよろしくお願い致します。

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二次元から三次元、そして四次元へ (e03)

濱崎 洋子(京都大学大学院医学研究科)

私はもともと大学院では上皮細胞の細胞生物学研究に携わっていました。上皮細胞の一般的な定義は、上下の極性を持ち“二次元”のシートを形成してバリア機能を担うということです。しかし、この定義を完全に無視しているにもかかわらず、何故か“上皮”とよばれている胸腺上皮細胞に遭遇しました。上皮としては例外的に、“三次元”の網目構造を形成して組織を支え、バリア機能も持たず、T細胞分化の支持に特化した胸腺上皮細胞の成り立ちに興味を抱いて免疫学の世界に飛び込みました。
T細胞の分化・選択には、胸腺組織そのものが正常に発生することが必須ですが、そのメカニズムはよく分かっていませんでした。大切なことであるにもかかわらず流行っているようにも見えないから、じっくり本質的なことに取り組めるだろうと思っていたのですが、胸腺に限らず免疫組織のストロマ細胞の研究はここ数年で急速に進展し、そこそこに騒がしい分野となってきました。当初のオリジナルな謎はまだ解けずにいますが、その間私は、胸腺の中も然ることながら、T細胞も含めきわめて多様な細胞群がダイナミックに全身を駆け廻ることによって成り立つ免疫システムの妙、またそのシステムの破綻によりおこる免疫疾患の複雑さと難しさに、どんどん惹き込まれていきました。
一方で、ヒトの様々な疾患のベースともなる加齢に伴う免疫機能の低下・あるいは変容のメカニズムは、現代医学の重要な課題にもかかわらずほとんど理解されていません。これは一度正常に形成されたシステムが緩徐に破綻していくもので、生まれながらにして特定分子に機能異常を有するノックアウトマウスのような系だけでは説明しうる事象ではないはずです。こうした背景から、胸腺ストロマが分子レベルで理解されてきた今こそ、この時間軸で大きく変化する胸腺という免疫臓器を中心として、歳をとると何故免疫機能が落ちるのか?自己免疫疾患発症率が上るのか?といった単純かつ重要な問題を、今一度よく考えてみるべきなのではないかと思うようになりました。この世界に入るきっかけとなった“三次元”の謎を解けないうちから、免疫“四次元”の謎にも挑もうとすることに若干の気恥ずかしさを覚えていますが、自分のこの問いに真っ直ぐにじっくりと取り組んでいきたいと思っています。

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胸腺微小環境に舞い戻った私ですが (e04)

新田 剛(国立国際医療研究センター研究所免疫病理研究部)

7月の班会議を欠席して高濱先生に怒られた新田です。すんません。私は以前に高濱先生のラボにて、胸腺皮質上皮細胞に発現されるプロテアソームサブユニット「β5t」の機能解析に携わりました。その後、職場を異動し、2年ほど前、飼育室で奇妙なマウスを見つけました。TNマウスと名づけたこの自然変異マウスは、胸腺でのT細胞分化が著しく低下していました。TNマウスでのT細胞分化障害はT細胞自身ではなく胸腺環境の異常に起因し、組織解析の結果、胸腺の皮質上皮細胞が欠損していることがわかりました。連鎖解析とシークエンスにより明らかになった原因遺伝子は、驚くべきことに、β5tでした。ホンマかいな?! その後、β5tの変異が皮質上皮細胞の死を引き起こすメカニズムを明らかにし、現在はこのマウスの表現型を詳しく調べることで皮質上皮細胞の生理的意義を再発見することを目標に研究を進めています。面白いことに、胸腺上皮細胞はαβT細胞の正負選択だけでなく、NKT細胞やγδT細胞サブセットの分化を個体発生に沿って巧みに制御していることがわかってきました。この時空間的に制御された細胞間相互作用の分子メカニズムを解明することが、次の大きな課題になると思います。こんな偶然の発見によって胸腺微小環境の研究分野に舞い戻った私ですが、さらに幸運なことに、「免疫四次元空間」公募班に採択していただきました。多くの幸運に支えられた研究成果が「一発屋」で終わることのないよう、本領域で得た知識、情報、人脈を活かし、今後とも自分なりの切り口で研究を進め成果を発信してゆく所存です。ご指導よろしくお願い申し上げます。

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免疫四次元空間をさまよう記憶B細胞 (e05)

北村 大介(東京理科大学 生命医科学研究所)

狭義の「免疫」は「二度なし現象」すなわち「獲得免疫」であり、それを担う細胞が記憶B細胞であることは昔から知られていますが、その記憶B細胞が何十年もの間、増えもせず死にもせず、どこでどうやって生き長らえているのか、いまだに謎です。組織の何処にいるかくらい簡単に分かりそうなものですが、記憶B細胞は数が非常に少なく、特有のマーカーもないので、なかなか居場所を確定できません。もちろん他のリンパ球と同様に体内を循環しているはずですが、ナイーブB細胞がリンパ節の濾胞に留まるように、記憶B細胞も一時的に隠れ家(ニッシェ)に宿り、生き長らえるための栄養を支持細胞からもらっているはずです。また、記憶B細胞にも、表面に発現する抗原受容体のアイソタイプによって色々とあり、例えばIgA記憶B細胞は粘膜組織というように、それぞれが異なる場所に宿っていても不思議ではありません。私は、記憶B細胞がニッシェにたどり着き、支持細胞と触れ合い、生存シグナルをもらうためには記憶B細胞特有の細胞表面分子が関わっているだろうと考えて、その分子群とそれらのリガンドを発現する支持細胞を明らかにしたいと思っています。この「免疫四次元空間ダイナミクス」研究班では、班員の皆さんからアイデアと霊感、アドバイスをいただいて、何とかこの記憶B細胞の謎を解明したいと思います。: )

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「免疫四次元空間ダイナミクス」研究班への参加にあたって (e06)

笠原 正典(北海道大学大学院医学研究科分子病理学分野)

遅ればせながらご挨拶申し上げます。本年4月から公募班員として参加させていただいております。胸腺皮質上皮細胞に特異的に発現される胸腺プロテアソームの機能を主に遺伝子改変マウスを用いて解析することを計画しています。私がプロテアソームの研究を始めたのは、今から20年ほど前、田中啓二先生によって免疫プロテアソームが発見されたころに遡ります。免疫プロテアソームを特徴付けるサブユニットはβ1i, β2i, β5iの三つですが、このうちβ1i, β5iサブユニットをコードする遺伝子はTAP1, TAP2 遺伝子と隣り合わせになってMHCのクラスII領域でコードされています。このような興味深い遺伝子配置がどのようにして形成されたのかを解析している過程で、ヒトゲノムにMHCと遺伝子組成が類似した遺伝領域が3か所存在することを見出し、脊椎動物進化の初期段階でゲノムが2回重複したとする大野 乾氏の説に強い支持を与えることになりました。また、β1i, β2i, β5iサブユニットがそれぞれβ1, β2, β5サブユニットから個々の遺伝子重複によって創られたのではなく、ゲノム重複の一環として、MHCシステムの誕生と期を一にして誕生したことが明らかになりました。これに対して、今回の研究テーマである胸腺プロテアソームを特徴づけるβ5t サブユニット遺伝子は、β5サブユニット遺伝子から直列重複によって誕生した遺伝子です。おそらく、免疫プロテアソームが誕生してから間もなくして、胸腺プロテアソームが誕生したのではないかと推測しています。それはさておき、遺伝子重複によってβ5サブユニットとは切断特異性を異にするβ5i、β5tサブユニットが創り出され、胸腺におけるT細胞選択、末梢組織における抗原提示に使われるようになったのはまさに進化の妙であると感じ入っています。遺伝子改変マウスを用いた研究の他、病理学教室としての強みを生かして、ヒト材料を用いた研究も推進したいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。