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公募研究概要

胸腺皮質微小環境の形成と機能の解明

研究代表者:東京大学大学院医学系研究科 免疫学 新田 剛
連携研究者:国立国際医療研究センター 研究所 免疫病理研究部 鈴木 春巳

胸腺はT細胞の分化とレパトア選択の場であり、その組織微小環境は主として胸腺上皮細胞(皮質上皮細胞と髄質上皮細胞)によって形成されている。近年の研究により、髄質上皮細胞はT細胞の自己寛容の成立に重要な役割を担うことが明らかになってきた。一方、皮質上皮細胞については、有用なモデル動物が存在しなかったこともあり、その分化機構と機能については未解明の点が多く残されている。本研究では、皮質上皮細胞の減少を示す自然変異マウス系統を対象として、その原因遺伝子の同定と表現型解析を行い、皮質上皮細胞の分化制御機構およびT細胞免疫システムにおける生理的意義の解明をめざす。


胸腺の微小環境を形づくる胸腺上皮細胞(皮質上皮細胞と髄質上皮細胞)の分化機構と機能の解明は、T細胞の分化とレパトア選択のしくみを理解するうえで重要な課題である。本研究では、独自に樹立した皮質上皮細胞の減少を示す自然変異マウスTNに着目し、その疾患責任遺伝子の同定と表現型解析を行うことで、皮質上皮細胞の分化メカニズムの解明とT細胞免疫システムにおける胸腺皮質の生理的意義を明らかにすることを目的とした。
まず、TNマウスの原因遺伝子を同定するため連鎖解析と次世代シークエンシングを行い、Psmb11(β5t)遺伝子にミスセンス変異(G220R)を見出した。さらに、CRISPR/Cas9法を用いてマウス個体のゲノム編集を行い、G220R変異が皮質上皮細胞の異常の原因であることを証明した。β5tは皮質上皮細胞に特異的に発現するプロテアソーム構成因子である。培養細胞および胎仔胸腺器官培養を用いた解析から、β5tG220R変異タンパク質はプロテアソーム形成を阻害し皮質上皮細胞の細胞死を誘導することが示された。従って、TNマウスは皮質上皮細胞を先天的に欠損する、胸腺皮質の研究に有用なモデル動物であることがわかった。
TNマウスの表現型解析から、皮質上皮細胞は胸腺サイズの最大化と、αβT細胞(CD4 T細胞およびCD8 T細胞)の正の選択およびTCRレパトア形成に必要であることが示された。また、TNマウスの胸腺では、iNKT細胞の分化阻害と、IL-17産生γδT細胞(γδT17)の頻度の増加がみられた。特にγδT17のTCRレパトアは大きく変化しており、Vγ6+細胞の増加とVγ4+細胞の減少が認められた。一方、Vγ5+やVγ1+細胞の頻度は野生型マウスと同等であった。胸腺での分化異常に伴い、TNマウスでは末梢組織のγδT17細胞レパトアも変化し、Vγ6+ γδT17が関与する肺の炎症の増強、およびVγ4+ γδT17依存的な皮膚炎の減弱がみられた。以上の結果より、皮質上皮細胞は、conventional αβT細胞だけでなく炎症性γδT細胞のレパトア選択を制御し、局所の炎症応答の調節に寄与することが明らかとなった。現在、皮質上皮細胞によるγδT17の分化制御メカニズムを探るため、皮質上皮細胞に高発現する新規分子の探索と機能解析を進めている。

  1. Nitta T, Muro R, Shimizu Y, Nitta S, Oda H, Ohte Y, Goto M, Yanobu R, Narita T, Takayanagi H, Yasuda H, Okamura T, Murata T, Suzuki H.
    The thymic cortical epithelium determines the TCR repertoire of IL-17-producing γδT cells.
    EMBO Rep, pe201540096. [Epub ahead of print]
  2. Muro R, Nitta T, Okada T, Ideta H, Tsubata T, Suzuki H.
    The Ras GTPase-activating protein Rasal3 supports survival of naïve T cells.
    PLoS One, 10, e0119898, 2015.
  3. #Okada T, *Nitta T, Kaji K, Takashima A, Oda H, Tamehiro N, Goto M, Okamura T, Patrick MS, Suzuki H.
    Differential function of Themis CABIT domains during T cell development.
    PLoS One, 9, e89115, 2014. (*, equal contribution)

研究代表者:新田 剛
研究室HP


連携研究者:鈴木 春巳