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オンラインニュースレター:特別号 フィンランド便り

フィンランド人と日本人

宮坂 昌之(大阪大学)

 一昨年の4月から、現在の阪大のポストの他に、フィンランド学士院のFiDiPro (Finland Distinguished Professor)という肩書をいただき、阪大と併任の形で、フィンランド・トゥルク大学のMediCity Laboratoryに年に3ヶ月ぐらい滞在し、院生の指導、選抜や一部の講義を担当している。MediCity Labは、免疫細胞動態の研究でその名が知られるSirpa Jalkanen教授(女性)が主宰する研究室で、共同研究がきっかけとなって招かれることになった。フィンランド学士院とは5年契約で人件費と研究費が出る。昨年7月からは、阪大の私の研究室で博士号の仕事をした竹田彰君がポスドク研究員としてトゥルク大学のラボに参加してくれ、新しい研究が進みだしている。
 ここ約2年間、日本とフィンランドの間を足繁く往復する間に、日本人とフィンランド人の共通性と違いに気付き始めている。ここにそれを書いてみる。
 まず、共通点としては、フィンランド人も日本人と同様に、効率と正確さを好むことである。仕事が手早く、出来ることはその場で済ませてしまう。また、時間は正確で、公共の乗り物は本当に時間通りに動いている。人々はきれい好きで、街並みはこぎれいである。治安も非常に良い。
 両国人ともにシャイなこともよく似ている。彼らの場合、英語が上手な人が多く、言葉のバリアは殆ど無いはずなのだが、こちらが話しかけないと向こうからどんどん話してくることはない。どちらかというと朴訥という感じの人が多い。無駄なことは話さないのである。冗談のような話だが、一説にはフィンランド人は直接顔を合わせて話をするのがあまり得意でないので、携帯電話の普及が早まったという(フィンランドにはかつて携帯電話の分野で世界首位のシェアを持っていたIT企業ノキアがあり、世界で最も早く携帯電話が普及した)。
 デザイン的にシンプルなものを好むこともよく似ている。日本では北欧デザインと言うと、シンプルな良いデザインの代表とされ、スウェーデンのIKEAが有名であるが、フィンランドにもいくつもの有名デザイン企業があり、そのデザインはやはりシンプルで、飽きが来ないものが多い。
 また、フィンランド人も、日本人と同様、自然を愛でる。四季それぞれの食べ物を愛し、たとえば森で採れる種々のキノコやベリーが旬の食べ物で、その香りや風味を楽しむための種々のレシピがある。春、夏、秋は、森にウォーキングやランニングに出かけ、森林浴を楽しみ、海や湖ではヨットでのセーリングや、魚釣りを楽しむ。冬は街中でノルディックウォーキング(2本のストックを使ってするウォーキング)や、森に出かけてクロスカントリースキーを楽しむ。自然の中で楽しみながらからだを動かすことが生活の中に取り込まれている。
 国民性はおだやかで、とても親切である。余計なことは言わないが、何か困っているとそれとなく声をかけてくれて、優しく教えてくれる。
 このおだやかなフィンランド人が急に活発になるのは、サウナについて語る時である。サウナは殆どの人の家にある(お風呂はなくてもサウナがある)。サウナの中にはストーブがあり、電気あるいは薪を炊いて温めるサウナストーンが入れてある。この石を熱して水をかけ、蒸気を出してサウナをするのである。このサウナストーンにはどんな石がいいとか、どうやって熱くするとか、どのくらい水をかけて蒸気を出すかとか、彼らがサウナについて話し出すと、延々と止まらない。仲の良い人の家に夕食に招かれると、サウナにまで招かれることがある。サウナの後は一緒に庭に出て、タオル一枚で一涼み。あるいは池や川に飛び込む。冬でもそうで、凍った池に一部分だけわざわざ氷を割って水面が見えるようにしてあり、その中にドボンと入るのである。慣れるとこれが気持ち良くなり、病み付きになるとのこと。豪快と言うかなんというか、普通の日本人には形容すべき言葉が見つからない。
 日本人とフィンランド人の一番の違いは仕事時間であろう。彼らは朝早く、たとえば私の居る研究室ではテクニシャンは7時半には仕事を始めている。帰るのも早く、早い人は4時、遅い人でも5時過ぎには帰宅をする。研究者でも同様で、一日8時間以上仕事をする人が殆ど居ない。ところが、彼らはこの仕事時間でありながら、日本人に劣らないだけの成果をあげる。研究面では、しっかりと良い論文を書いて、論文の数も日本人研究者とあまり変わらない。自宅には然るべき仕事スペースと仕事環境(特にネット環境)が整備されていて、やる人は家に帰ってからもやるべきことをしっかりやっている。
 彼らは、よく文献を読み、よく考え、そして必要な実験だけをする。出たデータはすぐに解析をして、論文の原稿を書き始める。そして余暇を見つけてしっかりと休む。すべてに無駄がない。日本人研究者に比べると、実にcivilized lifeを送っている。見ていて実に勉強になる国である。

朝焼けに映えるトゥルク大聖堂。13世紀終わり頃に建てられ、その後何度も改修を重ねて今の姿になる。トゥルク大学のすぐ横にある。