HOME > 組織と研究者 > 公募研究概要「腸内細菌による全身免疫組織でのB細胞刺激とIgE産生制御メカニズムの解明」

公募研究概要

腸内細菌による全身免疫組織でのB細胞刺激とIgE産生制御メカニズムの解明

研究代表者:京都大学医学研究科 AKプロジェクト 鈴木 敬一朗
連携研究者:京都大学医学研究科 戸村 道夫

1000種類を超えると言われる腸内細菌は、糖質や蛋白質などの食餌成分を消費して様々な代謝産物を産生する。腸管免疫組織は、これらの多様な腸内因子の持続的な刺激を受けて特殊な免疫反応の「場」を形成する高度な複雑系である。腸管内腔に分泌されるIgAは腸内刺激因子と結合して生体防御に重要な作用を及ぼしているが、その産生メカニズムや生物学的な機能は未だにあいまいな部分が多い。私達は、これまでの研究において腸管免疫組織のB細胞、T細胞、間質細胞が腸内細菌の影響を受けて特殊な性質を獲得し、胚中心の維持と腸管IgA+細胞の誘導に関わっていると言う事を明らかにしてきた。腸内細菌の影響は腸管局所にとどまらず、全身免疫系へと拡がって免疫関連疾患の発症にも関わる事が示唆されている。特にアレルギー疾患では、腸内細菌の除去によってIgE産生の上昇と病態の増悪が認められる。そこで本研究課題では、免疫細胞の生体内動態に着目して解析する事により、腸内細菌によるIgE産生抑制のメカニズムを明らかにしていきたいと考えている。より将来的には、アレルギー疾患において腸内細菌をターゲットとした新たな治療方法にアプローチする医学応用研究へと発展させる事を目標としている。


本研究では、腸内細菌によるIgE産生制御を観察する目的で、食餌抗原である卵白アルブミン(OVA)を認識するOTII T細胞の移入後にOVA含有水を投与するモデルマウスを作製した。この移入マウスにおいて腸内細菌を観察した所、菌体の表面にOVAと腸管IgAの免疫複合体が結合しているという、当初は全く予想していなかった現象を観察し、宿主免疫反応に重大な影響を与える可能性が考えられたので詳細な解析を行う事とした。
上記移入マウスの腸管免疫細胞からハイブリドーマを作製し、抗OVA-IgAを産生するクローンを単離した。このハイブリドーマをB/T細胞の無いRag1欠損マウスの皮下に移植すると、皮下での腫瘍増殖に伴って腸管内に抗OVA-IgAが分泌される事が確認され, in vivoにおける評価系として用いる事ができる事が明らかになった。しかし、抗OVA-IgAの有無によって腸内細菌構成に違いを認める事はできず、腸内細菌構成の制御に対する役割は不明であった。
そこで、IgAとの非特異的な結合に必要なバクテリア側の因子が存在するかどうかを調べた。この目的で、まず作製したハイブリドーマを用いて抗OVA-IgA抗体を精製した。この精製IgA抗体と様々な培養菌株を混合すると、調べた全ての菌株において菌体表面に抗OVA-IgAが結合したが、特にBacteroides Thetaiotaomicron (B.Theta)に強く結合する事が明らかとなった。トランスポゾンを用いた遺伝子変異の誘発をB.Thetaに対して行い、IgAに結合しない変異体をフローサイトメトリーによるソートを用いて繰り返し単離した。この結果、数種類の遺伝子に対するトランスポゾンの挿入によってIgAへの結合が阻害される事が明らかとなった。そこで、これらの該当遺伝子を欠損するB.Theta株を作製した。
野生型と遺伝子欠損株のB.Thetaを抗生物質処理マウスの腸管に定着させて宿主マウスの大腸粘膜固有層に存在する免疫細胞を比較した所、T細胞からのサイトカイン産生や、制御性T細胞を含めたT細胞サブセットには大きな変化を認めなかった。しかし、大腸上皮細胞を単離して包括的な遺伝子発現解析を行ってみた所、野生型と遺伝子欠損株の定着によって明らかな違いが生じている事が判明した。
以上の結果は、腸内細菌がIgAに非特異的に結合する事で宿主の粘膜機能に対して重大な影響を及ぼしている事を示唆しており、現在さらに詳細な検討を継続している。

  1. Suzuki K and Nakajima A:
    New aspects of IgA synthesis in the gut.
    Int Immunol 26(9):489-94 2014

研究代表者:鈴木 敬一朗
研究室HP

連携研究者:戸村 道夫
研究室HP