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公募研究概要

胸腺Tregニッチ仮説に基づいた成熟Treg“卒業証書分子”の探索

高知大学医学部免疫学教室助教 深澤 太郎

TNFα/ RelAダブルノックアウト(TA-KO)マウスは出生後様々な組織において自己免疫様病態を呈し、生後3週までに死亡する。このとき、胸腺においては制御性T細胞(Treg)分画を認めるが、末梢では認められない。我々はこれまで、TA-KOマウスでは胸腺からのTreg流出が起きていないこと、この流出不全はTreg側でなく胸腺環境側でのRelA欠損に因ること、またRelA欠損T細胞からは胸腺外でTregが誘導されないことを見出した。

このTA-KOマウス胸腺のTreg分画には、野生型ではみられる未成熟Tregがほとんど存在しないという実験結果を得た。TA-KOマウス胸腺では、成熟したTregが流出せず留まり続けることで新たな(未成熟)Tregの分化が阻害されていると考え、このことより胸腺内でのTregを分化成熟させる微小環境(Tregニッチ)の存在を想定し、現在このTregニッチの実証と、ここで起こるTregの分化成熟機構の解明に向けて研究を進めている。

本研究では、RelAを欠損する胸腺環境は成熟Tregを胸腺外へ流出させることができないという表現型を足掛りに、胸腺環境においてRelA依存に発現する“流出シグナル”の同定と、この流出シグナルを受容した成熟Tregが胸腺環境より流出する際に必要とする機能分子(“卒業証書分子”、仮称)の同定を試みる。

成熟したTregの流出に胸腺環境側からのRelA依存の流出シグナルを必要とすることは、成熟Tregの流出を胸腺環境側が制御していることを意味しており、これより胸腺環境側によるTregの出荷前の品質チェック機構の存在を考えている。本研究の目的が達成された場合には、この機構の実在が現実味を帯びる。この機構の実証・解明は、免疫系の大きな特徴である「自己と非自己の識別」を成立させる免疫発生機構の研究に一つ新たな展開をもたらすことになると期待している。

  1. 深澤太郎、三瀬節子、小幡裕一、土井貴裕
    レギュラトリーT細胞の分化にかかわるNF-κBファミリー
    臨床免疫・アレルギー科  57:593-596 (2012、和文総説)
  2. 深澤太郎、直良悠子、國枝武和、久保健雄
    免疫抑制による“再生不応期”のアフリカツメガエル幼生尾の再生能の人為的活性化:脊椎動物の器官再生能の有無を決定する要因を探る
    細胞工学 30:418-423 (2011、和文総説)
  3. Taro Fukazawa, Yuko Naora, Takekazu Kunieda, Takeo Kubo
    Suppression of the immune response potentiates tadpole tail regeneration during the refractory period.
    Development 136:2323-2327 (2009)

本研究期間では、(1)TA-KOマウス胸腺Tregが実際にSphingosine-1-phosphate (S1P)に対し遊走能を示すことから、TA-KO胸腺Tregが示す流出不全はS1P-S1P receptor 1軸の機能不全に因らないことを明らかにした。(2)デオキシグアノシン処理TA-KO胎児胸腺をヌードマウス腎皮膜下へ移植したところ、このマウスではTregの流出不全は再現されなかったことから、Tregの流出に際してRelAを必要とするのは、胸腺ストロマ細胞のうち胸腺上皮以外の細胞種であることがわかった。(3)前述の結果を受け、TA-KO・TNFαKO(対照)胸腺より、T細胞を除いた胸腺ストロマ細胞についてCD45+EpCAM-分画(濃縮された血球系胸腺ストロマ細胞)を単離し発現遺伝子プロファイルをマイクロアレイにより作成し比較したところ、TA-KOにおいて形質細胞様樹状細胞(pDC)に特徴的な遺伝子群の発現低下が見られた。そこでフローサイトメトリーにより胸腺pDC分画(CD11c+B220+PDCA1+)頻度を検討したところ、TA-KO胸腺においてpDC頻度の著しい減少を確認した。一方、TA-KOマウス脾臓においてはpDC頻度の上昇、末梢血中では減少が観察された。このことから、TA-KO胸腺pDC減少はpDCの分化異常ではなく局在異常に因るものと考えられた。TA-KO胎児肝移植により作成した血球系キメラマウスでは胸腺・脾臓・末梢血いずれでもpDC頻度に有意差は検出されず、TA-KOマウスのpDC局在異常は細胞非自律的なRelA欠損によるものと考えられた。TA-KO胎児肝移植による血球系キメラマウスでは胸腺Treg流出は観察されるが、このとき胸腺pDC分画も認められることから、現時点ではTreg流出不全とpDC不在は相関しており、pDCが胸腺Tregの流出に関わる可能性を考えている。

  1. Taro Fukazawa, Noriko Hiraiwa, Takeshi Umemura, Setsuko Mise-Omata, Yuichi Obata, and Takahiro Doi,
    Egress of Mature Murine Regulatory T Cells from the Thymus Requires RelA
    The Journal of Immunology, 194: 3020-3028 (2015).
    DOI: 10.4049/jimmunol.1302756