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公募研究概要

胎児リンパ節形成機構の解明

東京大学大学院医学系研究科 免疫学 澤 新一郎

リンパ節、パイエル板、腸管cryptopatchは個体発生過程において形成がプログラムされた2次リンパ組織(secondary lymphoid organ=SLO)であり、周辺組織から能動的、受動的に運び込まれた抗原がリンパ球に抗原提示され、効果的な免疫応答の誘導と記憶免疫を成立させるために重要な「免疫の場」である。マウスSLOの形成は、胎生15日においてLymphoid Tissue organizer (LTo)領域と呼ばれるリンパ組織原基領域における間葉系ストローマ細胞と、血液系細胞の一種、Lymphoid Tissue inducer (LTi)細胞の「出会い」により開始される。LTi細胞上に発現するTNFファミリーサイトカイン、LT (lymphotoxin) α1β2およびその受容体LTβRを介するシグナルがストローマ細胞における接着分子VCAM1,ICAM1およびケモカインCXCL13の持続的な発現を実現させ、LTi細胞の集簇を誘導することが知られている。また、ストローマ細胞側から産生されるサイトカインIL-7, TNFaおよびCXCL13はLTi細胞上のLT α1β2発現を誘導することが知られ、LTi-ストローマ細胞間における分子クロストークがリンパ組織形成に重要な働きを持つと考えられる。

核内受容体Retinoic acid orphan receptor (ROR)ファミリーの一つ、RORγtはLTi細胞の分化および機能的成熟に必須の分子である。 RORγt欠損マウスはLTi分化が障害され、SLOを欠損する。また、Receptor activatior of NFkB ligand (RANKL)およびその受容体RANK欠損マウスは全身のリンパ節が欠損するが、胎児SLO形成期のLTo領域おけるRANKLシグナルの役割は十分に解明されていない。

本研究では、リンパ節原基領域のストローマ細胞およびLTi系列細胞においてRANK依存的に発現する遺伝子群を明らかにし、胎児期におけるリンパ節形成に必要な因子の同定を目指す。


マウス胎児リンパ節原基におけるRANK発現細胞を同定する目的で、RANK-Cre-IRES-EGFP BAC トランスジェニックマウスを作成した。マウス胎生17日目における鼠径部リンパ節原基では 血球系細胞および内皮細胞に EGFPシグナルが観察された。また、内皮細胞特異的にRANKを欠損するマウスでは鼠径部をはじめとする多くのリンパ節が欠損しており、リンパ節形成において内皮細胞上に発現するRANKの重要性が示唆された。リンパ節形成はリンパ管の囊状化に端を発するとの仮説がこれまで提唱されており、リンパ囊の形成や血球系細胞の遊走に関与するRANKシグナルについて現在解析を進めている。
一方、リンパ球系細胞特異的にRANKLを欠損するマウスでは鼠径部リンパ節の欠損が確認されたが、他部位のリンパ節は正常に形成された。現在、種々の細胞系列特異的なCre発現マウスを用い、リンパ節形成に必須の役割を果たすRANKL発現細胞の同定を試みている。