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公募研究概要

内臓脂肪組織内の免疫空間ニッシェの攪乱とT細胞老化

慶應義塾大学 医学部 循環器内科 佐野 元昭

糖尿病性合併症の中で、細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)は、血糖の厳格なコントロールで病態の進展抑制、改善治癒が認められる。一方で、大血管合併症(動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞)は、血糖の厳格なコントロールを行っても、病態の改善効果は乏しく、心血管イベント抑制効果は、いかに早期から治療介入できたかに依存している。糖尿病患者における”負の遺産”は、これまで高血糖の記憶として説明されてきたが、血糖値があまり高値でない、耐糖能異常の患者でも動脈硬化は進行していく。申請者は、「肥満、メタボリックシンドロームという病態において、内臓脂肪組織内の免疫空間ニッシェに錯乱がおこり、その情報がT細胞に記憶される」ことが”負の遺産”の中心的プレイヤーであると発想するにいたった。
本新学術領域研究の研究計画班である京都大学の湊長博教授は、加齢とともに増加する、特徴的な機能を持つT細胞分画(PD-1陽性記憶型T細胞)に着目した。この細胞集団は、抗原刺激に対するクローン増殖能が低下している一方、オステオポンチンに代表される向炎症性サイトカインの分泌が亢進し、いわゆるSenescence-associated secretory phenotype (SASP) を兼ね備えているため、senescence- associated T 細胞と命名された。senescence- associated T 細胞は加齢のみならず、白血病やSLEに伴って2次リンパ組織内の胚中心で急速に増加し、これらの病気に伴う獲得免疫機能不全や慢性組織炎症に関与している。
我々は、高脂肪食負荷によってsenescence- associated T 細胞と類似した表現型、遺伝子発現様式、機能を示す記憶型T細胞が内臓脂肪組織内のcrown-like structuresと呼ばれるニッシェに出現し、その後、全身に広がっていくことを発見した。仮に、これをobesity-related aged T cell と呼称させていただくと、obesity-related aged T cellは、高脂肪食負荷による内臓脂肪の炎症の慢性化機構に深く関与し、糖尿病を発症させるだけでなく、肥満患者に認められる獲得免疫機能異常や大血管合併症(動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞)発症リスクの増大にも直接関与すると推察される。本研究課題では、過食に伴って内臓脂肪組織でobesity-related aged T cellが誘導されるメカニズム、obesity-related aged T cellのユニークな機能、その増加が内臓脂肪組織のリモデリング、インスリン抵抗性、肥満関連心血管疾患の発症に及ぼす影響について解析を進める。最終的には、obesity-related aged T cell細胞を制御することによって、肥満、糖尿病患者の ”負の遺産”の記憶を消去し、健康寿命を延長させる技術基盤の開発を目標とする。