最近の我々の研究でEBウイルスの癌蛋白の一つであるLMP1がp16INK4a遺伝子の発現に必要な転写因子であるEts2や、RBファミリー蛋白の標的分子であり細胞周期を負に調節する転写因子であるE2F4/5を核から細胞質へと移行させ、それらの蛋白の転写因子としての機能を失活させることにより、p16INK4a-RB 経路を阻害することを明らかにしました(Ohtani et al., J. Cell Biol., 2003)(図―4)。LMP1はnuclear export signal(NES、核外移行シグナル)を有する他の蛋白には作用しないことから、Ets2やE2F4/5特異的に作用するための標的特異性が存在すると考えられます。その機序として、シグナリング分子であるLMP1が標的蛋白特異的に何らかの修飾を施し、蛋白の高次構造を変化させる可能性があります。この点を明らかにし、LMP1によるp16INK4a-RB経路の遮断機構を特異的に阻害する新しいEBV関連悪性腫瘍の治療法の開発を目指します。 |
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Epstein-Barr Virus (EBV)によるp16INK4a /RB-pathway遮断の分子メカニズムの解明とその癌治療への応用 |
EBウイルスは悪性リンパ腫、鼻咽頭癌や胃癌等の悪性腫瘍を起こすことが知られているが、正常人においては通常免疫系により活性型EBウイルスを持つ細胞が排除されるためにEBウイルスによる悪性腫瘍の発症は低く抑えられている。しかし、中国を含む南アジアではEBウイルスが原因と見られる鼻咽頭癌が多く、またアフリカの一部ではEBウイルスによるバーキットリンパ腫が多発している。日本においては罹患率が最も高い癌である胃癌の約10%がEBウイルス陽性であることが明らかになり、EBウイルス関連悪性腫瘍の中では発生頻度が高く問題視されている。さらに最近では、臓器移植や骨髄移植手術後の免疫抑制剤の使用によって、又はAIDS患者など免疫機能が低下した患者において、高頻度にEBウイルス感染に起因する白血病が発生し問題となっている。 これらのことからEBウイルスによる発癌の分子メカニズムを解明し、効果的な治療法の開発へと発展させることは社会的必要性も高く、早急に行う必要がある.