研究内容

疾患ゲノム研究センター病態ゲノム分野は、その前身であるゲノム機能研究センター遺伝情報分野における研究を通じて、Even-Spacing Common SNPs Markerを用いて、2型糖尿病および関節リウマチの疾患感受性遺伝子を同定する研究を続けてきました。日本人を対象として、マイナーアレル頻度が0.1以上のCommon SNPs Makersを、遺伝子領域10 kbに対して出来うる限り1個配置することにより、これまでの複数の連鎖解析により複数人種において繰り返して報告されている疾患感受性候補領域を2段階関連解析の方法により解析してきました。最近になって世界の研究により、全ゲノムに対する網羅的解析により新しい2型糖尿病の疾患感受性遺伝子の報告が相次いでいます。我々は、これらに先んじて、日本人2型糖尿病の候補遺伝子として、第12番染色体からSOCS2 (suppressor of cytokine signaling 2)遺伝子を、また第3番染色体からENDOGL1遺伝子を抽出し報告しました。同様の2段階関連解析の方法を関節リウマチの疾患感受性候補領域に適応することにより、第7番染色体からSEC8L1遺伝子を、また第14番染色体からPRKCH遺伝子を日本人関節リウマチの疾患感受性遺伝子として、抽出しました。
これらの解析に用いたサンプルは患者さんと健常対照者対照者を合わせて1,500から1,900例程度です。これらの研究にご協力頂いた患者さんと健常対照者対照者および、ご担当の医師の先生方、不休の研究で研究成果をあげた大学院生や研究員に感謝します。

 

先天性代謝異常症の疾患原因遺伝子の解明

疾患家系の連鎖解析とポジショナルクローニングにより疾患原因遺伝子を明らかにしてきました。家族性若年性高尿酸血症性腎症の原因遺伝子としてUMOD (uromodulin)遺伝子を複数家系で同定し(Kidney Int 2004)、顎骨骨幹異形成症の原因遺伝子としてGDD1遺伝子を日本人家系と黒人家系で同定しました。日本人家系を対象としてワグナー症候群の原因遺伝子として、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン2CSPG2)のスプライシング変異を同定しました(Invest Ophthalmol Vis Sci 2005)。GDD1に対する抗体を作成し、細胞内の局在、糖化修飾の存在、in situ hybridizationによる発生初期の発現様式を明らかにしました。また、GDD1ノックアウトマウスの作成を行い、GDD1の機能解析を進めています(Biochem Biophys Res Commun 2007, Biochem Biophys Res Commun 2005, Am J Hum Genet 2004)。

 

ヒトを対象とする糖尿病、関節リウマチの関連解析による疾患感受性遺伝子の同定

2型糖尿病・関節リウマチ、および健常対照者由来末梢不死化Bリンパ芽球株をそれぞれ1,000株以上収集しました。さらに、日本人ゲノム上で約90,000スニップスのマイナーアレル頻度を明らかにしました(ASNPsデータベースとして、ホームページに掲載http://www.genome.tokushima-u.ac.jp/dgi/JAPDGI/ASNPs/index_Japanese.html)。マイナーアレル頻度が比較的高いスニップス(15%以上)を、約70,000個特定しました。
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型糖尿病と関節リウマチ等の「ありふれた病気」を対象として、1)罹患同胞対等の連鎖解析で疾患感受性が示唆される領域を対象とし、2)遺伝子領域を中心として一定間隔(〜10 kb)にひとつ、マイナーアレル頻度が高いSNPsを用いて、760950例程度の患者群と同数の健常対照者を用いる段階的関連解析により、疾患感受性遺伝子を抽出してきました。
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型糖尿病の候補領域解析により、ENDOGL1遺伝子(Diabetologia 2007)、SOCS2遺伝子(Genomics 2006)、UBR1遺伝子(BMC Med Genet. 2008)、MYL9遺伝子(Hum Genet 2006)を疾患感受性遺伝子として抽出しました。
日本人の関節リウマチの罹患同胞対解析の結果得られた第
7番染色体上の候補領域からEXOC4 (SEC8L1)遺伝子を疾患感受性遺伝子として抽出しました(Arthritis Rheum 2005)。また、第14番染色体の候補領域から疾患感受性候補遺伝子PRKCH遺伝子を抽出し、この遺伝子の発現がリンパ球の活性化に応じて発現が著明に減少することを明らかにしました(Arthritis Rheum 2007)。

 

2型糖尿病発症マウスと糖尿病を発症しないマウスの雑種第二世代におけるQTL解析

レプチン受容体欠損によりホモで糖尿病を発症するdbマウスを、糖尿病を発症しないマウス系統(BDA2, C3H)に交配し、雑種第二世代のQTL解析を行い、約20箇所の疾患感受性座位を特定しました。糖尿病発症dbマウスとDBA2マウスとの交配系では、27組の遺伝子相互作用を明らかにしました(Hum Mol Genet 2006)。
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マウスとDBA2マウスとの交配系で得られた4座位に関するコンジェニックマウスの内、第5番染色体上の座位を有する系統が雑種第2世代で認められた表現型を再現ました。領域に対するサブコンジェニックマウスを作成することにより、体重、内臓脂肪量を制御する座位を5 Mb以下の領域に狭め、最終的に修飾遺伝子を同定しました。大塚製薬と本遺伝子を分子標的とするゲノム創薬を進めています。

 

小児低身長症の候補遺伝子およびCNV(copy number variants:コピー数多型)解析

日本全国の小児内分泌医により組織された成長ゲノムコンソーシアムにより収集された、日本人小児低身長症127家系 (304)から得たゲノムDNA試料とこれら304名から樹立したリンパ芽球株を用いて解析を進めています。これまでに、GHIGF1軸に存在する候補遺伝子として、グレリン受容体(GHSR) 遺伝子、成長ホルモン放出促進ホルモン受容体(GHRHR) 遺伝子等のシーケンス解析を進め複数の新たな変異を同定しています。また、日本人小児低身長症127家系の発端者全員に関するアレイチップによる全ゲノムCNV(コピー数多型)スクリーニングを進めており、合わせて小児低身長症の遺伝的背景を明らかにする研究を推進しています。

 

 

 

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