月別アーカイブ: 2014年3月

高浜洋介

 

ハッサル小体と重症筋無力症

ハッサル小体とは、ヒトの胸腺内にみられる構造体で、切片の顕微鏡観察ではバラの花のような美しい同心円状の上皮性領域として認められます。胸腺のなかでは髄質に多く、皮質には殆ど認められません。その名称は、Arthour Hassall(アーサー・ハッサル)が1852年に出版した「The Microscopic Anatomy Of The Human Body: In Health And Disease」のなかで「the corpuscles of the thymus」と記載したことにちなんで与えられています。

このハッサル小体は一方で、マウスの胸腺ではあまり明確には見えません。マウスでも確かに、類似と思われる小さな領域はあるにはあるのですが、ヒトのハッサル小体のように大きく明確な同心円状の構造体ではなく、それが本当にヒトでみられるハッサル小体と相同のものといえるのか明確ではありません。哺乳類の分子遺伝学的解析に有利な実験動物であるマウスであまりキレイに見られないこともあって、ヒト胸腺のハッサル小体の本質については、その由来や機能を含め未だによくわかっていないのが現状です。とはいえ、ハッサル小体とは胸腺髄質で制御性T細胞をつくる場であるとの説が提唱されています。ただ、マウスでの実験から積極的には支持されていないこともあり、あまり人気がないかもしれません。それよりも、ハッサル小体とは胸腺髄質上皮細胞の最終分化段階のひとつ(ただし機能は不明)との説は多くの支持を得ているかと思われます。

このようなハッサル小体について、徳島大学の神経内科で神経免疫疾患の研究に取り組んでいる松井尚子博士らは最近、重症筋無力症との関連で興味深い観察を報告しました。重症筋無力症ではしばしば治療目的で胸腺摘出が行われます。彼らは、治療目的で摘出された胸腺を対象に、丹念な解析を進めてきています。今回の報告では、胸腺が過形成を示すタイプの重症筋無力症では、胸腺内のハッサル小体の数が上昇していることを見出しました。このようなハッサル小体の増加は、胸腺が過形成を示さないタイプの重症筋無力症では見られず、胸腺過形成を伴う重症筋無力症に特徴的であるとのこと。そこで当該論文では私たちも協力して、胸腺髄質上皮細胞で発現される機能分子の解析を進めてみました。驚いたことに、ハッサル小体の増加は、胸腺髄質上皮細胞に高発現され胸腺髄質での自己寛容確立に大きな役割を果たすケモカインCCL21の発現増加を伴っていました。ひょっとしたら、このタイプの重症筋無力症の胸腺では、一義的に胸腺髄質上皮細胞の分化または維持に変調を来し、その結果としてCCL21の発現やハッサル小体の数が増加するとともに、T細胞の自己寛容確立が不調に陥ったり、余計なB細胞の誘引が自己抗体産生を惹起したりしてしまうのかもしれません。

更につっこんだ分子細胞研究は今後の課題ですが、重症筋無力症の一因に胸腺髄質上皮細胞の分化や維持が関与する可能性が提唱された臨床研究であり、免疫の「場」とその意義に関する研究のひとつとして、多分に我田引水ではあることは承知しつつも紹介いたしました。

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高浜洋介

 

江戸時代の胸腺

訪れた「医は仁術」展で江戸時代の「腑分け」の記録に「骨髄」の記載に目が留まったことを昨日報告した。このとき、たしかに「胸腺」の二文字をみつけることはできなかったのだが、1783年の「臓図」によれば、「上膈膜」と書かれている領域を含め、心臓の周辺に覆い被さっている黄色い組織が描かれている。退縮した胸腺を含む脂肪組織ではないだろうか。

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刑死した成人男性の記録とのこと、胸腺がすっかり退縮していた可能性はじゅうぶんに考えられる。

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高浜洋介

 

「医は仁術」展

 

桜の季節である。

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二つの会議のあいだ、時間と縁があって、上野の国立科学博物館で開催されている特別展「医は仁術」を見てきた。江戸時代の医療および医学の歩みが紹介されていて興味深かった。1798年にエドワード・ジェンナーが報告した牛痘接種の技術が江戸時代の最後あたりに輸入されていたことは聞いていたが、すでに1820年に本邦に翻訳紹介されていたことに驚いた。当時の情報伝達技術を考えれば、いかに世界を驚愕させた技術であるかうかがうことができる。

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江戸時代の図譜に「骨髄」の二文字をみつけることはできたのは収穫であったが、残念ながら「胸腺」も「リンパ節」も目に留めることができなかった。

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今に通じる「医」の心とその大切さを伝える、良い展示会であった。

 

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