月別アーカイブ: 2013年10月

高浜洋介

 

T細胞はなぜMHC拘束性を示すのか?

 

T細胞の抗原認識はなぜMHC拘束性を示すのか?この「免疫学で最も重要な謎」のひとつを解くカギとなる重要な論文が先日発表された。Alfred Singer博士の研究室でFrancois Van Laethem博士が中心となって成し遂げた大作である。

T細胞の示すMHC拘束性は、70年代前半にその現象が発見された(RosenthalとShevachKatzとHamaokaとBenacerrafら)。70年代後半にはそれが胸腺で後天的に獲得されることが見出され(BevanZinkernagelとKleinら)、80年代にはT細胞の胸腺内分化過程でのレパトア選択の寄与が明らかにされた(von Boehmerら)。

しかしその後、選択前のT細胞のレパトアがそもそもMHCへの親和性をもっているとの仮説がいくつかの間接的証拠をもとに提示され(RauletらMarrackとKapplerら)、T細胞MHC拘束性の起源という第一級の疑問は、進化論という迷宮に閉じ込められてしまった感があった。

そんななか、この重要な謎を迷宮から救い出し、免疫学の中央へと復帰させた、筋金入りの実験免疫学者たちが、ここで研究を紹介するSinger博士研究室である。彼らは最近、CD4もCD8もクラス1MHCもクラス2MHCも欠損するモデル動物(四重苦マウス)を作製することで、CD4やCD8といったコレセプターシグナルがまったくないときに胸腺で産生されるT細胞はMHC拘束性を示さず、T細胞抗原受容体は抗体のように抗原を認識することを明らかにしていた(Van LaethemらTikhonovaら)。これらの結果をうけて今回の論文では、正常マウスのT細胞でMHC拘束性が獲得され、四重苦マウスでMHC拘束性がみられないという差違は、T細胞特異的チロシンキナーゼLCKシグナルの有無に依存するとの発見について報告がなされた。

LCKは、CD4またはCD8の細胞内領域に会合するチロシンリン酸化酵素で、T細胞抗原受容体からのシグナル伝達に必要である。 正常マウスのT細胞におけるLCKは、CD4またはCD8に会合しているため、T細胞抗原受容体からのシグナルが惹起されるためには、CD4またはCD8を介したLCKシグナルが伴う必要がある。それゆえ、胸腺でのレパトア選択の際も、CD4またはCD8を介したLCKシグナルが伴う抗原、すなわちペプチドMHC複合体のみが抗原として抗原受容体シグナルを惹起しうる。CD4またはCD8はクラス2またはクラス1のMHCにそれぞれ結合性をもつ受容体(コレセプター)だからである。一方で、MHCに依存しない抗原分子がT細胞抗原受容体に結合した場合には、T細胞抗原受容体は(ZAP70などを介して)一部のシグナルを始動できるものの、CD4またはCD8に会合したLCKからのシグナルが連動して作動しないために、総合的には抗原受容体シグナルを惹起することができない。ところが、彼らが開発した四重苦マウスでは、CD4もCD8もMHCも存在しないため、T細胞に発現されるLCKはCD4やCD8にとらわれずに作動できる状態にある。その結果、MHCに依存しない抗原分子がT細胞抗原受容体に結合した場合でも、T細胞抗原受容体はLCKとともにじゅうぶんなシグナルを惹起して正の選択をもたらす。すなわち、CD4やCD8というコレセプターに会合するT細胞特異的チロシンキナーゼLCKが「利用可能である」ということがT細胞抗原受容体シグナルの惹起に必要であり、そのようなシグナルを惹起できる抗原すなわちMHCに会合したペプチド抗原のみが胸腺での正の選択を誘導できるのである。その結果として、正の選択を経て産生されたT細胞の抗原認識はすべからくMHC拘束性を示す。

このとき更に、MHC拘束性をゲノム進化の迷宮に閉じ込めた過去の主張は、結果として不完全な一部の受容体構造の観察に基づく推論にすぎなかったのであり、T細胞のMHC拘束性を形成するのが胸腺での正の選択にほかならないと論を展開する。なおこの議論は、6月に開催された本研究班の第1回国際シンポジウム(KTCC2013)にて、Singer博士によって発表された。学問に取り組む上では、うつろうことのない大切なことに正面から向きあい続ける姿勢に、心より感動した次第である。

T細胞のMHC拘束性に関する次の重要な疑問が、それをもたらす正の選択とはいったい何か、であることは明白である。どのようなT細胞抗原受容体シグナルであるのか、どのようなペプチドMHC複合体であるのか、どのような不思議が隠されているのか、興味は尽きない。本研究班でも小生を含め複数の研究者が取り組んでいる「胸腺プロテアソーム」に視点を置いた研究が、次の重要な扉を開いてくれるものと期待して研究に取り組んでいる。

 

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高浜洋介

 

第2回国際シンポジウムプログラム確定

きたる11月15日と16日に京都大学楽友会館で開催される第2回国際シンポジウム(4th Synthetic Immunology Workshop)”Engineering in Immunity” のプログラムが確定しました。詳しくはSIW4のウェブサイトに記載しているとおりですが、下に簡略版を添えておきます。将来の免疫学の方向を見据えつつ深い議論ができればと考えております。積極的なご参加をお待ちしております!

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November 15 (Friday)
13:00 – 13:10 Welcome remarks by Takeshi Watanabe

Session 1. Rebuilding the immune cells

13:15 – 13:45 Hiroshi Kawamoto (Kyoto) Regeneration of antigen specific T cells using the iPSC technology: A novel strategy for cancer immunotherapy

13:45 – 14:15 Ken-ichiro Seino (Hokkaido) Induction of M2 macrophage-like immunosuppressive cells from mouse ES cells

Session 2. Rebuilding the thymus

14:15 – 14:45 Louise Markert (Duke) Thymus transplantation: Use in complete DiGeorge anomaly and future applications

14:45 – 15:15 Yousuke Takahama (Tokushima) Serial development of cortical and medullary thymic epithelia

Session 3. Rebuilding the SLOs

15:45 – 16:15 Ryo Goitsuka (Tokyo) Differentiation potentials of mesenchymal cells expressing Tlx1 in embryonic and postnatal spleen

16:15 – 16:45 Takeshi Watanabe (Kyoto) Identification of organizer responsible for spleen re-generation from neonatal spleen

16:45 – 17:15 Sergio Lira (New York) TNFα-dependent development of lymphoid tissue in the absence of RORγt+ cells

17:15 – 17:45 Eric Lagasse (Pittsburgh)
 Growing a surrogate organ in lymph node: from an experimental approach to potential clinical applications

17:45 – 18:00 Miyuki Kinebuchi (Aichi) To set the cancer stem cell-catching artificial lymph nodes- the preliminary report

18:00 – 18:15 Rimpei Morita (Tokyo) ETV2 directly converts human fibroblasts into functional endothelial cells

Keynote lecture

18:15 – 19:00 Michael Reth (Freiburg) Rebuilding approaches in immunology

November 16 (Saturday)

Session 4. Rebuilding the immune signals

9:00 – 9:30 Ichiro Taniuchi (Yokohama) Reconstitution approach to understand regulatory mechanisms of Zbtb7b and Cd8 gene expression

9:30 – 10:00 Akihiko Yoshimura (Tokyo) Generation of regulatory T cells (Tregs) by TGF-beta and NR4a

Session 5. 3D tissue engineering

10:00 – 10:30 Michiya Matsusaki (Osaka)
 3D-vascularized human tissue models constructed by cell surface control using nano-meter sized ECM films

10:30 – 11:00 Yukiko Matsunaga (Tokyo)
 In vitro 3D microvascularture model chip for biological study

11:00 – 11:30 Makoto Nakamura (Toyama)
 Development of a custom-made 3D bioprinter: Towards the production of a designed 3D artificial lymph node

Session 6. Novel aspects of SLO functions

13:00 – 13:30 Manuela Buettner (Hannover) Stromal cells as trend-setters for cells migrating into the lymph node

13:30 – 13:50 Tomoya Katakai (Kansai) Dynamic cell interactions in the lymph node paracortex

13:50 – 14:10 Haruko Hayasaka (Osaka) Involvement of Dachshund1 in the development of the high endothelial venules

14:10 – 14:30 Michio Tomura (Kyoto) Elicitation of a large number of DC migration and their rapid replacement in the draining LN during immune response

14:30 – 14:45 Takahiro Hara (Kyoto) Distribution and function of IL-7-expressing cells in large intestine

14:45 – 15:00 Takuma Hayashi (Shinshu) Immune surveillance network in the female genital system against uterine neoplasm

15:00 – 15:10 Closing remarks By Michael Reth

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高浜洋介

 

第2回国際シンポジウム演者確定

きたる11月15日と16日に京大の楽友会館で開催予定の第2回国際シンポジウムは、第4回Synthetic Immunology Workshop (SIW4)との共催にて、「Engineering in Immunity」を標榜して開催されます。

このほど演題登録の〆切があり、演者が確定いたしました。海外からの演者5名を含め、計22名による口演が行われる予定です。本研究班からは、河本宏(総括班員)、中村真人(総括班員)、清野研一郎(連携研究)、原崇裕(連携研究)、後飯塚僚(公募研究)、戸村道夫(計画研究)、片貝智哉(計画研究)、渡邊武(計画研究)の各氏と小生の9名が口演予定です。

海外からの演者は、まさにSynthetic Immunologyの国際的リーダーたるフライブルグ大学のMichael Reth博士、胸腺移植による免疫不全症治療にてSynthetic Immunologyを実践するデューク大学のLouise Markert博士、器官工場としてリンパ節の応用研究を進めるピッツバーグ大学のEric Lagasse博士、リンパ節形成分子機構研究を推進するマウントサイナイ病院のSergio Lira博士、そして、リンパ節ストローマ細胞の機能研究を推進するハノーバー医科大学のManuela Buettner博士の予定です。

プログラムは現在作成中で、近日中には公開できるようになると思います。「Build immunity to understand it!」の心意気あふれる演題ぞろいです。おたのしみに!

高浜洋介

 

 

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