月別アーカイブ: 2013年9月

高浜洋介

 

抗原受容体3種類の意義

 

私たち人間の免疫システムには、多様な抗原認識特異性をもつリンパ球抗原受容体3種類が備わっている。免疫グロブリン、TCRαβ、TCRγδである。これらの抗原受容体は、B細胞、αβT細胞、γδT細胞それぞれに特異的に発現されている。このうち、B細胞とαβT細胞については、免疫システムにおける重要性が広く認知されている。しかし、γδT細胞の重要性についてはいまひとつ明確に認知されていない。もちろん上皮組織における組織修復などの機能はわかっているが、B細胞やαβT細胞ほど確固たる理解に至っているとは言い難い。すなわち、私たちの免疫システムになぜ3種類のリンパ球抗原受容体が備わっているのかという根本的な疑問に、いまのところ明快な解は与えられていない。

そんななか最近、ヤツメウナギのリンパ球に関する興味深い論文が発表された。米国エモリー大学の平野雅之博士とMax Cooper博士らによる論文である(Nature 501;435, 2013)。ヤツメウナギやヌタウナギなど顎をもたない円口類の動物では、ヒトやマウスなど顎をもつ脊椎動物とは違って、免疫グロブリン、TCRαβ、TCRγδといったリンパ球抗原受容体は存在せず、そのかわりにヒトやマウスにはないvariable lymphocyte receptor (VLR)と呼ばれるリンパ球抗原受容体が存在する。また、このエモリー大学グループや本研究班の笠原博士らはこれまで、VLRに3種類の遺伝子セットが存在することを示してきている。今回の論文で平野博士らは、これら3種類のVLR(VLRA、VLRB、VLRC)分子のそれぞれに特異的なモノクローナル抗体を樹立してヤツメウナギのリンパ球を解析することで、3種類のVLRを発現するリンパ球はそれぞれ互いに異なる細胞集団であることを見出した。また驚くべきことに、VLRA陽性細胞、VLRB陽性細胞、VLRC陽性細胞はそれぞれ、αβT細胞、B細胞、γδT細胞によく似た特徴を示すことが明らかになった。例えば、VLRBは免疫グロブリンのように分泌されるのに、VLRAとVLRCはTCRαβとTCRγδのように分泌されない。一方、VLRAはTCRαβに似て大きな多様性を示すのに、VLRCはTCRγδに似て多様性に乏しい。また、VLRA陽性細胞とVLRC陽性細胞は、TCRαβ陽性細胞とTCRγδ陽性細胞が胸腺で分化し選択されるのに似て、鰓突端に存在する胸腺様構造 (thymoid)にて多様性を獲得する。更に、VLRA陽性細胞とVLRC陽性細胞は、TCRαβ陽性細胞とTCRγδ陽性細胞に似て、互いに異なる体内分布を示し、VLRC陽性細胞はTCRγδ陽性細胞のように皮膚に多く局在する。

これらの結果は、ヤツメウナギなど無顎動物のもつリンパ球抗原受容体VLRは、ヒトをはじめとする有顎動物のもつ免疫グロブリンやTCRと構造や多様性形成機構が全く異なるにもかかわらず、VLRA陽性細胞はTCRαβ陽性細胞、VLRB陽性細胞はB細胞、VLRC陽性細胞はTCRγδ陽性細胞、にそれぞれ似た性質をもった細胞であることを示す。すなわち、無顎動物のリンパ球も有顎動物のリンパ球も、どちらも異なる3種類の多様な抗原受容体とそれらそれぞれを発現する3種類の相同亜集団をもつことを意味する。人間が3種類のリンパ球抗原受容体をそれぞれ発現する3種類のリンパ球亜集団を持っているのは、免疫グロブリン、TCRαβ、TCRγδという3種類の遺伝子を持っているからではない。脊椎動物が抗原受容体3種類をもつことには、大きな必然性がかくされているのではないだろうか。

また、VLRA細胞とVLRC細胞の抗原認識にMHCに相当する分子の関与があるのか、抗原提示細胞による細胞内抗原プロセシング機構が円口類にもあるのか、VLRA細胞は正や負の選択によって有用性や自己寛容を確立するのか、VLRC細胞にdevelopmental waveはあるのか、VLRA細胞を選択するthymoidという「場」にbeta5tやAireに似た無顎動物固有の分子が備わっているのか、など夢想は尽きない。

高浜洋介

 

 

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高浜洋介

 

広瀬哲史博士セミナー

 

新潟大学からCalTechへの異動を控える広瀬哲史博士にセミナーをしていただいた。T細胞分化に重要な転写因子Bcl11bに関する解析から免疫システム全体を俯瞰する、楽しいセミナーであった。提唱された興味深い仮説が立証されていくことを祈念する次第である。聞けば、大学院生時代は坂野仁先生のラボで円口類に固有の抗原受容体VLRの構造に関する研究に取り組んでおられたとのこと。ご自身の視点を大切に、新たな環境での研究が大いに発展していくことを期待しています。

高浜洋介

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高浜洋介

 

Synthetic Immunologyの挑戦

昨日案内した第2回国際シンポジウムは、第4回Synthetic Immunology Workshopでもあります。未だ少々聞き慣れない語かもしれないSynthetic Immunologyとは何か?について、二年前の日本免疫学会ニュースレターに解説しておりますので、ご興味のある方は(あんまりない方も!)是非こちら(SIW2_JSINL2011)をお目通しいただけますれば幸いです。よろしくお願い申し上げます。

高浜洋介

 

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