研究内容

1)ミトコンドリアの構造と機能
 ミトコンドリアは細胞内におけるエネルギー変換の場として考えられてきた。しかし、最近の研究によって、プログラムされた細胞死(アポトーシス)の制御をも行っていることが明らかになった。当研究室では、アポトーシスの制御と密接に関連していると考えられている、ミトコンドリアの「透過性遷移」という現象を分子レベルで理解することを目的として、透過性遷移の誘導メカニズムと透過性遷移状態の膜の性状解析に焦点をあて、研究を進めている。最近の研究成果としては、
 ・これまで酵母のミトコンドリアではCa2+を添加しても透過性遷移が起きないと言われてきたが、実験系を精査することによって、透過性遷移の誘導を観察できる条件を見出すことができた(BBA 2009年)、
 ・ミトコンドリアのシトクロムcの漏出をもたらすバリノマイシンとCa2+の作用を比較したところ、前者はミトコンドリアの膜間スペースのタンパク質の選択的な漏出を、後者はミトコンドリアの可溶性タンパク質の非選択的な漏出をもたらすことを明らかにすることができた(Mol Cell Proteomics 2009年)、
 ・S-15176とそのメチル化体がシクロスポリンよりも普遍的な透過性遷移の阻害剤であること(Mol Cell Biochem 2011年)
 ・マストパランがミトコンドリアの特定のタンパク質ではなく、リン脂質膜に作用してミトコンドリアの透過性遷移を引き起こしていること(FEBS J 2014年)
 ・九大先導研の新藤 充教授との共同研究で、透過性遷移の阻害剤として知られるボンクレキン酸の構造活性相関の解析を進め、阻害活性発現に必要な構造特性の理解に貢献(Chem Biol Drug Des 2015年)
などの発見につながった。
 また、ミトコンドリア外膜のvoltage dependent anion channel (VDAC)や内膜のADP/ATP輸送体、リン酸輸送体、Ca2+チャネルの構造や機能に関する研究も手掛けている(Mitochondrion 2008年、 J Chromatogr 2013年、Genomics 2014年、BBA 2016年、Mitochondrion 2017年)。
2)褐色脂肪組織で営まれているエネルギー代謝
 褐色脂肪組織のミトコンドリアには、酸化的リン酸化反応の脱共役剤と同じ働きを有するタンパク質(uncoupling protein)が特異的に発現していることから、この組織に興味を持って研究に着手した。生体に多く見られる一般的な脂肪組織(白色脂肪組織)が余剰のエネルギーを脂肪の形で蓄積する役割を担うのに対し、褐色脂肪組織は逆に余剰のエネルギーを熱として発散させるという特徴的な役割を担っている。我々のグループでは、筋型カルニチンパルミトイル転移酵素が褐色脂肪組織に高発現していること(山アら、1995年)、褐色脂肪組織の熱産生機能が亢進することが知られている寒冷条件下では筋型の脂肪酸結合タンパク質の発現レベルが顕著に亢進すること(大黒ら、1997年)などの知見を得てきた。
 最近の研究成果としては、
 ・褐色脂肪組織ではミオグロビンが発現しており活発な酸素消費に貢献していることを明らかにした(BBA 2008年)、
 ・脂肪酸結合タンパク質の10種のアイソフォームの発現プロフィールを克明に解析(Biotechnol Lett 2009, 2011)、
 ・これまで手掛けることができていなかったカルニチンパルミトイル転移酵素の機能評価系を構築し、タンパク質の構造機能協関に関する研究に着手(Biochem Genet 2008, 2010年、Protein Express Purif 2012年)
などに成功している。
3)バイオメディカル分析
 上記2つのエネルギー代謝に関連した研究課題に加え、タンパク質や核酸の分離分析に関する研究を手がけており、
 ・疎水性ペプチドやタンパク質の奇異な振る舞いに関する研究(Biologicals 2009年、BBA 2010年、 Protein Expr Purif 2011年)、
 ・マイクロチップ電気泳動装置による核酸の迅速、高感度な分離分析技術の開発に関する研究(Anal Biochem 2009年、J Pharm Biomed Anal 2010年。産総研健康工学研究部門の片岡正俊グループ長、名古屋大学大学院の馬場嘉信教授との共同研究)、
 ・マイクロアレイで観察されるシグナル強度の理解に向けた研究(J Biochem Biophys Methods 2008年、Biotechnol Lett, in press。バイオインダストリー協会の堀友繁部長との共同研究)
などの成果に繋がっている。



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