Division of Genome Medicine 

Dr. Toyomasa Katagiri's Laboratory

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更新日 2017-11-04 | 作成日 2017-11-04

包括的ゲノム解析の意義

包括的ゲノム解析によるがん化機構の解明および創薬研究

 がんにおけるゲノム情報解析の意義

 現在、本邦において死亡原因の第1位はがんであり、がんを罹患する生涯リスクは、男性の2人に1人、女性の3人に1人であることからも、がんの予防、早期診断法・新規治療法の開発、個別化医療の確立が急務です。近年、がん研究分野では、網羅的遺伝子発現・遺伝子多型解析の進歩や、さらに、次世代シーケンサーの開発によってゲノム全解読が現実のものとなり、多くのがん関連遺伝子が同定されてきています。これらがん関連分子のがん細胞での機能を詳細に解析することは、がん発症・進展機構の解明、そしてそれらを標的とした新たな抗がん剤の開発につながります。

 当研究室では、多型解析、遺伝子発現解析および次世代シーケンス解析をはじめとする包括的ゲノム解析により、がん関連遺伝子を同定を進めています。がん関連遺伝子には、がん発症・進展の原因となる遺伝子(がん原因遺伝子)、がんの罹患性、発症リスクに関わる遺伝子(がん感受性遺伝子)、分子標的治療薬を含む抗がん剤の効果を規定する遺伝子(抗がん剤応答性遺伝子)、さらに、抗がん剤によって引き起こされる副作用に関わる遺伝子があげられます。このような「がん関連遺伝子」が、各種がん細胞において、どのようや機能を有し、どのような役割を担っているかを解明することで、その機能を制御法を見いだすことでの治療法を開発を目指しています。

 さらに、これらの解析の中でも、近年のシーケンス解析技術の大きな発展により、短期間でDNA塩基配列を決定することができるようになってきました。この次世代シーケンス解析(全ゲノムシーケンス、全エクソンシーケンス、RNAシーケンス)により、各種がん細胞における体細胞変異、染色体再構成などゲノム異常の同定から、新規がん関連遺伝子(ドライバー変異)の同定や、家族性(遺伝性)乳がんの罹患に関わる遺伝子の同定も目指しています(図1)。




図1 包括的ゲノム解析による研究戦略


網羅的発現情報解析・体系的多型情報解析・次世代シーケンス解析を通じて、臨床観点からがんの発症機構の解明および新規治療薬・診断法開発のための標的遺伝子の探索とその機能解析によって創薬をめざします。
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がん特異的分子の同定

 がんの発生・進展のメカニズムの解明のための機能解析

当研究室では、これまでに、東京大学医科学研究所 中村祐輔教授(現シカゴ大学教授)との共同研究および独自の進めている、がん臨床検体を用いた遺伝子発現情報解析を通じて、がん細胞のみで発現亢進が認められ、正常細胞では発現の認められない「がん特異的分子」を多数同定しています。さらに、これら「がん特異的分子」が高発現するがん細胞において、RNA干渉法(siRNA, shRNA)による「がん特異的的分子」の発現抑制が、がん細胞増殖の抑制を導くことも証明しています。以上のことは、これらのがん特異的分子が、がん細胞の増殖、生存に不可欠な分子であることを意味しています。このことは、がん特異的分子による「Oncogene addiction(がん遺伝子中毒)」のような状態あるとも言えます。

 これら「がん特異的的分子」の機能解析から、乳がん、腎臓がん、膀胱がん、前立腺がんをはじめとしたがんの発症・進展機構の解明および新規治療薬の開発を目指しています。このような「がん特異的分子」を標的とした治療薬を開発すれば、既存の抗がん剤とは異なり、がん細胞のみを標的とした、より少ない副作用でより大きな効果を得る新規治療法を確立することができます。

 現在、下記の「がん特異的分子」の機能解析を通じて、癌の発症、進展の分子機構の解明、癌細胞増殖の解明および、臨床応用可能な創薬の開発を目指しています。

図2 がん特異的遺伝子の発現パターン


各分子のがん細胞株およびヒト正常臓器(心臓・肺・肝臓・腎臓・乳腺)のノザン解析の結果を示す。BCGT1のみ、上図は乳がん臨床検体における半定量的RT-PCR、下図はヒト正常臓器のノザン解析の結果を示す。
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 図3 RNA干渉法を用いた発現抑制によるがん細胞増殖抑制


各種がん細胞株におけるsiRNAまたはshRNAを用いた発現抑制による細胞増殖抑制効果を示す。各遺伝子の半定量的または定量的RT-PCRによる発現抑制の結果およびコロニー形成能またはMTTアッセイによる細胞増殖抑制効果を示す。
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がん特異的分子の機能解析

乳がん標的分子

乳がんは現在日本人女性において罹患率が最も高いがんであり、死亡者数も増加傾向にあります。現在の乳がん治療としては主に外科療法、放射線療法、ホルモン療法、化学療法などを組み合わせた集学的治療が行われていますが、未だ十分な有効性が認められていないのが現状です。しかしながら、近年ヒト型抗HER-2抗体トラツズマブが臨床応用され,多くの転移性乳がん患者の生存率の向上に貢献してきましたが、対象患者に制限があることや重篤な副作用として心毒性が問題となってきています。このように、乳がんにおいても癌細胞の増殖に重要な特定のタンパク質を標的とする分子標的薬が開発されてきていますが、非標的タンパク質との相互作用により副作用が現れる、標的の変化によって耐性がん細胞が出現する、対象がん種が限られる等の課題がまだあることから、よりがん特異的なタンパク質を標的とする新たな抗がん剤の開発が望まれています。

がん関連シグナル制御Scafford 分子 BIG3

本邦の女性において最も多いがんは乳がんで、その約70%は女性ホルモンであるエストロゲン(E2)依存性です。E2はエストロゲン受容体(ERα)と結合し、ERαの活性化を通じて乳がん細胞を増殖促進させます。このことから、治療としてはE2—ERαシグナルを標的とした内分泌療法が基本となりますが、長期服用による耐性獲得や副作用の問題があり、その分子機構の解明から新規治療薬の開発が望まれています。

 <がん細胞で高発現する抑制因子PHB2>
私たちは、これまでがん抑制因子PHB2 (Prohibitin 2)に着目してきました。PHB2は、内分泌療法耐性に関連するシグナルを含む、あらゆるE2—ERαシグナルを抑制する因子です。しかしながら、このような強力な抑制機能を有しながら、ERα陽性乳がん細胞においてタンパクレベルの高い発現を認めていました。ERα陽性乳がん細胞において、ブレーキの役目をするPHB2が機能することは、癌細胞にとって、不都合でしかありません。では、どのようにして、その抑制機能が失われているのか、そのメカニズムは謎でした。

 <がん細胞特異的分子BIG3の同定>
 この謎を解くキーとなる分子として、われわれは、これまでに網羅的遺伝子発現解析を通じて、乳がん細胞にて発現亢進を認めるがん特異的分子BIG3(Brefeldin A-inhibited guanine exchange 3)を同定していました。詳細な機能解析から、BIG3がPHB2と結合することを明らかにしました。しかしながら、乳癌細胞においてBIG3がどのようにPHB2を制御しているかは不明でした。

 <BIG3によるPHB2の抑制機能の制御>
BIG3は、乳がん細胞において、セリン/スレオニンプロテインホスファターゼPP1CαおよびA—キナーゼ(PKA)と三者複合体を形成することで、様々な細胞内の生体反応を制御するAキナーゼアンカータンパク質(AKAP)として機能することが明らかとなりました。ERα陽性乳がん細胞のE2刺激下では、BIG3はPKAによりリン酸化され、その結果BIG3の有するPP1Cα阻害活性がキャンセルされることでPP1Cαの脱リン酸化活性が亢進します。抑制因子PHB2は、PP1Cαの基質としてBIG3と結合し、抑制活性に必須である39番目のセリン残基のリン酸化をPP1Cαにて脱リン酸化されることで、その抑制機能が消失します。この結果、E2—ERαシグナルの恒常的活性化が導かれることが明らかとなりました

BIG3 co-ordiates estrogen signalling in breast cancer cells.

Illustrated by Hiroko Uchida
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<新たな抑制タンパク質の不活化機構の解明>
がん抑制遺伝子は、体細胞変異やエピゲノム異常によって不活化されることが一般的ですが、これらの異常のない抑制遺伝子産物がどのように不活化するのかは未だ不明でした。細胞分裂の活発ながん細胞において、がん抑制遺伝子産物の抑制機能が発揮される状態は、がん細胞の増殖・進展には極めて不都合です。このことから、われわれは、BIG3を介した何からの制御機構にてPHB2のがん抑制機能が不活化されていると考えました。今回明らかとなった細胞質においてBIG3がPKAおよびPP1Cαを繋留させることで三者複合体を形成し、PHB2をPP1Cαによって脱リン酸化することでその抑制機能を不活化する分子機構の存在は極めてがんの悪性化にとって、必須なイベントであると考えられます。
 一方、治療法の開発の観点からは、BIG3からPHB2を解放することで、その抑制活性を再活性化することができれば、元来PHB2が有する強力な抑制機能にてE2-ERシグナルを抑え込むことが可能となります。現在、この考えに基づき、内分泌療法耐性を含む閉経前後問わないE2依存性乳がんに対するBIG3-PHB2相互作用阻害治療薬の開発を進めているところです。


<当研究室で発表したBIG3関連論文>
 Cancer Sci. 2009;100:1468-78.
 Nat. Communi. 2013;4:e2443.
 BMC Res Notes. 2014 Jul 6;7(1):435.
 Sci Rep. 2014. Dec 8;4:7355.
 Cancer Sci. 2015 May;106(5):550-8.
 PLoS One. 2015 Jun 8;10(6):e0127707.
 Nat. Communi. 2017 May 30;8:15427
 Sci Rep. 2017 May 12;7(1):1821
Biochem Biophys Res Commun. 2019 Oct 8;518(1):183-189.

 本研究は、とくしまブレストケアクリニック院長 笹三徳博士、兵庫医科大学乳腺内分泌外科 三好康雄教授, 国立がん研究センター創薬臨床研究分野ユニット長 尾野雅哉博士、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 宮野悟教授、医薬基盤研究所バイオインフォマティクスプロジェクトプロジェクトリーダー 水口賢司博士、徳島病院病理部 坂東良美教授,東京大学 津本浩平教授、徳島大学薬学部 大高章教授との共同研究にて行っています。

O結合型糖転移酵素 GALNT6・GALNT7

我々は、これまでに、網羅的遺伝子発現情報解析を通じて、乳がんにおいて高頻度の発現亢進を認め、ヒト正常臓器では極めて発現の低い新規の乳がん特異的O結合型糖転移酵素GALNT6・GALNT7を同定し、その詳細な機能解析よりこれら酵素が乳がん細胞増殖に重要な役割を担っていることを証明しました。これまで乳癌においては、様々な糖転移酵素の構造・発現・活性異常によって生じる糖鎖異常が細胞のがん化や転移を引き起こすことが知られており、このGALNT6・GALNT7の乳がん細胞における機能を解明することは、糖鎖異常機構の解明につながると考えられ、また、これらを標的とした薬剤の開発は既存の抗がん剤に比べて、より副作用の少ない効果の高いものにつながると考えられます。
 現在、GALNT6・GALNT7に対する基質蛋白質の同定を通じた細胞増殖における役割解明とともに、GALNT6・GALNT7活性阻害化合物スクリーニングから最終的に新規乳がん治療薬の開発を目指しています。
 本研究は、とくしまブレストケアクリニック院長 笹三徳博士、兵庫医科大学乳腺内分泌外科教授 三好康雄博士、国立がん研究センター創薬臨床研究分野ユニット長 尾野雅哉博士、九州大学農学部発酵化学教室教授 竹川薫博士の共同研究にて行っています。

 <当研究室で発表した関連論文>
 Neoplasia. 2011 Apr;13(4):320-6.
 Cancer Res. 2010; 70: 2759-69.
 Int J Oncol. 2019; in press

腎細胞がん・膀胱がん標的分子

腎細胞癌、特に転移性腎細胞癌は、根治的腎摘除術以外に有効な治療法が存在していないことから、現在はインターフェロン(IFNα)や インターロイキン2(IL-2)を用いた免疫療法が標準的治療として広く使用されてきています。しかしながら、いずれも奏功率約15%であり、さらに強い副作用が問題となっています。一方、化学療法は有効でないことが知られており、放射線療法は骨転移や脳転移の症状緩和目的として行われていることがほとんどです。従って、腎細胞癌に対する新規治療薬の開発は急務であることから、近年、分子標的治療薬としてbevacizumab、sunitinib、sorafenib、temsirolimusが開発され、臨床応用されています。このように、分子標的治療薬の登場によって、難治性である腎癌の治療も大きく改善されてきてはいますが、その副作用も大きな問題となっており、より腫瘍に特異的な分子を標的とした新規治療薬の開発が望まれています。

 膀胱癌は、前立腺癌に続いて泌尿器癌の第二位を占める疾患である。そのうち浸潤性膀胱癌は約30%を占めるが、その標準治療としては、根治的膀胱全摘除術が行なわれているが、その約50-60%の患者が遠隔転移や再発で5年以内に死亡する。これは診断時、既に画像上明らかではない微小転移が高率に存在することが示唆されるものであり、現在この微小転移を抑制する目的として、術前術後の補助化学療法が行われている。術前補助化学療法(Neoadjuvant chemotherapy)であるM-VAC化学療法(メソトレキセート・ビンブラスチン・アドリアマイシン・シスプラチンの4剤併用療法)が、奏効率約50%を示す膀胱癌化学療法の第一選択薬として使用されている。しかしながら、その約半数は微小転移による再発を来すことからも、新たな治療法開発が切望されている。

新規核小体制御分子DDX31

腎細胞がんにて高頻度に発現亢進を認め、正常臓器では発現の極めて低い新規核小体制御分子DDX31に着目しています (下図参照)。私たちは、この分子が癌抑制機能を有するNucleophosmin (NPM1)と核小体で結合することで、DNA損傷などのストレス依存性のNPM1の核質移行を阻害し、NPM1によるHdm2のp53分解阻害を抑制することを明らかにしました。この結果は、腎細胞がんにおける DDX31によるNPM1の機能制御を通じた新しいp53の不活化機構を示唆するものです。現在、DDX31の新たな機能制御および、DDX31を標的とした治療薬開発の可能性について検討しています。

 本研究は、徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部泌尿器科学分野教授、金山博臣博士、国立がん研究センター創薬臨床研究分野ユニット長 尾野雅哉博士、徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部環境病理学分野准教授 上原久典博士との共同研究にて行っています。




<当研究室で発表した関連論文>
Cancer Res. 2012 Nov 15;72(22):5867-5877
Cancer Res. 2018 May 1;78(9):2233-2247

タンパク-タンパク相互作用を標的とした阻害薬(PPI)の開発戦略

現在、上述の「がん特異的分子」の機能解析として、国立がん研究センター研究所の尾野雅哉先生との共同研究にて、ショットガンプロテオーム解析(2DICAL)を通じて、各標的分子に対する相互作用分子の同定を進め、それらとの制御機構について詳細に調べています。
さらに、このようなタンパク-タンパク相互作用を阻害することによる機能制御、または結合することで機能阻害されている抑制分子を相互作用から解放することによる再活性化を利用した癌細胞増殖阻害を狙います。
現在では、BIG3とその結合タンパク質である抑制因子PHB2の相互作用をdominant-negative peptideを用いた阻害によるPHB2の再活性による抗腫瘍効果誘導に成功しています。このようなPPIによる新規抗がん剤の開発を目指しています。


ERAP: BIG-PHB2 interaction inhibitrory peptide

<当研究室で発表した関連論文>
Cancer Res. 2010;70:5829-39 (DEPDC1-ZNF224).
Nat. Communi. 2013;4:e2443 (BIG3-PHB2).
Nat. Communi. 2017 May 30;8:15427 (BIG3-PHB2)
Sci Rep. 2017 May 12;7(1):1821 (BIG3-PHB2)
Cancer Res. 2018 May 1;78(9):2233-2247 (DDX31-NCL).

新規がん関連遺伝子の同定

トリプルネガティブ乳がんの発症・進展機構の解明および新規診断治療法の開発


現在の乳がん治療としては主に外科療法、放射線療法、ホルモン療法、化学療法などを組み合わせた集学的治療が行われていますが、未だ十分な有効性が認められていないのが現状です。特に、最近ではホルモンレセプター(エストロゲン受容体(ER),プロゲステロン受容体(PgR))陰性・Her2陰性のトリプルネガティブ乳癌(TNBC; Triple Negative Breast Cancer)の存在が指摘されており、これらの症例は転移しやすく、悪性度が高いことが報告されています。また、これらの症例は、これらの受容体を標的とするタモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、LH-RHアゴニストまたはトラスツズマブといった薬剤によって制御することができず、通常の乳癌患者に用いられる効果的な治療の選択肢を用いることができないことが非常に問題となっています。
マイクロダイセクターにてTNBC臨床検体より選択的に採取した、がん細胞および発生母地である正常乳管細胞を用いた網羅的遺伝子発現解析および次世代シーケンサーを用いた全エクソン解析を通じて、TNBCにて発現亢進している分子および体細胞変異を認める遺伝子を複数同定しており、これらのTNBCにおける役割を調べるための機能解析を進めています。

 現在、われわれは、とくしまブレストケアクリニック院長 笹三徳博士および兵庫医科大学乳腺内分泌外科教授 三好康雄博士、徳島大学 丹黒章教授との共同研究にて、このTNBCの発症機構の解明および治療標的分子の同定を目指して研究を行っています。


<当研究室で発表した関連論文>
Int J Oncol. 2013 Feb;42(2):478-506
Int J Oncol. 2014 Feb;44(2):427-434.
Int J Oncol. 2018 Mar 5.

家族性乳がんの新規原因遺伝子の同定

癌あるいは腫瘍と診断された患者のうち、多数のがん患者が同一家系内に存在することがあり、このような家系には、環境要因によって家族内に癌が多発している場合もあるが、多くは遺伝によって癌が発生しており、リスク因子として考えられている。近年、このような家族性腫瘍に対する研究も多く行われており、特に、家族性乳がんの原因遺伝子BRCA1, BRCA2の生殖細胞変異の有無をを調べることが臨床検査として定着してきている。BRCA1またはBRCA2遺伝子の生殖細胞変異陽性を保有する乳がん患者に対して乳房温存療法を行った場合には、乳房内再発率は散発性乳がんよりも顕著に高いことが報告されており、再発の早期発見のためにマンモグラフィー検査の有用性が指摘されている。また、最近、米国の女優アンジェリーナジョリーさんが、BRCA1変異保因者であることから、乳癌の発生母地である乳腺の予防的切除および卵巣摘除術を受けたことが大きく報道されたが、これは、この予防切除により、乳癌および卵巣がんの発症リスクおよび死亡率を顕著に減少させることができることに基づいたものである。
 しかしながら、BRCA1およびBRCA2変異を有する遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)は全遺伝性乳癌患者の約60-70%程度で有り、残りのBRCA1,2遺伝子に変異を認めない他の原因遺伝子を有する遺伝性乳がん、卵巣がんの存在も古くから指摘されているが、いまだ同定にいたっていない。

HBOCの特徴は以下の通りである。
若年で乳がんを発症する
トリプルネガティブ乳がん
両側性乳がん
片側性であるが、複数回乳がんを発症する。
乳がんと卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含む)の両方を発症する
男性乳がん
同一家系内にすい臓がんや前立腺がんを発症する人が存在する。
同一化系内に乳がん・卵巣がんになった人がいる。
 我々は、次世代シーケンス解析(エクソーム解析)を通じて、新規の家族性乳がんの原因遺伝子を同定することを目的に、四国遺伝性乳癌研究会との共同研究、支援により現在進めている。