Division of Genome Medicine 

Dr. Toyomasa Katagiri's Laboratory

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更新日 2017-11-04 | 作成日 2017-11-04

論文セミナー要旨(2019)

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(150)2020年3月19日 担当:松下 洋輔
Neurofibromin Is an Estrogen Receptor-a Transcriptional Co-repressor in Breast Cancer. Cancer Cell 37, 1-16 (2020)

乳がんの70-80%はER陽性であり, エストロゲンが結合したERはco-activatorを標的遺伝子のEREにリクルートする。一方、抗エストロゲン剤である tamoxifen (Tam) がERに結合するとco-repressorに置き換わり, 転写が抑制される. さらに、近年では、SERD (selective estrogen receptor down-regulator)であるfulvestrantがER拮抗作用とともに, プロテアソームによるERの分解も促進することで閉経後ER陽性乳がん患者に高い効果を認めている。しかしながら、これら薬剤は、その長期的な服用による抵抗性獲得や再発の出現が克服すべき喫緊の課題となっている. 本論文では、本課題の克服を目的に、Rasシグナルの抑制に働くGTPase-activating protein (GAP) の一つである、がん抑制遺伝子NF1のGAPとは異なる機能に着目している.
 著者らは、まず、NF1がRas-GAP非依存的にERのco-repressorとして機能することを見出し, NF1のlossが治療薬抵抗性を示す機序を明らかにした. NF1のノックダウン (KD) やノックアウトはE2刺激への感受性亢進を示し, その結果, 細胞増殖促進と, Tam感受性低下を引き起こす. さらに, RNA-Seq解析を通じて同定した発現変動遺伝子を用いたGSEA解析およびChIP assay解析から, 野生型とKD群いずれにおいても, E2関連遺伝子群への集積を認めること、さらに、KD群においてのみ, RASシグナルへの集積が認められることがわかった. 続いて、ERE結合領域について検討したところ, 非GAP-domain領域内にあるisoleucineが重要であることが認められ, NF1のER転写活性抑制は, RAS-GAP非依存的であることが証明された. さらに, NF1は細胞質に局在を認めるが、 リガンド選択的に核へ移行することも証明している. 以上のことから, NF1を欠失したER陽性乳がんでは、Tamやアロマターゼ阻害薬は効果的でないことが推測されるが, fulvestrantはNF1-KDのER陽性乳がん細胞株で感受性が亢進した。しかしながら, Ras-Raf-MEK-ERK経路の代償的活性化が認められたため, MEK阻害剤の併用を試みたところ, ERK1/2の活性化を有意に抑制し, それに伴い, 細胞増殖率も低下した. 最後に, NF1が欠失したPDXモデルでMEK阻害剤を併用すると, 腫瘍の増大を有意に抑えられることを証明している.
 以上のことから, NF1が欠失したER陽性乳がんでは, SERDとMEK阻害剤の併用が新しい治療戦略となり得ることを示している. その一方, NF1欠失時にSERDを投与した際のRasシグナルの活性化機序についてはほとんど解明されていないため, 今後の詳細な解析が望まれる.

(149)2020312日 担当:相原 仁
Mechanical regulation of glycolysis via cytoskeleton architecture.
Nature 578, 621-626, 2020

<要旨>
細胞は、細胞内外からの機械的刺激に応答し、アクトミオシンの収縮力などを通じて細胞骨格を再構築する。その際に、必要となるエネルギーを供給する代謝システムとの連動性ついてはこれまで明らかにされてこなかった。筆者らは、正常ヒト気管支上皮細胞(human bronchial epithelial cell: HBEC)を硬いコラーゲン基質面および柔らかい基質面で培養比較した結果、柔らかい基質面では解糖系が抑制され、その原因として、律速酵素であるホスホフルクトキナーゼ(Phosphofructokinase : PFK)の3つのアイソフォームがいずれもタンパクレベルにて発現低下していることを明らかにした。次に、培養基質の剛柔性に対してアクトミオシン収縮が応答することに着目した。柔らかい基質に比較して、硬い基質ではF-アクチンの強い結束が観察され、ミオシンⅡのATPase活性阻害剤Blebbistatinやアクチン重合阻害剤Latrunculin-Aを投与するとPFKの発現および解糖系も低下することが判明した。これはアクトミオシン微小環境がPFKの発現を調節することを意味する。また、PFK発現低下のメカニズムとして、ユビキチンープロテアソームタンパク質分解経路の関与を考え、PFKを基質とするE3ユビキチンリガーゼTRIM21を同定した。さらに筆者らは、アクトミオシン微小環境下におけるPFKのタンパク質分解メカニズムを調べ、F-アクチンとTRIM21の共局在を示し、プロテオーム解析によりTRIM21結合分子としてアクチン結合タンパク質αアクチニンを同定した。続いて、in vitro再構成系にてTRIM21F-アクチン繊維とともに不溶化することも証明した。これらの結果から、TRIM21F-アクチンに捕捉されるため、細胞質に遊離できずE3リガーゼとしての機能が発揮できないことが考察された。この仮説を支持するデータとして、F-アクチン繊維の結束を促進する246番目チロシンをグルタミン酸に変換したαアクチニン1変異体を強制発現させると、PFKの発現および解糖系も上昇する結果も得ている。
 一方で筆者らは、肺がんにおいて高発現している解糖系関連遺伝子のうち、PFKのアイソフォームの1つであるPFKPが第2位の発現亢進を認めることに着目した。がん細胞では、ワーブルグ効果(好気的解糖の活発化)を発揮するために、上述の正常HEBCで作用するアクトミオシン微小環境による解糖系制御メカニズムに対して強い抵抗性を示し、PFKPの発現が増強される仮説をたてた。この検証のため、HBEC p53ノックダウンおよびKRAS C12V変異体とMYCの過剰発現によってトランスフォームした結果、正常HBEC細胞で認められた柔らかい基質の培養でのPFKPおよび解糖系の発現低下は認められなかった。加えて、KRAS変異あるいはEGFR変異を有する非小細胞肺癌由来の4細胞株の解析においても同様の結果が得られ、上記アクトミオシン収縮阻害剤に対しても抵抗性を示した。以上の結果から、正常HBECは、培養の外的環境下に対してアクトミオシン微小環境を再構成して解糖系を調節する柔軟性を示すのに対し、非小細胞肺癌細胞には、外的環境に依存せず、重厚なアクトミオシンを保持し、PFKの発現が恒常的に維持される頑強性があることが示された。今回の報告では、非小細胞肺癌細胞においてTRIM21を過剰発現させることによってPFKの発現を抑制できたが、それに伴う解糖系や細胞増殖への影響については示されておらず、アクトミオシン微小環境が肺がんの治療標的になりうるかは今後の興味深い課題である。


(148)March 05, 2020 Srinivasan Yuvaraj
Chromatin regulators mediate anthracycline sensitivity in breast cancer
Nature Medicine Volume 25, 1721-1727 (2019)

<Summary>
In the breast cancer treatment regimen, anthracyclines plays crucial role but are associated with significant morbidity. The main action of anthracyclines is inhibiting topoisomerase-II (TOP2) from accessing DNA. Accordingly, the authors hypothesized if chromatin regulatory genes (CRGs) would dictate DNA access and if it would be useful in predicting anthracycline sensitivity. The authors also mentioned why they focused on CRGs expression against drug response as, CRGs are rarely mutated in breast cancer but their copy number is frequently altered, affecting its expression.
 The authors first compiled a list of 404 CRGs from literature and Gene Ontology (GO) annotation, and then evaluate the association between mRNA expression of CRGs and anthracycline response in breast cancer through data from various public databases including TCGA breast cancer cohort, breast cancer cell line expression with drug response data and a clinically annotated collection of expression profile of 1006 early-stage breast cancer patients.
 Firstly, the authors confirmed if CRGs has a central role in breast cancer vs pan-cancer (pan-cancer – 32 type of cancer excluding breast) by analyzing its somatic mutations and copy number alterations by graph theoretical approaches from TCGA data set (1078 breast cancer patients) using an algorithm called ARACNE (Accurate cellular networks), assuming each gene is a regulatory element. A null distribution of centrality scores was generated using 10,000 combinations of 404 non-CRGs by summing their degree, betweenness and page rank values. The set of CRGs exhibited high network centrality (P < 1x104) than for null distribution. Next they performed a differential expression analysis using different breast cancer cell lines which was sensitive or resistant to doxorubicin response (a class of anthracycline), and identified a list of 38 CRGs that associated the drug response (Fisher's combined P < 0.05).
The authors further evaluated the association between the 404 CRGs and anthracycline effect in a meta-cohort of 1006 early stage breast cancer patients for whom tumor characteristics, overall survival, treatment and gene expression data was available. They used cox proportional hazard model to study the interaction between gene expression and treatment and their association with overall survival, and found 54 CRGs significantly (p<0.05) associated with anthracycline Vs non-anthracycline treatment and overall survival. The authors performed the analysis adjusting for various clinical sub groups (such as ER-positive/HER2-negative, HER2-Positive and triple-negative breast cancer patients) and found CRGs expression were able to drive anthracycline benefit across various sub groups. Of the above 54 CRGs, 12 genes were found to be overlapped with the ones identified using in-vitro cell line anthracycline sensitivity studies.
 As in expected lines, among the 12 overlapped CRGs, the Trithorax complex members, were highly associated with anthracycline sensitivity. BAF, COMPASS complexes, KDM4B, KAT6B and others form the Trithorax complex, which open DNA fiber for TOP2 binding, thereby increasing anthracycline sensitivity. In addition, Polycomb complex proteins, mainly PRC2 protein, works in closing the DNA fiber to TOP2 binding, thereby decreasing anthracycline sensitivity. In this study the higher PRC2 expression was associated with drug resistance. Moreover, consistenting with the patient data and CRG expression, the authors showed knockdown of KDMB4 or KAT6B induced resistance to doxorubicin and etoposide but not paclitaxel. Thus, the resistance to TOP2 inhibitors is due to the direct loss of TOP2 accessibility to chromatin, highlighting the specificity of CRGs in anthracycline response.
 To establish the predicting system of anthracycline sensitivity by markers, they have identified which can be used for patient stratification – beforehand of treatment. A similar approach can be used for other important anti-cancer drugs, but larger validation with simple assay method / analysis might be required, when used in clinics.

(147)2020130日 担当:吉丸 哲郎

TGF-β orchestrates fibrogenic and developmental EMTs via the RAS effector RREB1. Nature, 577, 561-571, 2020

上皮間葉転換 (Epithelial Mesenchymal Transition: EMT)は、上皮系から間葉系へと形質転換する現象であり、がんの浸潤・転移や薬剤耐性の獲得に密接に関与することが知られ、その機序の解明はがん治療の発展に重要となる。本論文は、EMT誘導シグナル経路のTGF-β経路が発がん性のRasシグナルと協働してEMTと繊維化を促進することを明らかにし、その過程にRasの転写エフェクターであるRREB1(RAS-responsive element binding protein 1)が関与していることを見出したものである。
 著者らは、先行論文でSmad4発現の膵管腺がん細胞は、Ras変異(G12D)とTGF-βの協働作用によりEMTを促進するとともにアポトーシスを誘導することを報告した(lethal EMT)。本論文では、この特性を利用することでEMTを抑制する遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、Rasの下流で作用する転写エフェクターRREB1を同定した。RREB1の膵管腺がん細胞への強制発現はTGF-βシグナル下流のSMAD2/3と複合体を形成すること、EMTおよび繊維化に関連する遺伝子の発現を相乗的に誘導することを明らかにした。また、RREB1をノックアウトした膵管腺がん細胞は、TGF-β存在下でもEMT関連の分子を誘導できなかったのに対して、マウス皮下への投与は腫瘍細胞のアポトーシスを抑制して腫瘍増殖と腫瘍分化を亢進させた。これらの事実は、RREB1が膵管腺がんの進行を潜在的に制御していることを示唆するものであり、このアポトーシス誘導メカニズムの解明が膵管腺がんの新たな治療戦略に繋がるかもしれない。一方、lethal EMTを誘導しない肺腺がんの皮下投与は、RREB1のノックアウトによりEMT関連遺伝子、腫瘍形成および肺転移をほぼ完全に抑制していた。次に、胚発生における原腸陥入に関わるEMTへの関与を検討したところ、RREB1は原腸陥入を駆動する中内胚葉への分化を誘導し、ES細胞の胚形成過程に重要な役割を果たすことを明らかにした。
本論文では、RREB1がRAS経路とTGF-β経路を結び付ける分子として定義され、腫瘍の繊維形成や発生過程でのEMTを協調的に誘導することを明らかにしている。興味深いことに、TGF-β経路によるEMTの誘導は、がん細胞の環境に応じてがん促進作用とがん抑制作用の相反する表現型になることが示され、膵管腺がん細胞のRREB1はEMTを惹起する一方で、アポトーシスを誘導する可能性を示唆していた。しかしながら、RREB1によるアポトーシス誘導メカニズムならびにRREB1を介したTGF-β経路とRas経路の相互関係はまったく不明であり、多くの追求すべき課題は残っている。今後、RREB1を中心とした詳細な解析は広範な病態生理学的過程を統合するEMTの本態解明に繋がることが期待される。

(146)2020年1月16日 担当:土岐俊一
Epigenetic reprogramming underlies efficacy of DNA demethylation therapy in osteosarcomas.
Sci Rep. 2019 Dec 30;9(1):20360. doi: 10.1038/s41598-019-56883-0.

<要旨>
近年のゲノム解析研究により、各種がんにおいて、ゲノム変異のみならず、エピジェネティック異常が重要であることがわかってきているが、骨肉腫におけるエピジェネティック異常については未だ不明である。また、近年、DNAメチル化阻害剤の骨肉腫に対する有効性に関する報告が散見されきているが、その詳細なメカニズムは解明されていない。
 このメカニズム解明のために、本論文の著者らははじめにメチル化阻害剤decitabine (5-aza-2’-deoxycitidine; 5-aza-dC)の骨肉腫に対するin vitroin vivo抗腫瘍効果を確認した。次に、骨肉腫、Ewing肉腫患者の手術検体および正常組織を用いて、CpG islandにおけるDNAメチル化の網羅的解析(DNA methylation beadarray)を行った。骨肉腫原発巣28サンプルにおけるクラスター解析を行った結果、胃癌・大腸癌と比較してメチル化率は低いが、そのなかでも高メチル化群と低メチル化群に分類することができた。また、転写開始点200塩基対以内の代表的なCpG islandのプラットフォームにて高メチル化群と低メチル化群を層別化し、ターゲットシークエンスで得た遺伝子異常、また臨床情報から得た無増悪生存期間との比較を行ったが、明らかな相違を認めなかった。以上より、骨肉腫の生物学的特徴におけるDNAメチル化解析の重要性は見出せなかった。
 次に、Gene ontology解析を通じたDNAメチル化低下を認める遺伝子群の探索から、骨格形成遺伝子群等が抽出され、そのうち、6個の骨・軟骨形成関連遺伝子と5個の癌抑制遺伝子が同定された。続いて、ヒト骨肉腫細胞株におけるメチル化阻害剤による遺伝子発現変動の解析を行った結果、MG63細胞にて31個、U2OS細胞にて13個の遺伝子が5-aza-dC処理にて発現上昇を認めた。これらの遺伝子には、複数の癌抑制遺伝子および骨・軟骨形成関連遺伝子が含まれており、かつ臨床検体の結果と重複する遺伝子も存在していた。さらに、冒頭のin vivo実験で得られた腫瘍サンプルにおいても、癌抑制遺伝子(TNFRSF10, DTSPYL5)のメチル化率低下を認めた。
最後に、原発巣・転移巣の臨床検体を共に有する3症例のメチル化およびターゲットシークエンス遺伝子の異常を比較した。その結果、2例は原発巣から転移巣にメチル化領域が引き継がれた上で新規メチル化を獲得しており、クローナルな進化であることが示唆された。一方、1例は原発巣と転移巣に共通した限定的メチル化領域が認められ、転移巣では特有のメチル化プロファイルを有していたことから、それぞれが原発巣の先祖的細胞からのパラレルな進化として解釈された。
 骨肉腫に対するDNAメチル化阻害剤の有効性は、DNAメチル化低下を認める癌抑制遺伝子や骨・軟骨形成関連遺伝子の発現亢進というエピジェネティックリプログラミングにより得られていることが示唆された。

(145)2020年1月9日 担当:iIi
Atypical KRASG12R Mutant is Impaired in PI3K Signaling and Macropinocytosis in Pancreatic Cancer.
Cancer Discov. 2020 Jan;10(1):104-123.

<Summary>
KRAS proto-oncogene is a predominant contributor to cancers of the lung, colorectal and pancreatic. Majority of the mutations in KRAS (84%) occurs due to a single amino-acid substitution at G12 with G12R occurs the least frequent in most cancers compared to G12D (42%) and G12V. However, KRASG12R appear to be the third most common KRAS mutation in pancreatic ductal adenocarcinoma (PDAC). With recent advancement of inhibitors specifically targeting the G12C mutation, and driven by the fact that understanding on allele-specific signaling by different KRAS alleles is still poor, the authors in this paper evaluated the functional effect of KRASG12R compared to more common KRASG12D/V-mutant proteins in PDAC.
To first determine whether KRASG12R drive metabolic perturbation similarly to KRASG12D/V-mutant, they examined macropinocytosis, a metabolic process that is critical for PDAC tumor growth. Initial screening across a panel of 10 KRAS-mutant PDAC cell lines found variable level of macropinocytosis. Suppression of KRAS through siRNA was found to reduce macropinocytosis in KRASG12D/V-mutant cell lines but unexpectedly did not reduce macropinocytosis in KRASG12R-mutant cells. These results indicate that KRASG12R-mutant cells displayed KRAS-independent macropinocytosis. Subsequently, the authors examined the sensitivity of KRASG12R to guanine exchange factors (GEF). They employed SOS1 and measured the kcat of exchange with KRASWT and G12 mutant using the SOS1 catalytic domain (SOScat). SOScat was found inactive toward KRASG12R, suggesting large structural change in KRASG12R. Using X-ray crystallography, they found that KRASG12R disrupted the switch II (SII) region that is critical for effector interaction. To determine alternative effector, they found defect in the PI3K-AKT pathway through reverse-phase protein array (RPPA) analysis. Phosphorylation of AKT and AKT substrates was decreased in G12R-expressing cells and found to be due to impaired binding with PI3Kα (p110α).
Furthermore, MYC level was found to be upregulated and signaling through PI3K-AKT-mTORC1-S6K-S6 was downregulated. Transient knockdown of MYC reduced macropinocytosis in KRASG12D/V but not KRASG12R, suggesting that MYC is crucial for KRASG12D/V macropinocytosis but not KRASG12R. p110γ was later identified as PI3K isoform that contributed to micropinocytosis. Finally, since KRASG12R has impaired PI3Kα signaling, which has been associated with driving resistance to ERK/MAPK inhibition, the authors showed that KRASG12R – mutant PDAC has indeed increased sensitivity towards ERK/MAPK as well as autophagy inhibition.
In conclusion, this paper found that KRASG12R is impaired in activating PI3Kα (p110α) to drives macropinocytosis. The KRASG12R – mutant instead utilized overexpression of PI3Kα (p110α) to stimulate macropinocytosis in PDAC.

(144)2019年12月27日 担当:松下 洋輔
Therapeutic Targeting of CDK12/CDK13 in Triple-Negative Breast Cancer
Cancer Cell 36, 545-558 (2019)

ゲノムの不安定性は癌の特徴の一つである。BRCA変異を有する乳癌や卵巣癌患者の細胞は、相同組換え (HR) 能が欠失していることから、ゲノム不安定性が常に引き起こされており、近年、上市されたPARP阻害剤は非常に有用である. この治療戦略はHRを促進する遺伝子の発現低下や体細胞変異を有する他の癌腫にも適応拡大する試みがなされているが、HR関連遺伝子変異のない癌にはPARP阻害剤は利用できない. さらに, HR能が欠失している癌腫での利用も, 抵抗性獲得が問題となり, 新しい治療選択により, このPARP阻害剤の適用拡大が望まれている.
 本論文で標的としているCyline-dependent kinases (CDKs) , 近年創薬標的として非常に注目されており, その1つである細胞周期制御因子CDK4/6の阻害薬はER陽性転移再発乳癌にて、一次, 二次治療の標準治療として, 日本では2種類が上市されている. 一方, 転写調節に関与するCDKs9種類が報告されており, 特に、CDK12/CDK13, RNAポリメラーゼIIC末端ドメインをリン酸化することで, 転写プロセスを制御している.ことから CDK12/CDK13阻害剤の開発も着目されてきた。
 筆者らは, 既存のCDK12/CDK13阻害剤から立体構造に指南された創薬プロセスを経て, 高い選択性を有するSR-4853を開発し, TNBCへの有効性を検討した. CDK12/CDK13の二重阻害やダブルノックアウトは、イントロンのポリアデニル化サイトの切断を誘発することで, 主要なDNA損傷応答関連タンパク質の発現を低下させており、その結果、細胞増殖抑制やアポトーシスを誘導することが明らかになった. 以上の結果を通じて、筆者らは、CDK12/13阻害はBRCAnessを強制的に引き起こすことで, DNA損傷修復経路の機能不全状態をもたらすことを明らかにした。最後に、DNA障害を導く殺細胞性の抗癌剤やPARP阻害剤との併用により、in vitro, in vivoにおいて相乗効果を認めることを証明した.
 以上のことから, CDK12/CDK13阻害剤はBRCAnessを誘発することで, 合成致死を相乗的に促進することが明らかとなり, 今後は他の癌腫での応用も期待される.

(143)201912月19日 担当:相原 仁
Combination of ERK and autophagy inhibition as a treatment approach for pancreatic cancer. Nature Medicine 25, 628–640, 2019

<要旨>
膵臓癌症例の大半を占める膵管腺癌(PDACpancreatic ductal adenocarcinoma)は、早期発見および外科的切除による治療が困難である。ゲノム解析を通じて、PDAC94%KRAS遺伝子変異が生じていることがわかっており、膵上皮内腫瘍性病変(PanINPancreatic intraepithelial neoplasia)からPDACへの多段階進展過程において、KRAS変異は最初のドライバー変異であると考えられる。最近、KRAS G12C変異体を標的とした阻害剤開発の成功が報告され、臨床応用への可能性が見いだされているが、PDACにおいてはG12C変異の割合は全体の1%程度であるため、他のKRAS変異体阻害剤やPDACの脆弱性を標的とした分子標的治療薬の開発が切望される。
 PDACでは、オートファジー活性の亢進が報告されていることから(Yang et al. 2011 Genes Dev.)、筆者らは、変異KRASパスウェイがオートファジーを活性化していると推測し、KRASをノックダウンしたところ、予想外にオートファジー活性がさらに上昇することを見出した。また先行研究において筆者らは、変異KRASシグナル下流分子であるERK1/2の阻害剤SCH772984ERKi)が有効であることから、ERK1/2PDACの細胞増殖に必須であることを明らかにしていた(Hayes et al. 2016 Cancer Cell)。本論文において著者らは、ERKi処理により、オートファジー活性を同様に上昇させる効果があることを見いだした。さらに逆相タンパク質アレイやRNA-seqによる網羅的解析の結果、ERKiによってオートファジーを負に制御するmTORパスウェイが抑制されること、オートファジーおよびリソソーム酸化を制御する遺伝子群が活性化されることが明らかになった。上記先行研究において、筆者らは、PDAC増殖抑制についてERKiと相乗効果を示す化合物のスクリーニングにて、オートファゴソームとリソソームの融合を阻害するヒドロキシクロロキン(HQ)を候補阻害化合物として同定していた。その後、さらに詳細な検討を行い、PDAC細胞株でアポトーシスの誘導、マウスPDXモデルを用いた腫瘍形成抑制においてERKiHQの相乗効果が認められることを見いだした。またオートファジー制御因子ATG5/7をノックダウンすることや、オートファゴソーム形成促進に関与するULK1/2USP10/13の阻害化合物にもERKiとの相乗効果が認められた。
 以上の結果から、KRASの消失やERKの阻害は、PDAC細胞の生存条件をオートファジー依存的に転換することを示しており、ERKおよびオートファジー両方の同時阻害がPDAC治療に有効である可能性を強く示唆している。


(142)2019年12月12日 担当: 片桐 豊雅
The clinical KRAS(G12C) inhibitor AMG 510 drives anti-tumour immunity
Nature volume 575, 217–223(2019)

<要旨>
がん遺伝子KRASは最も高頻度に変異を認める遺伝子であり、その変異の特長として、コドン12のグリシン(G12)に70%以上集中して認められることがあげられる。これまでに、この変異型KRASを直接標的とした薬剤の開発が数多く進められてきたが、まだ成功には至っていない。その主要な理由として、RASタンパク質の表面には標的となる構造上のポケットが無いことがあげられていた。最近、非小細胞肺がん(NSCLC)において最も高頻度に認められるG12C変異型KRAS(KRAS(G12C))のみに存在するスイッチIIポケット(S-IIP)が着目されて、そのシステイン残基を標的とした共有結合型阻害剤の開発が進められきた。本論文では、これまでに筆者らが一連の阻害剤スクリーニングにて同定、開発を進めてきたKRAS(G12C)阻害剤を最適化したAMR510の臨床的有効性と選択性および新たな腫瘍抑制効果を見いだしたことを述べている。
 KRAS(G12C)阻害剤AMG510は、筆者らが開発した以前のKRAS(G12C)阻害剤よりもヌクレオチド交換(GTP)活性の約10倍高い活性を認めた。KRAS(G12C)細胞移植マウスを用いた腫瘍抑制実験において、100mg/kgの投与では一旦の腫瘍抑制を認めたが、観察期間中の再増大を認めた、一方、200mg/kg投与群では抗腫瘍効果の継続が認められた。興味深いことに、T細胞欠損マウスでは、その抗腫瘍効果が認められず、抗PD-1抗体との併用によって、100mg/kg投与量でも腫瘍の消失を認め、継続的な観察からは腫瘍の再増大は認められなかった。腫瘍組織の詳細な観察により、ケモカイン、T細胞および樹状細胞の浸潤の亢進が認められた。また、KRASの下流分子であるMEKの阻害剤トラメチニブとの併用おいても顕著な抗腫瘍効果を認めることがわかった。さらに、コホート臨床試験としてKRAS (G12C)を有するNSCLC患者4例にAMG 510を180mg、360mgを一日1回の経口投与したところ、2症例にて腫瘍増殖の停止、他の2症例に34%と67%の腫瘍縮減が認められた。
 以上の結果より、KRASが同定されてから30年以上、KRAS標的薬の開発が多く進められながら、これまで成功には至っていなかったが、AMG510の開発ではじめて臨床応用への可能性が見えてきた。さらに、T細胞活性化から、免疫チェックポイント阻害剤との併用や下流分子MEKの阻害剤との併用により、より持続した効果を発揮できることも明らかとなったことは、今後大きな展開となることが期待される。一方、AMG510によるT細胞活性化の詳細なメカニズムの解明や、AMG510がG12C変異型のみに対する阻害剤であることから、他の変異型KRASに対する阻害剤の開発も今後は望まれる。

(141)2019年12月5日 担当:吉丸 哲郎
α-Ketoglutarate links p53 to cell fate during tumour suppression
Nature, 573, 595-599, 2019

<要旨>
がん抑制遺伝子TP53(タンパク質p53)は、DNA修復や細胞周期など多岐にわたる細胞機能の制御することで腫瘍発生抑制の役割を担っている。最近では、様々な代謝関連遺伝子の発現を調節することがわかってきているが、その詳細な機序は不明である。本論文は、p53を欠損している膵管腺がんにp53機能を回復させることで、グルタミン代謝産物であるα-ケトグルタル酸(α-KG)の産生を誘導することを見出し、p53依存的α-KGの蓄積が腫瘍細胞の分化誘導することを明らかにしたものである。
 著者らは、発癌性KRAS変異とテトラサイクリン発現誘導システムでp53の発現を制御可能な膵管腺がんマウスモデルを確立し、膵管腺がん細胞に対してp53を発現誘導して、その効果を検証した。その結果、クエン酸およびα-KGが顕著に蓄積する一方、グルタミン酸化代謝物(コハク酸塩、リンゴ酸塩、アスパラギン酸塩)が減少し、コハク酸塩に対するα-KGの比率が増加することを明らかにした。続いて、α-KGはクロマチン修飾酵素の補酵素としても作用することから、p53の再活性化はクロマチン修飾である5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmc)を増加させ、前悪性状態の細胞分化に特徴的な転写プログラムを誘導して腫瘍形成を抑制することが示唆された。さらに、p53欠損膵管腺がん細胞において、TCA回路関連酵素であるオキソグルタル酸デヒドロゲナーゼの阻害はα-KGの過剰な蓄積が生じること、および5hmcのレベルが有意に上昇する一方、腫瘍細胞の分化と腫瘍抑制の促進が起きることを明らかにした。また、コハク酸の細胞内レベルの上昇は、p53による腫瘍抑制が減弱化することも確認している。
 本論文は、α-KGがp53を介した腫瘍抑制エフェクターであることを定義したものであり、p53依存的なα-KGの蓄積が腫瘍細胞分化を促進することで腫瘍進展を拮抗させる可能性について言及している。しかしながら、α-KGの蓄積がミトコンドリア機能に影響して副作用を誘導する可能性やKRASの変異との関連性などを解明すべき課題が残っている。さらに、p53の変異および欠損を有する他のがん細胞にも適用できるかも今後の検討課題である。今後、p53非依存性のα-KGの産生を調節することによる腫瘍抑制の新たな戦略に繋がることが期待できる。

(140)2019年11月21日 担当:土岐 俊一
p53 is a master regulator of proteostasis in SMARCB1-deficient malignant rhabdoid tumors. Cancer Cell. 2019 Feb 11;35(2):204-220.e9.

<要旨>
悪性ラブドイド腫瘍は新生児から小児に発生する極めて予後不良の難治性固形腫瘍であり、遺伝学的にSMARCB-1(SWI/SNF related, matrix associated, actin dependent regulator of chromatin, subfamily b, member 1)ホモ欠損を特徴としていることが知られている。しかしながら、その悪性化の分子機構は未だわかっていない。
 筆者らはまずCre-LoxP遺伝子改変マウスモデル(genetically engineered mouse model: GEMM)を用いたSmarcb1両アレル欠失ノックアウトマウスを樹立し、それが臨床病理学的にヒト悪性ラブドイド腫瘍とよく類似する肝原発腫瘍を形成することを見いだした。興味深いことに、これらの腫瘍ではSmarcb1発現の有無に依存して、小胞体ストレスやオートファジー関連分子の発現が亢進していることを明らにした。続いて、小胞体ストレス応答(unfolded protein response: UPR)やオートファジー経路を複合的に阻害することにより、Smarcb1欠損腫瘍の縮小・消失および担癌マウスの生存期間の延長を得ることが可能であった。さらに、ヒト腫瘍細胞株(G401, G402, A204, RMC2C)を用いたin vitro実験においても、HSP90阻害薬やプロテアソーム阻害薬、オートファジー阻害薬処理による増殖抑制効果、および同所移植モデルマウスにおける生存率の改善が確認された。また興味深いことに、次世代シーケンスデータベース解析を通じて、ヒト悪性ラブドイド腫瘍においてp53変異は同定されておらず、遺伝子発現解析に基づいたパスウェイ解析およびタンパク発現解析においてSmarcb1欠損腫瘍細胞では有意なMYC-p53経路の活性化が確認された。次に、筆者らは、Flp-Frtを用いた部位特異的組み換えシステムやタモキシフェン誘導GEMMを用いてのSmarcb1欠失はMYC-p53経路を介してオートファジーを導くこと、Smarcb1欠損腫瘍において、Trp53消失はタンパク生合成を亢進させてオートファジーを抑制し、アポトーシスを亢進すること、またp53はオートファジーの主制御因子であるDRAM1(DNA damage regulated autophagy modulator 1)を介してオートファジー活性を上昇させていることを証明した。最後に、p53活性を保持するSMARCB1欠損腫瘍では、アポトーシス阻害因子であるBIRC5(baculoviral IAP repeat containing 5)の高発現によるアポトーシス寛容状態にあることが明らかとなった。
 悪性ラブドイド腫瘍をはじめとする予後不良のSMARCB1欠損腫瘍において、UPR阻害等のタンパク障害性薬剤とオートファジー抑制剤を併用することで、新たに有効な治療戦略となり得ることが示された。

(139)2019年10月31日 担当:松下 洋輔
Intercellular interaction dictates cancer cell ferroptosis via NF2-YAP signaling
Nature 572, 402-406 (2019)

<要旨>
フェロトーシスは、2012年に提唱された新しい細胞死の一つであり, 鉄依存的な脂質過酸化によって引き起こされる. グルタチオンペルオキシダーゼ4 (GPX4: Glutathione Peroxidase 4) はフェロトーシスの中心的な役割を担う調節因子の一つで, 細胞代謝後に生成される脂質過酸化物を中和することで細胞の保護に働き、 GPX4の直接的な阻害や基質の欠乏はフェロトーシスを引き起こすことが知られている. 一方、間葉系の腫瘍細胞はGPX4の阻害に対して高い感受性を認めることから、治療標的としての可能性が示唆されている.
 本論文では、まず細胞密度によってフェロトーシス感受性が異なることに着目し、カドヘリンを介した細胞間相互作用によりフェロトーシスが細胞非自律的に調節されうることを明らかにした. すなわち, 上皮細胞ではEカドヘリンによる細胞間相互作用がNF2(Neurofibromin 2)とHippoシグナルを活性化することでフェロトーシスを抑制するが, その阻害は, 発がん性転写共役因子YAPがフェロトーシス調節因子ACSL4(acyl-CoA synthetase long-chain family member 4)やTFRC(Transferrin Reeceptor)の転写を促進することで, フェロトーシスを促進させる. 一方、がん抑制遺伝子NF2は中皮腫において遺伝的不活化がしばしば起こることが知られており, この状態は, がん細胞がフェロトーシスに高い感受性を持っていることを, 悪性中皮腫の同所性マウスモデルを用いて証明している. 本実験ではシスチンを枯渇させることによるフェロトーシスやROS産生量を指標にしており, 代謝変化によるミトコンドリアへの影響などにはほとんど言及していないなど, 更なる検討が望まれる。しかしながら、今後の臨床応用が期待されているフェロトーシス誘発治療法に対するがん細胞の応答性はNF2-YAPシグナルの悪性変異を検証することで予測できることを示唆している.


(138)2019年10月16日 担当:相原 仁
Cell Clustering Promotes a Metabolic Switch that Supports Metastatic Colonization.  Cell Metabolism 30, 720–734 October 1, 2019

<要旨>
癌転移の最初のイベントは、原発巣から癌細胞が離脱し、脈管へ浸潤することである。発癌初期に癌細胞は、足場となる細胞外マトリックス(ECM; Extracellular matrix)に接着して生存や増殖のための様々なシグナル刺激を受けているが、転移の段階では、運動能を獲得してECMから離脱し、足場非依存性の増殖能力を獲得する。一方、ECMからの離脱によって活性酸素(ROS; Reactive Oxygen Species)の産生が促され、アポトーシスが誘導されることがわかっている。本論文では、癌細胞のECMからの離脱および足場非依存性への適応過程でのROS産生を制御するメカニズムを明らかにした。
 はじめに、筆者らは低吸着性のプレートで培養した癌細胞(ECMからの離脱をin vitroで再現)がクラスターを形成することに着目した。その結果、癌細胞ではミトコンドリアの構造的・機能的異常が認められ、TCA回路がブロックされており新たな代謝スイッチが入ることを見出された。すなわち、このミトコンドリア機能低下の代償として、クラスター細胞はグルコース代謝経路を活発化させてATPを供給し、各種生合成経路に必要なTCA回路中間体はグルタミン取り込みからの還元的カルボキシル化(RC; Reductive carboxylation)によって供給していることが分かった。
 一方、ECMから離脱した癌細胞では、足場依存性の細胞に比べてROS産生の亢進を認めるが、クラスター形成によって細胞塊内部では低酸素状態となるため、HIF-1αの発現が誘導される。さらに、HIF-1αの標的遺伝子でありマイトファジーのレセプターであるBNIP3, NIXタンパク質の発現が亢進するため、マイトファジーが誘導され、ミトコンドリアの分解が促進するとともにROSの割合も低下することが判明した。
続いて筆者らは、イオンキレート剤EDTAを添加してカドヘリンによる細胞接着を阻害してクラスター形成を抑えると、RC経路の活性化が抑えられ、ミトコンドリア機能が回復すると同時に、マイトファジーが低下し、ROS産生および細胞死率の上昇が認められた。一方、ガラクトース培地によってグルコース依存代謝効率を抑えると、クラスター形成が阻害され、RC経路の抑制、マイトファジーの低下が認められた。さらにグルコースまたはガラクトースで培養した非接着同種細胞を用いたin vivoモデルでは、皮下移植における腫瘍形成速度に有意差は認められなかったが、脈管内移植転移モデルにおいては、ガラクトース培養由来の癌細胞の転移効率が低いことが明らかとなった。
 以上の結果から、①癌細胞がクラスターを形成して細胞塊内部の低酸素状態を作り出し、HIF1αによるマイトファジーを誘導して異常なミトコンドリアを除去することでROSの産生を抑えて細胞死を回避すること、②同時にグルコースおよびRCに依存した代謝経路へ転換することが、癌転移の初期に重要なステップであることが示唆された。クラスター形成の引き金となるのは何か、RC経路の代謝反応過程で生じる副産物2–ヒドロキシグルタル酸(2HG)はオンコメタボライトとしてエピゲノム攪乱を引き起こす可能性が考えられるが、2HGの転移への関与については今後の課題である。

(137)2019年10月10日 担当:片桐 豊雅
LLGL2 rescues nutrient stress by promoting leucine uptake in ER+ breast cancer. Nature 569, 275–279 (2019)

<要旨>
Drosophila腫瘍抑制遺伝子LglのヒトホモログであるLLGL2(Letal(2) giant larvae protein homolog 2)遺伝子は、上皮細胞において頂底軸極性(apical-basal polarity)の制御に働く足場タンパク質をコードするが、がん細胞におけるその機能は不明である。
本論文では、LLGL2遺伝子がエストロゲン受容体(ER)陽性乳がんにおいて発現亢進を認め、それらの症例は予後不良であることに着目し、その役割解明を行っている。通常血清培地によるER陽性乳がん細胞株におけるLLGL2遺伝子の発現抑制では細胞増殖への影響は認められなかったが、無血清培地では顕著な増殖抑制が認められたことから、LLGL2は栄養ストレス下において重要な役割を担うことが示唆された。続いて、メタボローム解析およびアミノ酸要求性実験を通じて、LLGL2はロイシンの細胞内への取り込みを制御すること明らかとなった。次に、ロイシン取り込みの制御の詳細を解明するために、結合タンパク質の探索を行った結果、アミノ酸トランスポーターで、これまでにロイシンの細胞内への取り込みに関与することが報告されているSLC7A5が同定された。このことから、LLGL2はSLC7A5と相互作用して、細胞膜表面のSLC7A5の安定化に関わることがわかった。さらに、結合タンパク質の探索の結果に着目すると、分泌経路のメンブレン輸送に関わるSNARE(soluble NSF attachment protein receptor)タンパク質の1つであるYKT6(YKT6 V-SNARE Homolog)とも複合体を形成し、細胞膜へ輸送されて、細胞膜表面上に発現増加することがわかった。
 続いて、著者らは、ER陽性乳がん細胞置いて、E2依存性のLLGL2遺伝子の転写発現亢進することに着目した。詳細な機能解析から、LLGL2遺伝子はERの標的遺伝子の1つであり、E2刺激によって誘導されたLLGL2遺伝子産物は細胞質にて、SLC7A5と結合して、その後YKT6によって細胞膜上へ輸送されることが明らかとなった。
 以上の結果より、ER陽性乳がん細胞において、細胞膜表面に増加したSLC7A5は細胞内のロイシン濃度を増加させて、その結果、E2拮抗ホルモン剤であるタモキシフェン耐性の原因となっている可能性が示唆された。一方、細胞内に取り込まれた過剰なロイシンがどのような分子メカニズムによって細胞増殖、特にタモキシフェン耐性と寄与しているかは未だ不明で有り、今後の詳細な解明が望まれる。

(136)2019年10月3日 担当:吉丸 哲郎

Metastatic-niche labelling reveals parenchymal cells with stem features
Nature, 572, 603-608, 2019

<要旨>
多くのがん細胞は、転移と呼ばれるプロセスを介して別の臓器に移動し、周囲の組織内に定着するために都合の良い環境、すなわち転移ニッチをつくると言われている。しかしながら、早期に転移するがん細胞数は少ないことから、初期段階の転移ニッチの分子機構を解明することは困難であった。本論文では、隣接細胞に取り込まれる細胞膜透過性蛍光タンパク質を開発し、転移したがん細胞に接触している正常細胞を単離することで、転移ニッチの形成を促進する転移性細胞と隣接する正常細胞間の初期段階の相互作用を明らかにしている。
 脂質透過性転写活性化因子(TATk)ペプチドを含む分泌蛍光mCherryをGFPと共に安定発現させた転移性マウス乳がん細胞株をマウス尾静脈投与して肺転移を誘発させた。その結果、肺組織に転移した乳がん細胞、mCherryが取り込まれた隣接細胞および遠位肺細胞の識別が観察された。次に、RNAシーケンス解析によりmCherryが取り込まれた隣接細胞と正常肺細胞を比較したところ、隣接細胞は既知の乳がん関連遺伝子WISP1(WNT1-inducible-signaling pathway protein 1)を含む多くの腫瘍促進遺伝子が発現亢進することで、高い増殖活性を有する可能性が見出された。また、乳がん細胞の周囲には、5つの細胞層が存在し、そのうち活性化した好中球とⅡ型肺胞上皮細胞が観察された。特に、mCherry陽性の肺上皮細胞は幹細胞様の特徴、肺前駆細胞マーカーの発現および自己複製活性を示し、がん関連実質細胞(cancer-associated parenchymal cells、CAPs)の存在が明らかになった。さらに、Ex vivo実験で乳がん細胞と共培養した正常肺上皮細胞は、肺胞細胞ではなく気管支・細気管支に分化した細胞の増加を認め、多細胞系譜への分化能を示すCAPs様の表現型を獲得していた。
 今回のラベリングシステムは、局所の転移細胞を取り巻く環境を可視化することで、初期段階の転移ニッチにおける少数の組織細胞である肺上皮細胞の特定を可能とし、乳がん転移の過程において、肺上皮細胞の脱分化が必要であることを見出した大変興味深いものである。しかしながら、肺上皮細胞が脱分化して乳がん細胞の増殖促進するメカニズムや骨芽細胞の脱分化などの他の組織部位でも同じ転移ニッチの形成が可能であるかなど、追求すべき課題がある。このラベリングシステムがヒトの実臨床を反映しているか不明ではあるが、複雑な微小環境の形成を解決する手段になることが期待でき、今後、転移ニッチを標的とするための効果的な戦略に繋がると思われる。

(135)2019年9月6日 担当:土岐 俊一
Loss of p53 triggers WNT-dependent systemic inflammation to drive breast cancer metastasis.
Nature. 2019 Aug;572(7770);538-542.

<要旨>
多くの上皮性悪性腫瘍において、好中球性全身性炎症は予後不良因子として知られているが、担がん宿主間における好中球性全身性炎症の多様性を規定する分子機構は不明である。
 筆者らは各種乳がんサブタイプを示す16種の遺伝子改変乳がんマウスモデル(genetically engineered mouse model;GEMM)を用いて、末梢血中の好中球およびcKIT発現幼若好中球の増加を認め、個体間にて不均一な全身性炎症を認めるマウスモデルを同定し、この全身性炎症とp53 lossに相関性があることを見出した。
はじめに、p53 statusと好中球の関係性を調べるために、p53を保有しているGEMMのうちWap-cre;Cdh1F/F;AktE17K (WEA)、Wap-cre;Cgh1F/F;Pik3caE545K (WEP)から作製した細胞株に、CRISPR-Cas9によるp53ノックアウトの有無で2群に分け、野生型マウスに移植してxenograftモデルを作製した。移植腫瘍の終末期の解析で、p53欠損群の末梢血、肺組織において、cKIT陽性率の有意な上昇を伴う好中球蓄積が確認された。またin vitroで骨髄由来マクロファージにWEA、WEP培地を曝露する系において、flow cytometryでCD206、CCR6およびRT-qPCRでIl1b発現がp53欠損培地群で有意に上昇を認める免疫系遺伝子の発現変動を認めた。さらに、MCF-7乳がん細胞を用いた実験およびTCGAデータ解析を通じて、乳がんにおいてTP53 wild-type (WT) vs mutant (MT)でのIl1b発現も類似した結果を認めた。
 続いて、12種のGEMM、145乳癌サンプルを用いたRNA seq解析、クラスター解析の結果、p53 lossが全トランスクリプトームに有意な影響を与えていることがわかった。それには、適応免疫系シグナルが多く含まれており、またGene Ontology解析から有意なpositive Z-scoreを示すものとして、WNT/b-cateninシグナル経路が同定された。GEMMのbulk tumorsを用いた解析でmRNAおよびタンパクレベルでのWNT関連分子の発現がp53欠損群で有意に亢進していることを確認した。TGCAでの比較検討でも、TP53 MTではWNT1、6、7Aおよび受容体FZD7、9の有意な高発現を認めた。さらにGEMM腫瘍のChIP sequencing、in vitro過剰発現系実験でp53はmicroRNA-34aを介してWNT経路を制御していることが明らかとなった。
 最後に、膜結合型アシル基転移酵素Porcupineの阻害剤LGK974処理やPorcnノックダウンでのin vitro, in vivo実験でWNTタンパクの機能を抑制すると、p53欠損状態で増加するIl1b発現、末梢血好中球数、肺組織内γδT細胞率、肺転移数(即ち好中球増多・免疫系の変動を伴う全身性炎症状態による易転移状態)が、著明に抑制されることを認めた。
本研究のように遺伝子異常と免疫学的背景との連関を把握することで、今後の個別化免疫療法の開発が期待される。



(134)2019年7月24日 担当:松下 洋輔
Reactivation of PTEN tumor suppressor for cancer treatment through inhibition of a MYC-WWP1 inhibitory pathway
Science 364, eaau0159 (2019)

<要旨>
がんの薬物療法はがん細胞と正常細胞の両方に作用する従来の化学療法から、現在では、がんの増殖・転移関連分子を特異的に阻害する分子標的薬が臨床応用されてきている。しかしながら、その多くは治療を続けていくうちに耐性を獲得することが深刻な問題となっている. 癌抑制遺伝子PTEN (phosphatase and tensin homolog on chromosome 10) はPI3K (phosphoinositide 3-kinase)-AKTシグナルの抑制を介して、細胞増殖を抑制する。PTENは、その両アレルの欠損および P53野生型の場合, 細胞老化が惹起される。一方、 PTENの片アレルの欠損では細胞老化は起きずに発がんが促進される。この現象は、obligate haploinsufficiency(絶対的ハプロ不全)と呼ばれ、創薬標的には困難であると考えられていた。
 本論文では、絶対的ハプロ不全にあるPTENの不活化機構の解明を目的に、PTENタンパク質が2量体を形成し, 細胞膜へ移行して活性化するメカニズムに着目し、新たな治療戦略の可能性についても検討した。はじめに、筆者らは質量分析法を用いて, PTENがE3 ubiquitin ligaseであるWWP1 (WW domain-containing ubiquitin E3 ligase 1) と相互作用し, その機能を抑制されていることを明らかにした. さらにin vivoにおけるWWP1の機能を検証するため, WWP1の活性を促進することが知られているMycに変異を持つマウス前立腺癌モデルを用いて, WWP1を欠損させた場合にどのような変化が生じるか検討した. その結果, WWP1欠損はMyc変異による前立腺癌の細胞増殖を抑制しており, これはPTEN再活性化によるPI3K-Aktシグナルの抑制によるものであった。最後に, WWP1阻害薬の結合部位を同定し, in vivoでの抗腫瘍活性誘導も報告している.
 このように、PTENの不活性化は様々な腫瘍で認められることから、WWP1阻害は多くの癌種に対して有効な治療法となりうる可能性を秘めている.
 しかしながら, 本論文で用いた阻害薬は, NEDD4 (neural precursor cell expressed developmentally down-regulated protein 4) ファミリーに共通するHECT (homologous to E6-AP carboxyl terminus) ドメインに結合していたため, さらなる創薬展開による, WWP1へ特異的に結合する薬剤の開発が必要になってくると考えられる.


(133)2019年7月19日 担当:相原 仁
Epigenetic Control of Mitochondrial Fission Enables Self-Renewal of Stem-like Tumor Cells in Human Prostate Cancer.
Cell Metabolism 30, 1–16 May 20, 2019

<要旨>
アンドロゲン刺激により増殖する前立腺がんの一般的な治療方針は、アンドロゲンの産生や前立腺への取り込みを抑制する内分泌療法と化学療法の併用である。内分泌療法によりアンドロゲンシグナル経路が抑えられているにも関わらず治療抵抗性を獲得した細胞が増殖する去勢抵抗性がんに対する治療の選択は限定的であるため、これを克服する分子標的治療薬の臨床治験も現在進められており、またさらなる開発も臨まれている。治療抵抗性獲得の原因と考えられているのが、がん幹細胞(Cancer Stem Cell: CSC)の存在である。がん微小環境下において少数のCSCは、増殖するがん細胞と性質が異なるため、治療標的から回避して生き残り、ゲノム変異・エピゲノム異常を起こしてがん細胞の不均一性を生じさせると考えられている。したがって、CSC特有の性質および脆弱性を標的にすることは、将来的な治療選択になりうる。
 転写制御因子BRD4阻害剤は、様々な種類のがん細胞に対して有効性が示され、現在臨床治験が進められている。ブロモドメインを有するBRD4は、ヒストンH3の27番目リジンに結合し、アンドロゲンレセプター等の転写活性化因子と複合体を形成して転写を促進する。BRD4阻害剤は、ブロモドメインをターゲットとし、H3との結合阻害、転写複合体形成を阻害する。
 本研究で筆者らは、BRD4阻害剤OTX015の有効性を検討し、CSCの特性であるスフェロイドを形成する培養系(無血清培地に種々の増殖因子を添加)を用いて作製した幹細胞様前立腺がん細胞(Prostate Cancer Stem-like Cell: PCSC)の脆弱性を見出している。まず、アンドロゲン依存性のLNCAP、非依存性のPC3, DU145, 22Rv1の4種の細胞株を用いて作製したPCSCにおいて、OTX015には同程度のXenograft腫瘍形成抑制、スフェロイド形成抑制効果が認められ、アンドロゲンの有無にかかわらず有効であることが示された。次に、通常の血清培地で培養した接着性がん細胞と比較してPCSCの特性を見出すためにRNA-seq解析を行った結果、PCSCでは、代謝、酸化ストレス応答に関する遺伝子発現の上昇が認められた。またOTX015投与によってPCSCのミトコンドリアの形態異常、膜電位の低下、酸素消費速度の低下が認められたが、接着性がん細胞ではこれらの異常は認められなかった。さらに筆者らは、ミトコンドリア動態に関与する遺伝子のうち、OTX015投与後に発現が低下するMFFを見出した。MFFはミトコンドリア分裂の促進因子であるDRP1が外膜に結合するためのレセプターとして機能する。OTX015投与によってMFF遺伝子の発現が低下すること、BRD4がMFF遺伝子のプロモーターに結合することから、MFFはBRD4標的遺伝子であることが判明した。OTX015によるミトコンドリア機能異常は、MFFのectopicな発現によって機能回復することも示された。
 以上の報告から、PCSCの細胞増殖はミトコンドリアの機能、動態制御に強く依存していることが示唆された。これを標的にしてPCSCの脆弱性を突く治療が、再発・再燃に対する将来的な治療選択となりうる。実験的に作製されたPCSCが微小環境に存在すると想定される前立腺がん幹細胞と同じ性質のものか検討することが今後の課題である。



(132)2019年7月11日 担当:片桐 豊雅
Loss of the FAT1 Tumor Suppressor Promotes Resistance to CDK4/6 Inhibitors via the HippoPathway. Cancer Cell. 2018 Dec 10;34(6):893-905.e8.

<要旨>
サイクリン依存性キナーゼ4および6阻害剤(CDK4/6i: CDK4/6阻害剤)がホルモン受容体(HR)陽性かつHER2陰性の進行性、再発乳がんに対する臨床試験にて高い有効性を認めることが報告されている。本論文では、その獲得耐性の分子機序についてはじめて明らかにしている。
 著者らは、はじめにCDK4/6iの投薬をうけた349名のHR陽性HER2陰性の乳がん患者における468個のがん関連遺伝子のゲノムシーケンス解析を通じて、RB1およびFAT1 (protocadherin Fat1)遺伝子の機能喪失変異を認める症例が有意に予後不良であることを見いだした。FAT1のノックアウト(FAT1-KO)もしくはノックダウン(FAT1-KD)したER陽性乳がん細胞では、CDK4/6の基質であるRBタンパク質のリン酸化の亢進およびCDK4/6iの増殖抑制効果の低下を認めた。続いて、筆者らは、細胞増殖、幹細胞の自己複製制御、細胞サイズの調節に関わるHippo経路に着目した。Hippo経路の機能不全は、様々ながんの発がんに関わることが報告されている。FAT1-KOおよびFAT1-KD細胞では、CDK4/6i存在下にてYAP-TAZ転写因子の核内移行および転写因子TEDDを介したYAP-TAZ-TEDD転写複合体によるCDK6遺伝子の転写活性化が明らかとなった。さらに、ER陽性乳がんにおいて、頻度は低いが、Hippo経路関連因子群(LATS1, LATS2, YAP1,CDK6)においても予後不良となる異常(タンパク短縮変異,欠失、増幅)がFAT1遺伝子異常とは排他的に認められることも明らかとなった。
 以上のことから、HR陽性HER2陰性乳がんにおいて、FAT1-Hippo経路のがん抑制機能の喪失がYAP/TAZの核内転写活性化を導くこと、その結果CDK6遺伝子発現亢進によるRBタンパク質のリン酸化(不活化)を通じたCDK4/6iの耐性獲得の分子機構が明らかとなった。現在、日本乳癌学会乳癌診療ガイドラインにて、HR陽性、HER2陰性の転移、再発乳がんに対する一次内分泌療法として、CDK4/6iはアロマターゼ阻害剤やフルベストラントとの併用が強く推奨されていることからも、今後は、この経路の異常を見定めた個別化医療が必要となると考えられる。


(131)2019年7月4日 担当:吉丸 哲郎
Glucocorticoids promote breast cancer metastasis
Nature, 567, 540, 2019

<要旨>
原発腫瘍内およびそれらのそれぞれの転移内、およびその間の腫瘍内不均一性は、乳がんの進行につれて増大し、依然として多くのがんの正確な診断および治療に対する重大な障壁になっている。しかしながら、こうした機序の根本過程はほとんど明らかにされておらず、原発腫瘍と遠隔転移巣との間の不均一性のプロセスを究明する必要がある。本論文では、乳がんの転移腫瘍において、ストレスホルモンであるコルチゾールの上昇が、グルココルチコイド受容体(GR)の活性化を引き起し、転移腫瘍細胞の定着や生存期間の短縮に寄与していることを明らかにしている。
 筆者らは、乳がん細胞株(CDX)および患者由来の乳がんの異種移植片(PDX)マウスモデルを用いて、原発腫瘍の形成能および肺、肝臓、脾臓、卵巣ならびに血液の各臓器における転移形成能を確認した。さらに、形成された原発腫瘍と転移腫瘍において活性化した各遺伝子プロファイルの解析を通じて、転移関連シグナルを同定し、そのメカニズムについて調べた。その結果、原発腫瘍と各転移腫瘍が、遺伝子の発現パターンにしたがって分類(クラスター化)されることを明らかにし、さらに、そのパスウェイ解析から、原発腫瘍に比して転移腫瘍においてGR活性の亢進を認めた。また、転移腫瘍を形成したマウスにおける血漿中のストレスホルモン(コルチゾール、コルチコステロン、副腎皮質刺激ホルモン)の濃度を測定した結果、対照(未処理)群や無転移群に比較して有意に高く、これによって、GRの活性化が誘導されていることが示唆された。続いて、GRの活性化が認められる細胞のプロテオーム解析を行ったところ、ROR1(receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 1)を含むGR活性化関連キナーゼの亢進が認められた。さらに、ステロイド系抗炎症薬のデキサメタゾンによりGRを活性化させた乳がん細胞株のマウスへの尾静脈投与は、転移形成能を増強し、そしてマウスの生存率を有意に減少させた。同様な手法で、ROR1の発現抑制細胞の尾静脈投与は腫瘍の転移を有意に減少させ、生存期間の延長を認めた。また、GRの活性化はROR1のリガンドであるWNT5A増加も示しており、乳がんにおけるGR活性の増加がWNT5AとROR1のシグナル活性をもたらし、それが転移を促進していることを示唆していた。
 本研究によりストレスホルモンが乳がんの進行・転移を促進することが明らかになったが、GRは化学療法の副作用対策として併用される抗炎症薬デキソメタゾンなどの合成グルココルチコイドと相互作用することも示しており、乳がん患者へのステロイドの投与は治療誘導性疾患の進行を予防するために注意を払うべきことを示唆している。今後、GRに依存した腫瘍の不均一性の生じるメカニズム、遺伝的背景や他の遺伝子がGR活性化を誘導している可能性、およびヒト臨床検体においてGR活性化分子の発現亢進の検証が必要であるが、本論文で得られた知見をヒトに応用することができれば、乳がん患者の治療選択に大きなインパクトを提供できると思われる。

(130)2019年6月26日 担当:土岐 俊一
Mitohormesis primes tumor invasion and metastasis.
Cell Reports. 2019 May 21;27(8);2292-2303.

<要旨>
近年、穏やかなミトコンドリア障害は、ミトコンドリアを保護して細胞の生存に寄与することがわかってきており、この現象はミトホルミシスと呼ばれている。一方、がん細胞の増殖、進展におけるミトホルミシスによる細胞保護機構の持続的活性化メカニズムは不明である。
 筆者らはまず、ドキシサイクリン(DOX)にて発現誘導するコンディショナルHER2/Neuトランスジェニックマウスにて形成した原発性乳がんの細胞群の中に、ミトコンドリア活性酸素種(Reactive oxygen species; ROS)のレベルに依存した2つの細胞群が存在することを発見した。高ROSレベルに反応する細胞は高い浸潤能を示すこと、ミトコンドリアストレス応答(Unfolded protein reaction of mitochondria; UPRmt)関連遺伝子群を発現亢進することや、in vivo転移巣形成能の有意に促進させることを見いだした。興味深いことに、高ROS反応性細胞群をex vivo培養により一旦増殖させると、低ROS反応性群細胞よりもROSレベルの減少が認められることがわかった。このオリジナルの元来高いROSを認める細胞群では、SIRT3経路を含むUPRmt関連分子が高発現し、ミトコンドリアROSおよびミトコンドリアストレスを誘導剤メナディオン(menadione)処理において、有意な細胞生存率亢進を示した。また、マウス乳癌モデルにおける原発巣と肺転移巣にて免疫組織学的に解析し、UPRmt関連タンパクの原発巣におけるheterogeneity発現、転移巣における陽性細胞群の増加、およびこれらの細胞内共局在を明らかにした。さらに、乳癌細胞株(MCF-7、MDA-MB-231)においても、ROSレベルの差による浸潤能、UPRmt関連分子群発現量の相違を認める一方、siRNAを用いたSIRT3のknockdownでは、in vitro浸潤能、in vivo転移能(肺転移数、大きさ)の著明な低下を認めた。
 最後に、公共データベースを利用した解析において、SIRT3/FOXO3a/SOD2経路を中心とするUPRmt関連遺伝子の発現がER(Estrogen receptor)発現との関連が認め、UPRmt関連遺伝子の高発現を認める症例では臨床的予後(全生存、無再発生存、無遠隔転移生存、無リンパ節転移生存)が有意に不良であることを見出した。また、GSEA解析を通じて、ミトコンドリアストレス関連転写因子であるPPARシグナル経路関連遺伝子やミトホルメシスに関係のあることが報告されている自然免疫関連遺伝子群の発現亢進や、さらに、転移・悪性化を示唆する遺伝子群とも関連が明らかとなった。
 ミトコンドリアと核とのシグナル伝達やROS制御と浸潤・転移能との直接的機序等が未解明ではあるが、本研究により、乳癌ではミトホルミシスを利用して高転移能を示す細胞部分集団の存在が示された。

(129)2019年5月30日 担当:松下 洋輔
IRE1α-XBP1s pathway promotes prostate cancer by activating c-MYC signaling. Nature Communications 10, 323 (2019)

<要旨>
小胞体 (ER: Endoplasmic Reticulum) はタンパク質の品質管理機構として, 生体の恒常性維持に重要な役割を果たしている. 栄養飢餓や低酸素といった細胞内外からの負荷がかかると, 不完全なタンパク質が蓄積するERストレス状態になる. 細胞はこのERストレス状態を解決すべく, UPR (Unfolded protein response) と呼ばれる応答システムを活性化させることで, 恒常性維持, もしくはアポトーシス誘導にて、その影響を最小限にとどめている. がん細胞では、その高い増殖能を維持するために, 恒常的にUPRを活性化させることで, 限られた酸素や栄養状態に適応していることが数多く報告されているが, その詳細なメカニズムは未だ証明されておらず, UPRシグナルを標的とした治療法開発も進んでいないのが現状である.
 前立腺がんではUPRシグナルセンサータンパク質の一つであるIRE1のシグナルがアンドロゲン刺激により活性化していることが報告されている.本論文では, IRE1のRNase活性ドメインに結合し, その活性を抑制するMKC8866を用いて, 前立腺がんとIRE1シグナルの関連性を検討した. 前立腺癌細胞にThapsigargin処理にてERストレスを惹起すると, スプライシングされたXBP1 (XBP1s) の発現亢進が認められるが, MKC8866は濃度依存的にその発現を抑制するとともに, XBP1sの標的遺伝子の発現も抑制し、有意に細胞増殖を抑制した。この効果はXBP1sの過剰発現で減弱することから, その特異性も確認している. また, XenograftモデルにおいてMKC8866は有意に腫瘍抑制効果を認め、内分泌治療薬やタキサン系薬剤との相乗効果も確認された. 次に, MKC8866によるIRE1aのRNase活性抑制とXBP1sの発現低下による遺伝子発現変動を検討した. その結果, 両群に共通してc-MYC遺伝子関連シグナルが有意に変動していることを突き止めた. さらに11個の前立腺癌遺伝子発現データセットを用いた解析から, 9データセットにおいて, XBP1sシグナルとc-MYCシグナルに有意な相関を認めた. 公共データベースを通じて、 XBP1遺伝子シグネチャーの高発現が予後不良となることも見出している.
 以上のことから, IRE1a/XBP1sシグナルによるc-MYCの活性化が前立腺癌で重要であり, 創薬標的としても有用であることが示唆されたが, UPRの発癌に対する関与や化合物の最適化による投与量の減弱など, さらなる研究に期待したい.


(128)2019年5月16日 担当:相原 仁
Gboxin is an oxidative phosphorylation inhibitor that targets glioblastoma.
Nature 567, 341–346 March 21, 2019

<要旨>
原発性脳腫瘍の中でも高頻度のグリオーマ(神経膠腫)は未だ根治が困難な疾患である。その中でも、最も悪性度の高いグリオブラストーマ(神経膠芽腫GBM)は、外科手術、放射線療法、DNAアルキル化剤テモゾロミドを用いた化学療法を組み合わせた集学的治療のみで、その生存期間はわずか2-3年と極めて予後不良であり、分子標的治療薬など有効な治療方法の確立が切望されている。
 筆者らは、GBMの発生起源である星状細胞(アストロサイト)特異的に3つのがん抑制遺伝子Tp53, Pten, Nf1の変異を有するGBM発症モデルマウス由来のGBM細胞を用いた20万の化合物ライブラリーのスクリーニングを行い、GBM細胞を特異的に増殖抑制し、正常アストロサイトおよびマウス線維芽細胞MEFの増殖には影響しない低分子化合物Gboxinを同定した。Gboxinは、GBM細胞の酸素消費を不可逆的かつ数十分で抑制することがわかった。その抑制メカニズム解明のために、Gboxinの標的を探索した結果、58種のミトコンドリアタンパク質が同定され、そのうち12種はミトコンドリア内膜の酸化的リン酸化(OXPHOS)複合体の構成因子であり、Gboxinはプロトン濃度勾配依存的にOXPHOS複合体に結合することが判明した。一方、Gboxinに対して抵抗性を示すアストロサイトやMEFにおいて、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の阻害剤シクロスポリンAを投与するとGboxinに対して感受性となることから、正常に機能するmPTPがpHを制御し、ミトコンドリア内へのGboxinの蓄積を妨げることが推測された。また、Gboxinの感受性には、正常細胞と比較して、GBMの膜電位が非常に高いことも必須であることが示唆された。さらに、Gboxinは、GBMだけでなく、他のヒトがん細胞株の増殖も抑制することも明らかとなった。筆者らは、より高い代謝安定性を示すGboxinの改変体を開発し、それによりGBMの同種移植腫瘍および患者由来異種移植腫瘍を抑制することが認められた。
 以上の報告は、ミトコンドリアの高いプロトン濃度勾配を有する癌細胞の特性を標的とした新たな創薬であり、正常細胞には作用せず癌細胞に特異的に作用する汎用性の高い抗がん剤開発のアイデアである。Oncogene addiction(癌細胞の増殖が特定のシグナル伝達経路に依存する)を理論基盤とした分子標的治療薬開発の現状に対して一石を投じ、新奇的かつ斬新的である一方、Gboxinの標的が多岐にわたり、その特異性を詳細に明らかにすることが必要である。また、ミトコンドリアに焦点を絞った解析であるため、他の細胞内オルガネラへの作用、影響の可能性が今後の課題であると考えられる。

(127)2019426日 担当:片桐 豊雅
Dual inhibition of MDMX and MDM2 as a therapeutic strategy in leukemia.
Sci Transl Med. 2018 Apr 11;10(436).

<要旨>
p53はヒトがんの約半数以上において変異の認められる代表的ながん抑制遺伝子である。その一方、変異の認められない正常型(WT)p53は、多くの癌腫において高発現を認めるE3ユビキチンリガーゼMDM2およびp53転写活性抑制因子であり、MDM2活性亢進にも働くMDMX (MDM4)によって不活化されている。本論文では、WT-p53を有するがんを対象に、p53-MDM2およびp53-MDMX (MDM4)の両相互作用阻害によるp53のがん抑制機能を利用した治療戦略について報告している。これまでにWT-p53とMDM2の相互作用低分子阻害剤の開発は進められていたが、MDMXへの低親和性や生物学的利用能(bioavailability)の低さによって開発が制限されていた。
 筆者らは、これらの問題を克服するために、p53-MDM2および-MDMXの両相互作用を標的としたp53-peptide(ALRN-3618)を開発してきた。筆者らは、さらに、staple化(分子内架橋化)を行って最適化したALRN-6924を開発し、本論文では、その作用機序の分子メカニズムから抗腫瘍効果および顕著な効果を上げている第一相臨床試験について詳細に報告している。
 ALRN-6924は、MDM2, MDMXタンパク質への親和性の向上(Kd値:ALRN-3618= 33.6nM (MDM2)、83nM(MDMX) vs ALRN-6924=10.9nM (MDM2)、57nM(MDMX))、特に、内在性p53へ比しても顕著な親和性を示した(p53=480nM (MDM2)、770nM (MDMX))。さらに、p53-MDM2相互作用低分子化合物RG7388のMDM2への結合後の半減期が2-3分間であるのに対して、ALRN-6924は85分間であった。また、ALRN-6924は、白血病細胞の核内、細胞質内に迅速に移行し、p53-MDM2および-MDMXの両相互作用を完全に阻害することで、その結果、p53の転写活性を亢進させて、アポトーシスや細胞周期停止関連したp53標的遺伝子の転写活性を促進し、急性骨髄性白血病(AML)細胞における抗腫瘍効果をin vitroおよびin vivoにて導いた。特に、ALRN-6924はAMLのXenograftマウスモデルへの投与にて(20mg/kgの週3回)平均151日(vehicle:34日)、40%以上のマウスにて300日を超える顕著な生存期間の改善を認めた。
 特筆すべきは、AML患者の第一相試験にて、芽球の消失を認め、有害事象としては、最初の投与後にグレード3の好中球減少症の出現やグレード2以下の血小板減少が認められた以外は大きな副作用は認められなかったことと述べている。
 以上のことから、MDM2, MDMXとp53の両相互作用阻害による正常型p53タンパク質の回復を利用したALRN-6924は、今後p53-WTを有する多くのがん患者への臨床応用が大いに期待される。

(126)2019年2月15日 担当:松下 洋輔
Tinagl1 Suppresses Triple-Negative Breast Cancer Progression and Metastasis by Simultaneously Inhibiting Integrin/FAK and EGFR Signaling
Cancer Cell 35, 64-80 (2019)

<要旨>
トリプルネガティブ乳がん (TNBC) は他のサブタイプと比較し悪性度が高く, 臨床の現場で用いられている治療薬の標的であるホルモン受容体 (ER, PgR)・HER2の発現が陰性であるため, 治療に難渋するケースが多い. また, 近年開発されてきた分子標的薬に対しても, しばしば抵抗性や耐性の獲得を示すことから, TNBCの特性に基づいた新規治療薬の開発が望まれている. 筆者らはこれまでに, 細胞外マトリックスの構成因子で, 分泌タンパク質であるTinagl1 (Tubulointerstitial nephritis antigen-like 1) は, 乳がん細胞における発現抑制にて, 肺転移を亢進することを見いだしていた. 本論文では, Tinagl1の乳がんにおける機能、特にTNBCにおける治療標的の可能性について検討している。
はじめに、Tinagl1発現がTNBCの無病生存期間や無遠隔転移生存期間と相関していることを示した. さらに, Tinagl1の高発現細胞株移植xenograft mouse modelを用いた解析にて, 腫瘍増殖抑制を認めることや, Tinagl1リコンビナントタンパクの投与が細胞周期停止作用を示し, 肺転移の抑制を認めた. 次に, Tinagl1の細胞増殖や肺転移抑制効果の分子機構を明らかにするため, プロテオーム解析に基づいたパスウェイ解析を通じて, EGFRとIntegirin subunit b1を結合分子として同定した. Tinagl1リコンビナントタンパク投与は, EGFRやfibronectin (FN) によるintegrin/FAKシグナルの活性化を抑制したのに対し, Tinagl1の発現抑制は, 各リガンドによる活性化を増強させた. さらなる詳細な解析から, Tinagl1はEGFRの二量体化の抑制およびIntegrin b1へのFNの結合阻害を介して, 両シグナルを遮断し, TNBCの増殖阻害や肺への転移を抑制していることを明らかにした. 最後にTNBC由来の患者サンプルでは, Tinagl1の発現とEGFR・FAKのリン酸化に負の相関が認められ, これらは無病生存期間や無遠隔転移生存期間との関連も証明している.
以上のことから, Tinagl1はTNBCにおける治療標的および予後マーカーとして有望であることが示唆された。今後は Tinagl1の発現亢進の分子機構の解明など, さらなる研究が望まれる.

(125)2019年2月8日 担当:土岐 俊一
ONECUT2 is a targetable master regulator of lethal prostate cancer that suppresses the androgen axis.
Nat Med. 2018 Dec;24(12);1887-1898.

<要旨>
ほとんどの前立腺がんはアンドロゲン依存性であり、その治療は内分泌療法が主となるが、長期投与による抵抗性獲得し再燃した去勢抵抗性前立腺がん(castration-resistant prostate cancer; CRPC)は予後不良であり、その抵抗性獲得のメカニズムの解明から新たな治療法の確立が望まれている。近年、これらの一群にて、アンドロゲン受容体(androgen receptor; AR)経路を代替する転写系経路の出現が明らかとなってきている。
 著者らは、はじめに公共データベースを用いたGSEA解析を通じて、転移性CRPC (mCRPC)において発現が亢進し、統計学的に有意なenrichment scoreを有する31の転写因子群を選出した。さらに、STRING databaseからタンパク相互作用を基に、これらの転写因子の初版ネットワークモデルを作成し、各相互作用の強度・発現量の一致性の観点から、ONECUT2(OC2)が重要な制御因子であると推測した。実際にTissue microarrayや細胞株を用いたimmunoblotにおいて高悪性度癌でOC2の高発現を確認した。
 続いて、OC2とARの関連性を、患者由来組織を用いた免疫蛍光法、免疫染色法でクラスター解析および相関解析を検討した結果、high OC2/low ARもしくはlow OC2/high ARに二分され、両者の発現は逆相関の関係にあった。OC2を過剰発現させた細胞株では、AR、FOXA1(AR転写のpioneer factor)およびAR標的遺伝子群の発現が抑制された。さらにOC2およびARによって結合する配列の比較をChIP-seqにて比較したところ、OC2とARとの共通結合プロモーター領域を持つ多くの標的遺伝子が抑制されていることがわかった。さらにOC2はAR 遺伝子のプロモーターおよびイントロンにも結合しており、直接的に抑制していることが示された。
既報にて、OC2発現は腺癌CRPCより神経内分泌(neuroendocrine; NE)CRPCに多いことが知られており、今回著者らはBroad InstituteのCancer Cell Line Encyclopediaデータベース解析にて、OC2発現とNE細胞の形質との間に正相関を見出した。また、神経分化の主要抑制因子であるRE1 silencing transcription factor; RESTタンパクはNE-CRPCでは欠失していることが知られていることから、著者らはChIP-qPCRにてRESTとONECUT2 の関係を調べたところ、RESTのONECUT2 プロモーター配列の結合が明らかとなり、OC2RESTの発現は逆相関していることが示唆された。さらに、近年NE前立腺がん分化転換のdriver遺伝子として同定されたPEG10のプロモーター領域にOC2結合部位を有することから、OC2の直接的なPEG10転写の活性化因子であることもわかった。以上より、OC2はNE前立腺がんへの分化転換を賦活化し、致死的な病態増悪を引き起こすことが示唆された
最後に、OC2標的阻害剤の開発の観点から、OC2-HOXドメイン3D構造を基盤にして構築された500,000からなる小分子化合物ライブラリーを通じて、OC2阻害剤(CSRM617)を同定し、マウス転移モデルを用いたin vivo腫瘍増殖抑制および消失効果を認めている。将来的には、進行性CRPCにおける新たなOC2治療標的薬の開発が期待される。


(124)2019年2月1日 担当:相原 仁
Reactivation of Dihydroorotate Dehydrogenase-Driven Pyrimidine Biosynthesis Restores Tumor Growth of Respiration-Deficient Cancer Cells.
Cell Metabolism 29, 1–18 March 5, 2019

<要旨>
ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化(呼吸鎖複合体 Complex Ⅰ-Ⅳ: CI-Ⅳ による電子伝達系が作り出すプロトン濃度勾配とそれを利用したATP合成酵素 Complex V: CV によるATP産生)は、癌細胞の増殖、腫瘍形成に必須である。先行研究において筆者らは、マウスの4T1乳癌細胞およびB16メラノーマ細胞を用いて作製したミトコンドリアDNA (mtDNA) 欠失細胞(ρ細胞)を同系移植した結果、親細胞と比較して、腫瘍形成が極めて遅く3週間のタイムラグがあること(Tan et al. 2015 Cell Metabolism)、さらに、この増殖休止期間中に、ρ細胞はホストの間質細胞からmtDNAを獲得することで、酸化的リン酸化システムを再構成し、細胞増殖を活性化することを見いだした。しかしながら、酸化的リン酸化に関与するどの構成因子が必須であるかは不明であった。
 ρ細胞の増殖は、ウリジン栄養要求性であり (King et al. 1988 Cell)、この一因として、ジヒドロオロト酸脱水素酵素(Dihydroorotate Dehydrogenase: DHODH)の機能不全が報告されている (He et al. 2014 Oncogene)。DHODHは、ミトコンドリアの外膜と内膜の膜間において、De novoピリミジン合成経路過程のジヒドロオロト酸からオロト酸への触媒反応を担うことから、筆者らは、ρ細胞のmtDNA獲得過程におけるDHODHの機能解析を行った。ρ細胞の増殖休止期は、①S期で停止して、ウリジン一リン酸 (UMP) の合成低下が認められ、それに一致して②ジヒドロオロト酸からオロト酸への触媒反応が低下していた。DHODHノックアウト細胞でも①②の現象が見られ、腫瘍形成能の著しい低下を認めた。細胞移植から腫瘍形成の一連の過程で一貫してDHODHの発現レベルは一定であるため、増殖休止期ではDHODHが活性化されていないことが示唆される。DHODHは、コエンザイムQ(CoQ)へ電子を伝達するが、ρ細胞ではCI, CⅢ, CⅣが形成されず、CoQからCⅢへ電子が伝達されないことが原因となってDHODHが活性化されないことが想定される。そこで筆者らは、糸状菌のAlternative Oxidase(AOX)がCⅢの代わりにCoQから電子を伝達しうること(Perales-Clemente et al. 2008 PNAS)に注目し、ρ細胞にAOX発現させた結果、DHODHが活性化され、UMP合成も回復することを見出し、腫瘍形成も促進することを明らかにした。また意外なことに、ATP合成酵素のサブユニットであるATP5BをノックアウトしてミトコンドリアによるATP産生を阻害しても腫瘍形成能が低下しないことを明らかにした。
 以上の結果から、癌細胞増殖における酸化的リン酸化の必須要素は、DHODHの活性化におけるCoQのレドックスサイクルであることを示唆する。トリプルネガティブ乳癌では化学療法によってDe novoピリミジン合成が活性化されるため、これを抑制することが有効な治療戦略であると考えられることから(Brown et al 2017 Cancer Discov.)、DHODHを標的とすることも妥当と考えられる。また現在、CIやTCA回路のαケトグルタル酸脱水素酵素といったミトコンドリア機能を標的とした阻害剤が臨床試験段階にあるが(Molina et al. 2018 Nature Medicine, Alistar et al. 2017 Lancet Oncol.)、DHODH阻害剤との併用も選択肢である。今回の実験系では、腫瘍形成におけるミトコンドリアによるATP産生の必要性は否定されたが、どのシグナル経路にAddictしているか、癌細胞のタイプに応じた差異について、さらなる解析が必要であると考えられる。


(123)2019年1月11日 担当:片桐 豊雅
Acquired HER2 mutations in ER+ metastatic breast cancer confer resistance to estrogen receptor–directed therapies. Nat. Genet. 2018 Dec 10. doi: 10.1038/s41588-018-0287-5.

<要旨>
全乳がんの約70%を占めるエストロゲン受容体(ERα)陽性乳がんの治療は、ERαシグナルをターゲットとした内分泌療法が主となる。そのうち約25-30%の症例にて獲得耐性となり、その原因の1つとして、アロマターゼ阻害剤によるERα遺伝子(ESR1)の体細胞変異が報告されているが、分子機構は未だ不明な点も多い。本論文では、HER2遺伝子変異が内分泌療法獲得性の原因であることを報告している。
 はじめに、筆者らは168症例のER陽性転移乳がんの転移腫瘍生検における全エクソームシーケンス解析を行った。その結果、12症例においてHER2(ERBB2)遺伝子変異を同定し、そのうち8例の転移腫瘍にてHER2変異を認め、さらに4例にて、原発巣では正常型であったが転移腫瘍では変異を認め、これらの症例ではER標的治療法にて選択圧がかかることで変異を獲得したことが示唆された。続いて、これら8症例においてHER2以外の遺伝子変異についてさらに593個のがん関連遺伝子パネルの全エクソームシーケンス解析を行ったところ、HER2遺伝子変異はESR1遺伝子変異と相互排他性があること、全ての症例においてPgR(プロゲステロン受容体)が転移腫瘍において陰性となっていることがわかった。
 培養細胞を用いたIn vitroでの解析にて、各HER2獲得耐性変異を遺伝子導入したER陽性乳がん細胞では、有意な細胞増殖促進効果を認め、一方、抗E2阻害剤タモキシフェン、ER分解促進剤フルベストラントやGDC-0810に対して有意な抵抗性を認めた。さらに、エストロゲン枯渇または阻害した条件下にて、これらHER2獲得耐性変異導入はAKT, ERKのリン酸化を亢進させる一方、ESR1およびER標的遺伝子群(PGR1, GREB1)の転写発現抑制を認めた。さらにパスウェイ解析を通じて、RAS/MAPKシグナルの亢進を認めることも明らかとなった。以上の結果から、HER2獲得耐性変異が惹起された転移腫瘍を有する乳がんでは、フルベストラント、CDK4/6阻害剤であるPalbociclibの投与およ併用では効果を認めなかったが、一方、pan-HER2キナーゼ阻害剤として開発されたneratinib投与にて顕著なRAS/MAPKシグナル、ER標的遺伝子発現抑制阻害を通じた抑制効果を認めた。
 以上の結果から、頻度は非常に低いがER標的としたホルモン療法における獲得耐性を促進するHER2獲得耐性変異症例では、neratinib投与によって効率的な制御可能となることが示唆された。今後はこのような耐性獲得変異を同定することで、個別化医療への道を導くことができることが示唆された。

2018


(122)2018年12月28日 担当:吉丸 哲郎
The Proto-oncogene c-Kit Inhibits Tumor Growth by Behaving as a Dependence Receptor. Mol Cell, 72, 413, 2018

<要旨>
受容体型チロシンキナーゼc-kitは、様々な種類の腫瘍にて機能獲得型の遺伝子変異や増幅により腫瘍形成を促進するがん原遺伝子である。一方、神経芽細胞腫では、遺伝子変異を認めないc-kit陽性症例が有意に予後良好であることが報告され、これらの相反する分子機構は不明であった。これまでに、リガンド存在下では増殖促進因子として機能する一方、リガンド非存在下ではアポトーシス促進に働く依存性受容体(dependence receptors)が数多く同定されてきており、それらが腫瘍抑制因子として機能する可能性が示唆されてきた。本論文では、c-kitの依存性受容体としての機能に着目し、リガンド非存在下におけるc-kitの腫瘍抑制機能を明らかにしている。
 はじめに、Tet-onシステムによるc-kit発現誘導細胞株を樹立し、c-kitの腫瘍抑制機能を評価した。その結果、発現誘導されたc-kitはカスパーゼ様プロテアーゼによって細胞内ドメインのAsp816上にて切断されて、その後カスパーゼ9がリクルートすることでアポトーシスを惹起することが明らかになった。さらに、c-kitのキナーゼ活性の不活化変異体(D792N、kinase-dead)の導入はアポトーシス促進を認め、c-kitのキナーゼ活性による増殖促進作用がc-kitの抑制機能を遮断していることが示唆された。また、c-kitのリガンドであるSCF(stem cell factor)の添加がc-kitによるアポトーシス誘導を阻害したことからも、c-kitの依存性受容体としての機能が示唆された。一般に、c-kit発現細胞はSCFを自己分泌してc-kitと相互作用することで細胞増殖を活性化しているが、siRNA法によるSCFの発現抑制からの自己分泌の抑制にて、c-kit発現細胞は顕著にアポトーシスを誘導した。すなわち、SCFとc-kitの相互作用阻害が、その発がんに関わるキナーゼ活性を抑制すると同時に、c-kitの依存性受容体としての機能を活性化するという治療戦略になり得ることが考えられた。実際に、c-kitの細胞外ドメインを分泌する安定発現結腸がん細胞株を樹立してマウスに移植したところ、c-kitの細胞外ドメインの発現誘導は拮抗的にSCFとc-kitとの相互作用を阻害して腫瘍増殖を抑制することが認められた。
 これらの知見は、c-kitが発がん性キナーゼ活性を有する一方、依存性受容体としての腫瘍抑制機能も有することを示唆するものである。しかしながら、本論文のほとんどの実験系がc-kitの過剰発現細胞株を用いたものであり、臨床的な背景を考慮していないことを留意すべきである。今後、c-kitの変異や発現量とキナーゼ活性との関係およびがん発症リスクとの関連性を明らかにし、どのくらいのSCFが自己分泌されるのか、などの詳細な追求が必要とされるが、SCF-c-kitの相互作用が分子標的治療につながることで、従来のキナーゼ阻害剤との併用による相乗的な抑制効果が期待される。


(121)2018年12月7日 担当:松下 洋輔
Defining the human C2H2 zinc finger degrome targeted by thalidomide analogs through CRBN. Science 362, eaat0572 (2018)

<要旨>
 サリドマイドは 1950年代末から60年の初めに鎮静催眠剤として発売され, つわり止めに使用されたことからの妊娠初期の内服による胎児の四肢形成異常の原因となることが「サリドマイド薬害」として社会問題となった. しかしながら, 発売中止後, ハンセン病や多発性骨髄腫に対する効果が見出され, 現在では厳格な管理の元, 「抗がん剤」として再評価され、実臨床の現場で再び使用されている. 近年、その薬効の分子機構が解明されてきており、サリドマイドやその誘導体はセレブロン (CRBN) というE3リガーゼに結合し, リンパ球の発生・維持に重要なC2H2ジンクフィンガー (ZNF) タンパク質であるイカロスやアイオロスを分解させることが報告された. ZNFタンパク質ファミリーはヒトの1600種類を超える転写因子の中でも700以上を占める, 最も多様性に富む蛋白質群である. 本論文は, サリドマイド誘導体が, イカロスなど基質となるZNFタンパク質に結合する仕組みを構造学的に解明することで, 分解を誘導するZNFタンパク質群を増加させる, もしくは誘導体により分解するZNFタンパク質の選択性を見出すことを目的としている.
 一次スクリーニングとその検証実験から, サリドマイドとその誘導体であるレナリドマイド, ポマリドマイド全てで分解される6種類のZNFタンパク質を同定し, これらがCRBN依存的であることも確認している. 次にアイオロスのsaturation mutagenesisスクリーニングやポマリドマイドとイカロスなどとの3次元的構造解析により, 分解や結合に重要なアミノ酸残基の同定や, サリドマイド誘導体のフタルイミド基の4位のアミノ基がZNF-ポマリドマイド-CRBN結合に重要であることを見出した. この同定したZNFタンパク質のアミノ酸配列をデータベースからリスト化し, サリドマイドの合成展開化合物によるそれぞれの分解について調べたところ, 化合物により分解されるZNFタンパク質が異なることが明らかとなった.
 この論文では、各化合物による特異的なZNFタンパク質の分解機構の解明までは明らかにされていないが, CFRBNと結合するサリドマイド誘導体に他のタンパク質を認識する化合物を結合させて, 選択的に分解・除去するPROTAC (Proteolysis Targeting Chimera) という技術も開発され, BCR-ABL融合タンパク質やBETタンパク質の分解を通じた創薬開発が進められている. そのため, これまでundruggableと考えられていた転写因子を標的としたがん創薬が急速に進むことが期待される

(120)2018年11月9日 担当:土岐俊一
A reliable murine model of bone metastasis by injecting cancer cells through caudal arteries. Nat Commun. 2018 Jul 30;9(1);2981.

<要旨>
骨は乳癌、肺癌、前立腺癌、腎癌などいくつかの悪性腫瘍において頻度の高い転移部位(臓器)であり、骨関連事象が臨床的に問題となるが、現在骨転移を防ぐ有用な治療は存在しない。現在、骨転移の治療法開発のために、マウスを用いた骨転移モデルが利用されているが、従来のモデルは心室内(IC: intracardiac)注射によるものがgolden standardとなっている。しかし、次のような制限があり、実験が妨げられている。①高度な手技を要するため即座に実験を実行し難い。②一度に移植(注入)できる細胞数が限られるため、骨へ到達する細胞数が限られる。故に、研究が高転移能細胞株に限られる。③骨以外の臓器へ転移し致死的となり得る。
 本論文では、上述の問題点を克服した尾動脈(CA: intra-caudal arterial)注射による新たな骨転移モデル樹立について述べられている。著者らは、はじめに尾の腹側に走行する体表から透見可能な尾動脈に逆行性に注射を行う方法を開発し、これにより総腸骨動脈経由で下半身優位(後肢骨、精巣)に投与細胞が分布することを示した。続いて、マウス肺癌細胞株LCC(変異株)を用い、CA注射とIC注射後、生体発光イメージングにより骨転移への進展を可視化して数週間の観察による検証を行った。その結果、ICよりもCAの方がより多くの大きい骨転移(後肢骨)形成を認め、また経時的な増殖様式は両群間で類似しており、投与経路の違い(逆行性など)による悪影響は認められなかった。さらに、CA注射群は投与32日以降も全固体観察可能であったのに対し、IC注射群は全てのマウスが32日以前に死亡した。また、CA経路により、一度に多くの癌細胞を注射することで、大腿骨骨髄への腫瘍細胞分布の増加を顕微鏡的蛍光イメージングを用いて観察することに成功した。これは即ち、2週後のより大きな骨転移巣への進展に結びつくことを意味するものである。最終的に、転移能の低い細胞株を含む各種ヒト癌細胞株(MCF7, MDA-MB-231, PC-3, 786-O, 143B)を用いてCA注射による骨転移巣形成にも成功し、これらの転移巣の検出にはわずか5〜12日目の超早期に可能であった。
 今後、本法のような簡便で、高い確実性を示すマウス骨転移モデルを用いることで、実臨床的な骨転移を模倣したモデルとして、詳細な癌の進展過程における分子機構の解明が進み、臨床応用につながる新規治療の研究・開発が期待される。

(119)2018年11月2日 担当:相原 仁
A Structured Tumor-Immune Microenvironment in Triple Negative Breast Cancer Revealed by Multiplexed Ion Beam Imaging. Cell 174, 1373–1387 September 6, 2018

<要旨>
トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体の発現、HER2増幅がいずれも陰性であることから内分泌療法や抗HER2療法は効果が無く、放射線や化学療法に限られており、治療標的分子の同定、その特性解明が進められている。その1つとして、TNBCでは他のサブタイプの乳がん(luminal-A, -B, HER2陽性)と比較して、腫瘍浸潤リンパ球(Tumor Infiltrating Lymphocytes; TIL)の割合が高く、TILの程度は、免疫細胞の構成成分や予後と相関することから、免疫抑制チェックポイント因子(PD-1, PD-L1)を標的とした免疫療法が期待されており、臨床試験が進んでいる。しかしながら、抗PD-1、PD-L1抗体の単剤療法による臨床試験(Kwa & Adams 2018)では、奏効率は20%に届かず、化学療法との併用でも40%に到達しない。その原因の1つとしてPD-1やPD-L1の発現と治療効果との相関関係が考えられてきたが、それでは説明ができない症例に多く、依然詳細は不明である。現在では、TNBCがん微小環境における免疫細胞サブセットの包括的理解が得られていないこと、どの分子を標的として治療を選択するか、その明確なバイオマーカーが同定されていないことが原因として挙げられている。
 筆者らは、以前に新しい画像診断方法としてMultiplexed Ion Beam Imaging(MIBI)を開発した(Angelo et al. 2014)。従来の免疫組織化学検査は、HE染色などの色素や蛍光標識抗体を用いており、シグナルがオーバーラップするため、一度の解析のターゲットが2-3種類に制限される。それに対しMIBIは、金属安定同位体で抗体を標識するためシグナルのオーバーラップが無く、40種類程度のターゲットの同時解析が可能である。本論文において筆者らは、TNBC患者41検体のパラフィン包埋切片を解析対象とし、がん細胞や免疫細胞のマーカーや免疫チェックポイントに関与する因子(PD-1, PD-L1, IDO, LAG-3)、合計36因子に対する抗体を用いてMIBIを行い、がん微小環境における免疫細胞の種類つまりサブセットの構成、各細胞間の位置関係、および免疫チェックポイント因子の発現場所などを患者検体ごとに特定した。その結果、患者間で免疫細胞サブセットの違いを明らかにし、免疫細胞集団とがん細胞集団の位置関係が、①混在型(Mixed)と②それぞれが区画化型(Compartmentalized)の2種類に大別されることを明らかにした。さらに、①のタイプは、CD8陽性の細胞傷害性T細胞にPD-1、がん細胞にPD-L1とIDOの発現が高い傾向にあること、②のタイプは、CD4陽性ヘルパーT細胞にPD-1、免疫細胞にPD-L1とIDOの発現が高い傾向にあることを見出した。また②と比較して①の予後が悪いことも見出した。
 今後MIBI法を用いて、乳がんのみならず、様々な種類のがん微小環境での免疫細胞サブセットの全貌を明らかにすることが可能となることが期待される。また治療前後、原発巣と転移部分、これら諸条件において、免疫細胞サブセット構成成分やがん細胞特異的分子の発現などにどのような違いが見られるか、さらにはがん細胞特有の複雑な不均一性Heterogeneityを可視化することも期待される。


(118)2018年9月14日 担当:吉丸 哲郎
Glucose-regulated phosphorylation of TET2 by AMPK reveals a pathway linking diabetes to cancer. Nature, 559, 637, 2018

<要旨>
近年、糖尿病が悪性腫瘍のリスク上昇に関与するという疫学研究が報告されているが、がん発症に関わる分子メカニズムは未知である。本論文は、腫瘍抑制因子であるジオキシゲナーゼTET2(ten-eleven translocation 2)に着目し、高血糖状態がTET2の機能を失活させ、ゲノムの不安定化を誘導することで腫瘍形成を促進することを明らかにした。これは、糖尿病とがんの潜在的な関係を示したものであり、治療薬開発の一助となるメカニズムを示している。
 TET2はα-ケトグルタレートを補酵素として機能し、5-メチルシトシン(5mC)を5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)に変換してDNA脱メチル化を促進すること、およびグルコースがTCA回路を介してα-ケトグルタレートを代謝可能であるという報告から、著者らは糖尿病患者の血糖上昇が5hmCレベルの上昇をもたらすと仮説を立てた。一方、糖尿病患者の末梢血単核細胞では健常人と比較して5hmCレベルが有意に低下しており、高血糖状態ではTET2の機能が損なわれていることから、高グルコース濃度下でのTET2の安定性について検討した。その結果、高グルコース環境下ではAMPKによるTET2のSer99のリン酸化が抑制されてカルパインによる分解が促進され、TET2の不安定化および5hmCレベルの低下を引き起こし、その結果、腫瘍形成が増強されることがわかった。これらの知見と一致して、高グルコースはTET2を過剰発現させた黒色腫細胞増殖を亢進し、糖尿病誘発マウスにおいてTET2を発現させた黒色腫細胞株の異種腫瘍が非糖尿病マウスより顕著に促進された。さらに、抗糖尿病薬メトホルミン投与により、TET2のSer99のリン酸化の保護する作用があり、TET2発現腫瘍の増殖を顕著に減少させたが、TET2発現を欠いた腫瘍にはほとんど効果がなかった。
 これらの事実は、高血糖環境ではAMPKによるTET2のリン酸化が不十分となることが腫瘍形成促進となることを示唆するものであり、AMPKの活性化可能なメトホルミンはエピジェネティック制御を通じた抗腫瘍薬となることが期待される。今後は、糖尿病患者におけるAMPKおよびTET2の遺伝子変異の有無がどのようにがん化につながるのかや、糖尿病によるがん発症リスクが高いがん種(肝臓がんなど)ならびに、がん患者でのTET2発現やSer99のリン酸化とAMPKの活性化の評価、TET2発現とがん発症リスクの関連性などの追求が必要である。さらに、糖尿病病態が多段階発がん過程にどのように寄与しているかを明らかにできれば、がんの遠隔転移など悪性化の解明につながることが期待できる。

(117)2018年7月28日 担当:松下 洋輔
Resetting the epigenetic balance of Polycomb and COMPASS function at enhancers for cancer therapy. Nature Medicine, 24, June 2018, 758-769.

<要旨>
転写活性化に重要な役割を担うCOMPASS (Complex associated with Set1) 複合体のサブユニットの一つであるリジンメチルトランスフェラーゼKMT2C (MLL3) はヒストンH3の4番目のリジン (H3K4) のモノメチル化に関与する. MLL3遺伝子には多くのがん種で点突然変異が高頻度に認められるが, これら変異の機能的意義については未だ不明である。本論文では, MLL3遺伝子変異が原因のCOMPASS不活化と, それに伴うポリコーム複合体 (Polycomb repressive complex 2: PRC2) によるがん抑制遺伝子の転写不活化機構を明らかにし, PRC2によるH3K27メチル化活性阻害が, ポリコームおよびCOMPASS活性バランスを回復させ, 治療につながることを報告している.
 はじめに, 筆者らはMLL3が有するPHD (plant homeodomain) リピートをコードする遺伝子領域にホットスポット変異が存在することを見出し, このドメインがヒストンH2A脱ユビキチン化酵素でがん抑制因子であるBAP1(BRCA1 associated protein1)との結合に重要であることを示している. さらに, 乳がんや他の4つのがん種のデータを用いたメタ解析から, PHDリピート領域に変異を有する患者は有意に予後不良であることを明らかにした. また, MLL3BAP1を欠失したがん細胞におけるBAP1結合領域において, H3K27デメチラーゼKDMA6 (UTX) やMLL3はエンハンサー領域への集積が減少した一方, H3K27me3は増加していた. そのため, PRC2のH3K27メチルトランスフェラーゼであるEZH2を阻害すると, MLL3欠損により転写抑制された遺伝子の約80 %を回復させており, これらはPRC2の標的遺伝子と重複することを示唆している. 最後に, in vivoでもこれらの効果を確認している. これらのことから、 MLL3遺伝子変異を有するがん細胞では, EZH2阻害剤の細胞増殖抑制効果に対し, 高い感受性を示すことが明らかとなった.
 以上のことから,多くのがん種においてMLL3遺伝子はPHDリピート領域にホットスポット変異を有しており、特に、乳がんでは, ポリコームとCOMPASSの活性化のバランス状態を回復させることが、新たな治療となる可能性を示唆している.


(116)2018年7月21日 担当:土岐 俊一
Larotrectinib for paediatric solid tumours harbouring NTRK gene fusions: phase 1 results from a multicenter, open-label, phase 1/2 study.
Lancet Oncol. 2018; 19; 705-14.

<要旨>
近年、様々な肉腫を含む固形がんにおいて、NTRK (Neurotrophic tropomyosin receptor kinase) 融合遺伝子の存在が明らかにされてきている。NTRK融合遺伝子は、発癌性のトロポミオシン受容体キナーゼTRKタンパクをコードすることから、高度選択的低分子TRK阻害薬larotrectinibの創薬が進められ、現在米国FDA(食品医薬品局)で段階的申請方式によって新薬承認審査中である。
 本論文は、肉腫を含む固形がん患者を対象としたlarotrectinibの多施設非盲検第1/2相試験から、主に安全性についての報告である。本試験は、第1相試験の性格上、局所進行性あるいは転移を有する固形がん、もしくは再発・進行期・治療に反応しない原発性中枢神経系腫瘍かつ、標準的な根治的治療のない症例を対象としており、TRK-fusionの状態は適格基準に含まれていない。この基準を満たし最終的に登録された24例は年齢中央値4.5歳、TRK-fusionあり17例(乳児型線維肉腫8例、他の軟部肉腫7例、甲状腺乳頭癌2例)、なし7例で、rolling six design;治験終了までの期間短縮を目的に開発された一度により多く(6人まで)の症例を登録することができる第1相試験のデザイン、を用いて3群に振り分けられた。即ち、年齢と体重を基に算出するノモグラム(SimCyp Ltd, Sheffield, UK)を用いた、血中濃度-時間曲線下面積(AUC:Area Under the Curve)における成人容量100mg(1日2回)相当をコホート1とし、150mg(1日2回)相当をコホート2、年齢やAUCに関係なく100mg/m2(1日2回、最大100mg/回)をコホート3とした。結果として、発生したlarotrectinib関連有害事象は、肝逸脱酵素の上昇(42%)、白血球減少(21%)、好中球減少(21%)、嘔吐(21%)の順に多かった。容量制限毒性(DLT:Dose Limiting Toxicity)は、コホート3の1例にgrade3のALT(Alanine aminotransferase)上昇を認めたのみであった。段階的増量を行ったコホート1、2において最大耐量は得られず、既知の成人データと比較した薬物動態学的解析に基づいて、第2相試験の推奨容量は100mg/m2(1日2回、最大100mg/回)と定められた。RECIST ver1.1にて評価可能であったTRK-fusion陽性15例中14例(93%)が持続的な腫瘍縮小効果を認め、一方TRK-fusion陰性7例では腫瘍縮小効果を認めなかった。
 第1相試験の結果として、larotrectinibは小児患者でも十分に受け入れられる安全性であることが明らかとなった。本試験を含み小児から成人を対象とする3つの治験から、larotrectinibはTRK-fusion陽性例において奏効率75-80%、1年無増悪生存55%という報告(NEJM 2018)も出てきており、本薬を用いた今後の治療戦略の展開が期待される。


(115)2018年7月7日 担当:相原 仁
LSD1 Ablation Stimulates Anti-tumor Immunity and Enables Checkpoint Blockade Cell 174, 1–15 August 9, 2018

<要旨>
免疫抑制チェックポイント分子PD-1とそのリガンドであるPD-L1を標的としたブロッキング抗体(免疫チェックポイント阻害剤)は、T細胞応答の抑制を解除し、抗腫瘍効果を発揮することから、様々なタイプのがんで臨床応用への取り組みが進められている。しかしながら、特定のがん微小環境下では、T細胞の浸潤が起こらないなど複雑な免疫抑制メカニズムが働くことが報告されており、がん免疫療法の困難さが指摘されている。この解決の糸口として、DNAメチル化やヒストン脱アセチル化酵素HDACの阻害が、インターフェロン(IFN)パスウェイを活性化させることによって、がん免疫療法の反応性を高めることが見出されている。しかし、がん細胞内におけるクロマチンの機能調節がどのようにして免疫系を活性化に導くのか、そのメカニズムについては不明である。
 筆者らは、IFNパスウェイの活性化を指標に、クロマチン制御因子阻害剤のスクリーニングを行い、ヒストン脱メチル化酵素LSD1の阻害剤GSK-LSD1を見出した。がん細胞内において、①LSD1は、IFN遺伝子の転写活性化に関わるlong non-coding RNA であるEndogenous Retroviral Element (ERV)の遺伝子領域のヒストンのメチル化を制御し、転写を負に制御する。一方で、②LSD1は、センス・アンチセンスからなるERVのdouble-stranded RNA (dsRNA)の分解に関与するRNA-induced silencing complex RISC複合体に結合し、RISCコンポーネントであるAGO2の726番目リジンを脱メチル化し、AGO2タンパク質の安定性を保持する。筆者らは、LSD1の阻害によって①②の機能が失われると、RISC複合体の不安定性が生じ、ERVが過剰蓄積することを、dsRNAストレスと呼び、dsRNAストレスが結果的にType I IFN遺伝子の転写活性化を導くことを証明した。
 続いて筆者らは、免疫原性の乏しいマウスメラノーマ細胞を用いた同系がんモデル実験系で、がん細胞LSD1のがん微小環境の免疫系に及ぼす役割を調べた。T cell receptor αノックアウトマウスにLSD1ノックアウト(LSD1KO)メラノーマ細胞を移植すると活発に腫瘍が形成されるのに対し、野生型マウスにLSD1KO細胞を移植しても腫瘍形成速度は極めて緩やかであり、T細胞の浸潤、クラスI MHCの増加を認めた。この結果はLSD1KOは、がん細胞の自律的増殖の抑制よりもむしろ、がん細胞自体の免疫原性の上昇に寄与することを示唆する。この実験系に、PD-1抗体を用いるとLSD1KO細胞の腫瘍形成がさらに抑制された。
 またTCGAデータベースよると、①大部分の癌種において、癌部のほうが非癌部よりもLSD1の発現レベルが高く、②LSD1の発現レベルとIFN発現、T細胞浸潤は逆相関することが判明した。以上の結果から、LSD1はバイオマーカーとなることを示唆し、がん免疫療法においてLSD1阻害剤が相乗効果的役割を果たし、PD-1抗体の併用臨床応用を期待させる。今後、両剤併用の安全性を考慮に入れ、免疫細胞におけるLSD1の機能を明らかにすることが望まれる。

(114)2018年6月30日 担当:片桐 豊雅
SHP2 is required for growth of KRAS-mutant non-small-cell lung cancer in vivo. Nat. Med 2018 May 28. doi: 10.1038/s41591-018-0023-9

<要旨>
KRAS突然変異は、膵臓がん、大腸がん、非小細胞肺がん(NSCLC)をはじめとした多くのがん種において認められるが、変異KRASを標的とした治療薬の開発は未だ成功した例はない。現在のKRAS変異がんに対する治療薬としては、KRASシグナルの下流分子または上流分子であるEGFRファミリーを標的とした阻害剤が開発されているが、側副経路の活性化などの耐性機構が認められている。本論文では、KRAS変異非小細胞肺がんの新たな標的分子としてKRAS-RAF-MEK-ERKシグナル活性化に関与するチロシンホスファターゼであるSHP2(PTPN11遺伝子) に着目している。これまでに、KRAS変異NSCLCにおいてSHP2阻害は効果が低いことが報告されていたが、筆者らは、本研究においてKRASの下流分子であるMEK (MAP kinase Kinase)阻害との併用にて細胞老化を惹起することを見いだしている。
 はじめに、6種のMEK阻害剤(selumetinib:セルメチニブ)耐性のNSCLC細胞株を用いて、SHP2阻害剤の効果を検討したところ、セルメチニブおよびSHP2阻害剤単独では、一旦ERKおよびSHP2のリン酸化は減弱するものの投与72時間後には回復が認められ、長期のコロニー形成能には影響がなかった。一方、セルメチニブおよびSHP2阻害剤併用では、長期間にわたってリン酸化の回復は認められず、継続した増殖抑制が認められた。さらに、RAS点突然変異(G12V, G12C)を再構成したRAS欠損細胞株においても、同様にセルメチニブおよびSHP2阻害剤併用にて増殖抑制を認め、EGF依存性KRASの活性化の抑制も認めた。続いて、培養細胞株移植xenografrtモデルおよびPDXマウスモデルを用いて、セルメチニブおよびSHP2阻害剤併用(もしくPTPN11遺伝子KO細胞)のin vivo抗腫瘍効果の検討を行った。その結果、各阻害剤単独に比して、ERKのリン酸化の減弱および細胞老化マーカーであるSA-β-Galの顕著な発現誘導を認め、また顕著な増殖抑制を認めた。
 本論文では、遺伝学的および阻害剤を用いた薬理学的実験によって、KRAS変異NSCLCにおけるRASシグナル阻害剤耐性克服には、RASシグナル下流MEKによるRASのフィードバック活性化をSHP2を阻害することで抑制することができうることを明らかにした。このように、シグナルカスケードのハブとなる分子の同定およびその制御は、がん化、悪性化、耐性機構などのネットワークを網羅的に制御することが可能であるかもしれない。


(113)2018年6月16日 担当:吉丸 哲郎
Metarrestin, a perinucleolar compartment inhibitor, effectively suppresses metastasis. Sci Transl Med, 10, eaap8307, 2018

<要旨>
原発巣に限局するがんの治癒率は、早期診断と治療法の進歩により改善してきているが、遠隔転移が形成された進行がんは悪性度が高く、依然として予後不良であることから、その対策としてがん転移の制御が急務となっている。本論文では、進行がんのがん細胞における核小体の近傍に形成されるperinucleolar compartment(PNC、傍核小体コンパートメント)が、がんの転移細胞において顕著に観察されることに着目し、その詳細な機能解析からPNCを分解する新規化合物Metarrestinを同定し、PNC分解による膵臓がんなどの転移モデルマウスの転移抑制および延命効果を導くことを明らかにした。
 はじめに、PNCの構成分子PTB(polypyrimidine track binding protein)をPNCのマーカーとして、140,000化合物のハイコンテント・スクリーニング(細胞毒性を示さずに50%以上のPTB消失)を通じて、PNCを特異的に分解するヒット化合物を見出した。続いての薬物動態学の最適化によりMetarrestinを開発した。Metarrestinは、複数の膵臓がん、肺がん細胞のPNCを分解し、その細胞の増殖と浸潤の顕著な抑制を認めた。さらに、膵臓がんと前立腺がんの細胞株および乳がん患者の転移組織を移植したモデルマウスにおいても、それぞれのがん転移を強く抑制し、生存期間を有意に延長させることが明らかになった。一方、Metarrestinの投与は原発巣の増殖抑制効果はほとんど認められず、転移を特異的に抑制することが示された。次に、PNC分解のメカニズムを解析した。ビオチン化Metarrestin を用いたアフィニティ精製によりMetarrestinは翻訳伸長因子eEF1A2と相互作用すること、eEF1A2の機能を阻害することでリボゾームRNA合成に関わるRNAポリメラーゼI複合体による転写が抑制され、その結果、小胞体構造の破壊およびPNCの形成阻害が誘導されることが推察された。
 がんの遠隔転移は多段階の悪性化によることがわかってきており、そのがんの転移の各ステップに関与する分子を標的にする薬剤の開発は有益な治療法につながることが期待される。今後は、各種転移がんでのPNC発生割合の比較、核小体とPNCの構造的な関係性、およびがんでのPNC形成メカニズムや転移への形質転換との関連性などの追求が必要である。また、Metarrestinによるリボソーム生合成の異常は核小体ストレスを誘導する可能性が示唆されるため、がん抑制因子p53の安定化を介したがんの転移抑制メカニズムの可能性を考察しても面白いかもしれない。


(112)2018年6月9日 担当:高橋 定子
Multi-omics profiling of younger Asian breast cancers reveals distinctive molecular signature. Nature Com. 2018 9(1):1725

<要旨>
乳がんの発症率や死亡率には国ごと、人類集団ごとに大きな違いがあることが知られている。特に、アジア人である韓国人における乳がん発症年齢は約半数が閉経前である一方、欧米では閉経前患者の発症率はそれより低く、15-30%に留まっている。本論文では、この両者の違いの要因を特定するため、Whole Exome解析及びtranscriptome解析により得られた187人の韓国人乳がんコホート(SMC)及び1,116人の白人の乳がんコホート(TCGA)に対する比較検討を行っている。
 サブタイプ分類は、ER及びHER2の免疫組織染色を基本とした分類、マイクロアレイ解析に基づいた50個の遺伝子発現を基本としたPAM50分類及びESR1PGRERBB2遺伝子の発現を基本とした分類naïve molecular classifier (NMC)を統合したConsensus methodsを用いて解析を行った。その結果、SMCはTCGAに比べてER+/HER2+の割合が顕著に高く(SMC vs TCGA = 16.1% vs 5.4%)、各遺伝子における変異の割合においては、SMCではTP53変異(47.9% vs 32%)及びERBB2のAmplification(20% vs 9%)の割合がTCGAに比べて高い傾向が観察された。最近になって、外因性及び内在性の突然変異誘発の結果として引き起こされるDNAダメージに特徴的な変異シグネチャーが認められ、その変異パターンは主に24個に分類されている。本論文では、SMC及びTCGAコホートを合わせて、10個の変異シグネチャーを同定し、それらには年齢関連(Signature 1)、APOBEC関連(Signature 2/13)及び相同組換え修復欠損(HRD)関連(Signature 3)シグネチャーが含まれていた。さらに、ER+/HER2+及びHER2+ではAPOBEC関連(Signature 2/13)シグネチャーが、TNBCではHRD関連(Signature 3)シグネチャーが大きな比率を占めており、SMCもTCGAもサブタイプとシグネチャーの関連性に違いはなかった。興味深いことに、HRD関連(Signature 3)シグネチャーはSMCにおいてはTNBC患者の85%以上でHRD陽性であるのに対し、TCGAでは52%であった。
続いて、筆者らは、腫瘍、間質、免疫細胞及び正常細胞から構成される腫瘍組織を遺伝子群の発現に基づいて各異なる組織コンパートメントに分類することができるVirtual microdissection 解析を行うために、特徴的な発現を示す遺伝子群を抽出する方法である非負値行列因数分解解析 (NMF: non-negative matrix factorization)を行った。その結果、4つの組織コンパートメント(腫瘍、間質、tumor infiltrating leukocytes (TIL)、及び正常組織)に帰属する9個の因子を同定した。そのうち、がん微小環境因子(TME: tumor microenvironment)の一つであるTIL関連因子は免疫細胞溶解活性及び広範囲の免疫細胞シグネチャーとの両方で、強い相関性を示しており、TIL因子が免疫活性に関連するがん微小環境因子であることが示された。さらに、TIL因子及びPD-1(Programmed death-1)のリガンドであるPD-L1 (Programmed death-1 ligand-1)の発現量はTCGAに比べ、SMCで著しく高く、逆に、細胞増殖抑制を担うTGF-βシグネチャーはTCGAに比べてSMCで減少していたことから、SMCではTCGAに比べ、免疫活性の高い微小環境を有し、細胞増殖促進への寄与率は低いことが示唆された。最後に、SMCとTCGA間の違いに寄与する因子の同定のために多変量解析を行った結果、TIL関連因子及びTGF-βシグネチャーは主要な臨床的特徴(コホート、患者年齢、サブタイプ、Tumorステージ、閉経状態、組織学的サブタイプ、Tumor純度)全てにおいて、強い相関性を示した。このことから、SMCとTCGAの違いは、TIL関連因子及びTGF-βシグネチャーの違いに起因することが示された。
以上の結果から、韓国人の若年性乳がんでは白人に比べ、免疫活性の高い微小環境を有することが示された。

(111)2018年5月26日 担当:松下 洋輔
The GSK3 Signaling Axis Regulates Adaptive Glutamine Metabolism in Lung Squamous Cell Carcinoma. Cancer Cell 33, 905-921 (2018), https://doi.org/10.1016/j.ccell.2018.04.002.

<要旨>
がん細胞は正常細胞で行われる効率的なミトコンドリアでの酸化的リン酸化を介したATP産生より, 好気的条件下でも解糖系を利用してATPを産生するワールブルグ(Warburg)効果として知られる代謝的リプログラミングにより, 特殊な環境下にも適応する能力を獲得している. 一方, 近年、グルタミンをグルタミン酸に変換してATPを得る「グルタミン代謝」をグルタミノリシス (Glutaminolysis)と呼び、がん細胞の増殖, 進展に重要なエネルギー源となっていることが明らかとなっている. 本論文では, 非小細胞性肺癌の中でも悪性度が高い肺扁平上皮がん (SCC: Squamous Cell Carcinoma) において, mTOR阻害剤の長期投与がグルコース代謝亢進の抑制を導く一方、代謝スイッチによるグルタミノリシスへの依存性を高めることで, 生存を可能にしていることを明らかにしている.
 はじめに、mTOR阻害剤によるグルコース代謝の抑制が、生体における高分子化合物の供給源となりうるかを, 炭素同位体を用いた代謝フラックス解析によるTCAサイクルへの炭素供給源を調べた。その結果、 mTOR阻害剤により, グルコース由来のlactateやaspartateへの供給が減少していたのに対し, グルタミンからのaspartateへの供給が4倍程度亢進していることわかった. この機序にはmTOR阻害剤の長期投与によるリン酸化AKTの増加および、その下流シグナルであるGSK3a/bのリン酸化亢進による不活化がcJUNとcMYCを介したグルタミン代謝酵素グルタミナーゼ (GLS) の発現亢進につながることを明らかにし, GLS阻害剤の併用が有用であることを示した. また, リン酸化GSK3a/bと核におけるcJUNの発現量がmTOR阻害剤感受性に対するサロゲートバイオマーカーとしての有用性を示唆した. 最後に、これらの現象が頭頸部癌や骨肉腫といった解糖系の亢進と化学療法剤への抵抗性を認めるがん種において, 同じmetabolic signatureを有することを明らかにし, SCCと同様, mTOR阻害剤とGLS阻害剤の併用が有用である可能性を示した.
 以上のことから, 本論文はグルタミノリシスへの依存性は, GSK3a/b を軸とした代謝スイッチが関与していることを明らかにし, 代謝リプログラミングに基づく治療戦略の重要性を示唆している.

(110)2018年5月19日 担当:片桐 豊雅
The protein histidine phosphatase LHPP is a tumour suppressor. Nature volume 555, pages 678–682 (29 March 2018) doi:10.1038/nature26140

<要旨>
肝細胞がん(HCC)では、PI3K-AKT-mTOR経路の異常が50%以上で認められ、この経路を標的とした治療薬の臨床応用が進められている。本論文では、この経路のうち、TSC1およびPTENの肝臓特異的double knockout(L-dKO)による肝細胞がん発症モデルマウスを樹立し、プロテオーム解析を通じた肝臓細胞がん発症進展に関わる分子の同定、機能解析から発がん機構の解明を行っている。L-dKOは出生8週目に肝肥大を観察し、20週目に肝細胞腫瘍を認める。プロテオーム解析にて、正常コントロールマウスの肝臓とL-dKOの肝腫瘍間のタンパク質の発現変動を調べたところ、哺乳類では現在までにわずか2種類しかみつかっていないヒスチジンキナーゼNME1, 2(Nucleoside diphosphate kinase1, 2:ヌクレオシド2リン酸キナーゼ)の発現亢進を、加えてヒスチジンホスファターゼLHPP(lysine histidine pyrophosphate phosphatase)の発現低下を確認し、これらのヒスチジンリン酸化および脱リン酸化の意義について着目した。ヒスチジンリン酸化は真核生物の約6%を占めると言われてきたが、セリン、スレオニン、チロシン残基のcarbon-phospho間のリン酸化と比べて、ヒスチジンのphospho-nitrogen間のリン酸化は熱や酸に不安定であり、これまで検出が困難なことから解析が阻まれてきた。
 筆者らはこれまでにヒスチジン特異的リン酸化モノクロ抗体の樹立および内在性ヒスチジンリン酸化の検出条件を見いだしており、本論文では、これらの条件の下、L-dKOマウスにおける肝臓腫瘍におけるタンパク質ヒスチジンリン酸化の顕著な亢進を観察した。また、L-dKOマウスの肝臓にLHPPをアデノウイルス発現系にて持続的に発現させると、腫瘍量が有意に減少し、肝機能低下の抑制に成功した。さらに、肝細胞がん臨床検体を用いた解析では、LHPPの発現低下は、腫瘍の悪性度や全生存期間の短縮と相関した。
 以上のことから、タンパク質ヒスチジンホスファターゼであるLHPPは、新規の腫瘍抑制因子であり、ヒスチジンのリン酸化の脱調節が肝臓がんの発がん過程に重要な役割を担うとが示唆された。今後は、詳細なAKT-mTOR経路活性化における役割および標的とした治療薬開発の可能性の解明が待たれる。


(109)2018年4月28日 担当:吉丸 哲郎
E-Cadherin/ROS1 inhibitor synthetic lethality in breast cancer.
Cancer Discovery, 8, 498-515, 2018

<要旨>
特殊型乳がんである浸潤性小葉がんは、全乳がんの5−15%を占め、その約90%の症例にてCDH1 (E-カドヘリン)の体細胞点突然変異、LOH、あるいはプロモーター領域の過剰メチル化によりE-カドヘリンの欠損を認め、内分泌療法抵抗性や化学療法後の完全奏功(pCR)の低下に大きく関与することが報告されている。本論文では、E-カドヘリン欠損乳がん細胞において、チロシンキナーゼROS1(c-ros oncogene 1)が高発現していることに着目し、臨床適用されているROS1阻害剤に高い感受性を示す合成致死効果(synthetic lethality effect)が有用であることを示し、その合成致死性のメカニズムを明らかにしている。
はじめに、CRISPR/Cas9によりE-カドヘリンを欠損させた乳がん細胞株を作製し、臨床的応用されている低分子化合物ライブラリーならびに細胞周期、キナーゼ、DNA修復の関連遺伝子からなるsiRNAライブラリーを用いて、E-カドヘリン欠損細胞の増殖を抑制する合成致死関連分子を探索したところ、ROS1の発現または機能抑制(siROS1、ALK阻害剤CrizotinibとForetinib)が共通として同定された。実際に、E-カドヘリン欠損細胞はROS1の顕著な発現亢進を認め、一方、ROS1阻害剤に高い感受性を認めることが観察された。また、E-カドヘリン欠損乳がん細胞株はROS1阻害剤により多核巨細胞化の形成、p21の発現亢進、および細胞死を誘導する分裂期崩壊(mitotic catastrophe)を引き起こした。さらに、E-カドヘリンの発現レベルがROS1阻害に対する高感受性に重要な決定因子であることが統計的に示された。次に、合成致死性のメカニズムを解析したところ、E-カドヘリンの欠損によって、細胞分裂に関与するカドヘリン結合タンパク質p120カテニン(δカテニン)の発現減少を導くが、ROS1をさらに阻害することで分裂溝でのp120カテニンの発現およびチロシンリン酸化が完全に抑制され、その結果、細胞質分裂不能になり、多核化が誘導されることが明らかになった。
がんの遺伝子異常に基づき、がん細胞特異的を死滅させることを可能にする合成致死性を利用した治療法は、新規抗がん剤の開発につながることが期待されている。本論文は、合成致死の概念に基づいてE-カドヘリン欠損の浸潤性小葉がんにおけるROS1感受性を支配する新規の分子機構の解明とROS1を標的とした個別化医療の開発の発展を示唆している。今後は、E-カドヘリン欠損によるROS1の発現制御機構やROS1高発現細胞の感受性の分子機構、E-カドヘリン非依存性のROS1発現制御機構、ROS1阻害によるp120カテニンの制御機構、およびROS1特異的な阻害剤の開発などの追求が必要である。

(108)2018年3月31日 担当:松下 洋輔
Eradication of Triple-Negative Breast Cancer Cells by Targeting Glycosylated PD-L1
Cancer Cell 33, 187-201 (2018), doi: 10.1016/j.ccell.2018.01.009.

<要旨>
Programmed cell death 1 (PD-1) とProgrammed death-ligand 1 (PD-L1) は代表的な免疫チェックポイント分子で, 近年, がんの新たな治療法として確立されてきた免疫療法の標的分子である. しかしながら, その効果は限定的であり、PD-L1の発現量と治療効果に相関が認められないなど, バイオマーカーの同定が望まれていた. 一方, 本論文で着目している糖鎖修飾は標的タンパク質の局在や機能の多様性を生み出すことに重要な役割を担うが、がん細胞特異的な糖鎖修飾においては, 転移などの悪性化や宿主免疫機構からの逃避に関与すると考えられてきた。しかしながら、PD-1/PD-L1の結合能や免疫抑制活性への影響については不明であった.
 著者らは、以前より免疫チェックポイント分子の翻訳後修飾について着目しており、本論文では, N-グリコシド型糖鎖結合特異的阻害剤を用いたスクリーニングを通じて、PD-1/PD-L1結合が最も感受性が高いことを見いだし、T細胞活性化の共役因子ではなく, 抑制性の因子群に対するN-グリコシド型糖鎖修飾がリガンド-受容体の結合に重要であることを証明した。さらに, この糖鎖修飾はEGF/EGFRの下流で転写制御されるB3GNT3(β1,3-N-アセチルグルコサミン転移酵素3)のノックアウトおよびEGFR阻害剤によるPD-L1の糖鎖修飾の減弱、PD-1との結合活性の抑制が認められたことから、B3GNT3を介してPD-L1が糖鎖修飾されることを見出した. また、TNBC細胞ではEGF/EGFRシグナルの亢進が認められることから, マウスを用いたin vivo実験を通じて、がん細胞はB3GNT3の高発現を介して, PD-1/PD-L1の結合を促進させ, 宿主免疫機構を抑制することで生存・増殖していくことが明らかとなった。実際, TNBCおよび肺がん症例において、B3GNT3の発現が高いと予後不良であることも示している. 続いて、著者らは、独自にPD-L1の内在化と分解を促進するPD-L1糖鎖修飾特異的抗体を作製し、この抗体に微小管阻害剤であるモノメチルアウリスタンチンEを共役 (gPD-L1 antibody-drug conjugate: gPD-L1-ADC) させて、PD-1/PD-L1結合に対する影響を検討した。その結果、N-グリコシド型糖鎖修飾型PD-L1を発現するがん細胞増殖の抑制を認めた。興味深いことに, gPD-L1-ADCはPD-L1を発現していない周辺の細胞に対してもアポトーシスを誘導するバイスタンダー効果を認めた. 以上のことから, 本論文では, PD-1/PD-L1の発現量だけでなく, 糖鎖修飾を標的とすることが, 免疫チェックポイント治療の効果予測に役立つ可能性を示している.

(107)2018年2月17日 担当:高橋 定子
HER kinase inhibition in patients with HER2- and HER3-mutant cancers
Nature 2018 554(7691):189-194

<要旨>
ERBB2(HER2)及びERBB3(HER3)の遺伝子増幅あるいは体細胞変異は乳がんをはじめとする多数のがんで認められている。これらの体細胞変異は多くの癌腫に渡って認められるが、その頻度は低く、一部の変異はHER2の恒常的な活性化を引き起こすことが知られているが、大部分の変異についてはその影響は不明である。本論文では、筆者らはpan-HERキナーゼ阻害剤ネラチニブneratinibを用いた、HER2あるいはHER3変異を有する複数の癌種に対する”バスケット”試験を実施し、HER2とHER3の既知の発がん性変異及びがんへの寄与が未知のバリアントについて、生物学的な意義及びがん治療への重要性を明らかにすることにした。
 本研究において対象としたHER2またはHER3に変異を有する癌種は21種類(子宮内膜がん、胃がん、食道がん、卵巣がん、大腸がん、膀胱がん、尿道がん、乳がん、子宮頸がん、胆管がん、肺がん等)であり、HER2変異を有する患者125人、HER3変異を有する患者16人、計141人に対し、ネラチニブを毎日240mg投与し、その効果をRECIST1.1あるいはPET response criteriaで評価した。その結果、ネラチニブに対する効果が最も顕著であった乳がん症例では、投与開始8週間で奏効率は32%[15-54%]に達した。これらの患者は、HER2の細胞外ドメインにおけるミスセンス変異(S310)、キナーゼドメインでのミスセンス変異(V777、L755、他)、あるいはExon20インサーションを認めた。次いで効果の認めた胆管がん(22%[2.8-60%])、子宮頸がん(20%[0.5-72%])では、ともに細胞外ドメイン変異(S310)を認める症例においてネラチニブによる効果を認めたが、その効果は乳がんに比べて低かった。一方、S310変異を有する他のがん種では効果は認められなかった。また、胆管がん、子宮頸がんともにキナーゼドメイン変異によりネラチニブによる効果を示したが、胆管がんでV777、L755変異を有する患者では、ネラチニブの効果は示されなかった。一方、Exon20インサーションは肺がん26人で認められたが、そのうち、ネラチニブが有効だった患者は1人のみであった。肺がんではL755Sキナーゼドメインミスセンス変異を持つ患者だけに有意な効果が認められたが、膀胱がん、結腸直腸がんではどの変異においてもネラチニブの効果は認められなかった。さらに、HER3変異を有する患者ではいずれの癌種・変異でもネラチニブの有効性は認められなかった。
 このように、同じ癌腫、同じHER2変異アレルをもつ患者においても、ネラチニブの効果にばらつきがあったことから、より広範なゲノムの特徴づけにより、ネラチニブの効果に影響を及ぼす他の因子の同定を試みた。その結果、調査対象の患者の17%(86人中15人)でHER2体細胞変異とHER2遺伝子増幅が認められ、さらに変異と遺伝子増幅が同一アレルで認められた症例は86%(評価可能な患者14人中12人)であり、遺伝子増幅は体細胞変異をみとめるアレルにて優先的に起る傾向がみられた。しかしながら、HER2変異単独の場合と比較して、HER2変異とHER2増幅の共変異がネラチニブに対する感受性を亢進させることはなかった。さらに、特定の遺伝子の共変異がネラチニブ応答に影響を及ぼすかどうかを検証したところ、HER2変異患者では、TP53(P=0.018)あるいはHER3(P=0.064)と共変異している場合、ネラチニブの効果がない傾向にあること示された。
 以上のことから、ネラチニブへの奏功は癌種及び変異により変化することが示された。また効果が見られるのはHER2変異がんに限られることが示された。本研究は今後のがん研究におけるバスケット試験の重要性を示す上で、意義のある報告であった。


(106)2018年2月10日 担当:片桐 豊雅
Pharmacological blockade of ASCT2-dependent glutamine transport leads to antitumor efficacy in preclinical models. Nat Med. 2018 Feb;24(2):194-202.

<要旨>
ヒトの血漿中で最も多く存在するアミノ酸のグルタミンをグルタミン酸に代謝、分解するグルタミノリシス(Glutamynolysis)ががん細胞の増殖、進展に重要なエネルギー源であることがわかってきている。これまでにグルタミノリシスを標的とした抗がん剤としてミトコンドリアグルタミナーゼGLS1阻害剤が開発されていたが、本論文の筆者らは、ミトコンドリア外のグルタミン代謝経路の制御不能の懸念から、グルタミントランスポーターを標的とした阻害剤の開発に着手してきた。本論文では、グルタミントランスポーターASCT2(A Sodium-dependent transporter of glutamine:遺伝子名SLC1A5)特異的標的低分子阻害剤V-9302の前臨床試験について述べられている。
V-9032は、既存のASCT2阻害剤GPNA (L-γ-glutamyl-p-nitroanilide)の約1000倍の薬効(IC50=9.6µM)を示し、ASCT2結合によるグルタミン特異的取り込みを阻害した。さらに、ASCT2高発現する大腸がん、乳がん、肺がん細胞株の増殖抑制効果を認め、特に、大腸癌において、細胞死の増加と酸化ストレス亢進から、S6キナーゼシグナルの抑制によるアポトーシスシグナルの促進を介したin vitroおよびin vivoでの顕著な抗腫瘍効果を認めた。これにより、グルタミントランスポーターの薬理学的阻害の有用性が示唆された。この特定のアミノ酸トランスポーターを標的とした抗がん剤治療法の開発はこれまでにはなく、特に、グルタミノリシス(Glutamynolysis)において必須であるグルタミントランスポーター活性阻害剤の開発は、がんの依存性を標的とした新たな治療となり、がん細胞の代謝を標的とする治療へのパラダイムシフトへと導くものと考えられる。今後は、正常細胞におけるトランスポーターの阻害による副作用についての詳細な検討が必要である。

(105)2018年2月3日 担当:奥村 和正
Glutaminolysis drives membrane trafficking to promote invasiveness of breast cancer cells. Nature Communication 2017 Nov; 8.2255

<要旨>
近年、グルタミンの代謝 (Glutaminolysis)が様々な癌細胞の増殖に必須であり、癌発症に関与することが報告されてきているが、非浸潤性癌細胞から浸潤性癌細胞への形質転換の関与については未だ詳細は解明されていない。本論文では、正常乳管上皮細胞も乳癌細胞と同様にグルタミンを消費するが、グルタミンから代謝されたグルタミン酸を細胞外に放出するのは乳癌細胞のみであり、細胞外のグルタミン酸が癌細胞に対してoncogenicに働いていることを明らかにしている。
はじめに、乳癌細胞に高発現し正常乳管上皮細胞ではほとんど発現を認めないアミノ酸トランスポーターXcを対象に、その阻害薬およびknockdown実験から、Xcの機能阻害・抑制はグルタミン酸放出量の低下を導くことを明らかにした。次に、Xcによる細胞外へのグルタミン酸濃度の上昇が癌細胞の基底膜や極性の変動を導くこと、その結果、より高い浸潤能に形質転換させることを証明した。一方、この細胞外のグルタミン酸の上昇は、グルタミンフリーの条件下では起きないことから、細胞外のグルタミン酸濃度の上昇には細胞内へのグルタミンの取り込みが必要不可欠であることが示唆された。続いて、筆者らは細胞外のグルタミン酸濃度の上昇と癌細胞の浸潤能獲得の関係について、癌細胞膜上に局在するGRMs (metabotropic glutamate receptors)の活性化が関与すると考えた。GRMsは3つのグループ1~3の3つに分類されているが、乳癌細胞も正常乳管上皮細胞では、ともにグループ2に属するGRM3が他のGRMと比べて発現亢進していることに着目した。続いて、グループ2のRMs阻害薬を投与時においてのみ、著明な浸潤能の低下や細胞形態の円形化と基底膜の秩序化を認めた。またGRM3のknockdownによる癌細胞の浸潤能の低下や過剰発現による浸潤能の獲得も確認された。
 乳癌細胞が浸潤能を獲得することにMT1-MMP (membrane type-1 matrix metalloprotease)およびMT1-MMPを細胞膜上にてリサイクリングする低分子量Gタンパク質Rab27 (Ras-related protein Rab-27)が関与することが報告されている。このことから、放出されたグルタミン酸による乳癌の浸潤能促進へのMT1-MMPおよびRab27の関与を検討した。グルタミン含有培地で培養した高い悪性度を獲得した乳癌細胞乳は、MT1-MMP阻害薬投与およびsiRNA によるMT1-MMPまたはRab27の発現抑制により、乳癌細胞の浸潤能獲得や形態的変化が回復することを証明した。
以上のことから、乳癌細胞増殖亢進や悪性度の高いphenotypeへの形質転換にはグルタミンが必要不可欠であり、グルタミンがグルタミン酸に代謝(glutaminolysis)されて細胞外へ放出された後に、GRM3とのリガンド結合することで活性化を導き、下流シグナルであるRab27を活性化させることにより、MT1-MMPの細胞膜へのリサイクリングを促し、浸潤能を獲得するとことを証明した。本論文は、乳癌細胞増殖において、グルタミンに加えて、グルタミン代謝産物であるグルタミン酸の放出がより高い悪性度に形質転換させることは乳癌細胞のグルタミン中毒(glutamine addiction)の詳細が解明されたものであり、グルタミンの癌細胞への取り込みを阻害することが、治療標的として有望である可能性が示唆された。

(104)2018年1月20日 担当:吉丸 哲郎
Senescence-associated reprogramming promotes cancer stemness
Nature, 553, 96-100, 2018

<要旨>
現行の化学療法や放射線治療は、細胞老化(細胞周期停止プログラム)の誘導を通じて腫瘍細胞の悪性化を制御することが知られている。しかしながら、細胞老化誘導に関与する癌抑制遺伝子(p16、p21、p53など)やヒストンH3のリジン9トリメチル化(H3K9me3)は、幹細胞性の機能獲得にも中心的な役割を果たすことから、腫瘍の臨床転帰、予後に大きく関与する可能性がある。本論文では、化学療法誘発性細胞老化が、腫瘍細胞の幹細胞関連の遺伝子発現やシグナル経路を変化させて、細胞自律的(cell-autonomous)に幹細胞性を獲得することを明らかにしている。
 はじめに、化学療法誘発性の細胞老化モデルであるEμ-Mycトランスジェニックマウス由来のB細胞リンパ腫を用いて、アドリアマイシンで細胞老化を誘発したところ、非老化B細胞リンパ腫と比較して、幹細胞の特性に関与する遺伝子群の発現、古典的Wntシグナルの活性化、および核内β-カテニン量が有意に亢進していることおよび、癌幹細胞の薬剤耐性を促進するALDH(aldehyde dehydrogenase)活性とABC(ATP-binding cassette)トランスポーター活性の上昇が観察された。さらに、これらの現象は、B-CLL患者の血液やヒト固形癌細胞株でも認められた。次に、H3K9me3およびp53の発現を遺伝学的に制御できる細胞老化マウスを用いて、化学療法による細胞老化から自発的に回避した細胞集団の特性を検討したところ、これらの細胞集団は細胞増殖能を取り戻し、Wnt依存性のコロニー形成性およびn vivoでの腫瘍イニシエーション能の顕著な亢進を示した。また、これらの細胞集団を移植したマウスにWntシグナル阻害剤を投与するとマウスの生存期間は有意に延長した。興味深いことに、この化学療法誘発性の細胞老化は、幹細胞ではないマウス白血病細胞を幹細胞性に再プログラム化することも可能であったことから、細胞老化関連の幹細胞性は細胞自律的な誘導であることが示唆された。
 これまで、細胞老化を介した発癌のメカニズムは細胞老化から分泌される炎症性サイトカインを含むSASP(Senescence Associated Secretary Phenotype)因子の関与が考えられていたが、本論文は、SASP因子非依存性の化学療法誘発性細胞老化が細胞自律的に幹細胞性を獲得して、腫瘍の増殖能を促進することを明らかにしたものであり、癌幹細胞の可塑性のメカニズム解明につながることが期待される。しかしながら、化学療法誘発性の細胞老化がどのようにして幹細胞性を獲得するのか、幹細胞になる割合は不明であり、今後は、腫瘍細胞が元来有する幹細胞との相違などを明らかにすることが必要である。

(103)2018年1月13日 担当:加藤 廉平
A metabolic function of FGFR-3-TACC3 gene fusions in cancer. Nature Letters 553, 222-227, 2018

<要旨>
近年の次世代シークエンス技術の発展に伴い、多くの固形腫瘍において、様々な新規融合遺伝子が同定されるようになった。本論文の筆者らは、これまでに膠芽腫症例の約3%において、Fibroblast growth factor receptor3 (FGFR3)とTransforming acidic coiled-coil containing protein 3(TACC3)の融合遺伝子(以下F3-T3)を認めれることを報告してきたが、F3-T3がどのような癌化関連シグナルを活性化するかは未解明であった。本論文では、F3-T3陽性膠芽腫の癌化には、ミトコンドリア代謝の亢進が関連することを新たに発見し、その機序としてペルオキシソーム生合成の亢進と、それに伴うreactive oxygen species(ROS)産生の関与を明らかにされている。
 初めに、筆者らはヒト星状膠細胞を用いてF3-T3に伴う転写レベルでの遺伝子発現変動について検討した。その結果、従来F3-T3との関連が報告されている有糸分裂関連遺伝子群に加えて、ミトコンドリア機能に関連した遺伝子群の発現亢進が明らかとなった。さらに、F3-T3発現に伴ったミトコンドリアDNAとATP産生の増加やミトコンドリア呼吸能の亢進を認めたことから、ミトコンドリア代謝の活性化に関与するF3-T3の基質タンパクの探索を、チロシンリン酸化抗体用いた免疫沈降産物についてliquid chromatography-tandem mass spectrometry(LC-MS)解析を行った結果、Peptidyl-prolyl cis-trans isomerase NIMA-interacting 4(PIN4)を同定した。続いて、The Cancer Genome Atlasのデータベースを用いて、F3-T3陽性膠芽腫の遺伝子発現解析を行ったところ、ミトコンドリア関連遺伝子群が最も発現亢進していることが確認された。さらに、F3-T3陽性膠芽腫の疾患関連遺伝子群における転写制御因子の探索を進めたところ、Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha(PGC1α)とoestrogen-related receptor(ERR)γを同定し、これらがF3-T3によるミトコンドリア呼吸鎖能の活性化に関与すること、およびxenograft modelやショウジョウバエを用いたF3-T3陽性膠芽腫モデル解析にて腫瘍形成との関連が明らかとなった。
 最後に、筆者らはF3-T3によるチロシンリン酸化修飾を受けたPIN4の細胞内局在がペルオキシソームに変化すること、およびPIN4結合タンパクとしてPeroxisome biogenesis factor 1(PEX1)を同定した。さらに、PIN4のチロシンリン酸化に伴ってペルオキシソーム生合成やタンパク合成を誘導され、それに伴いROSの産生が亢進し、PGC1α-ERRγによる転写制御が誘導されることを明らかにした。
 本論文によって、F3-T3陽性腫瘍の癌化には、従来報告されている有糸分裂活性亢進に加えて、新たにミトコンドリア代謝制御機能が関与することを明らかとなった。また、F3-T3 陽性症例に対する治療としては、FGFR阻害薬が期待される一方、そのオフターゲット効果による有害事象を誘導する危険性もある。本論文では、ミトコンドリア代謝を標的とした酸化的リン酸化阻害薬の抗腫瘍効果を新たに明らかにしたことから、F3-T3を含む新たな融合遺伝子の同定とその詳細な分子メカニズムの解明が新たな治療選択肢を広げることが示された。

2017

(102)2017年12月16日 担当:松下 洋輔
Tumor-Suppressor Inactivation of GDF11 Occurs by Precursor Sequestration in Triple-Negative Breast Cancer.
Developmental Cell 43, 418-435 (2017), doi:10.1016/j.devcel.2017.10.027

<要旨>
3次元細胞培養は人工的に生体内環境に近い状況を作製し, その周囲の環境と相互作用させながら培養する方法である. 一般的な単層培養は細胞同士が2次元的にしか相互作用ができないため, 生体内に存在する場合とは性質が大きく異なることが明らかとなってきており, 近年ではin vitroで3次元的に作製した臓器 (オルガノイド) など, 細胞機能をより生体に近づけた状態での解析が注目されている. 本論文ではこの3次元細胞培養法を用いて, TNBCの転移亢進形成過程を解析している. 筆者らはこれまでに, 上皮細胞を用いた3次元培養でのマイクロアレイ解析後, シングルセルと逆相関するクラスター解析から, TGFbファミリーのリガンドであるGDF11 (growth-differentiation factor 11) とTGFbの共受容体であるTGFBR3が同じクラスターに分類されることを示している.
 本論文ではGDF11が上皮細胞塊を維持するのに必須であることを見出し, GDF11刺激によるカドヘリンの発現維持も明らかにした. さらに, 乳腺細胞の発生・分化に必須のID2 (Inhibitors of DNA bainding /differentiation) を欠損させると, GDF11刺激による上皮性維持機構が破錠し, がん細胞が浸潤・転移能を獲得することから, ID2がGDF11刺激による上皮性の維持に関与することが示唆された. 一方, 公共がん体細胞変異データベースの解析から, GDF11は乳がんで変異やコピー数の変化がなく, 悪性度との相関も認められないことから, 乳がんの発がん過程において, GDF11は, geneticもしくはepigenetic変化による機能喪失を受けていない. そこで, 筆者らは, GDF11の活性化機構に着目し, 乳がんではGDF11前駆体から活性化体に変換させる酵素であるPCSK5 (proprotein convertase subtilisin/kexin type 5) に機能喪失型変異が高頻度に生じていること, がんの悪性度と相関することを見出した. 以上のことから, TNBCの発生初期段階では, PCSK5の分泌を通じてGDF11が活性型へと転換することで, がん細胞の上皮性を保っているが, 体細胞変異などにより, PCSK5の機能が低下し, 浸潤・転移能をもったTNBCとなる. このPCSK5はp53により誘導されるとの報告もあることから, TNBCで高頻度に認められる変異により, 発現が低下することが推測された.
 本論文では、DCIS (Ductal carcinoma in situ) 乳がんとTNBCにおけるGDF11の発現量や活性化シグナルの違いが未解決な点など, 今後の解明が期待される部分もあるが, より生体に近い3次元培養やオルガノイドによる発がん機構解析は, さらに多くの研究に利用されていくものと考えられる.

(101)2017年12月9日 担当:高橋 定子
Association analysis identifies 65 new breast cancer risk loci.
Nature 2017 551(7678):92-94

<要旨>
乳がんの遺伝的リスクには家族性乳がん原因遺伝子BRCA1のようなコーディング領域に認められるレア(変異)バリアントのほか、非コーディング領域に多数みられる低リスクであるコモンバリアント(遺伝子多型)が存在することが知られている。本論文では、ヨーロッパ系の122,977人の乳がん患者及び105,974人の女性健常人コントロールと、アジア系の14,068人の乳がん患者及び13,104人の女性健常人コントロールを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った。まずイルミナ社OncoArrayを用いたgenotypingデータとCollaborative Oncological Gene-environment Study (iCOGS)及び他の乳がんGWASデータを用いたメタ解析を通じて、全乳がんのリスクに関連した65座位(P < 5X10-8)を新たに特定した。さらに、500kb内で最も有意なP値から2桁以内のP値を示すバリアントとして定義するcredible risk variants (CRVs)を選出したところ、新規の65座位内にて2,221 CRVs、既知の77座位では2,232 CRVsを同定した。続いて、同定したCRVsが、ヒストンマーカーや転写因子結合部位を含む67のゲノムの特徴への分類を調べたところ、転写抑制因子CTCFをサイレンシングさせるDNase I hypersensitivity sites (OR=2.38, P=4.6E-14) が最も有意であり、さらに、FOXA1, ESR1, GATA3, E2F1やTCF7L2の結合サイトを含む13個の特徴に分類された。次に、各CRVsに対して、潜在的な機能バリアントを選び出し、標的遺伝子の予測と将来的な実験実証の優先順位づけを行うため、乳がん特異的な遺伝データを基にした遺伝的スコアリングシステム、integrated expression quantitative trait and in silico prediction of GWAS targets (INQUISIT)を構築した。各パスウェイを構成する遺伝子セットでのCRVs集積を確認した結果、いくつかの増殖あるいは分化関連パスウェイ、とりわけ線維芽細胞成長因子やWntシグナルパスウェイでCRVsが集積していた。さらなる解析により、転写因子結合部位の遺伝率において最も強い集積がみられ(5.2倍, P=8.5E-5)、続いてヒストンマーカーであるH3K4me3においても集積がみられた(4倍, P=0.0006)が、抑制領域ではCRVsが有意な減少を認めた (0.27, P=0.0007)。
筆者らはCRVsの比較的少ない4つの座位、近接レギュレータ(1p36、11p15)、遠位レギュレータ(1p34、7q22) に対する機能解析も実施した。レポーターアッセイにより、1p36はKLHDC7A (kelch domain containing 7A)の発現を亢進させるが1p36上にバリアントをもつと発現亢進が有意に減弱することが示された。逆に、11p15によるPIDD1の発現亢進は野生型よりもバリアントの方でより強まった。また、1p34はCITED4の発現を抑制しているが、1p34のputative regulatory elements (PRE)上にバリアントをもつと、抑制能が失われた。Chromatin conformation capture assays (3Cアッセイ)によりCITED4とPREが相互作用することも確認された。同様に7q22のPRE上にSNPをもつとターゲット遺伝子との相互作用が野生型に比べ弱まることも示された。以上の結果から、全乳がんに対する家族性乳がん相対リスクの18%に関連する座位が同定された。これらの解析結果は、乳がんのスクリーニング検査と早期発見、治療への応用に期待できる。


(100)2017年12月2日 担当:片桐 豊雅
20-Year Risks of Breast-Cancer Recurrence after Stopping Endocrine Therapy at 5 Years. N ENGL J MED 377;19, 2017

<要旨>
乳がんの70%以上がエストロゲン受容体(ER)陽性のホルモン依存性であり、そのうち、ER陽性早期乳がん患者には主に術後補助療法として5年間の内分泌療法が行われ、再発率の顕著な減少を認めている。さらに、5年間の補助療法の延長にて再発率の減少をもたらすという報告もあるが、副作用の出現もあり、その治療延長を判断するデータが少ないのが現状である。本論文では、EBCTCG (the Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group)のデータベースにて、500,692人の臨床試験に登録されたER陽性乳がん患者において、診断時に75歳未満、腫瘍径5cm未満、リンパ節転移10個未満の、5年間の術後補助内分泌療法を施行して無再発であった女性62.923症例の結果を用いて、20年間の追跡調査を行い、腫瘍径、リンパ節転移の有無(TN分類)、ステージと患者の転帰についてKaplan-Meier解析とCox回帰分析にて、5年間以降の治療のリスクおよびベネフィットについて検討している。腫瘍のサイズ2cm以下(T1)の症例において、リンパ節転移を認めない(N0)の症例の5年〜20年間の遠隔転移(distant recurrence)率は13%、リンパ節転移1〜3個は(N1-3)は20%,さらに4−9個(N4-9)では、34%をそれぞれ認めた。さらに、腫瘍のサイズ2cm-5cm(T2)の症例においては、N0は19%, N1-3は26%, N4-9では41%にもなり、これらから、遠隔再発および乳がん死亡リスクはTN分類に依存していたが。ステージとki67の免疫染色の強度は相関を認めたが、pgRとHer2は予測因子とはならなかった。さらに、5-20 年間のの T1N0患者の遠隔転移のリスクは,低悪性度症例は 10%、中悪性度症例は 13%、高悪性度症例は17%であり、また、全再発または対側の乳がんへの罹患リスクは,それぞれ 17%、22%、26%を認めた。
 本論文では、術後補助内分泌療法を5年間施行した後に、乳がんの遠隔転移などの再発リスクは、5-20年間一定の割合にて生じることを示した。このことから、5年後の内分泌療法の延長は再発リスクの低減を導くが、それによって引き起こされる更年期障害様副作用や二次がんの併発、骨粗鬆症の発生による骨折など、副作用との兼ね合いにて服用することが望ましい。


(99)2017年11月11日 担当:奥村 和正
Chromosome 1q21.3 amplification is a trackable biomarker and actionable target for breast cancer recurrence.
Nature Medicine 2017 Nov;23(11):1319-1330

<要旨>
再発は乳癌の死因で主要なものであるが、その再発リスクを予測できるようなbiomarkerの確立は十分為されているとは言えない。再発の原因のひとつに癌細胞のTICs (tumor-initiating cells)への形質転換がある。筆者らは包括的ゲノム解析(integrative genomic analyses)を通じてTICs関連遺伝子の発現変動を調べることで、1q21.3遺伝子座にてぞ増幅(amplification)が多く認められることから、この領域の遺伝子が再発のバイオマーカーとなり得ると考えた。TCGAなどのpublic databaseや臨床検体の解析にて1q21.3増幅は、TNBCを含むどの乳癌のサブタイプにおいても、primary tumorの10~30%、recurrent tumorの70%以上で確認され、顕著な予後不良であることがわかった。1q21.3の領域には、乳癌の悪性度に関連するS100A (S100 calcium-binding protein) familyが局在しており、そのうち、S100A8とS100A9は、IRAK1 (IL-1 receptor-associated kinase 1)のリン酸化通じて活性化させ、腫瘍細胞のスフェア(tumor sphere)を顕著に促進させて転移能を高めることをRNAiによる発現抑制系や過剰発現系の実験にて証明した。一方、S100A-IRAK1 axisは細胞増殖には関与していないことも証明した。本論文において注目すべき点は、筆者らは独自の測定法で血液中のcfDNA (cell-free DNA)において1q21.3 増幅を高感度に検出する「liquid biopsy」として、有望な乳癌の再発リスクのバイオマーカーになり得ることを証明した。
さらに、1q21.3 増幅を認める乳癌細胞において、JAK2阻害薬であるpaclitinibがS100A-IRAK1 axisを阻害し、強い抗腫瘍効果を発揮することを突き止めた。さらにpaclitaxelとの併用でadjuvantとして相乗的に1q21.3 増幅のある乳癌の再発抑制することを発見した。乳癌以外の癌腫にも1q21.3増幅を認めるものが多数存在しており、他の癌腫にも同様の効果がある可能性も示唆された。
薬剤への治療抵抗性の獲得や転移能の獲得には遺伝子変異が関与しており、この評価には再発巣の再生検 (re-biopsy)が不可欠であったが、低侵襲性であるliquid biopsyの普及によって、患者の受ける恩恵は計り知れない。この報告は乳癌の再発riskのバイオマーカーをliquid biopsyで測定でき、しかも既存の薬剤で制御できる可能性がある画期的なものである。早期の実用化を願って止まない。

(98)2017年10月28日 担当:吉丸 哲郎
Loss of MutL Disrupts CHK2-Dependent Cell-Cycle Control through CDK4/6 to Promote Intrinsic Endocrine Therapy Resistance in Primary Breast Cancer
Cancer Discovery, 7, 1168-1183, 2017

<要旨>
エストロゲン受容体(ER)陽性の乳癌患者の治療法は、主に抗エストロゲン製剤などの内分泌療法が術後補助療法や進行・再発乳癌の標準治療法として行われている。しかしながら、その治療法は、薬剤の投与期間が長く、耐性や副作用を生じたり、不応例もあるなど課題が多く、その耐性メカニズムの解明と新たな治療戦略が求められている。本論文は、乳癌患者の内因性の治療耐性はMutLミスマッチ修復遺伝子の欠損が関与することを明らかにし、さらに、それに伴って活性化されるサイクリン依存性キナーゼ(CKD4/6: cyclin-dependent kinase 4/6)活性が耐性克服のための治療標的になり得ることを述べたものである。
 まず、公共データベース(TCGA、NeoAI)から、ER陽性の乳癌患者はDNA修復関連遺伝子のうち、ミスマッチ修復関連遺伝子、特にMutL関連遺伝子(MLH1,PMS1,PMS2)において高頻度に体細胞変異が観察されること、および、これら遺伝子の低発現症例が予後不良であることを見いだした。さらに、MutL欠損の乳癌患者はホルモン療法(アロマターゼ阻害剤)に対して抵抗性を有していることも明らかになった。また、ER陽性乳癌細胞株におけるMutL関連遺伝子の発現抑制は、ER分解薬フルベストラントの細胞増殖抑制効果はキャンセルされ、抵抗性を獲得することが確認された。
 続いて、抵抗性機序の解明のために、MutL欠損にて誘導される抵抗性獲得に関与するタンパク質の同定を逆相プロテインアレイ法(RPPA:reverse phase protein array analysis)および細胞周期関連遺伝子の発現解析を行った。その結果、フルベストラント処理にてCHK2(checkpoint kinase 2)およびその下流分子p21が、MutL欠損細胞において発現抑制されていることが認められた。次に、CHK2がATM(ataxia telangiectasia, mutated) によってリン酸化されること、MLH1がATMの自己リン酸化に必須である足場タンパク質という報告から、MutL/ATM/CHK2がフルベストラントの抑制効果に関与するかどうかを検討した。その結果、ATMおよびCHK2の発現抑制および各阻害剤はフルベストラントに対する抵抗性を誘導することが明らかになり、さらに、MutLおよびCHK2の発現抑制はCDK4の発現を亢進していた。実際に、症例数は少ないが、臨床試験データからもMutL欠損ER陽性乳癌患者はホルモン剤とCDK4/6阻害剤の併用療法がきわめて効果的であった。
 本論文では、ER陽性乳癌患者でミスマッチ修飾関連遺伝子MutLの欠損がMutL/ATM/CHK2経路の阻害を導き、その結果、CDK4/6活性を亢進させることによって内分泌療法に対する内因的抵抗性の原因のひとつであると考えられた。このことは、MutL欠損ER陽性乳癌患者には内分泌療法とCDK4/6阻害剤の併用療法が有効な治療戦略になると期待される。しかしながら、MutLの欠損がER陽性乳癌でのみ生じるメカニズムやMutL欠損によるATM/CHK2の機能抑制メカニズムなどを今後追求することも必要である。

(97)2017年10月21日 担当:加藤 廉平
Fructose-1,6-bisphosphate and aldolase mediate glucose sensing by AMPK. Nature Letters 548, 112-116, 2017

<要旨>
哺乳類を含む大多数の真核生物の細胞は、主要なエネルギー源であるグルコースからの解糖や酸化的代謝によって、アデノシン三リン酸(ATP)を産生して細胞の活動エネルギーとして利用する。エネルギーストレスセンサーであるAMP-activated protein kinase (AMPK)は、飢餓ストレスが存在すると過剰にATPが消費されてアデノシン1リン酸(AMP)やアデノシン2リン酸(ADP)量が上昇し、この細胞内のエネルギー変化をAMP/ATPまたはADP/ATP比として感知して活性化される。AMPK活性化因子としては、このAMPやADP以外には見出されていなかった。本論文では、筆者らは、グルコース飢餓ではAMP/ADP増加を伴わずにAMPK活性化されること、さらに、その機序として、細胞内の解糖系で生成されるfructose-1,6-bisphosphate (FBP)の欠乏によることを明らかにした。
 初めに、筆者らはマウス胎児線維芽細胞(MEF:Murine embryonic Fibroblast)を用いてグルコース濃度に応じたAMPK活性を測定し、グルコース濃度の減少によってAMP/ADP増加を伴わずにAMPKが活性化されることを発見した。次に、グルコース飢餓単独に加えてグルコースおよびグルタミンの両方の飢餓の条件における経時的なAMPK活性を解析し、AMP/ADPの増加を伴わないAMPKの活性化がグルコース飢餓単独で誘導されることを発見した。続いて、このAMP/ADP非依存的なAMPK活性化機序として、AMPKとライソソーム膜上で複合体を形成するAMPK活性化酵素LKB1(Liver kinase B1)およびmTOR経路関連分子AXINやLAMTOR1に着目した。AXINおよびLAMTOR1ノックアウト細胞ではグルコース飢餓に伴うAMPK活性化が誘導されず、グルコース飢餓によるAMPK活性化に必須なNミリストリル化の変異体(AMPKβ2 G2A)ではAMPKのリソソーム膜上への移行が見られなくなることから、AMPKとAXIN-LKB1やLAMTOR1との複合体形成がこの機序に関与することが示唆された。続いて、グルコース飢餓に伴い誘導されるAMPK活性化と代謝の関連を調べた結果、グルコース飢餓によって減少する解糖系中間生成物のFBPがライソソーム膜上のAMPKの複合体形成に関連することが見出され、FBPの添加によってグルコース飢餓に伴うAMPKαのリン酸化の減弱が誘導された。さらにFBPの基質となるAldolaseの関連も調べると、Aldolaseの発現抑制によってグルコース存在下でAMPKの活性化が誘導され、Aldolaseとライソソーム膜上のLAMTOR1の結合が示された。このことから、グルコース飢餓ではLAMTOR1と結合したAldolaseの基質であるFBPが減少することによって、ライソソーム膜上におけるAMPKやAXIN-LKB1と複合体形成が誘導されてAMPKが活性化される機序が明らかとなった。
本論文において、グルコース飢餓の早期の段階で働いているAMP/ADP非依存性AMPK活性化が癌をはじめとする病態においてどのように働いているか、特にAMP/ADP依存性と非依存性のAMPK活性化の関与についての解明が待たれる。

(96)2017年10月14日 担当:松下 洋輔
Opposing effects of cancer-type-specific SPOP mutants on BET protein degradation and sensitivity to BET inhibitors.
Nature Medicine 23, 1046-1054 (2017), doi:10. 1038/nm.4372

<要旨>
エピゲノム創薬はこれまでヒストンのメチル化やアセチル化, DNAのメチル化に関与する修飾酵素「Writer」および脱修飾酵素「Eraser」を標的としてきた (HDAC阻害剤や脱メチル化剤)が, 修飾を認識する酵素「Reader」を標的とした小分子化合物の開発はなされていなかった. 近年開発されたBET阻害剤はこのReaderであるブロモドメインタンパク質とアセチル化ヒストンの結合を阻害することでがん細胞の増殖を抑制する. 一方, 最近になって、前立腺がんにおいて、E3ユビキチンリガーゼの基質結合アダプター分子であるSPOP(speckle-type POZ protein)の基質認識部位にミスセンス変異が高頻度に認められることが次世代シークエンス解析にて明らかになってきており, 変異によってSPOPの基質認識能が変化することで、発がんや進展に関連するタンパク質が集積することもわかってきている。本論文では、子宮内膜がんと前立腺がんを対象として、SPOPの同じドメイン上に変異を認める一方, BETタンパク質の分解とBET阻害剤の感受性ががん種によって異なることに着目している. はじめに、両癌種において、BETタンパク質群はSPOP-CUL3複合体の新規基質であることを同定した。子宮内膜がんではSPOP変異によってBETタンパク質の発現がプロテアソームを通じた分解促進により減少するのに対し, 前立腺がんでは、頻発する変異によってBETタンパク質との結合能が消失し, BETタンパク質の集積につながることがわかった. このことは、子宮内膜がんで認める体細胞変異の過剰発現を利用したSILAC (Stable Isotope Labeling using Amino Acids in Cell Culture) 解析を通じて、ブロモドメインタンパク質群の減少を同定したことからも明らかとなった。また, これらの変異はアミノ酸一次構造上の異なる領域にて認められており, 前立腺がんでは基質結合間隙に高頻度のミスセンス変異を認めるのに対し, 子宮内膜がんでは同じドメイン内の間隙周辺にミスセンス変異が認められ, この違いがBET阻害剤の感受性を決定していることがわかった. 以上のことから, SPOP遺伝子の変異は子宮内膜がんではBET阻害剤に感受性を示すことから有効であるのに対し, 同じドメイン内に変異を有する前立腺がんでは抵抗性を示し、癌腫によって異なる効果を認めることから、単純に機能ドメイン内の変異でも、その機能にどのように影響するかを詳細に調べる必要があることがわかった。


(952017年10月7日 担当:高橋 定子
Exercise-Induced Catecholamines Activate the Hippo Tumor Suppressor Pathway to Reduce Risks of Breast Cancer Development. Cancer Research 2017 77(18):4894-4904

<要旨>
乳がんにおいて発症リスク・再発・生存率と運動との間に強い関連性があることはこれまで様々な疫学的な論証がなされており、これらのエビデンスを基に、乳がん患者に対して適切な運動を勧める「がん特別訓練ガイドライン」が作られている。しかしながら、運動による乳がん抑制の分子的機序は未だよくわかっていない。これまで様々な循環器疾患リスク因子(circulatory risk factors)として、性ホルモン、代謝ホルモン、低レベルの炎症など、いずれも体重減少と関連する因子の長期的な減少が運動による抗腫瘍効果と結び付けられてきた。最近、筆者らは1回の運動による循環運動因子の急激な変化が、乳がん細胞の生存率を10%も低下させることを発見した。本論文では、運動にて誘導される乳がん抑制に関与する腫瘍化パスウェイ及びその制御因子の同定から、運動による乳がん抑制の分子的機序の解明について述べられている。
はじめに、運動による乳がん細胞増殖に与える影響を検証した。ホルモン陽性乳がん細胞株MCF-7もしくはホルモン陰性細胞株MCA-MB-231を用いて、乳がん患者あるいは健常者の運動前後の血清で培養したところ、いずれも運動後血清で有意な生存率の低下を認めた。同様に健常者の運動前後の血清で前培養した細胞株をマウスに移植したところ、MCF-7でのみ有意に腫瘍形成能が著しく低下した。激しい運動にて上昇するカテコールアミンの一種である、エピネフリン(EPI)及びノルエピネフリン(NE)を運動依存性乳がん抑制因子の有力な候補として、その影響を調査した。MCF7における運動後の血清培養による生存率及び腫瘍形成能低下が、アドレナリン作動性効果遮断薬であるプロプラノロール処理により、運動前との有意差がみられなくなった。そこでEPIとNEのどちらが乳がん抑制因子なのか決定するため、MCF-7あるいはMCA-MB-231に直接EPIあるいはNEを添加したところ、両細胞株ともにEPI、NEいずれでも細胞増殖が抑制された。また、MCF-7/MCA-MB-231腫瘍移植マウスにEPIあるいはNEを添加した場合も、両細胞株ともに腫瘍サイズが著しく縮小した。続いて、EPI及びNEはHippoがん抑制パスウェイを制御することが報告されていることから、このパスウェイの主要因子であるYAP(Yes-associated protein)とそのparalogueであるTAZ (transcriptional coactivator with PDZ-binding motif)への影響を確認した。その結果、EPI及びNEはともにYAPのリン酸化による不活化及びTAZタンパク質の減少を導き、YAP/TAZの標的遺伝子であるANKRD1(ankyrin repeat domain1) 及びCTGF(Connective tissue growth factor)の発現量を低下させた。同様に運動後の血清培養でもYAPのリン酸化が亢進されることでYAPの核内への移行が阻害され、ANKRD1及びCTGFの発現低下を誘導した。さらに、MCF-7/MCA-MB-231細胞移植マウスを用いて”回し車”を用いた運動の影響を調べたところ、運動を行った群で、両細胞株ともに腫瘍サイズが有意に縮小したが、ANKRD1及びCTGFの発現低下はMCF-7腫瘍でのみ確認された。以上のことから、運動依存性の乳がん抑制は、運動時に上昇するEPI及びNEによるYAPのリン酸化を介してYAP/TAZによるoncogeneの発現亢進を阻害することに起因することが示された。


(94)2017年9月9日 担当:片桐 豊雅
Elimination of large tumors in mice by mRNA-encoded bispecific antibodies
Nat. Med. 2017 23,815–817. doi:10.1038/nm.4356

<要旨>
抗体医薬はがん治療薬として多く臨床応用されているが、その製造の困難さや薬効の限界などの問題を有している。薬効については、近年、2つの異なる抗原結合部位を有するT細胞誘導二重特異性抗体(bispecific T-cell engaging antibody)が開発され、各抗原結合部位におけるT細胞特異的抗原およびがん細胞特異的表面抗原の認識を通じて、より高い特異性と免疫効果を発揮することが可能となった。実際に、成人および小児における再発性または難治性の前駆B細胞急性リンパ性白血病(ALL)の治療薬としてT細胞誘導二重特異性抗体ブリナツモマブ(blinatumomab) が、FDAに本年承認されているが、二重特異性抗体においても、その製造の困難さや短い半減期の問題は以前解消されていない。本論文では、高い安定性を有する修飾ヌクレオシドの導入および薬理学的に安定化させた、2つの抗体をコードするmRNA のin vitro転写発現系を開発し、それをがん細胞移植マウスへの直接投与で抗腫瘍効果を得ることに成功した。
 筆者らは、in vitro転写系にて合成したヒトT細胞に発現するCD3抗原およびがん細胞に発現するタイトジャンクションタンパク質CLDN6(Claudin 6)をコーディング配列とし、転写開始点にはCap構造の付加、3’UTRにはpolyA配列とより安定的なヌクレオチドであるN1メチルシュードウリジン(N1- methylpseudouridine)にてmRNA(RiboMABs)を合成した。RiboMABをがん細胞株に投与することで、CD3およびCLDN6発現特異的に細胞増殖抑制効果を認め、さらに、in vivoにおいてもRiboMABの尾静脈投与は、リコンビナントタンパク質にて調製したCD3とCLDN6よりもより少ない投与回数にて高い持続した抗腫瘍効果を認めた。また、mRNAの投与によって惹起される免疫反応(TNFα、IFN-γ、IL-1β、IL-6)の惹起は起こらなかった。
本論文では、これまで製造コストが高いことや高い純度の抗体を製造することの困難さなどを解消できる本手法は新たな二重特異性抗体の臨床開発を加速すると考えられる。現状では、mRNAの細胞内への取り込みのメカニズムについては今後の解析が待たれる。

(93)2017年9月2日 担当:奥村 和正
CDK 4/6 inhibition triggers anti-tumor immunity.
Nature. 2017 Aug 24;548(7668):471-475.

<要旨>
現在、乳がんの分子標的治療薬としてCDK4/6阻害剤の本邦での承認申請が行われ、非常に期待が高まっている中、すでにFDAでは、ファイザー社のPalbociclibとノバルティス社のRibociclibの承認に続き、CDK4への選択性の高いイーライリリー社のAbemaciclib、も承認される予定である。これまでの臨床試験から、CDK4/6阻害薬は乳がんだけでなく、肺がん、悪性膠芽腫、悪性黒色腫にも単剤で延命効果が認められている。また、これまでCDK4/6阻害剤の効能としてはG1 arrestに働くのみで、apoptosis誘導はないと報告されていたが、臨床試験では単剤治療にて一部の患者にて抗腫瘍効果も認められている。
本論文の筆者らは、この抗腫瘍効果のメカニズムの解明を目的に、乳がん細胞移植マウスモデルを用いたAbemaciclib投与による発現誘導遺伝子群の同定を試みた。その結果、サイクリン遺伝子(CYCLIN D1)に加えて、クラス1組織適合性抗原(classⅠ major histocompatibility complex)とそれに抗原ペプチドを提示するトランスポート関連分子【Tap1、2 (Transporter associated with Antigen Processing 1,2)】の発現上昇を突き止めた。さらに、これらの遺伝子群は、臨床検体でもAbemaciclib投与後に発現上昇することを、連続生検サンプルを用いた網羅的トランスクリプトーム解析によって証明した。
続いて、乳がん細胞移植マウスにおいてAbemaciclib投与によりE2Fの活性抑制、メチル化転移酵素DNMT1(DNA (cytosine-5)-methyltransferase 1)の抑制、生体内に存在する内因性レトロウィルス関連遺伝子【ERV3 (Endogenous retrovirus group 3)】の活性化、type-Ⅲ インターフェロンの発現亢進を証明し、それらに加え、抑制性T細胞(regulately T cell)の増殖抑制(キラー細胞への影響は少ない)を惹起することを証明し、強い免疫反応による抗腫瘍効果を得ることが示唆された。
特筆すべきは、キラー細胞においてPD-1 (Programmed cell death 1)やCTLA4 (Cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)の発現低下が認められたのに対して、がん細胞ではPDL-1 (Programmed cell death ligand 1)の発現亢進が認められることで、PDL-1抗体との併用投与での相乗的ながんの退縮を認めた。以上のことから、本論文ではCDK4/6 阻害剤は標的分子の機序を通じた作用に加えて、がん免疫誘導にも寄与するという画期的な結果を見いだしている。しかし、顕著な抗腫瘍効果を期待する一方、強い副作用の懸念もあるAbemaciclibの本論文でのマウスモデルへの投与量が実臨床にける投与量に比して大量に用いられているによるオフターゲット効果の懸念や、ヒト投与におけるレトロウィルス活性の惹起に関する証明も今後必要と考えられる。実際に、CDK4/6 阻害剤の治療法として確立するには今後のがん免疫の視点を加えた緻密な臨床試験が必要であろう。

(92)2017年7月29日 担当:吉丸 哲郎
PI3K pathway regulates ER-dependent transcription in breast cancer through the epigenetic regulator KMT2D
Science, 355, 1324-1330, 2017

<要旨>
エストロゲン受容体(ER)陽性の乳癌患者において、PIK3CA遺伝子の活性化変異は高頻度に観察されることから、PI3Kシグナルを標的とした選択的阻害剤(BYL719)の臨床応用が展開されている。一方、最近になって、ERの転写活性の相補的な亢進が、PI3K阻害剤に対する不応性の原因であることが報告された。本論文では、PI3K阻害剤(BYL719)によるERシグナルの活性化メカニズムにはヒストンメチルトランスフェラーゼKMT2D(lysine methyltransferase 2D)の機能が重要な役割を担うことを述べている。
 はじめに、ChIP-seq法(クロマチン免疫沈降-シーケンス)により、BYL719にて誘導されたER転写活性化に関与する転写制御因子の同定を試みた。その結果、24時間のBYL719処理にて、ERとクロマチンの結合の亢進(クロマチン・リモデリング)、特に、ERが転写因子FOXA1およびPBX1と複合体を形成することが確認された。一方、FOXA1もしくはPBX1を発現抑制すると、これら複合体の形成が阻害され、多くのER標的遺伝子の発現抑制が認められた。さらに、FOXA1の発現抑制はBYL719の抗腫瘍効果を促進させたことから、PI3K阻害剤によるERの活性化にはER-FOXA1-PBX1複合体の形成が関与することが示唆された。
 次に、FOXA1およびPBX1は、メチル化されたヒストンH3と相互作用するという報告から、PI3K阻害剤によるERの転写活性化の亢進にヒストンH3K4のメチル化が関与すること、さらに、遺伝子発現を促進するヒストンメチルトランスフェラーゼのなかで、KMT2DがERのcoactivatorとして作用することに着目し、KMT2DがER-FOXA1-PBX1の複合体に及ぼす影響を検討した。その結果、KMT2DがBYL719処理によりヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を亢進すること、ER-FOXA1-PBX1の複合体形成を促進すること、メチル化したヒストン量の増加が確認された。さらに、KMT2Dは、PI3Kの下流分子AKTによって、その1331番目のセリンのリン酸化されることで、メチルトランスフェラーゼ活性が抑制されることがわかった。
 本論文では、PI3K阻害剤によるPI3K-AKT経路の阻害が、KMT2Dの脱リン酸化を介したKMT2Dの活性亢進を導き、その結果、ER-FOXA1-PBX1のクロマチン・リモデリングを介したER転写活性を亢進させることが明らかとなった。このことから、PI3K阻害剤とKMT2D阻害剤の併用療法がER陽性乳癌患者の有効な治療戦略になると考えられる。しかしながら、このER活性化メカニズムがPI3K阻害剤に不応性患者に関連することは明らかになったが、KMT2DがPI3K阻害剤による獲得耐性に関与するかどうかは不明な点もあり、PI3K阻害剤によるKMT2Dの脱リン酸化のタイミングやヒストンメチルトランスフェラーゼ活性化との関連性を追求することも必要である。


(91)2017年7月22日 担当:加藤 廉平
Extracellular Acidic pH Activates the Sterol Regulatory Element-Binding Protein 2 to Promote Tumor Progression. Cell Reports 18, 2228-2242, 2017

<要旨>
腫瘍細胞の増殖や代謝において低酸素、栄養飢餓や酸化ストレス等の微小環境が重要な役割を担っている。そのうち、酸化ストレスは低酸素と解糖系代謝による乳酸(Lactate)や水素イオン(Proton)産生によって誘導されることが知られている。さらに、酸化ストレスによる腫瘍の進展や浸潤に対する促進効果が報告されているが、その機序は不明とされてきた。本論文では酸化ストレス環境下における腫瘍の進展や増殖促進の機序として、コレステロール生合成関連遺伝子であるSterol Regulatory Element-Binding Protein 2 (SREBP2)およびacyl-CoA synthetase short-chain family member 2 (ACSS2)の発現誘導制御機構への関与を明らかにしている。
 初めに筆者らは、膵癌細胞株において、酸化ストレス環境が低酸素と栄養飢餓ストレスに比して顕著な細胞増殖抑制効果を導くこと、さらに細胞接着能の低下も導くことを明らかにした。続いて、RNA seq による遺伝子発現解析により、酸化ストレス特異的に発現変動する遺伝子群を選抜し、さらにパスウェイ解析とオープンクロマチン領域を濃縮するFAIRE-seq 解析を通じて、コレステロール生合成に関わる転写制御因子SREBP2を同定した。詳細な機能解析から、酸化ストレス条件においてSREBP2がプロセシングを受け、標的遺伝子のプロモーター領域への結合が誘導されることを示し、コレステロール減少によって働くSREBP2の転写制御機構が酸化ストレス環境下でも誘導されていることを明らかにした。また、小胞体膜上のSREBP2の活性化が細胞外の酸性環境による細胞内pHの低下によって誘導されていることも明らかにした。さらに、マイクロアレイとGO解析を通じて、酸化ストレス環境におけるSREBP2発現を介して発現制御される分子として、HMGCS1やFDFT1等のコレステロール合成酵素を同定し、酸化ストレス誘導性のSREBP2制御による総コレステロール量の増加を確認した。次に、ChIP seq解析により、SREBP2によって酸化ストレス誘導性に直接制御される標的遺伝子群と前述のマイクロアレイによる発現解析結果の統合データ解析からpH反応性 SREBP2標的遺伝子の一つとしてACSS2を同定した。ACSS2は酸化ストレス条件下にて、SREBP2のよって発現誘導され、さらにin vivo実験において腫瘍増殖を促進させた。また、TCGAデータ解析によって前述のpH反応性SREBP2標的遺伝子群の発現は複数の癌種のoverall survivalに相関し、予後不良因子であることが証明された。
 本論文によってSREBP2のコレステロール代謝経路の阻害に対する治療的アプローチが新規の治療戦略の可能性を示唆するものであった。また、酸化ストレスに関連したSREBP2標的遺伝子の発現が複数の癌種の予後予測マーカーとしての可能性も示された。

(902017年7月8日 担当:松下 洋輔
The metabolic function of cyclin D3-CDK6 kinase in cancer cell survival.
Nature 546, 426-430 (2017), doi:10.1038/nature22797

<要旨>
D型サイクリン(cyclin D)は、サイクリン依存性キナーゼ (CDK4/CDK6)と結合して、そのキナーゼ活性を上昇させ、G1期の調節を行うことで細胞周期進行を制御している。多くのがん細胞は、この複合体の活性亢進が認められていることから、CDK4やCDK6の阻害剤が開発され、現在、複数種のがんで臨床試験が進行中である。その先行試験として、CDK4/CDK6阻害剤Palbociclibとアロマターゼ阻害剤であるレトロゾールとの併用投与とレトロゾール単剤を閉経後ER+ HER2-転移性の閉経後乳がん女性症例を対象とした第II相のPALOMA-1試験にて統計学的に有意な無増悪生存期間(PFS)の改善を認めた。この結果を受けて、PalbociclibはER+ HER2-閉経後進行乳がんに対するレトロゾールとの併用による1次治療としてFDAのBreakthrough Therapy指定を受け、2015年2月に承認されている。
 CDK4/CDK6阻害剤は、基質であるRB1タンパク質のリン酸化を抑制することで、細胞周期の停止を通じて老化を惹起し、癌細胞の増殖を抑制する。一方、T細胞急性リンパ性白血病 (T-ALL)においては、RB1が欠損していても効果の維持が認められることが謎であった。著者らは、上記知見からT-ALL細胞にて高発現を認めるCDK6とCyclin D3が細胞周期制御の機能とは異なる機能を有していると仮説を立て、CDK6との新たな結合蛋白質の探索を行った。その結果、解糖系に重要な2つの酵素、6-ホスホフルクトキナーゼ (PFK1) とピルビン酸キナーゼM2 (PKM2) を両者ともリン酸化して、それらの触媒活性を阻害していることを明らかにした。解糖系の律速酵素であるPFK1とPKM2の阻害は、中間体のペントースリン酸経路とセリン経路への流入を減少させ、抗酸化物質NADPHおよびグルタチオンの産生低下を引き起こす。一方、活性酸素種 (ROS) レベルは有意に上昇することから、ROS誘発性の細胞死が引き起こされるてることがわかった。興味深いことに、この代謝リプログラミングは他のタイプのD型サイクリンとCDK4/CDK6複合体では誘導されない。
 CDK4/CDK6阻害剤はCyclin D3-CDK6複合体の高発現を認めるメラノーマでも同様の機序を介した細胞死を誘発することも示し、cyclin D3-CDK6複合体の発現量を測定すれば、細胞死や腫瘍退縮を誘発する腫瘍であることを分類できることに役立つことが推測され、今後のCDK4/CDK6阻害剤の効果判定に有用であると期待される。


(892017年7月1日 担当:高橋 定子
BAP1 regulates IP3R3-mediated Ca2+ flux to mitochondria suppressing cell transformation.
Nature 2017 546(7659):549-553

<要旨>
BRCA1 associated protein-1(BAP1)遺伝子は悪性中皮腫やぶどう膜黒色腫、多発性規基底細胞上皮腫をはじめとする多くのがんにおいて変異が認められている癌抑制遺伝子である。BAP1遺伝子の生殖細胞系ヘテロ変異保因者(BAP+/-)は、BAP1遺伝子の両対立遺伝子変異の獲得が高頻度で認められることから、保因者は生涯で一回または複数回の、BAP-/-の悪性腫瘍を発症する。BAP1は核に局在する脱ユビキチン化酵素であり、ゲノム安定性の維持に寄与する抑制分子として機能すると考えられてきた。本論文では、新たな細胞質におけるBAP1の機能の解明を通じた発がんへの関連性について述べている。 
 筆者らはBAP+/-変異を継承している2つの中皮腫多発家系由来の線維芽細胞を用いて、BAP1WT及びBAP1+/-細胞株を構築した。BAP1+/-細胞はBAP1WT細胞に比べて、H2O2、C2セラミド、メナジオン曝露によるストレス下にて、アポトーシスの遅延・減弱および、アポトーシスを誘導する小胞体からミトコンドリアへのCa2+の放出量の減少が認められた。続いて、小胞体からミトコンドリアへのCa2+の放出量を制御するtype 3 inositol-1,4,5-trisphosphate receptor(IP3R3)に着目し、その発現を調べた結果、BAP1+/-細胞では、BAP1WT細胞に比べて、タンパクレベルでの発現減少が認められた。
 次に、これまでの報告から、IP3R3はユビキチン化を介したタンパク分解を受けること、およびBAP1は脱ユビキチン化酵素であることから、筆者らはBAP1がユビキチン化されたIP3R3を脱ユビキチン化することで安定化するかを検討した。その結果、BAP1+/-細胞では、BAP1のIP3R3のN末ドメインを介した結合量の減少が認められた。次に、IP3R3との結合能は有しているが、触媒活性の消失したBAP1(C91S)変異体コンストラクトとコントロールとしてBAP1WTコンストラクトをBAP1-/-細胞に導入したところ、BAP1WTの導入細胞では小胞体からミトコンドリアへのCa2+の放出量の回復が認められ、さらに、H2O2曝露後のアポトーシスの誘導、ユビキチン化IP3R3の減少およびIP3R3に対する脱ユビキチン化がみられたが、BAP1(C91S)ではいずれの変化も認められなかった。加えて、核でのBAP1の働きと細胞質でのBAP1の働きの関与について検討した。BAP1+/-細胞ではBAP1WTに比べて電離放射線によるDNA損傷に対する修復能の減弱・遅延が見られたが、一方、BAP1+/-細胞ではDNA修復能の減少が認められるにもかかわらず、電離放射線照射後の細胞生存がBAP1WTに比べて上昇していた。BAP1あるいはIP3R3をノックダウンさせるとクロシドライト曝露後の小胞体からミトコンドリアへのCa2+の放出量の減少、アポトーシスの減弱、さらに形質転換率の上昇がみられた。BAP1発現抑制後にBAP1あるいはIP3R3を発現すると形質転換の上昇が抑えられ、さらに核あるいは細胞質特異的に局在するBAP1の発現は、細胞質局在BAP1を添加した場合に形質転換を著しく抑制した。 
 以上のことから、BAP+/-保因者のがん発症率の高さは核局在BAP1の機能低下によるDNAダメージの増大と、細胞質BAP1の機能低下によるDNA損傷の蓄積した形質転換細胞に対するアポトーシスの減弱という、両方の機能低下が組み合わさった結果であることが明らかとなった。


(882017年6月10日 担当:奥村 和正
A stemness-related ZEB1–MSRB3 axis governs cellular pliancy and breast cancer genome stability
Nature Medicine 23, 568–578 (2017)

<要旨>
染色体不安定性 (chromosomal instability :CIN)は、ゲノム不安定性に直結し、ほとんどの癌の初期段階から見られる特徴であり、多くの遺伝子・タンパク質の発現変動や機能異常を来すことから、腫瘍形成のdriver因子であると考えられている。しかしながら、CINの認められない特定の悪性腫瘍のサブタイプが認められており、一部のトリプルネガティブ乳癌(TNBC)においても存在することが分かってきた。本論文では、EMT-誘導性転写因子ZEB1 (Zinc finger E-box-binding homeobox 1)とROS獲得耐性関連分子MSRB3 (Methionine-R-sulfoxide reductase B3)との相互作用がCINを認めないTNBCの特定のサブタイプの悪性形質転換に重要な役割を担っていることを明らかにしている。
筆者らはまず、正常乳管細胞を幹細胞から上皮細胞、筋上皮細胞への各分化の段階を特徴づける細胞膜表面マーカーを指標として分画した各細胞集団を用いてDNAマイクロアレイを行った結果、幹細胞集団にて、ZEB1およびMSRB3の発現が顕著に高いことを見いだした。また、TCGAのdataでも幹細胞由来の乳癌のサブタイプでこれらの分子のmRNAレベルの発現が高いことや、幹細胞由来のTNBC臨床検体のマイクロアレイ解析でこれらの発現が高いことを証明した。
続いて、既報から、正常乳管上皮細胞にRASを過剰発現させることによって誘導されるDNA damageがZEB1およびMSRB3の過剰発現にて消失することや、53BP1 (p53 binding protein-1)の発現が減弱することを免疫染色で確認された。また、ZEB1およびMSRB3の過剰発現ではROS抵抗性を獲得することもFACS解析にて証明された。一方、幹細由来TNBC細胞株であるHs578T細胞におけるZEB1およびMSRB3の発現抑制はRASの過剰発現によるDNA damageやROSへの感受性の亢進を同様の実験で確認した。
幹細胞由来TNBCはMolecular Taxonomy of Breast Cancer International Consortium (METABRIC:乳がん分子分類学国際コンソーシアム)の分類では一部のbasal-like typeおよびclaudin low typeを示すcluster4に属し、これは全乳癌の17%、TNBCの26%を占める。さらに、分化した乳腺上皮細胞では、RASを代表とする癌遺伝子の活性化により、p53によるDNA損傷が引き起こされるが、幹細胞ではZEB1、MSRB3相互作用を通じたこの経路の抵抗性獲得を誘導することによって、このサブタイプ特有の悪性形質転換を得ると結論づけている。病理学的においても、この幹細胞由来のサブタイプではZEB1高発現、低頻度のp53変異、染色体不安定性の低下などを認めており、病理診断でこれらを認めるサブタイプに対するZEB1やMSRB3を治療標的とした創薬の可能性があると考えられる。


(872017年6月3日 担当:吉丸 哲郎
Intratumoural heterogeneity generated by Notch signalling promotes small-cell lung cancer. Nature, 545, 360-364, 2017

<要旨>
小細胞肺癌(small cell lung cancer: SCLC)は、肺癌の他の組織型と比べて増殖速度が早く、その腫瘍微小環境が腫瘍組織の形成、生存、転移に大きく関与していることが知られている。特に、標準的化学療法の効果は一過性で、早期に耐性獲得が生じることが特徴としてあげられる。本論文では、SCLCが腫瘍抑制性と促進性の両方の機能を有するNotchシグナルに着目し、ニッチと呼ばれる腫瘍微小環境の形成に寄与することで、腫瘍の細胞増殖を促進することを明らかにし、そのメカニズムに基づいた新しい治療法の可能性を述べている。
 はじめに、SCLCのマウスモデルやヒトの腫瘍組織においてNotchシグナルの活性化を確認した一方、腫瘍組織内にNotchシグナルの活性化細胞と不活性化細胞が不均一に存在することが観察された。興味深いことに、単一細胞のqRT-PCR解析からNotch活性化細胞はNotch受容体を、Notch不活性化細胞はNotchリガンドをそれぞれ特異的に発現していたが、Notch不活性化細胞のなかにはリガンドと受容体ともに発現を認める細胞が観察された。続いて、この細胞をNotchリガンドであるDll4(Delta-like ligand 4)で刺激したとき、10~50%の腫瘍細胞で低増殖性で、Notchシグナルの活性化を認める非神経内分泌細胞が産生され(Notchの腫瘍抑制作用)、化学療法に対する抵抗性を認めた。さらに、マイクロアレイ解析とNotch抗体を用いたChIPアッセイを通じて、この形質転換はNotchシグナルによる神経内分泌遺伝子の発現を抑制する転写因子Rest(RE1-Silencing Transcription factor:別名Nrst)の発現誘導によるものであることがわかった。一方、これらの非神経内分泌細胞はMDK(Midkine)などのサイトカインを分泌することで、神経内分泌細胞の増殖促進に寄与する(Notchの腫瘍促進作用)ことも明らかになった。以上より、SCLCはNotchシグナルの活性化により腫瘍細胞集団の一部に、自身のニッチ環境を作り出して、細胞増殖を亢進することが考えられた。この観点に基づき、神経内分泌細胞を標的とした化学療法と非神経内分泌細胞を標的としたNotch阻害剤の併用療法は、SCLCモデルマウスの腫瘍増殖を相乗的に抑制し、再発遅延することがわかった。
 本論文では、SCLC腫瘍内の不均一性は、腫瘍抑制性と腫瘍発生促進性の両方の機能を示すNotchシグナル経路に起因することに基づいた併用療法の可能性が示された。しかしながら、最近の第2相の臨床試験ではNotch阻害剤と化学療法の併用療法は良好のデータを得ておらず、Notchシグナルによる非神経内分泌細胞への転換のタイミングや、どの程度の活性化が治療抵抗性に関与しているのかを明らかにすることが必要である。また、25%のSCLCではNOTCH 遺伝子群の機能喪失変異が認められており、NOTCH 変異SCLC細胞における今回の腫瘍形成メカニズムの関連性を追求することも必要と思われる。


(86)2017年5月27日 担当:加藤 廉平
Mitochondrial elongation-mediated glucose metabolism reprogramming is essential for tumour cell survival during energy stress. Oncogene 2017 April 24, doi:10.1038/onc.2017.98

<要旨>
腫瘍細胞が低酸素・低栄養・酸化ストレス等に対する耐性獲得し、癌化・進展していくためには、Warburg効果が重要な代謝変化として知られている。また、ミトコンドリアは融合と分裂の形態変化による機能制御が行われており、ミトコンドリア形態変化と代謝の関連も示されている。本論文では、腫瘍細胞において栄養飢餓によるミトコンドリア融合と解糖系からミトコンドリア呼吸鎖へ代謝変化がもたらされ、この変化が栄養飢餓ストレスに対する防御機構の一つであることを明らかにしている。
 初めに筆者らは、肝癌、乳癌、大腸癌の細胞株を用いて、栄養飢餓条件下におけるミトコンドリア形態の分裂から融合への変化を確認し、さらにヒト腫瘍内部の壊死組織において、栄養ストレスを示すAMPKのリン酸化を観察した。この現象に関与する分子として、ミトコンドリア融合・分裂に関わることが知られているDynamin-related protein 1(DRP1)に着目し、その活性制御ドメイン内のS637のリン酸化がDRP1の抑制制御として重要であること、栄養飢餓条件下でミトコンドリア融合へと制御していることが明らかとなった。このDRP1S637リン酸化は、栄養飢餓によるprotein kinase A(PKA)の亢進と関連しており、腫瘍の免疫組織染色において両者の有意な相関が認められた。この形態変化によってもたらされる腫瘍細胞の代謝変化は、ミトコンドリア融合による解糖系からクエン酸回路への変化が示された。また、融合しているミトコンドリアではクリステの形態変化やミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰ~Ⅴの機能が亢進していることが示された。このようなミトコンドリア変化に伴う代謝変化の制御関連分子として、HIF-1αの脱アセチル化による不活化の働きを有するSirtuin 1 (SIRT1)との関わりについて調べたところ、ミトコンドリア融合に伴いNAD+濃度の上昇およびSIRT1活性亢進とHIF-1αの脱アセチル化による発現低下が認められ、ミトコンドリア融合に伴う解糖系の阻害の制御にSIRT1が機能することが明らかとなった。さらに、栄養飢餓ストレスに対するミトコンドリア融合が抗アポトーシス効果を示し、in vivo実験においてDRP1S637A変異体で腫瘍増殖能の低下や抗アポトーシス効果が認められた。特筆すべきこととして、ミトコンドリア形態変化の関連が明らかとなったp-DRP1S637は、overall survivalとrecurrence free survivalにて有意な予後不良因子となることが示された。
 本論文により腫瘍細胞の代謝は、栄養飢餓ストレス環境下ではミトコンドリア形態変化に伴い解糖系から酸化的リン酸化へ変化させることで細胞生存を図っていることが明らかとなり、このような代謝変化が腫瘍のheterogeneityの一つの機序として新たな治療標的になる可能性が示された。


(85)2017年4月22日 担当:松下 洋輔
T cell costimulatory receptor CD28 is a primary target for PD-1-mediated inhibition.
Science 355, 1428-1433 (2017)

<要旨>
Programmed cell death 1 (PD-1) はT細胞の活性化や増殖抑制を導く負の補助刺激受容体で、近年がんの新たな治療法として注目されているがん免疫療法の標的分子である。その証拠に米国臨床腫瘍学会ではアドバンス・オブ・ザ・イヤーに2年連続免疫療法薬が取り上げられている。この契機となったのは、もう1つの負の補助刺激受容体CTLA-4に対する抗体(抗CTLA-4抗体)ならびに抗PD-1抗体が、がん治療薬として承認されたことにある。これらの抗体はがん細胞による免疫逃避機構を遮断することにより、T細胞が正常に機能することで、免疫系を活性化させてがんを治療する「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれ、これまでのがん治療に新たな選択肢をもたらしている。現在では、これら抗体薬を用いた多くの臨床試験が進められており、今後は、利益を受けるがん患者の増加が予想されているが、効果の認められない患者も存在し、その原因解明が急がれている。
 本論文では、これまで未解決であったPD-1の標的分子について、人工的に脂質膜上(単層リポソーム)に発現させた分子の挙動をin vitroにて観察する方法を用いて、特異的な相互作用分子の同定に成功した。これまでに報告されていたPD-1をリン酸化するキナーゼであるLckとCskのうち、T細胞受容体により活性化されたLckがPD-1をリン酸化することを見出し、一方CskはLckの存在下でこのリン酸化を遅延させることが分かった。次に、PD-1相互作用分子の候補として、SH2ドメインを有するタンパク質に着目したところ、脱リン酸化酵素であるShp2の結合を認めたが、他のSH2タンパク質との結合は認められなかった。さらに、PD-1とShp2の結合はLckによるPD-1のリン酸化が持続されることで維持されることも示された。続いて、PD-1とShp2複合体により脱リン酸化される基質の同定を試みたところ、予想に反して、T細胞受容体ではなく、正の補助刺激受容体に存在するB7をリガンドとするCD28と選択的に結合し、脱リン酸化されることを見出した。
 最後に、この単層リポソームを用いて得られた結果をT細胞株であるJurkatおよび抗原提示細胞としてRaji B細胞株を用いて確認したところ、PD-1リガンドであるPD-L1によるPD-1の活性化は、CD28のリン酸化の低下を導くことが明らかとなった。このことは、同時掲載された他の論文 (Rescue of exhausted CD8 T cells by PD-1-targeted therapies is CD28-dependent) においても、CD28の抑制がPD-1抗体の効果の消失を導くことで証明されており、PD-1抗体によるT細胞活性化におけるCD28関与の重要性があきらかとなった。
 現在、PD-1抗体単独での治療奏効率は20-30%であり、残りの患者の不応答の原因はほとんど分かっていなかったが、今回の結果は副刺激受容体の活性も含めた枠組みで詳細に解析することで、今後効果予測の改善が期待される。


(84)2017年4月15日 担当:高橋 定子
LACTB is a tumour suppressor that modulates lipid metabolism and cell state.
Nature 543(7647):681-686 2017

<要旨>
心臓、骨格筋、脳などの細胞を除くほとんど全ての細胞からがんが発生するが、これらのがんの発生率の低い臓器の細胞は非増殖性、高分化、解糖ではなく酸化的リン酸化依存のエネルギー産生を行うというがん細胞とは対照的な特徴を有する。本論文において筆者らは、これら非増殖性の細胞を特徴づけるがん抑制因子が存在すると仮説をたてた。ヒト及びマウスの骨格筋細胞に用いて、未分化細胞に比べて分化した細胞で有意に発現が上昇している遺伝子を探索した結果、lactamase beta (LACTB)に着目した。LACTBは非腫瘍原性細胞株において、タンパク質レベルにて高い発現を認めるが、その一方、多くの乳がん細胞株では発現が顕著に低下していた。また、714人の乳がんの臨床検体での解析では、正常乳腺細胞ではLACTBが100%発現していたのに対し、乳がん細胞では34-42%で発現が低下していた。さらに、乳がん細胞株におけるLACTBの過剰発現にて増殖能及びDNA合成能の低下が認められたが、HME、MCF-10A、BJ1といった非腫瘍性細胞株では増殖能、DNA合成ともに変化を認めなかった。続いて、コンディショナル発現誘導系にて、LACTBを導入した腫瘍細胞移植マウス用いて腫瘍形成能を調べたところ、発現誘導後2-3週間にて、腫瘍が完全に消えるほど腫瘍サイズの顕著な縮小が認められた。また、LACTBを強制発現した乳がん細胞株では各種のがん肝細胞マーカー(CD44、ZEB1)及び間葉系マーカー(Vimentin、Fibronectin)の低下および上皮系マーカー(CD24、EPCAM、E-cadherin、β-catenin、CK8)の上昇が認められ、LACTBが分化に関与することが示唆された。以上のことから、乳がん細胞では、LACTBの発現低下がLACTBの発現の低下による上皮分化の誘導阻害が示唆された。
 先行研究からLACTBが脂質代謝に関与することから、LACTBのミトコンドリア脂質組成に及ぼす影響を調べたところ、乳がん細胞株においてLACTBの発現によりlysophosphatidylethanolamine (LPE)及びphosphatidylethanolamine (PE)の減少がみられた。加えて、LACTBの強制発現による増殖能低下がLPEを添加することにより回復が認められた。また、ミトコンドリア内でphosphatidylserine (PS)からPEへの転換を担うphosphatidylserine decarboxylase (PISD)がLACTBの強制発現により顕著に減少すること、およびPSからPEの産生の減少も示された。さらには、LACTBは基質ペプチドのアスパラギン酸に続くアミノ酸配列を切断するプロテアーゼとしての機能を有することも示された。以上のことから、腫瘍細胞へのLACTBの過剰発現はそのプロテアーゼ活性によるPISD分解を介してミトコンドリアにおけるLPEあるいはPEの減少をもたらし、この結果、細胞の上皮分化が促進され、腫瘍形成能の消失を導くことから、LACTBが癌抑制遺伝子として機能することが示唆された。
 以上のように、筆者らは非増殖性・腫瘍抵抗性の細胞に着目することで、新たながん抑制遺伝子の同定に成功した。


(83)2017年3月25日 担当:松下 洋輔
Loss of the histone methyltransferase EZH2 induces resistance to multiple drugs in acute myeloid leukemia  Nature Medicine 23, 69-78 (2017)

<要旨>
急性骨髄性白血病 (AML) の治療法は進歩が認められるものの、いまだ化学療法が標準療法である。一方、成人のAML患者では40%未満のみ化学療法が奏効せず、その多くは治療耐性を生じることにより高い致死率となっているのが現状である。近年、これら治療耐性獲得の原因がエピジェネティック異常であることが報告されてきている。ヒストンメチル基転移酵素EZH2 (Enhancer of zeste homolog 2)は多くの固形癌において過剰発現が報告されており、また非ホジキンリンパ腫やメラノーマでは高頻度に活性型変異が認められる報告からEZH2標的治療薬の開発が進んでいる。その一方、骨髄腫ではEZH2の不活化が予後不良に関連するとの報告も有り、各癌種における作用機序の違いも指摘されている。
 本研究では、EZH2の欠失とそれによるヒストンH3K27トリメチル化(H3K27me3)の減少がマルチキナーゼ阻害剤や化学療法耐性獲得の原因であることを報告している。
 筆者らは、EZH2とH3K27me3の発現低下を認めたAML患者は予後不良であること、さらに再発時にも約半数の患者で両タンパク質の低下が認められることを明らかにした。続いて、初代AML培養細胞やAML細胞株でEZH2の発現を抑制すると、化学療法抵抗性を獲得することもわかった。また、約30%の予後不良AMLにて生じるFLT3-ITD融合遺伝子を有する細胞に対して、マルチキナーゼ阻害薬耐性株は化学療法薬に対して耐性を示すだけでなく、EZH2タンパク質の低下を認めた。さらに、網羅的遺伝子発現解析から、このEZH2の低下はHOX遺伝子の脱抑制を誘導し、一方、HOXB7やHOXA9の発現抑制は各種抗がん剤に対する感受性を回復させた。耐性細胞で認められたEZH2の低下は転写レベルでの制御を受けておらず、CDK1を介したEZH2 Thr487リン酸化の亢進が認められた。この相互作用はHSP90やそのアダプタータンパク質であるSTIP1により安定化され、プロテアソームで分解されていることを明らかにした。また、このEZH2喪失メカニズムはドキソルビシン耐性細胞でも同様に確認された。それゆえプロテアソーム阻害剤はEZH2の分解を抑制し、HOX遺伝子の抑制を介して薬剤感受性を回復させた。さらに、標準療法後再発した患者のうち、EZH2の発現低下を示した患者はプロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブと化学療法シタラビンとの併用療法に感受性を示し、EZH2の発現回復およびHOXA9の発現低下、これに伴う芽球の有意な除去が認められた。以上のことからEZH2の発現が低下しているAML患者にはEZH2タンパク質の回復が治療抵抗性を克服するための新しい治療アプローチとして有用であることが示された。


(82)2017年3月18日 担当:奥村 和正
Breast Cancer Resistance to Antiestrogens Is Enhanced by Increased ER Degradation and ERBB2 Expression
Cancer Research 77(2) January 15, 2017

<要旨>
ER陽性乳癌の予後は、近年のホルモン療法の開発により顕著に改善している。しかしながら、その長期服用による抵抗性獲得が依然問題となっており、抵抗性獲得機序の解明からの薬剤の開発が切望されている。ER陽性乳癌乳癌のタモキシフェン(TAM)に対する抵抗性獲得機序としては、これまでに①ERの陰転化、②リガンド非依存性のERの活性化、③ER転写活性の不活化を導く体細胞変異の存在が報告されている。本論文では、筆者らは転写因子であるY-box binding protein-1 (YBX1)に着目し、そのリン酸化とERRB2の発現亢進がTAM、Fulvestrant抵抗性乳癌細胞株において認められることを見いだした。さらに、ER発現がTAM、Fulvestrant抵抗性細胞株において顕著に減弱していることから、YBX1とERの分子間相互作用が抗エストロゲン薬に対する治療抵抗性に関与すると仮説をたてた。
 筆者らは、はじめにYBX1をRNA干渉法にて発現抑制すると、Fulvestrantに対する感受性の増加および抗Her2阻害剤Lapatinibに対する抵抗性の増加を確認した。一方、YBX1を過剰発現させると、FulvestrantやTAMに対する抵抗性亢進が誘導された。続いて、そのメカニズムを調べた結果、ERBB2の転写を促進する転写因子であるYBX1はE2刺激下ではERと結合することによりERのユビキチン化を介した分解を促進していることが分かった。一方、抗エストロゲン剤投与によるER活性の阻害状況下では、YBX1はERと結合することができず、その結果YBX1はリン酸化されて活性化され、本来の機能であるERRB2の転写を亢進させること、およびERBB2の増幅(amplification)非依存的な転写活性化であることを証明した。以上の結果から、この一連のイベントは、Luminal typeの乳癌をERRB2 typeの乳癌に似た性質に変化させることによって、TAMやFulvestrant抵抗性に導くことが示唆された。
 本論文から、抗エストロゲン剤に治療抵抗性になった乳癌症例を対象に、YBX1の発現を調べることによって、その発現が亢進している場合には、抗ERBB2療法を適応することが可能であり、一方、抗エストロゲン剤抵抗性になったER陽性乳癌症例において、YBX1の発現亢進している頻度などが本論文の今後の課題と考えられる。


(81)2017年3月11日 担当:吉丸 哲郎
Synthetic vulnerabilities of mesenchymal subpopulations in pancreatic cancer. Nature, 542, 362-366, 2017

<要旨>
ほとんどのヒト膵臓癌は病理組織学的に管状腺癌(PDAC)であり、KRASなどの遺伝子異常が蓄積することで発生・進展する予後不良疾病である。また、PDACは間質成分が広範囲に存在するのが特徴で、これが治療の妨げとなっている。本論文は、Kras遺伝子変異を有するPDACが増悪化する際には、KrasおよびSWI/SNF型クロマチン再構成因子Smarcab1の発現低下によって、Kras非依存性の間質細胞型に移行することを明らかにしている。これにより、その間質細胞の分子メカニズムを標的とした治療戦略の可能性について述べている。
 Kras(G12D)遺伝子発現コンディショナル膵臓癌発癌モデルマウスから単離した膵管細胞を複数回の継代培養を繰り返すことにより、上皮細胞型および間質細胞型の膵臓癌細胞の発生が確認された。間質細胞型は腫瘍形成能と転移能を顕著に誘導し、また上皮細胞型との遺伝子発現の比較からMyc遺伝子の発現誘導およびSmarcb1の発現の低下、また、Krasの下流遺伝子の発現低下が認められた。さらに、Smarcb1が欠損したPDACがモザイクにの体細胞に発現するモデルマウスにおいて、その腫瘍細胞はタンパク質代謝の亢進を介した折りたたみ不全タンパク質(unfolded protein)の蓄積による小胞体ストレス経路IRE1α–MKK4の活性化が誘導されていた。特に、PDACヒト臨床検体においてもSmarcb1の低発現および小胞体ストレス応答センサー分子ATF2のリン酸化による活性化の認められる膵癌症例では生存期間(OS)が顕著に短いことから、Smarcb1の発現低下による小胞体ストレス応答の亢進がPDACの増悪化に関与することが示唆された。また、ヒトPDAC患者由来のxenograftマウスモデルにて、小胞体ストレス応答およびp38/JNKに対する阻害剤と、PDACに対する既存の抗がん剤ゲムシタビンとの併用では、単剤処理と比較して生存期間の有意な延長が認められた。
 Krasなどの遺伝子変異の蓄積が主因とされたPDACが、本論文にてKras非依存性に高悪性度の間質細胞型への誘導のメカニズムには、Smarcb1-Mycネットワークによる小胞体ストレスの亢進が必須であることを突き止めたことは非常に興味深く、Smarcb1をPDAC悪性化のサロゲートマーカーとしての代用、および間質系特性を標的とした有効な治療戦略に寄与するものである。今後、間質細胞型でSmarcb1の発現が低下する分子メカニズムやSmarcb1の発現低下が腫瘍の起始(initiation)、促進(promotion)、進行(progression)のどの過程に関与するかなどを詳細に解明できれば、PDAC治療の臨床応用に大きく貢献できると考えられる。


(80)2017年2月18日 担当:木村 竜一朗
Genomic deletion of malic enzyme 2 confers collateral lethality in pancreatic cancer.
Nature. 2017 Feb 2;542(7639):119-123. doi: 10.1038/nature21052. Epub 2017 Jan 18.

<要旨>
膵管腺がん(PDAC)の30%を超える症例では、がん抑制遺伝子SMAD4のホモ接合型欠失が見られる。本論文では、筆者らはSMAD4遺伝子周辺のハウスキーピング遺伝子の欠失が付随的致死性(collateral lethality)をもたらす可能性について言及している。SMAD4遺伝子座位18q21にあるリンゴ酸酵素2(malic enzyme 2, ME2)が欠失した際に、ME2のparalogous isoformであるME3を標的とすることで、癌特異的な代謝脆弱性(metabolic vulnerability)が生じるかどうかを検討した。ミトコンドリアに局在するリンゴ酸酵素2, 3(ME2とME3)は、リンゴ酸をピルビン酸に変換する酸化的脱炭酸酵素であり、NADPHの再生と活性酸素種(ROS)の恒常性に必須である。筆者らは、はじめにRNA干渉法にてME3発現抑制することにより、ME2欠失PDAC細胞株においてME3が細胞の生存に必須であることを見出した。続いて、ME2欠失PDAC細胞株を用いたメタボローム解析および分子生物学的解析から、ME3欠失にてNADPH産生の減少およびROSレベルの亢進を確認した。これらの変化は代謝ストレスの指標であるAMP-activated protein kinase (AMPK)を活性化し、活性化AMPKは下流に位置する転写因子sterol regulatory element-binding protein 1 (SREBP1)の働きを抑制した。SREBP1は分枝鎖アミノ酸(BCAA)からグルタミン酸を再生する反応を触媒してde novo核酸合成を支える働きを有するbranched chain amino acid transaminase 2 (BCAT2)の発現を誘導することから、ME3欠失を介したAMPKの活性化はこれらの経路を抑制することが示された。したがって、NADPH産生減少とROS産生亢進につながるミトコンドリアのリンゴ酸酵素の欠失は、難治性PDAC患者への「付随的致死性」治療戦略となることがわかった。
 がん細胞の特徴として、その加速度的な増殖亢進から、抗がん剤不応性および獲得耐性があげられるが、この論文で明らかとなったように、がん細胞の生存はその形質維持のために重要な分子経路に依存しており(oncogene addiction)、正常組織とは全く異なる癌特異的な脆弱性も併せ持つ。近年、このがんの脆弱性を標的とした新たな治療戦略が提唱されており、本論文の「付随的致死性」を利用した方法もその1つと言える。同様の方法としては、多くの腫瘍で欠失が認められるTP53遺伝子に隣接するRNAポリメラーゼII複合体の主要サブユニットPOLR2Aを治療標的とした試み(Nature. 2015;520:697-701)も報告されている。これらの治療戦略はその多くが基礎研究レベルにあり、今後、この付随的致死性に則した分子標的薬と治療方法の開発が期待される。


(79)2017年2月4日 担当:加藤 廉平
The metabolic co-regulator PGC-1α suppresses prostate cancer metastasis. Nature cell biology 18, 645-656, 2016

<要旨>
癌組織において腫瘍細胞は、その生存のために嫌気性解糖系を主体とした代謝へと変化するWarburg効果が知られているが、近年の研究によって癌腫や病期進行によって代謝異質性(Metabolic heterogeneity)の存在が明らかになってきている。本論文では前立腺癌の代謝においてperoxisome proliferator-activated receptor gamma co-activator 1α(PGC1α)が中心的な制御因子として機能すると共に、PGC1αによる代謝調節が前立腺癌の遠隔転移の進行に関与していることを明らかにしている。
 筆者らは、初めに前立腺癌における癌代謝調節因子の抽出を試みた。前立腺腫瘍組織と正常組織の比較から有意な因子を抽出し4つの既報の前立腺癌のデータセットを用いて解析した結果、PGC1α、HDAC1、PGC1βの3分子が有意に腫瘍組織で発現が変動していることを見出した。この3分子に関して遺伝子発現レベルと予後や遠隔転移との関連を解析したところ、PGC1αの発現が低い群がdisease free survivalが短期で遠隔転移を有することから、PGC1αが前立腺癌の癌抑制因子としての働きを有することが示唆された。
 前立腺癌の発症や進行にPTEN欠損の関与が知られているが、マウスのPTENホモ欠損モデルでは遠隔転移が認められず、前立腺癌の遠隔転移の成立にはPTENの不活化に加え、他の因子の関与が指摘されてきた。筆者らは、PGC1αを前立腺癌の遠隔転移関連因子の候補として考え、PTENとPGC1αの発現と前立腺やリンパ節、肝における遠隔転移との関連をマウスモデルで検証した。その結果、それぞれ単独の欠損では遠隔転移は認めないが、PTENとPGC1α両者のホモ欠損は、浸潤性癌の発症および遠隔転移を来すことが示された。続いてTRIPZ-lentiviral shRNAとDoxycycline誘導性細胞株を用いたXenograftマウス実験およびPTENとPGC1α欠損の遺伝子改変マウス実験によってPGC1αの発現が前立腺腫瘍細胞増殖を抑制すること、さらに肺や骨への腫瘍細胞の播種と局所の骨転移の形成を抑制することを明らかにした。また、これらのモデルの遺伝子発現解析および質量分析法通じて、PGC1αの発現とミトコンドリア代謝経路の関与およびPGC1α発現による脂肪酸やクエン酸回路の代謝の亢進が明らかとなった。これらの転写活性化のメカニズムについて調べた結果、PGC1α活性化にはestrogen-related receptor α(ERRα)が関与していることが示された。
 これらのことより、PGC1α標的遺伝子のデータセットおよびPGC1α-ERRα標的遺伝子のデータセットと予後や遠隔転移との有意な関連が明らかとなり、このデータセットが予後因子となりうる可能が示唆された。本論文により前立腺癌のmetabolic switchと遠隔転移の成立の関与が明らかになり、この系の制御が前立腺癌の治療標的になりうることが示された。

2016


(78)2016年12月24日 担当:高橋 定子
Association of germline variants in the APOBEC3 region with cancer risk and enrichment with APOBEC-signature mutations in tumors. Nature Genetics 48(11):1330-1338 2016

<要旨>
Apolipoprotein B mRNA editing enzyme, catalytic-polypeptide-like (APOBEC)ファミリーは、一本鎖DNAを基質とするシチジン(Cytidine)脱アミノ化酵素であり、レトロウイルス増殖を抑制する宿主防御タンパク質として同定された。近年のゲノム解析を通じて、APOBECによってもたらされた変異(APOBEC-signature mutations)が様々な腫瘍において高頻度で見つかっている。本論文では、膀胱がん及び乳がんのリスクバリアントとして知られているAPOBEC3領域に存在する2つの生殖細胞系バリアントrs1014971とAPOBEC3AB 欠損(deletion)が、APOBEC-signature mutationsの集積及び発がんリスク、さらには予後に関与することを報告している。
 筆者らはまず、膀胱がんのリスクバリアントとして、rs1014971および、それと連鎖不平衡にあるrs17000526及びrs1004748を同定した。一方、これらの3つのSNPは、乳がんのリスクへの関与は認められなかったが、乳がんのリスクバリアントとして同定されたAPOBEC3Aの発現に関与するAPOBEC3AB欠損は膀胱がんへのリスクには関与していなかった。さらに、膀胱がんにおいて、rs17000526がAPOBEC3Bの発現量、APOBEC-signature mutationsおよびAPOBEC mutagenesis patternに強い関連性(β=0.25、0.18、0.23)を示したのに対し、乳がんではいずれも関連性を示さなかった。また、ゲルシフトアッセイ(electrophoretic mobility shift assay :EMSA) にて、rs1014971は膀胱がんcell line由来の核タンパク質とリスクアレル[T]において特異的に結合し、非リスクアレル[C]では結合しないという、アレル特異的な結合を認めた。
 続いて、環境因子のAPOBEC3の発現に与える影響について調べたところ、膀胱がん及び乳がん細胞株において、ウイルス感染によりAPOBEC3A,B,Gのいずれも強い発現誘導が起こったのに対し、DNAダメージングでは膀胱がん細胞株においてのみ発現誘導がみられた。最終的に、膀胱がんにおける予後との関連性解析では、APOBEC-signature mutations、APOBEC mutagenesis patternのいずれでも、変異数の少ない群が、多い群に比べて予後不良であった。また、rs17000526はヘテロ[AG]が最も予後不良であったが、リスクアレルのホモ[AA]では最も予後良好であった。
 以上のことから、膀胱がんにおいては、rs17000526のリスクアレルによりAPBECS3の発現が亢進して、その結果APOBEC-signature mutationsが誘導されることで、腫瘍の発生・進行につながることが分かった。これは、APBECS3の発現が強すぎると免疫監視システムによる排除や合成致死を引き起こすことから、予後良好になると考えられる。このように、APOBEC3の発現に対する遺伝的要因に加え、ウイルス感染やDNAダメーグなどの環境因子によって、APOBEC-signature mutationsに影響を及ぼし、各がん種特異的ながんの発生、進展および悪性化に関わることが示された。


(77)2016年12月17日 担当:松下 洋輔
PIM kinase regulates cell death, tumor growth and chemotherapy response in triple-negative breast cancer.  Nature Medicine 22, 1303–1313 (2016)

<要旨>
トリプルネガティブ乳がん (TNBC) はエストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、およびERBB2(別名HER2)受容体の発現が認めらないことから、有効な分子標的治療薬が存在せず、予後不良である。近年の大規模シーケンス解析からTNBCは特徴的な遺伝子変異は有するものの、それらだけでは分類できないヘテロな細胞集団であることも明らかとなり、TNBCの特性を詳細に解明し、それらに基づいた治療法の創出が求められている。これまでにTNBCの細胞増殖亢進や化学療法抵抗性の一因として、MYCシグナルの活性化の関与が報告されてきたが、MYCの転写活性を直接標的とした阻害剤の開発は成功しておらず、合成致死を利用した代替療法が提案されている。
 筆者らは、TNBC症例のゲノム解析データを通じて、がん原遺伝子であるセリン・トレオニンキナーゼ PIM1 (Proviral Insertion site in Moloney murine leukemia virus 1) のコピー数の増加と発現亢進を見出している。PIM1高発現TNBC細胞において、PIM1ノックダウンにて、アポトーシス抑制因子BCL2の発現低下および細胞増殖抑制が顕著に認められた。一方、乳がんの他のサブタイプや非悪性乳腺上皮細胞では認められず、また、PIMファミリーであるPIM2およびPIM3のノックダウンを行っても、TNBC細胞株の細胞増殖に影響を及ぼさなかったが、TNBCと類似するBasal-like サブタイプではPIM1発現がMYC転写関連シグナル群(signature)と関連しており、PIM1の発現低下はMYC活性を制御するヒストンH3のSer10のリン酸化やMYC標的遺伝子の1つであるMCL1発現をMYC依存的に低下させた。さらに、PIMキナーゼファミリーの阻害剤であるAZD1208はTNBC細胞株や患者由来異種移植片モデルの両方にて抗腫瘍効果を認め、殺細胞抗がん剤パクリタキセルやエリブリンとの併用で感受性の増大も確認された。
同時期に掲載されたグループの報告では、shRNAライブラリースクリーニングを通じて、MYCと合成致死性相互作用を持つ因子としてPIM1が同定されており、MYCの発現亢進を認めるTNBC腫瘍において、PIMキナーゼ阻害剤によるp27の機能回復を介した腫瘍抑制効果を報告している (Nature Medicine 22, 1321–1329 (2016))。
 以上これらの論文から、MYCとPIM1の発現亢進を認めるTNBC患者において、PIM1阻害剤や化学療法剤との併用の可能性が示唆された。


(76)2016年12月10日 担当:奥村 和正
Cystine addiction of triple-negative breast cancer associated with EMT augmented death signaling.
Oncogene 2016 Nov 21. doi: 10.1038/onc.2016.394.

<要旨>
乳癌の診断と治療法の進歩は目覚ましいが、依然重大な死亡要因の1つであることに変わりはない。特にトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は生物学的悪性度が高く、治療標的が不明であることから、TNBC特異的分子標的治療法の開発が切望されている。筆者らは、癌細胞が正常細胞とは異なる代謝経路を獲得するという特徴に着目し、これまでに、単一アミノ酸を欠如させた培養法による栄養遺伝学的スクリーニング(nutrigenetic screen)を通じて、メラノーマ細胞がロイシン依存性であることや、VHL (Von Hippel–Lindau)欠損腎細胞癌細胞はcystine依存性であることを報告してきた。本論文では、各種サブタイプの乳癌細胞株を用いて栄養遺伝学的スクリーニングを行った結果、TNBCがシスチン依存性であることを突き止めた。
 筆者らは、VHL欠損腎細胞癌細胞において、TNFα (Tumor Necrosis Factorα)やMEKK4 (mitogen-activated protein kinase kinase 4)-p38-Noxa (phorbol-12-myristate-13-acetate-induced protein 1) pathwayのEMT (epithelial mesenchymal transition)関連遺伝子の発現亢進を通じて、cystine依存性が亢進することを以前報告していることから、TNBC細胞株における、これら遺伝子の関与について調べた。EMT関連遺伝子が高発現を認める間葉系(mesenchymal)のTNBC細胞株はcystine欠乏培地にて急速なnecrosisによる細胞死を認めることがわかった。一方、同細胞株にてTNFα・MEKK4の発現抑制ではcystine欠乏によるnecrosisの消失を見いだし、EMT関連遺伝子とcystine依存性の関連性が示唆された。
 一方、Luminal type乳癌細胞ではcystine欠乏条件下にてnecrosisを認めたが、これはTNBCと比してEMT関連遺伝子の発現が低いことが要因であると考えられた。さらに興味深いことに、TNBC細胞にmiR-200c導入することで上皮化誘導するとcystine依存性が減少したが、Luminal type乳癌ではEMT誘導剤にてcystine依存性の亢進も認めた。
 本論文ではEMT関連遺伝子の高発現がTNBC細胞におけるcystine依存性に重要な役割を果たすことを証明しているが、その詳細なメカニズムについては不明である。特に、アミノ酸輸送に重要な役割を果たすアミノ酸トランスポーターとEMT関連遺伝子との関連性については今後の課題である。特に、アミノ酸トランスポーター標的治療法の開発は現在進められているなか、特定のアミノ酸の輸送阻害による正常細胞へ影響からの副作用の懸念されており、今後は、TNBCにおけるアミノ酸依存性の分子機構を解明し、正常細胞に影響が出ないレベルまで特定のアミノ酸量を減らし、癌細胞のnecrosisを誘導するという画期的な治療薬の開発の可能性が考えられる。

(75)2016年11月26日 担当:吉丸 哲郎
PDK1-SGK1 Signaling Sustains AKT-Independent mTORC1 Activation and Confers Resistance to PI3Kα Inhibition. Cancer Cell, 30, 229-242, 2016

<要旨>
PIK3CA遺伝子変異は多くの乳癌患者で観察され、PIK3CAの選択的阻害剤(BYL719)の臨床応用が展開されている。しかしながら、この阻害剤の単剤投与はPIK3CA変異を有していても一部の乳癌患者には効果が発揮されないこと、奏功症例でも長期服用による耐性獲得が生じることから、PIK3CA阻害剤に対する不応、耐性メカニズムの解明は重要な課題である。本論文は、PIK3CA変異によるPI3K/Aktシグナル経路の活性化とは別に、PI3K/PDK1/SGK1経路が癌細胞の増殖や代謝に重要な役割を担うmTORC1(Mammalian Target of Rapamycin Complex1)を恒常的活性化することによって、PIK3CA阻害剤に対する耐性獲得の一因になっていることを明らかにしている。
まず、BYL719抵抗性でPI3KCA遺伝子変異を有する細胞株HCC1954とJIMT1を用いてsiRNA kinome/phosphatomeによりスクリーニングしたところ、mTORとPDK1の両キナーゼがどちらの細胞にも共通してBYL719抵抗性に寄与していることを見出した。実際に、PDK1阻害剤とBYL719の併用は、BYL719耐性細胞株の増殖やmTORの活性化を相乗的に抑制し、BYL719の感受性を亢進することが明らかになった。また、PDK1阻害剤とBYL719の併用は、癌抑制転写因子であるFOXO3の核移行を促進させ、その結果アポトーシス関連遺伝子を発現誘導していた。さらに、PDK1下流のSGK1キナーゼに着目したところ、SGK1はBYL719耐性細胞株で有意に発現亢進していること、BYL719治療の乳癌患者の臨床検体でSGK1高発現患者は無増悪生存期間(PFS)が低発現患者より短く、すべての高発現患者は疾患進行(POD)が継続していることが認められ、SGK1の発現が内因的抵抗性(intrinsic resistance)への関与が示唆された。さらに、SGK1はmTOR活性化の抑制因子であるTSC2を直接的にリン酸化することでTSC2の抑制機能を阻害し、恒常的にmTOR活性を亢進させていることも示唆された。
本論文にて、PDK1/SGK1キナーゼがPIK3CA阻害剤の抵抗性に寄与していることが明らかになり、癌遺伝子による活性化経路を遮断してもそれを補うキナーゼ(もしくはホスファターゼ)による活性化経路が存在していることを示した点では意義深く、癌治療薬の最適化に寄与するものである。しかしながら、PDK1/SGK1キナーゼによるシグナル経路の活性化が、内因的抵抗性なのかPIK3CA阻害剤の長期投与による抵抗性の獲得に寄与しているのかは依然不明な点もあり、この機構の抵抗性獲得メカニズムへの関与を詳細にすることが今後臨床応用に寄与することが考えられる。


(74)2016年11月12日 担当:木村 竜一朗
Ubiquitin ligase RNF20/40 facilitates spindle assembly and promotes breast carcinogenesis through stabilizing motor protein Eg5. Nat Commun. 2016 Aug 25;7:12648. doi: 10.1038/ncomms12648.

<要旨>

Eg5 (Kinesin-5)はATP依存的分子モーターであるキネシンファミリーの1つであり、有糸分裂期の双極紡錘体形成において中心的役割を果たす。Eg5は、肺癌、膀胱癌、膵臓癌などの複数の腫瘍で発現亢進しており、Eg5高発現群は予後不良である。特に、Eg5の発現抑制や活性阻害が癌細胞の細胞分裂を抑制することから、Eg5特異的阻害剤の癌分子標的薬としての可能性が示唆されている。一方で、ユビキチンリガーゼ RNF20/40複合体は、ヒストンH2Bのリジン120をモノユビキチン化して、標的遺伝子の転写を活性化する働きを有する。また、いくつかの癌細胞では、RNF20の発現抑制により細胞増殖が抑制されることも知られている。しかしながら、これらEg5やRNF20/40の乳癌発症・進展における役割はほとんど明らかにされていない。
 本論文で筆者らは、はじめにRNF20/40複合体の新しい機能を探る目的で、RNF20の新規相互作用因子の同定を試みた。その結果、RNF20/40複合体が有糸分裂期においてEg5と特異的に結合し、Eg5のモノユビキチン化を通じて、Eg5タンパク質の安定化に寄与することを発見した。これらの現象から、筆者らはRNF20/40複合体が、Eg5依存的な双極紡錘体形成に関与することを明らかにした。RNF20とRNF40の発現抑制は、癌細胞の正常な紡錘体形成を阻害し、細胞周期停止とアポトーシスを誘導すること、さらにヒト乳癌細胞移植マウスにおける腫瘍形成を抑制することが分かった。重要なことに、RNF20、RNF40およびEg5は乳癌組織においてタンパク質レベルで発現亢進し、それぞれ相関関係が認められること、さらに大規模コホート研究を通じて、乳癌全体およびLuminal A、BサブタイプにおけるEg5高発現群は予後不良であることが分かった。以上のことから、RNF20/40複合体が有糸分裂期のEg5依存的な紡錘体形成を制御し、このことによりRNF20/40-Eg5経路が乳癌の発症・進展に重要な役割を果たすことが示された。これらの研究は、この経路が乳癌における治療標的になる可能性を示唆するものである。
 本研究で筆者らは、RNF20/40複合体がEg5タンパク質を安定化することにより、乳癌細胞の増殖を活性化することを示した。一方で、多くの乳癌組織ではEg5はmRNAレベルでも発現亢進しており、今後、乳癌におけるEg5の発現制御機構の理解が求められる。現在、Eg5特異的阻害剤はいくつかの癌で臨床治験が試みられており、癌の次世代分子標的薬として注目されている。一方で、Eg5は正常組織においても細胞分裂に必須の役割を果たしていることから、Eg5による癌発症・進展制御機構の更なる解明が今後の臨床応用に必須と考えられる。


(73)2016年11月5日 担当:加藤 廉平
Role of NADH Dehydrogenase (Ubiquinone) Alpha Subcomplex 4-Like 2 in Clear Cell Renal Cell Carcinoma. Clinical Cancer Research 22, 2791-2801, 2016

<要旨>
淡明腎細胞癌の原因としては、von Hippel-Lindau (VHL)遺伝子の不活化によるhypoxia-inducible factors (HIF)の安定化が主であることが分かっているが、そのうち、HIF-1αやHIF-2αの転写活性化は代謝変動やミトコンドリア呼吸鎖の機能低下に関与することも報告されている。本論文では、VHL欠損細胞において高発現し、低酸素状態においてHIF-1依存的にミトコンドリアで発現が誘導されることが報告されているNADH Dehydrogenase (Ubiquinone) Alpha Subcomplex 4-Like 2(NDUFA4L2)に着目し、その発現亢進をみとめる淡明腎癌の治療標的となりうることを述べている。
 本論文において、筆者らは、淡明腎癌臨床検体におけるNDUFA4L2の発現と病期進行や組織型の高悪性度との有意な関連を示し、NDUFA4L2の発現亢進が予後不良であることが明らかにした。特に、腎癌細胞株を用いた発現解析により、HIF-1αの活性化した腎癌細胞株においてのみ高発現を認めることが分かった。また、筆者らが構築した腎組織の近位尿細管において活性型HIF-1αが発現しているTRACK (transgenic model of cancer of the kidney)マウスを用いてNDUFA4L2の発現解析にて、HIF-1αとNDUFA4L2との関連が示された。続いて、shRNAを用いたNDUFA4L2の発現抑制実験により、顕著な細胞増殖抑制効果を認めること、そして、淡明腎癌で代謝調節を担うHIF-1αとNDUFA4L2と直接的な関連が示されたことから、NDUFA4L2発現抑制により誘導される腫瘍組織の代謝変動に着目した。TCAサイクルやペントースリン酸化経路への関与を調べた結果、発現抑制した細胞ではTCAサイクルの中間体の代謝産物が有意に増加する一方、ペントースリン酸化経路の中間体産物はいずれも減少していることから、細胞増殖に必須である核酸合成が行われるペントースリン酸化系の抑制がNDUFA4L2発現抑制よる細胞増殖抑制効果に関与することが示唆された。
 既報の研究でNDUFA4L2とミトコンドリア呼吸鎖の関連が示されていることから、電子顕微鏡によるNDUFA4L2発現抑制の際のミトコンドリアを含む各種細胞内小器官への影響を調べた。その結果、がん細胞において腫大した内部構造が不整となっているミトコンドリアの形態が改善することやオートファジー誘導が認められことから、NDUFA4L2の発現抑制にて、オートファジーを介したミトコンドリアのターンオーバーを促進されることも示唆された。
 本論文で淡明腎細胞癌の予後不良因子であるNDUFA4L2が淡明腎細胞癌細胞のミトコンドリアの呼吸鎖に関連することを証明し、新たな治療標的となりうることが示されたことは意義深い。低酸素条件下におけるNDUFA4L2の挙動や腎癌細胞への影響、今回示された代謝変化が生体においても同様の変化を示すかなどに関しては今後解明が望まれる点である。


(72)2016年9月24日 担当:高橋 定子
RANK ligand as a potential target for breast cancer prevention in BRCA1-mutation carriers.
Nature Medicine 22(8):933-939 2016

<要旨>
家族性乳がん感受性遺伝子であるBRCA1に生殖細胞変異をもつキャリアは、70歳までの乳がん発症リスクが約65%と高率で、ホルモンレセプター陰性のbasal-like乳がんに多く認められ、予後不良である。BRCA1変異キャリアに対する効果的な予防医療の開発は極めて重要であるが、BRCA1変異キャリアにおける乳がん発症のメカニズムは未だ不明である。近年、破骨細胞分化因子Tumor necrosis factor super family member 11 (RANKL)がマウス乳腺の幹細胞、またはbasal-like乳がんの起源細胞である管腔前駆細胞(Luminal progenitor : LP)における腫瘍形成の重要なメディエーターであることが報告された。さらに、マウス乳腺腫瘍モデルにおいてRANKを阻害することにより腫瘍形成が抑制されることも示されたことに加えて、RANKL及びRANKはヒトの浸潤性乳がんで発現亢進していることも確認されていた。以上のことから、本論文では、BRCA1変異キャリアの乳がん発症におけるRANK-RANKLシグナルの役割について検討している。
 筆者らは、はじめにBRCA1変異キャリアの前がん組織及び腫瘍において、LP細胞特異的なRANKの発現を確認した。また、BRCA1mut/+由来のLP細胞においてRANK+の細胞が占める割合はBRCA1/2野生型及びBRCA2mut/+由来のものに比べていずれも有意に高かった。また、BRCA1mut/+・RANK+のLP細胞はBRCA1mut/+・RANK-及びBRCA1野生型・RANK+に比べていずれもクローン形成能が高いことが示された。さらに乳腺腫瘍において、BRCA1変異腫瘍は野生型のものに比べてRANKの発現量が有意に高いことが示された。このことから、BRCA1とRANKとの間に強い関連性があることが示された。
 続いて、BRCA1の主要な機能であるDNA修復能とRANKの関連性について調べた。ヒドロキシウレア処理あるいは放射線照射によるDNA損傷の測定を行ったところ、BRCA1mut/+ではRANK+がRANK-に比べて有意に強い損傷が生じていた。以上のことから、BRCA1mut/+においてRANKがDNA修復能を抑制しており、LP細胞からbasal-like乳がんへの進展に重要であることが示唆された。さらに、遺伝子発現に基づいた乳がんのintrinsicサブタイプ(Basal-like、Luminal A、Luminal B、HER2、Normal)におけるRANK-RANKLシグネチャーとの比較を行ったところ、Basal-like乳がんにおけるRANK関連シグネチャーとの類似が示された。さらに、BRCA1-KOマウスから採取したCD24陽性の乳腺上皮細胞を移植した免疫不全マウスへのRANKLインヒビターであるOPG-Fc投与は腫瘍の発生を有意に抑えた。このことから、BRCA1が不活化した細胞から乳腺腫瘍への進展にはRANKLが強く関与しており、RANKLを抑制することで腫瘍の形成を抑えられることが示された。
 以上のことから、BRCA1変異キャリアにおいてRANK-RANKLシグナルがbasal-like乳がんの発症に重要な役割を担い、BRCA変異かつRANK+のキャリアに対してRANKLを抑制するという新たな予防療法の可能性を提示した。


(71)2016年9月17日 担当:松下 洋輔
An oncogenic Ezh2 mutation induces tumors through global redistribution of histone 3 lysine 27 trimethylation.  Nature Medicine 22, 632–640 (2016)

<要旨>
 近年様々ながん種でPolycomb group complex (PcGs) の異常が報告されている。本論文で着目したPlycomb repressive complex group 2 (PRC2) の主要な構成因子の一つであるヒストンメチル基転移酵素(Histone Methyl transferase)EZH2 (Enhancer of zeste homolog 2) は触媒活性ドメイン (SET (Drosophila proteins Su(var)3-9, Enhancer-of-zeste and Trithoraxの頭文字) ドメイン) を有し、ヒストンH3のLys27をメチル化することで、標的遺伝子の発現を制御する。これまでにEZH2はB細胞リンパ腫やメラノーマにおいて高頻度に変異が認められているが、発がんへの関与は不明であった。本研究では、最も高頻度に認められるEzh2の体細胞性機能獲得型変異 (ヒトではEZH2Y646F、マウスではEzh2Y641F ) をconditionalに発現するマウスモデルを作製して、発がんへの影響を調べた。その結果、Ezh2 Y641F の発現させたマウスのB細胞やメラノサイトにおいて、それぞれ浸潤性の高いリンパ腫やメラノーマを生じた。さらに、抗アポトーシスタンパク質Bcl2の発現亢進やp53の欠失はリンパ腫の進行を促進させたが、Mycの増幅異常は促進されなかった。一方、変異型Brafv600Eの発現はメラノーマの進行を促進したが、変異型NrasQ61Rでは促進が認められなかった。
 興味深いことに、B細胞およびメラノサイトにおけるEzh2Y641 の発現は、ヒストンH3のトリメチル化リシン27(H3K27me3)の量を増加させたが、同時にこの抑制性の指標となる全体的な再編も引き起こし、多くの遺伝子座で転写亢進に伴ってH3K27me3の消失などが見られた。このようなgeneticな変化には、EZH2特異的阻害剤においても同様な結果を得られ、Braf阻害剤Darafenibとの併用時に起こる相加効果はEzh2Y641 マウスでのみ認められた。以上の結果は、Ezh2Y641Fがポリコームに調節される遺伝子座の抑制と活性化の両方を誘導するクロマチン構造の大規模な再編を介して、B細胞リンパ腫やメラノーマを発症誘導することを示唆している。この再編にはH3K27me3のみならずH3K27のアセチル化の関与も述べているが、詳細な検討はなされていない。今後、Ezh2Y641Fで引き起こされるポリコームおよび関連因子のepigeneticな変化の全体像が解明されれば、本論文で見出した阻害剤の創薬研究にも展望が開けてくることが期待される。


(70)2016年9月10日 担当:奥村 和正
Overcoming mTOR resistance mutations with a new-generation mTOR inhibitor
Nature VOL 534 9 JUNE 2016

<要旨>
セリン/スレオニンキナーゼの一つであるmTOR(Mammalian Target of Rapamycin)は様々なシグナル伝達経路のハブとして癌細胞の増殖や代謝に関与していることが知られている。mTOR阻害剤は、現在腎癌や乳癌において臨床応用されているが、他の分子標的治療薬と同様に耐性獲得の問題となっており、その克服は重要な課題である。現在、2種類のmTOR阻害剤が臨床応用されており、第1世代: 【FKBP12 (12-kDa FK506-Binding protein)との結合部位であるFRB(FKBP12-Rapamycin Binding Domain)を阻害する】rapalogsと第2世代:キナーゼ活性阻害薬であるTORKi(Target of Rapamycin Kinase Inhibitor)がある。これまでに、第1世代mTOR阻害薬耐性機構としてはFRB領域の点突然変異によることが報告されているが、一方第2世代mTOR阻害剤の耐性獲得機構は未だ不明である。
 筆者らは乳癌細胞を各mTOR阻害剤処理下にて長期間培養し、耐性獲得した細胞のmTOR遺伝子をdeep sequence法にて解析したところ、第1世代の耐性では既報通りにFRB領域に、第2世代ではkinase domainに点突然変異を認めた。この結果をうけて、TCGAのNGS解析public databaseを通じて、これら遺伝子変異について調べたところ、驚くことに未治療症例においても存在することがわかり、mTOR阻害剤不応性細胞の治療前からの存在が示唆された。 このことから、第1世代、第2世代を同時に初期投与すれば多くの癌細胞に効果的ことが分かったが、これら複数投与による正常細胞への影響による副作用の懸念がある。そこで、筆者らは、構造解析を通じて2つの薬剤の結合部位が近傍に存在し、ポケットを形成していることに着目し、理論上2つの薬剤を安定的に結合させることで高い親和性を有し、また各部位を同時に阻害することで、より低濃度にてより高い効果が期待できる第3世代の阻害剤の開発を試みた。筆者らは2つの薬剤をリンカーにて結合させ、これまでに認められている各阻害剤に対する耐性への影響を検討した結果、第3世代mTOR阻害剤では第1世代と第2世代の併用と比して、mTORC1、mTORC2の下流シグナルをより低濃度で長期間抑制したことが分かった。
 以上のことから、同時に2剤併用するよりも2剤をリンカーで繋げて1剤にすることによって、mTORへ高い特異性を示し、さらに耐性を克服することが可能であることがわかった。本論文は、ゲノム包括的な体細胞変異情報解析と構造解析により、分子標的治療薬において問題となっている耐性獲得を克服する新たな治療薬の開発が可能であることを述べた点で大きな意義がある。一方、この2剤を結合した阻害剤の副作用についての検討や第3世代の阻害剤の耐性獲得についての検討も必要であり、今後の検証が待たれる。


(69)2016年9月3日 担当:吉丸 哲郎
Tumour hypoxia causes DNA hypermethylation by reducing TET activity
Nature, 537, 63-68, 2016

<要旨>
近年、がん抑制遺伝子のプロモーター領域のDNA高メチル化(hypermethylation)によるエピジェネティク異常が発がんの一因であることが明らかになってきた。しかしながら、このDNA高メチル化の起こる分子機構については未だ不明である。本論文は、多くの固形腫瘍で認められる低酸素状態が、5-メチルシトシンの酸化を介してDNA脱メチル化を触媒する酸素依存性TET(ten-eleven translocation)酵素群の活性の低下を導くことによって、がん抑制遺伝子の高メチル化を促進することを論じたものである。
 多くのヒトおよびマウスのがん細胞株を低酸素状態(0.5%酸素濃度)で培養したところ、TET活性に依存して生成される5-ヒドロキメチルシトシン量がほとんどの細胞株において有意に低下していることが認められた。さらに、この活性低下はTETの体細胞変異や発現異常によらないこと、および活性酸素、代謝経路、低酸素誘導因子による活性の影響をほとんど受けなかったことから、腫瘍の低酸素状態がTET活性を直接低下させることでDNAのメチル化が上昇していることを明らかにした。また、TCGAのデータベースから低酸素状態の腫瘍組織ではがん抑制遺伝子プロモーターのメチル化が顕著に亢進していた。さらに、乳がん発症モデルマウスにて形成された腫瘍への酸素供給を回復させると、がん抑制遺伝子のメチル化が顕著に抑制されたことから、腫瘍の低酸素状態がDNAメチル化の調節因子として作用していると考えられた。
 本論文にて、腫瘍の低酸素状態がTET機能を低下することで、DNA高メチル化が誘導され、発がんに寄与することが明らかになったことから、低酸素状態によるメチル化誘導を阻止することが発がん抑制に重要であると考えられるという重要性を示した点では意義深い。しかしながら、低酸素状態を回避するために腫瘍に酸素を供給することは逆に血管新生を促進することで腫瘍進行を亢進することにつながりかねず、その分子機構の解明によってさらに検証する必要がある。また、低酸素状態においてもTET活性の低下が認められない腫瘍の存在やDNAメチル化の頻度が大きく異なる腫瘍の存在、腫瘍の低酸素領域が局所的であることなど、低酸素状態とTET活性の関連性および作用機序をさらに詳細に解明することが望まれる。


(68)2016年7月30日 担当:木村 竜一朗
Paracrine Induction of HIF by Glutamate in Breast Cancer: EglN1 Senses Cysteine.
Cell. 2016 Jun 30;166(1):126-39. doi: 10.1016/j.cell.2016.05.042.

<要旨>
 HIF1 (Hypoxia-inducible factor 1)タンパク質は低酸素応答のマスター転写因子として標的遺伝子の発現制御により、低酸素状態への適応を促進し、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)をはじめとするいくつかの癌の生存、増殖、転移を促進させる。HIF1のαサブユニットは通常、正常酸素条件下ではプロリル水酸化酵素EglN1 (Egl-9 family hypoxia inducible factor 1)によってプロリル水酸化されることによりユビキチンリガーゼであるVHL (von Hippele-Lindau tumor suppressor)により認識されてプロテアソーム経路で速やかに分解されている。このEglN1によるプロリル水酸化反応は酸素を必要とするため、低酸素状態にある微小環境下ではEglN1は活性を持たずに、HIF1タンパク質は安定化し、下流の遺伝子発現を制御する。
 筆者らは、TNBC細胞がグルタミン酸を分泌し、それが正常酸素条件下にて、周辺細胞内のHIF1の発現と活性化を誘導することを明らかにした。培養上清中のグルタミン酸は、(グルタミン酸を細胞外に排出し、システインが二量体化したシスチンを細胞内に取り込む)xCTグルタミン酸-シスチンアンチポーター(逆輸送体)の機能を阻害し、細胞内のシステインの枯渇を誘導する。また、HIF1αサブユニットをプロリル水酸化するEglN1はシステイン非存在下では酸化状態にあって自己不活化され、結果としてHIF1タンパク質が安定化することを培養細胞実験とEglN1精製タンパク質を用いたin vitro実験にて明らかにした。これらの結果は、TNBC細胞から放出されたグルタミン酸がxCT/EglN1/HIF1経路を通して癌の発症・進展に寄与することを示すものであり、またEglN1が細胞内において酸素とシステインの両者のセンサーとして働くことを明らかにするものである。
 本論文で筆者らは、TNBC細胞からグルタミン酸が大量に放出されていることおよび放出グルタミン酸がxCTを介してEglN1/HIF1経路を制御することを証明している。一方、「なぜTNBC細胞でこのような現象が特異的に起こるのか?」、「最近、癌研究で注目されているxCTは他にどのような機能を有するのか?」などの多くの疑問に対する詳細な研究が望まれると考えられる。これらの基礎研究は、現在有効な治療法の存在しないTNBCの分子標的薬の創製や新たな腫瘍マーカー発見に繋がる可能性を秘めている。


(67)2016年7月23日 担当:加藤 廉平
Cystine Deprivation Triggers Programmed Necrosis in VHL-Deficient Renal Cell Carcinomas.
Cancer Research 76, 1892-1902, 2016

<要旨>
腫瘍細胞は、正常と異なる生合成や生体エネルギー産生機構を保持していることが明らかになってきている。本論文ではVon Hippel-Lindau (VHL)遺伝子変異を伴う淡明腎細胞癌はアミノ酸代謝の異常としてシスチン依存性であることを明らかにし、シスチン欠乏にてもたらされるネクロ―シスの分子メカニズムの解明を通じた代謝異常の解明が治療薬の開発に繋がることを示している。
 はじめに、VHL変異陽性、陰性の淡明腎癌細胞株を用いた栄養遺伝学スクリーニングによる各アミノ酸の依存性を調べたところ、VHL欠損淡明腎癌細胞株および原発性腫瘍において、シスチン欠乏にてプログラム性ネクローシス(programmed necrosis)による細胞死が引き起こされ、それはVHL遺伝子再構成によるレスキュー実験では回避されなかった。このメカニズムを解明するために、近年programmed necrosisへの関与が知られているReceptor-interacting kinase 1 (RIPK1)およびMixed lineage kinase domain like; 20 (MLKL)に対する各阻害剤を処理した結果、細胞死が回避されたことから、RIPK1/3-MLKLネクロ―シス経路が誘導されていることを明らかにした。また、VHL変異の有無における遺伝子発現解析から、ネクロ―シスの機序はHIFとは独立しており、TNFαの活性亢進がVHL欠損ccRCC細胞におけるネクロ―シスへの関与が示され、TNFα活性亢進によって誘導されるカスパーゼ8依存性アポトーシスがRIPK1により阻害され、RIPK1/3制御性ネクロ―シスの誘導が明らかになった。
 続いて、VHL欠損の有無によるシスチン欠乏による細胞死は栄養代謝反応とは無関係であることから、VHL欠損細胞株シスチン欠乏によるROS産生の関与に着目した。VHL発現の有無とシスチン欠乏により、転写レベルでの発現変動する遺伝子を調べたところ、ミトコンドリアにてアポトーシス誘導するNoxaがVHL欠損細胞株にて高発現していることが分かった。さらに、ROSのNoxa発現誘導経路としてSrc-p38MAPKの関与を明らかにし、シスチン欠乏によるRIPK1の細胞内局在の変化とSrcの翻訳後修飾が起きていることからrc-p38-NoxaとTNF-RIPK1/3-MLKLの関連が示された。NoxaとMLKLは、いずれもミトコンドリアの膜透過性に影響を検討し、ミトコンドリアのROSシグナルがシスチン欠乏性ネクロ―シスへの関与が示された。以上の結果より、NoxaとMLKLがSrc-p38-NoxaとTNF-RIPK1/3-MLKLの間の活性化に必要で、最終的にネクロ―シスに至る経路が明らかになった。また、筆者らはシスチントランスポーターのxCT阻害薬であるErastinにより引き起こされるフェロトーシスの機序が、今回同定されたシスチン欠乏性ネクロ―シスと類似した機序で引き起こされることも発見した。
 現在、転移性腎癌に対する薬物療法は分子標的薬が主体となっているが治療抵抗性が問題となっており、今回同定されたシスチン依存を利用したネクロ―シスの誘導は淡明腎細胞癌に対する新たな治療の選択肢としてなりうると考える。また、シスチン依存となる機序などの更なる解明が待たれる。


(66)2016年7月2日 担当:瀧 亮佑(医学部3年生)
YAP1 and AR interactions contribute to the switch from androgen-dependent to castration-resistant growth in prostate cancer
Nature Communications, 6, 8126, 2015.

<要旨>
 前立腺癌は、乳癌とならび代表的なホルモン依存性癌であり、その治療にはアンドロゲン除去を中心としたホルモン療法の単独・併用療法が主体となっているが前立腺特異抗原(PSA: Prostate Specific Antigen)の上昇を認める再発や転移の増大を認めるアンドロゲン非依存性癌となることが問題となっている。さらにアンドロゲン非依存性癌の中でもAndrogen Receptor (AR)依存性を有する症例を「去勢抵抗性前立腺癌」 (CRPC:Castration-Resistant Prostate Cancer)と定義されおり、近年、これらCRPCに対する新規薬剤ではエンザルタミド、アビラテロン、カバジタキセルが続いて2014年に発売されたが、治療効果を示さない症例も存在し、CRPCに対する新規治療薬の開発が切望されている。本論文において筆者らは、前立腺癌において高頻度に遺伝子変異が認められている遺伝子として転写活性化因子(transcriptional co-activator )であるYAP1に着目し、核内にてYAP1-AR複合体の形成がアンドロゲン依存性やCRPCの状態に関係なく、前立腺癌の治療標的となり得ることを述べている。
 筆者らは初めにLNCaP(アンドロゲン依存性前立腺癌細胞)、C4-2(アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞)の双方の細胞の核内において、YAP1-AR複合体の形成を確認した。次に、ARアンタゴニストであるエンザルタミド添加時では核内YAP1-AR複合体形成の阻害による細胞増殖抑制がLNCaP細胞のみで認められたが、C4-2細胞ではエンザルタミドを添加しても増殖抑制は認めずに抵抗性を示した。これら結果からYAP1-AR複合体による前立腺癌進展にはARは関与しないことが示唆された。
 続いて、筆者らはYAP1の調節を司ることが知られているHippo pathway (cell adhesion、cell-cell contactを起点としてMST1/2、LATS1/2を順次活性化し、最終的にYAP1の分解を促進する経路)に着目した。YAP1をsiRNAにて発現抑制した結果、LNCaPおよびC4-2細胞株ともにアポトーシスによる細胞増殖抑制および浸潤能抑制が確認された。これまでの報告より、前立腺癌において、MST1はLATSを介さず直接的にYAP1活性を抑制することから、YAP1 阻害剤であるVerteporfin (加齢黄斑変性症の治療薬)を用いてYAP1活性を阻害したところ、前立腺癌に対するin vitro、in vivo抗腫瘍効果が確認された。
 以上の事から、本論文ではYAP1-AR複合体形成が前立腺癌の進行段階を問わず治療標的となり得る事が提唱されたが、転移性CRPCに関与する機序は未解明であり、今後のさらなる解析が待たれる。しかしながら、このような治療標的が新たに見出されたことでホルモン療法からアンドロゲン非依存性への移行期においても継続した前立腺癌治療が可能になることが示唆されており、前立腺癌治療に大いに貢献し得る。


(65)2016年6月11日 担当:高橋 定子
The somatic mutation profiles of 2,433 breast cancers refines their genomic and transcriptomic landscapes.
NATURE COMMUNICATIONS | 7:11479 | DOI: 10.1038/ncomms11479

<要旨>
乳がんは、異なる性質を有する細胞の不均一な(heterogeneous)な集団からなる疾患であることが古くから知られており、その異なった細胞集団の不均一性(heterogeneity)を分子レベルで詳細に分類することは治療戦略を立てる上で非常に重要である。筆者らは先行研究として2,000人の原発性乳がん細胞を対象とした統合なゲノム解析により、Copy number aberration (体細胞コピー数変異:CNA)及び長期臨床経過観察データに基づく10個のIntegrative Cluster (IntClusts)の分類を提唱した。本論文では、IntClusts に基づいたmutation-driver (Mut-driver)遺伝子変異、CNAおよび長期臨床経過観察データを統合した新たな分類を試みている。
 筆者らは、はじめに2,455人の原発性のER陽性、ER陰性乳がん患者を対象とした173個の乳がん関連遺伝子のエキソーム解析データを用いてoncogene (ONC) scoreとTSG (tumor suppressor gene) scoreを算出し、それに基づいて40個のMut-driver遺伝子を同定した。これらにはER陽性、ER陰性症例でのみで同定された遺伝子が複数存在すること、特に、既知の癌遺伝子であるKRAS、PIK3CA、AKT1はER陰性症例でのみamplificationを認めることがわかった。このことから、ERのstatusにてMut-driver遺伝子群やCNAのパターンに違いがあることが示された。
 続いて、同定した40個のMut-driver遺伝子に対して臨床的病理学的因子との相関解析行った結果、ER陽性、ER陰性でそれぞれの臨床的病理学的因子に関連性のある遺伝子の違いが見られた。また、乳がんの組織型によってもMut-driver遺伝子の体細胞変異頻度に違いがあり、同じMut-driver遺伝子も組織型によって寄与度が異なることが示された。このことから、ERのstatusや組織型の違いにより、がんに寄与するMut-driver遺伝子はそれぞれ異なる組み合わせにて働ていることが示された。
 さらに、40個のMut-driver遺伝子における体細胞変異頻度と予後の関連解析を行ったところ、ER陽性、ER陰性で予後関連遺伝子に違いが認められた。TP53はER陽性でのみ予後不良に関連し、一方、GATA3及びMAP3KはER陽性にて予後良好に関連することが分かった。また、PIK3CAはER陽性、ER陰性ともに高頻度に体細胞変異が認められたのに対し、予後不良への関連性が示されたのはER陽性のみであった。しかしながら、PIK3CAに対してIntClustsへのプロファイリングの関与を調べたところ、IntClust1、IntClust2、IntClust9では正常型に比べて体細胞変異のHazard ratioが有意に高くなっているのに対し、その他のIntClustでは有意な差はなかった。このことから、予後予測には体細胞変異に加えてERのstatusやCNAを考慮することで、より精度の高い予測に繋がることが示唆された。
 筆者らはこの他、IntClustを介して、CNAを起こす遺伝子の平均的な割合と、腫瘍間のheterogeneityの違いが予後に及ぼす影響を説明しようとしたが、結果はIntClustごとの予後の違いを明確に示すものではなく、CNAによる予後予測に対する課題を残す結果となった。


(64)2016年5月28日 担当:松下 洋輔
DNMT3b Modulates Melanoma Growth by Controlling Levels of mTORC2 Component RICTOR
Cell Reports 14, 2180-2192, 2016

<要旨>
悪性黒色腫 (melanoma) の治療は、近年BRAF阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬により予後の改善が認められてきたが、未だ十分ではなく、より詳細な疾患の理解に基づいた治療薬の開発が望まれている。melanoma をはじめ多くのがん種にて、DNAのメチル化やヒストン修飾といったエピジェネティックな変化が認められており、その中でもプロモーター領域の異常なメチル化はがん抑制遺伝子の不活化の原因として、発がんやがん細胞の増殖に有利に作用する。哺乳類のDNAメチル化修飾酵素にはDNMT3AおよびDNMT3Bの2種類存在することが報告されており、そのうちDNMT3Bはmelanomaの進展に伴った発現亢進が知られていたものの、その分子機序はほとんど不明であった。本論文では、筆者らは多くのmelanoma患者にて認められるBrafv600E変異とPten遺伝子欠損したBraf/Ptenモデルマウスを用いてDNMT3Bの作用メカニズムについて述べている。
 melanomaにおいてDNMT3Bの発現が亢進している患者の予後は有意に不良であり、Braf/Ptenモデルマウスにおいても同様な発現亢進が認められた。Melanomaモデルマウスでは、一般的にはBraf変異のみでは腫瘍形成に至らないが、Braf/Ptenマウスでは100%発症する。しかしながら、DNMT3Bも同時に欠損させると腫瘍形成が5倍以上も遅延したことから、Pten欠失による腫瘍進展に対するDNMT3Bの関与が予測された。そこで、PI3K経路へのDNMT3Bの関与を検討したところ、DNMT3Bの欠失によりmTORC2複合体の1つであるRICTORタンパク質発現の著しい減少が認められた。続いて、TCGAのNGSデータセットを用いたtranscriptome解析を行ったところ、DNMT3B高発現群ではmiRNA target genesが著しく増加していた。さらに、Braf/PtenとBraf/Pten +DNMT3B(-/- )マウスにおけるmiRNA発現およびRICTOR標的miRNAのTargetScanによる候補miRNA検索の結果、RICTORタンパク質の発現制御分子としてmiR196bを同定した。
 miR196bはDNMT3B存在下にて、そのプロモーターのCpG islandが有意にメチル化されていること、さらにmiR196b存在下にてRICTORの過剰発現にて増殖能の回復が認められることから、DNMT3BがmiR196bのメチル化を介してmTORC2複合体に作用し、melanomaの進展に寄与していることが示唆された。またmiR196bが過剰にメチル化されているmelanoma患者では予後が悪いことからも、DNMT3bが作用するシグナル経路が今後治療標的となりうる可能性を秘めている。しかしながら、約50%のmelanomaで認められるBrafの変異やBraf阻害剤との関連性が本論文では明らかにされておらず、今後の検討が待たれる。


(63)2016年5月21日 担当:奥村 和正
The EGF Receptor Promotes the Malignant Potential of Glioma by Regulating Amino Acid Transport System xc(-)
Cancer Research Published Online First March 15, 2016

<要旨>
癌細胞は無限の増殖能を有するがゆえにアミノ酸代謝が亢進している。アミノ酸は腫瘍の微小環境を整え、癌細胞の代謝や悪性度に関与することが知られている。アミノ酸の細胞内への取り込みに不可欠なのがアミノ酸輸送体である。癌において発現亢進しているアミノ酸輸送体はこれまでに5種類同定されており、そのうちのアミノ酸輸送因子複合体であるsystem xc(-) (SLC1A11-SLC3A2 complex)が、CD44v タンパク質(CD44 variant isoform)陽性の消化器癌で活性化されて、癌の増殖能、遊走能そして、ROS抵抗性の獲得に関与することが報告されている (Cancer Cell 19, 387-400, March 15, 2011)。しかしながら、グリオーマではCD44s タンパク質(CD44 standard isoform)陽性症例がほとんどであり、それらの症例の脳内に多量のグルタミン酸が認められるという報告もあり、詳細は不明であった。本論文では、筆者らはグリオーマ細胞にはこれまでの知見と異なるsystem xc(-)の活性化機構が存在するのではないかと考えて、その検証実験を進めた。
 FACS解析において、CD44s陽性グリオーマ細胞表面に存在する分子の発現について調べたところ、 SLC7A11とEGFRの発現に相関性を認めた。さらに、EGFRをknock downするとSLC7A11の不安定化が起こることや、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤Gefitinib処理にてSLC7A11の発現量に変化がないことから、EGFRのチロシンキナーゼ活性非依存的にSLC7A11は安定化されることでグリオーマ細胞の増殖、遊走、ROS抵抗性の獲得に関与することがわかった。これはEGFRと SLC7A11の結合阻害変異体を用いた結合実験にて証明している。さらにEGFR高発現グリオーマ細胞(EGFRhigh glioma)を移植したヌードマウスにおいて、SLC7A11をknockdownすると、コントロールと比べ長期に生存することから、これら複合体の治療標的としての有望性が明らかとなった。
 以上より、EGFRhighのグリオーマではEGFRによるxc(-)の活性化を通じて微小環境が維持されていることがわかり、消化器癌と同様SLC7A11を標的とした治療法の開発が有効であると結論されている。
 本論文では消化器癌とグリオーマでは異なるsystem xc(-)の活性化様式を持っていることが判明したが、他にも癌種においても高発現しているアミノ酸輸送体が複数存在しており、癌腫により様々なアミノ酸輸送体の活性化があることが予想され、今後の解析が待たれる。


(62)2016年4月30日 担当:吉丸 哲郎
Inhibiting Drivers of Non-mutational Drug Tolerance Is a Salvage Strategy for Targeted Melanoma Therapy
Cancer Cell, 29, 270-284, 2016

<要旨>
メラノーマ患者の約半数がBRAF遺伝子のV600Eの変異による細胞内シグナル経路の亢進によることが明らかになってから、BRAFおよびその下流分子MEKを標的にした分子標的薬が臨床応用されている。しかしながら、そのほとんどは耐性となるため、これら分子標的治療法の改善が重要な課題となっている。本論文は、薬剤耐性獲得を生じる前段階(drug-tolerance phase)において発現亢進を認めるメラノーマ特異的がん遺伝子MITF(microphtalmia−assoeiated transcription factor)が薬剤耐性を誘導する初期ドライバー遺伝子であり、MITF遺伝子を標的とした治療薬開発が現在のメラノーマに対する治療法を改善しうることを論じたものである。
 標準治療開始2週間以内の患者のメラノーマ細胞を解析したところ、約80%の患者でMITFの発現亢進を確認し、MITFがPAX3(Paired homeotic gene 3)によって転写誘導されることを明らかにした。さらに、FDA承認薬からなるライブラリーを用いたドラッグリポジショニンスクリーニングを通じて、HIV1のプロテアーゼを阻害する抗エイズウイルス薬であるネルフィナビルがSMAD2/4/SKI抑制複合体の活性化を通じて、PAX3とMITFの発現を強力に抑制することを見出した。実際に、BRAF阻害剤およびMEK阻害剤の耐性獲得患者から単離したBRAF/NRAS突然変異陽性メラノーマ細胞ならびにBRAF/NRAS/PTEN突然変異陽性メラノーマ細胞に対して、ネルフィナビルとの併用療法が各阻害剤の抑制効果の増強すること、およびMITFが薬剤耐性メカニズムの一因であると考えられた。
 今回のネルフィナビルと分子標的薬の併用効果はまだマウス実験の段階だが、ネルフィナビルを皮膚がんの標準治療と組み合わせることで治療効果が強力に改善されることを明らかにし、薬剤抵抗性を遅らせる可能性が示唆された。しかしながら、ネルフィナビルとの併用療法はメラノーマ細胞のアポトーシスを誘導する一方、プロテアソームを阻害することからの副作用を引き起こす可能性も考えられ、その作用機序を明確にすることが今後必要である。さらに、BRAF(V600E)の変異とMITFとPAX3の発現亢進の関連性を明確にすることで、今後のメラノーマ治療の適応患者を明確にすることに繋がると期待される。


(61)2016年4月23日 担当:木村 竜一朗
MTAP deletion confers enhanced dependency on the PRMT5 arginine methyltransferase in cancer cells.
Science. 2016 Mar 11;351(6278):1214-8. doi: 10.1126/science.aad5214.

<要旨>
癌細胞はその生存・増殖を特定のがん特異的分子に依存しており、このような癌特異的生存機構を創薬標的とした開発戦略が進められている。筆者らは、数百種類の癌細胞株を用いて、大規模網羅的ゲノム情報解析とshRNAライブラリーによる癌細胞増殖に必須な分子のスクリーニングを行い、methylthioadenosine phosphorylase (MTAP)遺伝子の欠損が癌細胞のアルギニンメチル基転移酵素protein arginine methyltransferase 5 (PRMT5)とその結合分子WDR77への依存性を誘導することを発見した。実際に、多くのがん細胞にて高頻度に欠損の認められている癌抑制遺伝子CDKN2Aの近傍に存在するMTAP遺伝子も共通して高頻度の欠損を認めている。このMTAP遺伝子の欠損は、その遺伝子産物MTAPにより代謝される代謝産物methylthioadenosine (MTA)の細胞内濃度を増加させ、その結果蓄積したMTAは、PRMT5とS-adenosylmethionine (SAM)の結合を競合的に阻害することで、特異的にPRMT5のメチル化酵素活性を抑制した。また、MTAの添加およびPRMT5阻害剤は、(MTAP発現細胞と比較して)MTAP欠損癌細胞でより顕著な抗腫瘍効果を認めた。これらのことから、筆者らはMTAP遺伝子の欠損がPRMT5依存的な癌の脆弱性を産み出すことを明らかにした。
 PRMT5は、癌細胞において、ヒストンH3/H4および転写因子等の非ヒストンタンパク質のアルギニンメチル化を誘導することにより、癌抑制遺伝子の転写を負に制御するとされている。PRMT5は、大腸癌、胃癌、肺癌、白血病等の多くの癌において発現亢進あるいは活性化しており、PRMT5高発現症例は予後不良である。近年では、PRMT5阻害剤がin vivoでも奏功することが報告されている。本論文で、MTAP遺伝子の欠損癌細胞ではさらにPRMT5阻害剤への感受性が増す可能性が示唆されており、今後の臨床応用に期待が持てる展開となっている。ただし、MTAP発現癌細胞におけるPRMT5活性の制御機構は未だ知られておらず、今後の更なる基礎研究が重要とも言える。また、癌におけるPRMT5の発現亢進メカニズムと恒常的活性化機構の解明もPRMT5を標的とした治療戦略には重要な課題と考えられる。


(60)2016年4月9日 担当:片桐 豊雅
Recurrent DUX4 fusions in B cell acute lymphoblastic leukemia of adolescents and young.
Nat Genet. 2016 Mar 28. doi: 10.1038/ng.3535. [Epub ahead of print]

<要旨>
小児がんの治療と成人がんの治療のどちらに準じて行うべきか未だ治療法の確立していないAYA世代(Adolescence and young adult:思春期—若年成人、15-39歳)において最も多いがんの1つであるB-ALL(B-cell acute lymphoblastic leukemia: B細胞性急性リンパ性白血病)は発症原因がこれまで不明であり、有効な分子標的治療薬がないことが問題となっていた。本論文では、東京大学の間野博行教授らのグループが、AYA世代特異的に発症するB-ALLの原因遺伝子としてDUX4-IGH融合遺伝子を同定したことを述べている。
 筆者らは、はじめにAYA世代のB-ALL、73症例を対象とした次世代シーケンサーを用いたRNAseq解析による融合遺伝子の検索を行った。その結果、約65%の症例に融合遺伝子が認められた。そのうち、最も頻度が高いDUX4-IGH融合遺伝子はAYA世代にのみ特異的に認められた。DUX4遺伝子は正常細胞では発現認めないが、細胞死を誘導する機能を有し、遺伝性疾患である顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの筋細胞にて発現亢進することで筋細胞の減少を引き起こす。一方、AYA世代B-ALL患者の白血病細胞においてDUX4遺伝子は免疫イムノグロブリン遺伝子H鎖(IGH: immunoglobulin H)の遺伝子座に挿入されて、DUX4の3’側が削れた形でIGHと融合し、IGHのエンハンサー機構を通じてDUX4-IGH融合遺伝子が大量に転写誘導された。その結果大量に発現したDUX4-IGHタンパク質はDUX4が本来有する細胞死誘導能を失って、強力な発がん能を獲得し、マウスproB細胞にて発現させるとin vitro, in vivoにて白血病を発症した。一方、DUX4-IGHを有するB-ALL細胞にて、DUX4-IGH遺伝子発現を抑制すると細胞死が誘導されることから、治療標的の可能性が示唆された。
 さらに、本論文では、転写因子ZNF384やMEF2Dとの融合遺伝子群の高頻度に存在も見いだしたが、これらはAYA世代のみならず小児のB-ALL患者にも認められた。また、DUX4-IGHあるいはZNF384融合遺伝子を有する患者は予後良好であったが、MEF2D融合遺伝子をもつ症例は予後不良であった。
 以上のことから、発症原因が不明であったAYA世代B-ALLの原因を解明した本研究は、治療法・予後予測マーカーの開発に今後繋がることが期待される。


(59)2016年4月2日 担当:高橋 定子
Patterns and functional implications of rare germline variants across 12 cancer types.
Nat Commun. 2015 Dec 22;6:10086.

<要旨>
腫瘍の発生および進展はゲノム異常の蓄積によるが、そのプロセスは複雑であり、germlineとsomatic variants間の密接な相互作用が関係しており、両者の関連性の理解ががん化のメカニズム解明において必須である。近年、がん研究分野において、ゲノムワイド関連解析や次世代シーケンス解析の大規模なデータが利用できるようになり、これまでは困難であった「がん感受性関連rare variant」の同定も可能となってきた。本論文では、筆者らはgermlineにおけるrare variantの全体像を把握することを目的として、12種類のがんを対象とした次世代シーケンス解析データを用いて、rare germline variantsとsomatic variantsとの関連性について解析を行った。
 まず、The Cancer Genome Atlas (TCGA)から取得した12種類のがん(乳がん、多形神経膠芽腫、頭頸部扁平上皮がん、腎明細胞がん、急性骨髄性白血病、低グレードの神経膠腫、肺腺がん、肺扁平上皮がん、卵巣がん、前立腺がん、胃がん、子宮体部内膜線がん)の患者4,034人における114のがん関連遺伝子のrare germline variantsの(マイナー対立遺伝子頻度MAF(Minor allele frequency) <0.05%)の頻度調べたところ、12種類すべてのがんで、高い頻度で出現するrare germline truncations(卵巣がんでrare variant頻度が最大19%、胃がんで11%、急性骨髄性白血病で4%)が同定された。次にburden testingにより、複数のがん種間に共通して、あるいは特定のがん種において13個のがん関連遺伝子(ATM, BRCA1/2, BRIP, CNKSR1, EME2, MRE11A, MSH6, PALB2, PIK3C2G, RAD51C/D, XRCC2)上のrare germline truncationsが有意にエンリッチしていることが確認された。さらに、rare germline truncationsを有するがんにおけるloss of heterozygosity (LOH)解析の結果、9個の遺伝子(ATM, BAP1, BRCA1/2, BRIP1, FANCM, PALB2, RAD51C/D)にてLOHを認め、さらに、4個の遺伝子(ATM, BRCA1/2, RAD51C)では、機能ドメインおよびその近傍におけるmissense variantsを有するがんにおいても有意にLOHを認めた。これらLOHを認めた症例におけるmissense variantsの不活化機構への影響を評価するために、BRCA1遺伝子にて認められた68個のmissense variantsに対してHomology-directed repair assay (HDR assay)を行った。その結果、RINGドメインあるいはBRCTドメイン上に認めた6個のmissense variantsにおいて顕著なHDR活性の減少を認め。これらの症例はいずれもLOHおよびmissense variantsの2-ヒットによって不活化することが示されていた。今回の解析ではTCGAの限られたサイズおよび臨床データを用いた検証であったことから、今後はサンプルサイズの増加や詳細な家族歴などの臨床情報の付加より、さらなるgermline variantsとsomatic variantsとの関連性について解析を進めることが期待される。著者らが示した候補variantの同定法はがん種を超えて共通に存在するrare variantを同定できたという意味で非常に画期的であり、基礎研究における新規リスクrare variantの候補予測、あるいは臨床の治療戦略における既知リスクrare variantの検出への応用が期待される。


(58)2016年3月26日 担当:松下 洋輔
Overcoming Therapeutic Resistance in HER2-Positive Breast Cancers with CDK4/6 Inhibitors.
Cancer Cell 29, 255-269, 2016

<要旨>
 がん細胞は増殖シグナルを活性化・維持するために、遺伝子変異などを通した抑制機構からの回避する能力を獲得している。また、正常細胞では厳密に制御される細胞周期の進行も、Rbなどの細胞周期の制御機能を有するがん抑制遺伝子の不活化などにより、細胞周期の異常亢進によって細胞増殖が促進される。このことから、細胞周期関連分子を標的とした抗がん剤の開発は盛んに行われており、乳がんでは、昨年ER+ HER2- 閉経後進行乳がんを対象とし、レトロゾール(アロマターゼ阻害剤)との併用による一次治療薬としてサイクリン依存性キナーゼ (CDK) 4/6阻害薬がFDAに承認された。この適応は先に行われた無作為化第二相試験PALOMA-1において無憎悪生存期間の約2倍の延長という結果に基づいたものである。
 HER2陽性乳がんはtrastuzumabをはじめとした抗HER2治療薬の登場により予後の顕著な改善が認められているが、耐性化や不応性が問題となっている。この原因としてHER2のダイマー化やPIK3CAの活性変異、PTENの変異による不活化などが報告されているが、詳細は未だ判っていない。これらのことから、HER2抵抗性の機序解明に基づいた新規標的治療薬の開発が望まれている。
 本論文ではTet-onシステムを用いたHER2発現誘導トランスジェニックマウスを樹立し、HER2発現をoffによる腫瘍退縮後に再発した腫瘍においてCyclinD1とCDK4の発現亢進を明らかにした。また抗HER2剤抵抗性細胞株では処置後CCND1の発現に減弱が認められないこと、感受性株に対してCCND1を過剰発現させるとlapatinib・trastuzumab両薬剤のIC50が上昇すること、これらの抗HER2剤抵抗性株に対してCDK4/6阻害剤は単剤でも細胞周期同調作用を示すことから、Cyclin D1-CDK4がHER2治療への抵抗性に対し重要な因子であることが示唆された。これはHER2陽性症例にて病理学的CR(pCR: Pathological CR)の得られなかった群においてCCND1のCNVの増加が認められたことからも確かめられた。興味深いことにCDK4/6阻害剤はlapatinibの標的であるEGFR、HER2、HER3と下流のAKTのリン酸化の上昇が認められたが、mTORC1下流のP70-S6KやS6RPのリン酸化の減少、すなわちmTORC1活性の減弱を引き起こした。さらに、上流因子であるTSC2のリン酸化も減弱していたことから、CDK4/6阻害剤はEGFRファミリーキナーゼシグナルの負のフィードバック機構を抑制することでmTORC1を抑制している可能性が示唆された。このmTORC1活性の抑制効果はCDK4/6阻害剤とlapatinibの併用でさらに増強した。また、HER2陽性治療抵抗性のPDXモデルに対しても、CDK4/6阻害剤は単剤でも顕著な効果を示すだけでなく、HER2治療への再感作を誘発と再発の遅延を示した。
 以上のことから、本論文ではCDK4/6阻害剤によるHER2抵抗性解除の機序の1つとしてmTORC1の活性抑制を提唱したが、負のフィードバックを抑制する機序など未解明な点も多く残されている。しかしながら、分子標的薬の問題点である耐性化に対して再感作を引き起こす現象は非常に魅力的な作用であり、またEGFRとクロストークを示すことからも、今後乳がんをはじめとした様々ながんにおいてCDK4/6阻害剤の活性評価、臨床試験の実施が予想される。


(57)2016年3月19日 担当:奥村 和正
The mRNA-edited form of GABRA3 suppresses GABRA3-mediated AKT activation and breast cancer metastasis.
Nature Communication Published 12 Feb 2016

<要旨>
 転移は乳癌の予後規定因子として最重要のeventのひとつであることから、転移を促進する分子を標的とした治療薬の開発が望まれている。本論文にて、筆者らはTCGA(The Cancer Genome Atlas)の乳癌症例のRNAaeqデータ解析を通じて、予後と関連する遺伝子を41個選抜した。それら選抜遺伝子の中で、①乳癌細胞にて高発現するが、脳以外の正常組織では発現を認めない、②正常乳腺では発現を認めず、乳癌組織で発現する、③治療薬の標的となる細胞表面タンパク質をコードする、④不眠症の治療薬として臨床応用されている、以上の観点から、GABRA3(GABAA receptor alpha3)に着目した。
 GABRA3は抑制性の神経伝達物質であるGABA(γ-aminobutyric acid)の受容体であり、既報より乳癌の脳転移巣で発現亢進を認めることやADAR(adenosine deaminase acting on RNA)による二本鎖RNA(ds-RNA)の脱アミノ化A-to-I(Adenosine-to-inosine) RNA editingを受けることにより、アミノ酸の変化(イソロイシン→メチオニン)を伴い、これにより細胞表面上のGABRA3タンパク質の発現が抑制されるという報告があった。筆者らは乳癌細胞において、A-to-I edited GABRA3が非浸潤癌症例や細胞株に発現を認める一方、浸潤性乳管癌には認めないことに着目し、GABRA3のRNA編集が乳管外浸潤の抑制と関係するという仮説をたてた。はじめに、unedited GABRA3の細胞表面上での発現はAKT 活性化通じた遊走、浸潤能の促進させることを見いだした。一方、edited GABRA3の強制発現系実験において、edited GABRA3タンパク質は細胞表面上には発現を認めず、癌細胞の遊走、浸潤能の抑制を認めた。以上から、浸潤性乳癌細胞上に発現するunedited GABRA3を標的とした抗体療法の可能性が示唆された。近年、インターフェロンがmRNA editを誘導することも報告されており、標的特異性の問題はあるものの、インターフェロンによるedited GABRA3発現誘導を通じた乳癌の転移の抑制の可能性についても述べられている。
 Unedited GABRA3が乳癌細胞でのみ発現亢進していることは癌細胞増殖などへの関与が考えられるが、どのような役割を果たしているのかは不明である。また、GABRA3の活性化のメカニズムやその下流のAKT signalの活性化機構については今後の解明が待たれる。さらに、癌の進展過程から考えると、癌化の際にはeditedおよびunedited GABRA3の両フォームが発現し、その後、unedited GABRA3が発現した細胞のみが乳管外浸潤、転移を引き起こすことが考え得るが、そのRNA editがどのような機構にて引き起こされるのかは非常に興味深い。さらに、既存の不眠症の治療薬として臨床応用されている抗GABRA3抗体薬による浸潤性乳癌の転移の制御の可能性もあり、今後の詳細な解析が待たれる。


(56)2016年3月12日 担当:吉丸 哲郎
The LINK-A lncRNA activates normoxic HIF1α signaling in triple-negative breast cancer.
Nat. Cell Biol., 18, 213-224, 2016

<要旨>
ヒトやマウスの大規模なゲノム解析が進み、タンパク質をコードしないnon-coding RNAの存在が注目されている。特に、200 塩基以上の lncRNA (long non coding RNA) は遺伝子の発現制御や発生・分化あるいは腫瘍形成などの様々な生理的・病態的現象に重要な役割を担うことが報告されつつある。本論文では、lncRNAであるLINK-A(long intergenic noncoding RNA for kinase activation;キナーゼ活性化lincRNA)が、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)において正常な酸素条件下でHIF1αの安定化を導き、さらにその下流のシグナル経路を活性化することを見出し、LINK-A のTNBC治療標的としての可能性を論じている。
 LINK-A発現量はTNBC組織において有意に高く、主に細胞質で局在していることが示された。また、LINK-A はEGFR(上皮増殖因子受容体)、GPNMB(glycoprotein nonmetastatic melanoma protein B:TNBCの増殖・転移を促進する膜貫通型糖タンパク質)、HIF1α(低酸素誘導因子)と間接的に、BRK(Breast tumor kinase)、LRRK2(Leucine-Rich Repeat Kinase2)とは直接結合することが明らかになった。次に、これら複合体の形成メカニズムについて詳細に検証したところ、ヘパリン結合性上皮増殖因子(HB-EGF)刺激下においてのみ、EGFRによってGPNMBのTyr525をリン酸化し、それによってEGFRとGPNMBがヘテロ二量体化することを見出した。さらに、LINK-AがBRKの立体構造を変化させることでHB-EGF によるBRKのTyr351のリン酸化を可能にし、EGFR-GPNMBヘテロ二量体にリクルートさせることを明らかにしている。そして、BRKはHIF1αのTyr565をリン酸化して、正常酸素分圧条件下でHIF1αの分解を誘導するPro564のヒドロキシル化を阻害していた。続いて、LRRK2はHIF1αのSer797をリン酸化し、HIF1αと転写共役因子p300の相互作用を促進していた。実際に、TNBC細胞株MDA-MB-231細胞において正常酸素分圧下でのHB-EGF刺激によりHIF1α標的遺伝子の転写亢進が認められた。一方、LINK-Aをノックダウンすると、HIF1αの転写活性が損なわれ、マウスへの異種移植片の増殖が抑制された。TNBC患者由来のサンプルでも、GPNMB、BRK、HIF1αのTyr565とSer797のリン酸化が顕著に増加し、生存期間と相関関係が認められたことから、治療選択肢が限られているTNBC治療の方向性にLINK-Aの発現が大きく寄与すると考えられる。
 本論文は、LINK-Aが低酸素ではなく通常酸素条件下でHIF1αを安定化することが興味深い知見であったが、TNBCでEGFP-GPNMBヘテロ二量体がどの程度形成されているのか、がん微小環境下の低酸素条件によるHIF1αの活性化にLINK-AによるHIF1αの活性化がどの程度寄与してくるのか、まだ多くの課題が残っている。一方、TNBC転移症例において有意なLINK-A発現量の亢進が認められることから、TNBCの治療標的となりうることが示唆された。また、RNA-タンパク質の相互作用がタンパク質の立体構造を変化させ、シグナル伝達経路や疾患状態に重要な制御事象を示したという点でも意義深いものであった。


(55)2016年2月20日 担当:木村 竜一朗
Blocking c-Met-mediated PARP1 phosphorylation enhances anti-tumor effects of PARP inhibitors.
Nat Med. 2016 Feb;22(2):194-201. doi: 10.1038/nm.4032.

<要旨>
 Poly (ADP-ribose) polymerase (PARP)は、活性酸素などのDNAダメージにより誘導されるDNA一本鎖切断に対するDNA修復機構において中心的役割を果たす修飾酵素である。近年の臨床治験にて、PARP阻害剤は癌を含む多くの疾患に対する有望な治療薬であることが明らかになっている。最近、PARP阻害剤の1つolaparibはBRCA遺伝子変異陽性の卵巣癌の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)に認可された。BRCAタンパク質はDNA二重鎖切断の修復機能を有し、BRCA欠損した癌細胞はPARP阻害剤に対して高い感受性を認める(合成致死)。本論文において、筆者らは受容体型チロシンキナーゼc-METがPARP1と相互作用し、PARP1 Tyr907をリン酸化することにより、PARP1の酵素活性を上昇させてPARP阻害剤との結合を減弱させる結果、PARP阻害剤に対する癌細胞の耐性が獲得されることを明らかにした。さらに、c-MET阻害剤とPARP阻害剤の併用は乳癌および肺癌の培養細胞レベルと異種移植片腫瘍モデルにおいて相乗的な抗腫瘍効果を示すことを証明した。以上のことから、PARP1 Tyr907のリン酸化の検出はPARP阻害剤耐性の予測を可能とし、特に、c-MET阻害剤とPARP阻害剤の併用は、c-METが高発現している腫瘍やPARP阻害剤単独では効果のない患者に対して奏功する可能性があることを示唆するものである。
 近年の臨床治験から、PARP阻害剤はBRCA遺伝子変異陽性トリプルネガティブ乳癌に対しても奏功するという報告がある。しかしながら、全く効果がない症例もあることや、奏功しても時間経過とともにPARP阻害剤に対する薬剤耐性を獲得する問題点も存在する。本論文ではこのPARP阻害剤に対する抵抗性の分子機構を明らかにし、抵抗性への解決法を提示した。近年の癌をはじめとした多くの疾患に対する治療薬の主流は分子標的薬であるが、この分子標的治療薬の大きな課題の1つに早期の薬剤耐性獲得がある。このような背景から、今後の分子標的薬の開発には、薬剤耐性獲得機構の理解と解決法の提示が必須となってくると考えられる。


(54)2016年2月13日 担当:片桐 豊雅
Response and resistance to BET bromodomain inhibitors in triple-negative breast cancer.
Nature. 2016 Jan 21;529(7586):413-7

<要旨>
遺伝子の転写活性化には、アセチル化されたリジン残基に結合するブロモドメインを有するブロモドメインタンパク質が転写活性化制御に関与するタンパク質群を集めてクロマチン構造や遺伝子発現を制御することが必要であることが近年の研究によって分かってきている。近年、そのブロモドメインタンパク質の1つであるBRD4(Bromodomain Containing 4 protein)を標的としたBET阻害剤(Bromodomain and exterminal domain inhibitor)が、がんのエピゲノム創薬として注目を集めている。BET阻害剤は、BRD4のブロモドメインのもつアセチル化修飾をうけたリジン残基に対する結合ポケットに結合してブロモドメインとアセチル化ヌクレオソームとの結合を拮抗阻害することにより,転写伸長を抑制することが知られている。本論文では、これまでに多発性骨髄腫・急性骨髄性白血病・肺がん・前立腺がんなどにて,細胞の増殖を抑制することが報告されているBET阻害剤であるJQ1がトリプルネガティブ乳がんにおいてもin vitro, in vivo抗腫瘍効果を示すこと、さらに、その詳細な分子機構および将来見込まれる耐性の分子機構について述べている。
 筆者らは、はじめにTNBC細胞における増殖抑制効果の分子機構の解明を目的として、NGS解析を通じたChIPseq法・Chemseq法により、蛍光ラベル化JQ1とBRD4タンパク質が共に結合を認めるゲノム領域(転写開始点・超エンハンサー領域)を同定し、それらの領域から最終的にHIF1α、Myc の転写制御を行っていることを証明した。さらに、JQ1獲得耐性TNBC株を樹立し、感受性であるその親株との比較検討実験から、獲得耐性株ではBRD4遺伝子自身やP糖タンパク質をコードするMDR遺伝子にはいずれも体細胞変異は認めず、その一方BRD4の発現抑制にてTNBCの細胞増殖の抑制効果を認められたことから、獲得耐性TNBC株はブロモドメイン非依存的な転写活性化を通じた増殖促進が起きていることが示唆された。続いて、定量的プロテオミクス解析を通じてこの分子機構の解明を進めたところ、耐性細胞では癌抑制遺伝子であるPP2A脱リン酸化酵素の不活化によって起きるBRD4の過剰なリン酸化および転写アクチベーターであるMED1( Mediator Complex Subunit 1)タンパク質との結合によって、JQ1活性阻害による耐性、いわゆる「エピゲノム耐性」が生じていることがわかった。
 本論文の成果により、今後、JQ1をはじめとするBET阻害剤のTNBCへの臨床応用を考えた場合、BRD4のリン酸化の検出を通じたJQ1耐性症例や不応症例の検出を通じてBET阻害剤投与に適した患者の選別から、より効果的な治療の提供が可能となることが期待される。


(53)2016年1月30日 担当:高橋 定子
Regulators of genetic risk of breast cancer identified by integrative network analysis.
Nat Genet. 2016 Jan;48(1):12-21.

<要旨>
近年のゲノム解析技術の革新により、がんをはじめとする多遺伝子性疾患に関与するリスク遺伝子座が数多く同定されてきているが、それら単一遺伝子座のみのリスクだけでなく、より高くなるリスク遺伝子座の組み合わせを考えると、その数は膨大なものとなる。本論文では、個々の遺伝子座の解析を進めるのと並行して、細胞レベルでどれだけ多様なリスク変異の組み合わせがあるのかの理解に加え、これらの変異が多くの異なるメカニズムを介して働いているのか、あるいはごく限られたメカニズムに収束しているのかを示すための枠組みの必要性を説いている。これまで、システムバイオロジー的アプローチとして、タンパク質-タンパク質間相互作用ネットワークを通じたリスクパスウェイの同定が行われてきたが、その多くがまだ不十分で限定的である。一方、生殖細胞系列リスク変異の多くが遺伝子発現に影響することが知られていることから、本論文では、各遺伝子リスク変異の転写系への影響に着目している。
 筆者らはリスク変異の組み合わせを理解する上で、制御ネットワークからのアプローチの可能性に着目し、統合的な制御ネットワーク解析手法を開発し、乳がんの遺伝的なリスクレギュレーターの同定を試みた。はじめに、METABRIC (Molecular Taxonomy of Breast cancer International Consortium)のコホート1 (n = 997)及び2 (n = 995)のGWASデータを用いて、乳がんの制御ネットワークを構築し、転写因子とその標的遺伝子のセットを”レギュロン(regulon)”と定義した。次に、乳がんリスク遺伝子座によって発現が変動する遺伝子が豊富に含まれているレギュロンをeQTLs(Expression quantitative trait loci)にて探索した結果、36個の乳がんリスクに関連した転写因子が同定された。さらにクラスター解析の結果、大きく2つのクラスター(クラスター1, 2)を形成することが分かった。クラスター1はエストロゲン受容(ER)陽性腫瘍が多く分類されており、luminal-type A/Bにおいて高発現している転写因子と相関性があった。一方、クラスター2はER陰性腫瘍にて発現が高いことから、basal-like乳がんとの相関性があることが示唆された。また、ER陽性細胞においてクラスター1のリスク転写因子であるFOXA1を発現抑制すると強い増殖抑制がみられたが、クラスター2のリスク転写因子であるYBX1、CBFB、NFIB、TBX19、LMO4では効果は見られなかった。一方、ER陰性細胞においてはクラスター2のリスク転写因子のノックダウンがいずれも有意な増殖抑制を示したのに対し、クラスター1では効果は見られなかった。このことから、2つのクラスターに属する転写因子は反対の作用を持つことが示された。また、クラスター1に属するESR1遺伝子レギュロンの活性状態により生存率に違いが生じており、ER陽性細胞においてはESR1レギュロンが抑制されているほど、生存率が悪い傾向が示された。以上の結果や既知の報告から、クラスター1及び2に属する転写因子がluminal及びbasalタイプの乳がんの状態維持や別のタイプへの移行、転移に深く関与していることが示唆された。
 今回新たに開発したリスク遺伝子座のマッピングを用いた統合的なネットワーク解析手法は他の多遺伝子性疾患に対する解析にも有効であり、リスク転写因子を同定し、疾患を支配している制御回路を決定することで、これを基盤として治療のための新たなターゲットを同定することが期待できる。


(52)2016年1月9日 担当:松下 洋輔
Synthetic lethal targeting of oncogenic transcription factors in acute leukemia by PARP inhibitor.
Nat Med 21, 1481-1490, 2015

<要旨>
 成人に多い予後不良な造血器腫瘍の1つである急性骨髄性白血病 (AML) は、高頻度に染色体の相互転座が認められ、その結果生じる様々な融合遺伝子産物が発症に関与することが分かっている。その治療としては化学療法が一般的であり、一旦は寛解状態になるが、高い頻度で再発することから長期生存率の改善につながる治療戦略の開発が望まれていた。本論文では、融合がん遺伝子のRUNX1-RUNX1T1にコードされるAML1-ETOやPML-RARAにコードされるPML-RARα融合がんタンパク質などの抑制性転写因子により引き起こされたAMLが、PARP阻害剤(Olaparib) に非常に高い感受性を示すこと、その機序として相同組換え(HR) 関連遺伝子の発現抑制とDNA損傷応答 (DDR) の機能不全であることを証明している。一方、強い転写活性化能をもつMLL(mixed lineage leukemia)の融合タンパク質により引き起こされるAMLでは、DDRが十分機能することからPARP阻害剤に抵抗性を認めた。著者らは、この分子メカニズムとしてMLLによって発現調節されている転写因子HOXA9の関与を明らかにしている。つまりHOXA9をRNA干渉より発現抑制するとHR関連遺伝子であるRad51やBRCA2の発現減少が認められ、その結果DDRの機能不全が起こり、PARP阻害剤に感受性を示すようになる。その一方、HOXA9の過剰発現細胞では、Rad51の発現亢進が認められ、PARP阻害剤に耐性を示すようになる。次に、筆者らは、HOXA9特異的阻害剤が未開発のために、HOX転写複合体を活性化することが知られているGSK3に対する阻害剤 (LiCl) を代用してHOXA9の機能阻害を試みた。その結果、LiCl単独でも若干の効果が認められたがPARP阻害剤との併用ではMLLを通じて引き起こされた相乗的な抗腫瘍効果がin vitro、in vivoにて認められた。
 以上のことから、HOXA9がPARP阻害剤耐性の白血病において有望な標的となることが示唆され、合成致死を誘導するPARP阻害剤を用いた発がん性転写因子を標的とした治療戦略がAMLにおいて有望であることが期待される。

2015


(51)2015年12月26日 担当:奥村 和正
Death-associated protein kinase 1 promotes growth of p53-mutant cancers.
JCI.org Vol125 No7 July 2015

<要旨>
本邦と同様に米国においても乳癌は女性の癌の中で最も罹患率が高く、また癌死の原因の第2位となっている。そのうちER陰性乳癌は悪性度が高く、特にTriple negative breast cancer (TNBC)は 標的分子不明のため治療薬も限定されて予後不良であることからTNBCの新規分子標的治療開発が急務である。これまでの大規模シーケンス解析を通じて、TNBCと類似するbasal like乳癌において、TP53遺伝子が80%を超える高頻度にて体細胞変異を認めることが分かっていたが、依然、その高い異質性からその生物学的特性は不明な点が多い。筆者らは、ER陰性乳癌、特にTNBCに対する治療標的の同定を目的に、ER陽性乳癌と陰性乳癌において発現の異なるキナーゼのスクリーニングを行い、同定したキナーゼの特性からER陰性乳癌を4つに分類した(①細胞周期チェックポイント、②MAPK、③免疫調節因子(immunomodulatory)、 ④S6キナーゼ)。本論文において、著者らは、これら4つのグループのうち、最も予後不良である④S6キナーゼグループにおいて、最も発現亢進している分子であるdeath-associated protein kinase 1(DAPK1)に着目した。
 DAPK1はapoptosis誘導能を有する癌抑制分子であることが知られているが、TNBC細胞ではその機能とは相反して発現亢進を認めることから、本論文で著者らはTNBC細胞ではDAPK1がこれまでとは異なって機能を有しているのではないかと仮説を立てた。In vitroの実験でp53変異TNBC細胞株にてDAPK1をsiRNAにて発現抑制すると足場依存非依存性細胞増殖が顕著に抑制され、一方DAPK1の過剰発現では細胞増殖の亢進が認められた。また、TNBC細胞において、DAPK1特異的キナーゼ阻害剤は、mTOR阻害剤であるeverolimusと同程度のin vitro、in vivo抗腫瘍効果を認めたが、everolimusとの併用での相乗的効果は認められなかった。さらに、大規模シーケンスデータベースを通じた予後解析では全乳癌でDAPK1の高発現症例は予後不良を示し、特にp53変異乳癌では顕著な予後不良を認めた。また、p53変異症例において、DAPK1はその下流因子である抑制因子TSC2(tuberous sclerosis2)のS939のリン酸化を導き、その結果TSC1/TSC2複合体の不安定化が促進されて、その下流のm-TOR pathwayが活性化されることを明らかにした。
 本論文ではなぜp53変異TNBC細胞おいて、抑制因子であるDAPK1が高発現するのかが不明であり、p53変異とDAPK1の関連性や、細胞増殖抑制機能を有する分子の細胞増殖亢進に転じるメカニズムについては依然不明である。一方、これまでの提唱されていた癌抑制因子として機能するDAPK1がp53変異細胞に対して、治療標的となりDPK1 阻害剤がP53変異を有する癌腫に対する有用な治療薬となる可能性を秘めており、これからの研究に期待が寄せられる。


(50)2015年12月12日 担当:吉丸 哲郎
K-Ras Promotes Tumorigenicity through Suppression of Non-canonical Wnt Signaling.
Cell, 163, 1237-1251, 2015

<要旨>
Rasファミリー(K-Ras、N-Ras、H-Ras)は高い配列相同性を有し、発現量は同程度にもかかわらず、ヒトの腫瘍ではK-Rasのみ膵臓がんで70~90%、大腸がんで約50%認めるほど高頻度に変異を認めるが、この特異性はいまだ不明な点も多い。本論文の著者らは、K-Rasがカルモジュリン(CaM)との結合を介してカルモジュリンキナーゼ(CaMKii)活性を抑制し、その結果non-canonical(非古典的)Wntシグナルを抑制することで、高い腫瘍形成能を獲得していることを見出した。本論文では、これまで“Undruggable target(治療薬になり得ない標的)として考えられていたK-Rasが、K-RasとCaMの相互作用を通じて治療標的になりえる可能性を明らかにしている。
 はじめに、著者らは、スフェア形成能アッセイおよびマウス累代移植実験によって各Rasファミリーの機能特異性を調べ、K-RasがH-Rasより効率的に腫瘍形成能を有することを明らかにした。また、非古典的(non-canonical)Wntシグナルの主要メディエーターであり、古典的(canonical)なWnt/β-カテニン経路を抑制する幹細胞関連遺伝子Frizzled 8 (Fzd8)がK-Ras過剰発現細胞にてCaMKii活性の低下と供に有意に発現低下していた。一方、K-Ras発現抑制細胞ではFzd8の発現亢進とβ-カテニンの活性低下が認められた。実際に、K-Ras変異を有するすい臓がん切除臨床検体おいてFzd8の発現低下が認められたことからも、すい臓がんの発症に大きく寄与することが示唆された。さらに、これまでの知見からK-Rasは、高頻度可変領域(hypervariable region)を介してCaMと特異的に結合するが、この結合はPKCによるK-rasのSer181のリン酸化により阻害されることから、PKC活性化因子プロストラチンによるK-Rasをリン酸化によって、CaMとの結合が阻害されること、遊離したCaMによりCaMKiiが活性化されること、Fzd8の発現が亢進すること、K-Rasの過剰発現細胞の増殖が抑制されること、同所性移植マウスに対して完全な抗腫瘍効果を有することが認められた。
 以上ことは、K-Rasによる非古典的Wntシグナル経路の制御を介した古典的Wnt/β-カテニン経路の活性化が悪性腫瘍形成の一因であることを示唆している。しかしながら、K-Rasの過剰発現細胞をβ-カテニン阻害剤で処理してもスフェア形成能の低下は認められないことから、K-RasがWnt/β-カテニン経路と非依存的に幹細胞性の腫瘍因子として機能することが示唆された。本論文にて明らかとなったK-RasとCaMの相互作用を標的することで、Fzd8を介した非古典的Wntシグナル経路を活性化する治療戦略はK-Ras変異がん改善に大いに期待される。


(49)2015年11月28日 担当:木村竜一朗
IRAK1 is a therapeutic target that drives breast cancer metastasis and resistance to paclitaxel. Nat Commun. 2015 Oct 27;6:8746. doi: 10.1038/ncomms9746.

<要旨>
乳癌治療の問題点の1つに転移性腫瘍の再発が挙げられ、この克服は急務である。特に、ER, PgR,Her2を欠くトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は悪性度が高く、転移を伴う再発やタキサン系抗がん剤に対する耐性などの問題を抱えている。筆者らは、シグナル伝達分子interleukin-1 receptor-associated kinase 1 (IRAK1)の発現亢進が、NF-κB依存的な炎症性サイトカインの産生を介したTNBCの腫瘍形成と転移能の獲得に寄与することを明らかにした。特に重要な点として、タキサン系抗がん剤パクリタキセルの投与がIRAK1を強力に活性化(リン酸化)し、炎症性サイトカインの発現亢進および乳癌幹細胞の増殖も誘導することで、パクリタキセル耐性能の獲得につながることが証明されたことがあげられる。IRAK1阻害剤はp38-MCL1(myeloid cell leukemia-1)経路による細胞の生存を阻害することでアポトーシスを誘導することにより、パクリタキセル耐性能獲得を無効にする働きを有する。これらのことから、TNBCの転移とパクリタキセル耐性に対する治療標的としてのIRAK1の役割が明らかとなった。
 本論文では、TNBCにおいてIRAK1は、NF-κBと炎症性サイトカインを介した乳癌幹細胞の維持と転移能の獲得、p38/MCL1を介した薬剤耐性能の獲得の2つの役割を果たすことを示している。これら2つの経路のより詳細な解析と有機的統合が今後の新たな課題と考えられ、IRAK1阻害剤による臨床応用を現実的なものとできると思われる。また、古くからNF-κBは癌の治療標的とされてきたが、NF-κB阻害剤は正常組織におけるNF-κBの働きも阻害することから毒性が強く、臨床応用が困難とされてきた。しかしながら、IRAK1阻害剤は、IRAK1が発現亢進している癌組織においてのみ間接的にNF-κBを阻害するため、効果がより特異的である。今後このようなNF-κB経路の上流あるいは下流の分子に対する分子標的薬の開発が、今まで困難であったNF-κB経路を阻害する新しい治療薬が産まれる土壌となると考えられる。


(48)2015年11月21日  担当:片桐 豊雅
Analysis of ESR1 mutation in circulating tumor DNA demonstrates evolution during therapy for metastatic breast cancer. Sci Transl Med. 2015 Nov 11;7(313):313ra182.

<要旨>
この論文セミナーにて何度も述べているとおり、がんの発症、進展はゲノムもしくはエピゲノム異常の蓄積によることに疑う余地はない。近年、腫瘍細胞が血中へDNA断片を放出する無細胞の循環腫瘍由来DNA(ctDNA:Circulating tumor DNA)の存在が報告されている。このctDNAを検出することは、組織生検のように患者への侵襲性を伴わずに、がんの進行状況を経時的に同定することが可能であり、特にctDNAは腫瘍全体のゲノム異常を示すことから、「リキッドバイオプシー」と呼ばれ、バイオマーカーの可能性について注目されている。さらに近年の次世代シーケンサーによるdeep sequencingやデジタルPCRのような技術の向上に伴い、高感度にctDNAを検出することも可能となってきている。本論文では、エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん患者のctDNAを用いて、ESR1遺伝子の体細胞変異をデジタルPCRにて高感度に検出可能な測定系の開発および腫瘍の進行に伴う耐性獲得におけるESR1変異の関与について述べている。
 ESR1遺伝子はそのリガンド結合領域における体細胞変異が転移性乳がん患者にて認められており、治療薬アロマターゼ阻害剤(AI)に対する耐性に関与することが報告されている。本論文にて著者らは、乳がん患者を対象に、ctDNAを用いてESR1遺伝子の変異をデジタルPCRにて検出した。その結果、ESR1遺伝子変異を有するER陽性乳がん患者は予後不良で有ったが、術前または術後補助療法としてAI剤を投与した患者にはESR1遺伝子変異はほとんど認められなかった。一方、転移を有する進行性乳がん患者に対してAI剤投与した40%弱の患者にてESR1遺伝子の変異を認め、この結果は3つの独立したコフォートにおいても同様であった。以上の結果から、転移性乳がん患者では、AI剤投与前にすでにESR1遺伝子変異が存在し、その後のAI剤投与による選択圧の下でESR1遺伝子変異を有したクローン細胞の増殖となることが示唆された。一方、初期の原発乳がんにはESR1遺伝子変異はほとんど存在せず、AI剤補助療法にて多くは反応する中、耐性を獲得した細胞においてもESR1遺伝子変異は少ないものと考えられた。 
 以上のことから、ctDNAを利用したリキッドバイオプシーによる癌細胞変異の同定は、組織バイオプシーが困難ながん腫における治療反応性や副作用、再発のモニタリングを可能とし、さらに組織バイオプシーではその高い侵襲性から困難である複数のタイムポイントでのモニタリングも可能となり、今後のがんの個別化医療には欠かせないものとなることは間違いない。現在は、特定の変異だけに絞り込んだターゲットシーケンスやデジタルPCRによるものであるが、少量のDNAにてより高感度に全ゲノム(全エクソン、全RNA)の解読可能となれば、より多くの変異(新たなドライバー遺伝子)を同定することによって、癌化、治療耐性、再発のメカニズムの解明にも寄与することが期待される。


(47)2015年11月14日 担当:松下 洋輔
Microenvironment-induced PTEN loss by exosomal microRNA primes brain metastasis outgrowth. Nature 527, 100-104 (05 November 2015)

<要旨>
がん細胞が遠隔臓器に転移して増殖するためには、転移先の微小環境に適応する必要がある。同じ起源のがん細胞が異なる臓器に転移すると、異なる遺伝子発現パターンを示すことが知られており、腫瘍細胞の本質的な性質と転移臓器における外的シグナルとの相互作用が、転移後の増殖に影響を与えていることは明白である。しかしながら、いつどのようにして、腫瘍細胞が転移先の微小環境から増殖に関与する形質を獲得するかは不明であった。本論文で、筆者らはがん抑制遺伝子PTENに異常を認めない腫瘍細胞が脳に転移した時のみPTENの消失を認め、一方、他の臓器では起こらないこと、さらにこのPTENの消失が脳の微小環境を離れるとその発現が回復することを見出した。この機構を解明すべく、マイクロRNAをアストロサイト特異的発現抑制させること、もしくはエキソソームの分泌を阻害する化合物を用いることによって、PTEN発現が回復し、その結果、脳への転移も抑制されることをこと証明した。このことから、脳アストロサイト由来のマイクロRNAがエキソソームに含有され、腫瘍細胞に移行していることが示唆された。さらに、脳への転移性腫瘍細胞で認められたPTENの消失により、ケモカインであるCCL2(C-C motif chemokine 2)の分泌が増加し、ミクログリア特異的カルシウム結合タンパク質Iba1(ionized calcium binding adaptor molecule 1)陽性細胞が集積することで、腫瘍細胞の増殖とアポトーシスの抑制が認められた。以上のことから、腫瘍細胞と転移先微小環境との動的相互作用が、転移先での増殖に必須であることを述べている。今後、本論文の知見をリキッドバイオプシーなどの診断技術と組み合わせて転移を予測できれば、画期的ながん治療が開発されるかもしれない。しかしながら、何故脳内アストロサイトが持続的に腫瘍細胞のPTENのみを消失させるのか、Iba1陽性細胞がどのように腫瘍細胞の増殖に導くのかなど、まだ解明されていない点も多いことから今後さらなる検討が必要である。


(46)2015年11月7日 担当:奥村 和正
The Estrogen Receptor Cofactor SPEN Functions as a Tumor Suppressor and Candidate Biomarker of Drug Responsiveness in Hormone-Dependent Breast Cancers. Cancer Research 75(20) October 15, 2015

<要旨>
ホルモン陽性乳癌の治療に関して、エストロゲン受容体(ERα)を標的とした治療法の開発にて、その成績は飛躍的に改善されたが、再発症例では、そのホルモン治療抵抗性の出現によって難治性となることが問題となっている。この克服のために、これまでERαと相互作用するcofactorの同定および機能解析が進められ、これにより抗エストロゲン剤感受性機構の解明および新たな治療法の開発つながると考えられてきた。筆者らは、次世代シーケンス解析を通じて、転写共役因子(transcriptional co-repressor)のSplit Ends (SPEN: SMRT/HDAC1-associated repressor protein (SHARP))がER-α陽性の乳癌細胞株であるT47Dでナンセンス変異を認めること、101人のホルモン陽性原発性乳癌のにおいて、3症例(ナンセンス変異1例、ミスセンス変異2例) の体細胞変異を認め、さらに、SPEN遺伝子の存在するlocusに23%のLOH (loss of heterozygosity)を認めることを見いだし、SPENのホルモン陽性乳癌の癌化への関与に着目した。
 筆者らはin vitro、in vivoの実験にてER-α陽性乳癌細胞において、SPENがERα標的遺伝子の転写抑制を行い、がん抑制因子の役割を果たしていること、ERα陽性乳癌臨床症例のdatabaseのcohort解析により、SPEN発現群が非発現に比較して、有意に予後良好であり、SPEN高発現群はタモキシフェンの治療効果が高いことをつきとめ、SPENがタモキシフェン単独治療の良いバイオマーカーとなることが示唆された。このタモキシフェンとの関連性はERαのE2依存性転写活性化領域AF2関連のERα標的遺伝子を選択的に抑制するタモキシフェンにて抑制できないAF1関連ERα標的遺伝子の活性をSPENが抑制することによりERα陽性乳癌細胞にとって必須であることが示唆された。これは、SPEN高発現群はERαを分解するFulvestrantの治療効果には影響しないという実験結果でも説明できる。
 SPENは、3664アミノ酸 (402kDa)と巨大なタンパク質をコードしており、過剰発現系実験のために必要なSPENの全長のクローニングが困難なために、本論文にて同定された体細変異の癌化への影響については解析が行われていなかった。特に、体細胞変異を認めたC末側にミスセンス変異を認めた2症例においてどれほど機能に影響するのかを解明することよって、SPENの癌化への関与について理解するのに重要である。また、このような大きな分子の核内移行についても不明であり、この点興味深い。本論文のSPENがタモキシフェン単独治療の良バイオマーカーになるという結論には十分賛同できるが、SPENを標的とした創薬となると不十分で思われる。


(45)2015年10月31日 担当:吉丸 哲郎
An epigenetic pathway regulates sensitivity of breast cancer cells to HER2 inhibition via FOXO/c-Myc axis. Cancer Cell, 28, 472-485, 2015

<要旨>
HER2過剰発現を認める転移性乳がん患者に適応される抗EGFRおよび抗Her2剤ラパチニブ(lapatinib)の耐性獲得は、エストロゲン受容体を介したシグナル伝達の活性化や、PIK3CAの変異やPTENの欠失などを介したPI3K/AKTシグナル伝達活の性化が原因の1つと考えられているが、その詳細なメカニズムは明らかになっていない。本論文は、ラパチニブにより活性化された転写因子FOXO(forkhead box–containing protein O)がMLL2(Mixed lineage leukemia 2)をはじめとしたエピジェネティック調節因子と協調することで、がん遺伝子c-Mycを発現誘導して、ラパチニブに対する感受性の低下を引き起こすことを見出し、FOXO/c-Mycというエピジェネティック調節因子が耐性克服の潜在的な標的であることを明らかにしたものである。
 はじめに、エピジェネティック因子のshRNAスクリーニングによりMLL2関連経路がHER2陽性乳がんの増殖に重要であり、特にBcl-2とc-Mycの発現に関与していることを明らかにした。また、長時間のラパチニブ処理はAKTのリン酸化抑制とアポトーシス促進因子Bimの誘導することおよび、Bcl-2とc-Mycの発現が亢進することも認められた。興味深いことに、このBcl-2とc-Mycの発現誘導はラパチニブにより活性化された腫瘍抑制分子FOXOを介したものであり、ラパチニブ処理中にFOXOの機能亢進がラパチニブの耐性獲得に大きく寄与していることわかった。続いて、FOXOによるc-Myc発現亢進のメカニズムを検討したところ、c-Mycが局在するlocusにFOXO結合部位が高度に保存されており、ラパチニブ処理によるFOXOのリクルートがc-Mycを発現誘導することが明らかになった。さらに、c-Myc locusにはメチル化酵素MLL2、アセチル酵素GCN5、BETタンパク質BRD4もリクルートされており、エピジェネティックに発現亢進したc-Mycがラパチニブの感受性低下に関与している可能性が考えられた。実際に、FOXO阻害剤とラパチニブの併用、ならびにエピジェネティック阻害剤とラパチニブの併用がHER2陽性乳がん細胞の増殖を相乗的に抑制していた。
 今回の論文では、腫瘍抑制分子とがん遺伝子との間の逆説的な関係が抵抗性獲得の一因であったが、FOXOがどのようにして抑制因子から腫瘍誘導因子に変化するのか、c-Mycを誘導するFOXOsとMLL2の相互作用の直接的な関与、PIK3CA変異細胞における寄与など詳細な分子メカニズムの解明は必要であるが、今回明らかになった拮抗するFOXOsとc-Mycから構成される適応経路と、エピジェネティックな化合物によって調節される複雑な相互作用が明らかになったことで、HER2陽性乳がんの治療改善に新たな標的として役立つかもしれない。


(44)2015年10月24日 担当:木村 竜一朗
CDK7-Dependent Transcriptional Addiction in Triple-Negative Breast Cancer.
Cell. 2015 Sep 24;163(1):174-86. doi: 10.1016/j.cell.2015.08.063.

<要旨>
トリプルネガティブ乳癌(TNBC)は乳癌の中でも悪性度が高く、乳癌の治療標的となるエストロゲンレセプター(ER)、プロゲステロンレセプター(PgR)の発現やHER2の増幅が認められず、これら受容体を標的とした治療が無効なことから適切な治療法の確立が急務となっている。近年のゲノム包括的解析を通じて、TNBCは高頻度のゲノム変異を起因とする遺伝的複雑性から派生する多様なドライバー変異を有していることがわかってきており、さらに、TNBC特有の遺伝子発現を誘導する転写プログラムの存在が知られている。このような背景から筆者らは、TNBC細胞の生存・維持は遺伝子発現プログラム中で持続的に転写が行われている一部の遺伝子群に依存しており、このことから(他のサブタイプの細胞と比較して)転写阻害剤に対して高い感受性を有すると仮説をたてた。はじめにキナーゼ阻害剤とCRISPR/Cas9法による遺伝子ノックアウト細胞を用いた実験によりTNBC細胞は基本転写因子TFIIHの一部でありサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の1つであるCDK7の阻害にてアポトーシスを誘導することから、TNBC細胞のCDK7依存性を見出した。また、”Achilles cluster”と名付けたTNBC特異的遺伝子群の発現はCDK7阻害に対する感受性が高く、またこれらの遺伝子群は高い頻度で”super-enhancer”と呼ばれる遺伝子の高レベル発現を可能とする領域を有することが分かった。これらの結果からCDK7がTNBCの生存・維持に必須な遺伝子群の”transcriptional addiction”(転写中毒、依存性)を誘導し、CDK7阻害がTNBCの治療に効果的であると結論づけた。
 癌細胞の高い増殖能や遊走・浸潤能は1つの分子機構への依存という側面も有する。このような「癌のaddiction(中毒症)」は「癌の脆弱性」に繋がることから治療標的となる。慢性骨髄性白血病細胞においては、Bcr-Abl融合遺伝子による強力な”oncogene addiction”の存在が知られており、このことは分子標的薬グリベックが奏功する根拠となっている。また近年になり、癌の生存・維持が、(転写やタンパク質分解など、正常組織を含む)全ての細胞の生命維持に必須な分子機構に強力に依存している”non-oncogene addiction”も知られるようになった。このような機構を標的とした分子標的薬の場合は当然、正常組織への影響が懸念されるが、実際には”addiction”状態の癌細胞の方が(正常細胞よりも)より低濃度で影響を受けるという場合が多いことが分かってきた。本論文におけるCDK7標的薬もそのような理論に基づいて癌細胞の転写をターゲットとした新しい概念を有する治療薬である。今後、これらの癌の”addiction”の更なる分子機構の解明と、このことに基づいた新しい分子標的治療法の開発が期待される。


(43)2015年9月26日 担当:片桐 豊雅
RAS-MAPK dependence underlies a rational polytherapy strategy in EML4-ALK-positive lung cancer.
Nat Med. 2015 Sep;21(9):1038-47. doi: 10.1038/nm.3930. Epub 2015 Aug 24.

<要旨>
近年の次世代シーケンス(NGS)解析の発展に伴い、がんの発症、進展に重要な働きを有するドライバー遺伝子が次々に同定され、それらを標的とした治療薬が開発・臨床応用されてきている。このような分子標的治療薬の多くは、劇的な腫瘍縮小効果を示し一定の延命も得られるが、そのほとんどは耐性細胞の出現という難題を抱えている。本論文では、EML4-ALK融合遺伝子陽性肺腺がんにおけるALK阻害剤耐性に着目し、この分子機構としてRAS-MAPK経路の関与およびその経路を標的とした薬剤との多剤併用による治療戦略について報告している。
 EML4-ALK融合遺伝子は東京大学の間野博行先生が同定した、第2番染色体の逆位によって生じるドライバー遺伝子であり、肺腺がんの約5%で認められ、比較的若年性で非喫煙者に認められるが特徴である。またEGFR変異やKRAS変異とは相互排他的関係にあることが知られている。
 EML4-ALK標的治療薬としてALK阻害剤クリゾチニブ(Crizotinib)や第二世代薬であるセルチニブ(Certinib)が開発され、本論文では、それらの獲得耐性には、EML4-ALKの下流シグナルとして知られていたJAK/STAT、PI3K/AKTおよびMEK/ERK経路のうち、MEK-ERK経路の活性化が関与し、それにはMEK阻害剤トラメチニブ(Trametinib)で抑制されること、また、その上流であるRAS全てのアイソフォーム(K-ras,N-ras, H-ras)の活性化が証明された。さらに、K-rasアイソフォームの過剰発現している症例やMEK-ERKシグナル制御分子で、脱リン酸化酵素であるDUSP6(Dual specificity phosphatase 6)の発現低下によって、MAPK経路が再活性化されて、ALK阻害剤の耐性を促進させた。クリゾチニブとトラメチニブの併用はEML4-ALK陽性肺腺がん株H3122皮下移植マウスにて腫瘍抑制効果と、その大幅な持続効果を認めた。
 以上のことからEML4-ALK肺腺がんにおいて、RAS-MAPK依存性がそのALK阻害剤の耐性獲得に寄与し、ALKとMEKの両者を標的とした治療が耐性克服すること、さらに初期治療からの両阻害剤の併用は耐性出現の予防にも結びつく可能性が示唆された。ただ、初期治療から両阻害剤の長期使用による耐性獲得、例えば、他の側副経路の活性化やゲートキーパー変異の出現などについては不明であり、また、DUSP6の発現低下のメカニズムについても分かっておらず、今後の解析が待たれる。


(42)2015年9月12日 担当:松下 洋輔
Broad Anti-tumor Activity of a Small Molecule that Selectively Targets the Warburg Effect and Lipogenesis. Cancer Cell 28, 42-56, July 13, 2015

<要旨>
がん細胞は好気的条件下でもミトコンドリアでの酸化的リン酸化によりATPを産生せず、一見非効率に見える解糖系を亢進させATPを作り出す。この現象はワールブルグ効果と呼ばれ、約60年前に提唱された概念である。また、常に新しい脂質合成を行うことで、がん細胞は高い増殖能や細胞ストレスに対する抵抗性を維持している。本論文では、解糖系や脂質合成関連遺伝子を制御する核内受容体Liver-X-receptor (LXR) に着目し、LXRを標的とした創薬の可能性について述べている。定常状態ではLXRはretinoid-X-receptor (RXR) とヘテロ二量体(LXR-RXR)を形成し、さらにNcoR1やSMARTのようなco-repressorをリクルートすることで、その標的遺伝子を負に制御しているが、内在性または合成リガンドにより活性化された状態では、LXR-RXRはco-activatorをリクルートすることで、コレステロール排出に関連したトランスポーターの転写を促進することがわかっている。これまでに、LXRアゴニストはアテローム性動脈硬化症に対する薬剤やコレステロール降下剤として、さらに前立腺がんや乳がんにおける創薬ターゲットとして研究が進められてきたが、その副作用の出現により、LXRを標的とした抗がん剤の開発は未だなされていなかった。
 本論文において、筆者らはLXR活性を定常状態以下に抑制し、ワールブルグ効果と脂質合成を制御することができるインバースアゴニストSR9243を開発し、その薬効と毒性を評価した。その結果、前立腺がん・大腸がん・肺がん細胞株においてSR9243は用量依存的な細胞増殖阻害活性を示し、同臓器由来の正常細胞にLXRが同程度発現しているにも関わらず、毒性は認められなかった。また、LXRアゴニストは細胞周期同調作用を誘導するが、SR9243は投与12時間後からアポトーシスを誘発し、シスプラチンとの併用では有意な相乗効果を認めた。また、SR9243は投与6時間後にて様々な細胞株でLXR標的遺伝子の転写を抑制し、その結果、解糖系代謝物であるlactateやpyruvate、脂質合成の中間生成物であるpalmitoleateやmyristoleateの産生量も抑制させた。これらの効果はxenograftマウスモデルにおいても確認できたが、体重減少といった副作用は全く認められなかった。さらに、SR9243はがん細胞でのみTNF-a産生の亢進を認め、がん細胞が宿主免疫細胞からの逃避を遮断する引き金となりうることを明らかにした。しかし、SR9243が免疫細胞を本当に活性化させるかは、今後の検討が待たれる。
 以上のことから、SR9243はがん細胞特異的に解糖系や脂質合成に関与する遺伝子発現を抑制することで間接的に代謝経路を遮断し、副作用の少ない有望な化合物と考えられる。しかしながら、ワールブルグ効果や脂質合成ががん細胞で活性化しているとは言え、直接代謝経路に関与する酵素の阻害剤は非常に副作用が強く発現するにも関わらず、SR9243で認められない理由については不明であり、詳細なメカニズムについては今後さらなる検証が必要と考えられる。


(41)2015年9月5日 担当:奥村 和正
Targeting LUNX Inhibits Non–Small Cell Lung Cancer Growth and Metastasis.
Cancer Res. 75:1080-1090 March 15, 2015

<要旨>
肺癌はその予後の悪さから効果的な治療薬の開発が急務である。その中でも、非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer: NSCLC)は全肺癌の約80%を占めており、最近の包括的なゲノム解析研究の結果、その発症・進展に関与する多くのドライバー遺伝子が同定され、それらを標的とした治療法の開発が進められている。本論文では、筆者らは、NSCLC細胞に特異的に発現亢進し、正常肺組織や他の正常組織に発現しない細胞膜タンパク質Lung-specific antigen X(LUNX)に着目し、LUNXを特異的に認識する抗体による治療の可能性について述べている。
 LUNXは、NSCLC臨床検体121/150(約80%)においてk-Rasやp53の体細胞変異の有無にかかわらず発現亢進を認め、In vitro、In vivoの実験にてNSCLC細胞の増殖、浸潤、転移に関わることが示された。その分子機序としては、LUNXが、細胞周期やアポトーシス制御に関与するシャペロンタンパク質14-3-3と結合することにより、14-3-3のリン酸化を通じた単量体化を抑制し、その結果、二量体化した14-3-3とRaf1との結合が促進されて、その下流の癌細胞増殖に関わるシグナルの活性化が引き起こされることが示唆された。また、LUNXをRNA干渉法にて発現抑制すると、JNK、C-Jun、ATF-2のリン酸化が阻害されていること、また、その下流のp53 signal pathwayに関与する可能性も示唆している。
 本論文では、LUNX特異的抗体であるS-35-8を作製し、この抗体により、LUNXの内在化によるdownregulationおよび14-3-3のリン酸化促進による単量体化やJNK、ERKのリン酸化抑制を導くことを明らかとした。さらに、複数のNSCLC細胞株を移植したXenograftモデルマウス実験にて、20-30 mg/kgにて有意な腫瘍縮小および転移、浸潤抑制を示すことも突き止め、NSCLCに対するS-35-8の抗体治療薬の可能性を述べている。
 本論文ではS-35-8の効果の分子メカニズムやoff-targetによる副作用については詳細には述べられておらず、今後の解析が待たれる。


(40)2015年7月29日 担当:吉丸 哲郎
Glypican-1 identifies cancer exosomes and detects early pancreatic cancer.
Nature, 523, 177-182, 2015

<要旨>
エクソソームは各種細胞から放出される微小膜小胞で、様々な機能性タンパク質や核酸を含み、生体内を循環・拡散している。近年、エクソソームの疾患への関与が数多く報告され、エクソソーム中に包含されるmiRNAやタンパク質が各種疾患、特にがんに対する新たなバイオマーカーとなる可能性が示唆されている。本論文は、すい臓がんや乳がんで過剰発現しているプロテオグリカンのひとつGlypican-1(GPC1)に着目し、患者の血液中にGPC1陽性エクソソームががん特異的に存在していること、がんの進行や転移と相関していることを明らかにし、難治性がんの早期診断法としての可能性を論じたものである。
 まず、乳がん細胞株由来のエクソソームに含まれるタンパク質をUPLC-MS法 (Ultra Performance Liquid Chromatography-mass spectrometry: 超高速液体クロマトグラフィ-タンデム型質量分析法)とバイオインフォマティクスで解析したところ、乳がん細胞株由来エクソソームに加えて、すい臓がん細胞由来エクソソームにおいてもGPC1の過剰発現を検出した。続いて、すい臓がんおよび乳がん患者血清から、エクソソームと特異的に結合するaldehyde/ sulphate latexビーズおよびGPC1抗体を用いたFACS解析を行ったところ、すべてのすい臓がん患者(190症例)と75%の乳がん患者(32症例中20例)にてGPC1陽性エクソソームを認め、さらにすい臓がん患者のエクソソームに変異型KRAS遺伝子が見出された。一方、健常人(100例)および良性すい臓疾患ではほとんど検出されなかったことから、がん特異的GPC1陽性エクソソームが、がん患者血液中に存在していることが示唆された。興味深いことに、腫瘍マーカーCA19-9陰性のすい臓がん前がん病変においてもGPC1陽性エクソソームが有意に検出されており、特異度の高い早期診断バイオマーカーとしての可能性が示唆された。
 さらに、術前と術後7日目のすい臓がん患者の血清を用いてGPC1陽性エクソソーム量を測定し、予後との相関解析を行ったところ、GPC1陽性エクソソーム量が顕著に低下した患者は生存期間が有意に延長しており、予後マーカーとしての可能性も示唆された。また、すい臓がんモデルマウスを用いてGPC1陽性エクソソーム量を調べたところ、MRI画像検査ならびに病理組織診断では判断できない段階でも血液中のGPC1陽性エクソソームの検出が可能であった。
 すい臓がんは早い段階では特徴的な症状もなく、早期発見が難しい疾患であることを考えると、自覚症状がない段階でいつGPC1陽性エクソソームを測定するのか(検査時期の設定)、どのくらいの量ががんの進行に寄与するのか(カットオフ値の設定)、GPC1がエクソソームに内包されることががんの発症・進行に重要なのか(発症メカニズムの解明)など、今後の実用化には多くの課題が残っているが、今回同定されたGPC1陽性エクソソームの検出は低侵襲的な早期診断法として画期的であり、今後の発展が期待される。


(39)2015年7月22日 担当:木村 竜一朗
Progesterone receptor modulates ERα action in breast cancer.
Nature. 2015 Jul 16;523(7560):313-7. doi: 10.1038/nature14583. Epub 2015 Jul 8.

<要旨>
ホルモン依存性乳癌においてプロゲステロンレセプター(PR)は、現在抗エストロゲン剤の治療効果予測のためのバイオマーカーとして用いられているが、その役割は不明な点が多い。本論文では、PRが転写因子ERαの標的遺伝子であることに留まらず、ERα転写複合体と会合することで、その機能を調節する因子であることを明らかにしている。詳細は以下の通りである。プロゲステロンを含むPRのリガンド存在下にて、PRは乳癌細胞におけるクロマチン結合性因子でもあるERαと相互作用し、良好な予後に関連した遺伝子群の発現誘導を導く機能を有する。さらに、プロゲステロンはエストロゲン依存的なERα陽性乳癌細胞増殖を抑制し、タモキシフェンによる抗腫瘍効果を増大させることが、マウスxenograftモデルと乳癌患者由来の腫瘍組織を用いたex vivoモデルにより示された。一方、ERα陽性乳癌に共通した特徴としてPGR遺伝子の欠損が認められ、これまで不明であったERα陽性乳癌におけるPR発現レベルの低さを説明している。これらの発見は、PRがERα依存的なクロマチン結合性と転写活性化能を制御する可逆的分子機構を担保し、臨床的な観点から予後と治療方針決定に重要な分子であることを指し示した。
 本論文で筆者らは、乳癌において機能未知とされていたPRが、ERα複合体と会合することによりERαのクロマチン結合性を再調節し、ERα標的遺伝子発現を大きく変化させることを、ヒト乳癌細胞株を用いた網羅的クロマチン免疫沈降(ChIP-seq)と網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)、および2000例近くの乳癌症例を対象とした大規模コホート研究にて詳細に解明したことは大変意義深い。特に、ERα陽性乳癌において、PR低発現のluminal Bは予後不良とされてきたが、この原因がER-PRクロストークによることやPGR遺伝子の欠損によることが示されたことも大きな発見である。一方、PRによるERαクロマチン結合性および遺伝子発現変化の詳細な分子機構に関しては、今後さらなる発展が期待されるところである。臨床的には、本研究成果をどのようにERα陽性乳癌の治療に結びつけるかが今後の課題と言える。本研究で解明されたPRの役割は、近い将来におけるERα陽性乳癌の全く新しい治療戦略を提示する強力な研究基盤となることが考えられる。


(38)2015年7月8日 担当:小松 正人
Whole-genome characterization of chemoresistant ovarian cancer
Nature, 2015 May 28;521(7533):489-94

<要旨>
本論文では、卵巣癌のうち、High-grade serous ovarian cancer (HGSC)を対象に白金製剤不応性・耐性に関与するgenomic /epigenomic eventsの変化を次世代シーケンサーによる全ゲノム・トランスクリプトーム解析、またメチル化解析を通じて同定し、報告している。まずHGSCの原発巣の解析では、既報通りほぼ全例にTP53のpoint mutationを確認している。特に、BRCA1/相同組換え(HR)遺伝子変異を認める症例(~50%)では極めて多くの染色体再構成が観察されたが、それらはCCNE1のgain/amplificationと相互排他的であり、非常に多くの変異を認めた。一方、ドライバー遺伝子であるNF1やRB1のpoint mutationは数%と少ないものの、ゲノム構造異常(structural variants)が一定以上存在し、これらを合わせるとNF1やRB1の不活化型変化は17.5~20%になることがわかった。
 次に、一塩基置換の特徴として、BRCA1/2-signature (Nature,2013;500(7463); 415-21参照)を有する症例は白金製剤に対して感受性が高いものの、BRCA1/2- signatureを有しても不応性・耐性になる症例が一定数存在し、これはHR遺伝子に変異を認めないことが原因であると考えられた。また予後とgenomic eventsの相関関係を調べると、BRCA1/2を含むHR遺伝子に異常を持つ症例は予後が良好であったが、CCNE1のgain/amplification症例・CCNE1/HRに異常を認めない症例は予後が不良であった。これはTCGAのデータセットでも検証された。このCCNE1/HRに異常を認めない症例の予後不良の原因としては、遺伝子発現によるサブタイプのC2/immune response (Clin Cancer Res, 2008;14: 5198-5208)に関与する遺伝子発現の低下が原因と推定された。さらに、耐性メカニズムとしては、BRCA1/2にgermline変異を有する5症例において、転移組織でのBRCA1/2のreversion変化を認め、驚くべきことにBRCA2に関しては各転移サンプル間でそのreversionの出現頻度が異なり、腫瘍の進化を考えるうえで興味深い結果が提示された。その他の耐性機構としては、腫瘍の線維形成性変化(desmoplastic change)や、epigenomeの異常としてはBRCA1の低メチル化、また薬剤排泄性P糖蛋白質・MDR1をコードするABCB1遺伝子の5’上流での遺伝子再編成(挿入・欠失)による転写活性化、などが示された。ゲノム解析を通じて、HGSCの抗癌剤不応性機構、また抗癌剤の選択圧によるHGSCの非常に多様な薬剤耐性獲得機序が明らかとなり、難治性HGSCの克服へむけての生物学的理解が一歩すすんだと思われる。


(37)2015年7月1日 担当:片桐 豊雅
Subclonal diversification of primary breast cancer revealed by multiregion sequencing.
Nat Med. 2015 Jun 22. doi: 10.1038/nm.3886. [Epub ahead of print]

<要旨>
がんゲノムシーケンス(NGS)解析によって同定されたドライバー変異を標的とした「がんの個別化医療」の可能性が高まってきているなか、がんの組織サンプルの異質性が依然問題となっている。本論文では、50症例の乳がん原発巣の異なる303カ所の部位について、全ゲノムシーケンスおよびターゲットシーケンスを行うことで、がん組織の異質性について各症例、各部位を1つ1つ詳細に調べている。驚くべきことに、同一組織内にて派生したサブクローンはこれまで多くの乳癌のNGS解析にて報告されているドライバー遺伝子のPIK3CA, TP53, PTEN, BRCA2, MYCの変異や染色体再構成は検出されてきたが、それらのサブクローン化への多様性は症例によって異なり、特別な法則性は認められないことが述べられている。
 コフォート1として解析対象50症例中12症例の同一腫瘍組織を2つに分割し、各4カ所、合計8カ所の異なる部位から採取した針生検組織について360個の既知の癌関連遺伝子のターゲットシーケンス解析を行った。コフォート1の解析にて調べた12症例全てにおいて、少なくとも1つのドライバー変異またはコピー数異常が認められたが、同一腫瘍内の8カ所中5−7カ所にて同一のドライバー変異(サブクローン化)は認められなかった。一方、多発性(multifocal)な腫瘍部位には共通なドライバー変異が存在することや、in situ前癌病変の全く異なる部位における微小浸潤部位にも共通なドライバー変異が認められることがわかった。また、コフォート2として38症例の術前化学療法(NAC: Neo-adjuvant chemotherapy)のも投与前後および転移巣について同様にターゲットシーケンス解析を行った。その結果、pCR(病理学的完全奏効)を認めない残存した腫瘍組織では、NACによる獲得変異ではなく、NAC前の存在していたものであることも進化系統樹解析にて明らかとなった。本研究ではまだ解析数が少ないことから、これから多くの症例数にて解析することが必要であるが、臨床の現場ではこのような腫瘍のサブクローン化と腫瘍の進化過程を詳細にとらえることが必要であることが示唆された。ただ、実際のどこまで詳細に調べることが必要なのか、1細胞あたりの変異をとらえることが実臨床にどこまで必要であるかはさらに検討が必要であると思われる。


(36)2015年6月17日 担当:奥村 和正
Leptin–STAT3–G9a Signaling Promotes Obesity-Mediated Breast Cancer Progression.
Cancer Res 75:2375-2386 June 1 2015

<要旨>
肥満と乳癌の関連性は経験的に言われてきた事項であるが、その詳細なメカニズムはいまだ不明な点が多い。本論文は、強力な飽食シグナルであり、肥満抑制性adipokineのひとつであるleptinのシグナル経路が乳がんの発症に関与することを証明している。
 肥満の環境になると脂肪細胞の増加にともなって、leptinの分泌量が増加し、leptin 受容体(OBR: Obesity-related leptin and leptin receptor)との結合を通じて、細胞内でSTAT3がリン酸化されて活性化され、続いて活性化されたSTAT3はヒストンメチル化酵素であるG9aに結合してヒストンH3K9のジメチル化により、MiR-200cを発現抑制することが明らかとなった。さらに興味深いことに、MiR-200c はその標的としてOBR遺伝子の発現を抑制することから、今回のleptin—OBRを通じたSTAT3/G9aの転写機構亢進によるMiR-200cの発現抑制がOBRをさらに発現亢進させていくことがわかった。以上の結果から、乳腺の始原細胞が前癌細胞へ移行しやすくなるとともに、この機序により、脂肪細胞から産生されるleptin-STAT3-miR200c制御機構の活性化がcancer stem like cell(CSC)を悪性化させ、肥満者の乳癌発生率を高めて予後不良にすることが示唆された。
 さらに筆者らは食事誘導性肥満によって乳癌の発症するラットモデルを樹立し、それを使ったin vivo抗腫瘍実験において、STAT3阻害剤であるS31-201化合物の投与がSTAT3の活性阻害を介したMiR-200cの発現亢進を導きOBRの発現低下を引き起こし、CSC形成阻害から、移植した乳癌細胞の癌形成率や癌の腫瘍量を低下させることがわかった。このようなepigeneticな変化を可逆的にさせる創薬が可能であることが示唆された。
 本論文は、どのようにこの経路が乳腺の始原細胞をcancer stem likeなものに変えるのかという点についてほとんど言及しておらず、cancer cellのprogressionへの関連性については納得できるが、cancer cellのinitiationという観点では不十分ではないかと考える。


(35)2015年6月3日 担当:宮川 義仁
A model of breast cancer heterogeneity reveals vascular mimicry as a driver of metastasis.
Nature 520, 358–362 (16 April 2015)

<要旨>
近年、腫瘍組織内のsingle cellの次世代シークエンス(NGS)解析が可能となり、腫瘍組織の不均一性(heterogeneity)について数多く報告されてきている。しかし、このようなretrospectiveな研究では、正確な腫瘍内でのクローンの進化の機構は不明である。本論文において、筆者らは乳がんの不均一性(heterogeneity)の解明のため、NSG (NOD-SCID-Il2rg−/−) マウスを用いた多クローン性モデルを構築し、原発巣にて多数を占める集団、転移を示す集団、リンパ・血管などから各臓器への親和性(organ tropism)を有するものが存在することを証明した。
 まず筆者らは、マウスの乳癌細胞株4T1細胞に、固有の塩基配列(バーコード)を有したレトロウイルスベクターライブラリー (増殖に影響しないDNA断片を含むlibrary) をinfectionし、selection後、マウスの皮下にこの細胞集団を移植、原発巣、CTCs (circulating tumor cells), 肺、肝、脳の各転移巣を回収して、NGSで腫瘍毎のDNA バーコードの割合を解析した。その結果、血管内浸潤とリンパ節転移するクローンは異なり、各臓器へ転移したクローンは血管内浸潤したクローンの一部であった。臨床的には癌の転移経路としてリンパ行性転移や血行性転移があり、実際には臓器への転移は主に血行性であることが知られており、このマウスモデルはヒトの転移形式を模倣すると考えられた。
 特に、血管内に浸潤するクローンにおいて強発現を認める分泌タンパク質のSerpine2と Slpiがvascular mimicry (血管擬態)を促進し、抗凝固作用を増強することで肺転移を促進していることがわかった。Vascular mimicryは1999年にmelanomaで初めて報告された腫瘍細胞による血管内皮細胞様変化で、腫瘍細胞が管腔を形成することで内部を血液や腫瘍細胞が移動し、特にaggressiveな腫瘍に認められることが知られている。
現在、VEGFなどの新生血管に関与するサイトカインを標的とした治療法が開発されており、大腸癌、乳癌などで一定の臨床的効果が得られている。これに加えてSERPINE2やSLPIに代表される、vascular mimicryに関与するタンパク質を標的とする治療により、さらなる転移抑制、腫瘍縮小効果が得られる可能性があると考えられた。


(34)2015年5月27日 担当:大豆本 圭
Modeling Familial Cancer with Induced Pluripotent Stem Cells.
Lee et al., 2015, Cell 161, 240–254 April 9, 2015

<要旨>
Li-Fraumeni 症候群(以下LFS)は軟部組織肉腫、骨肉腫、乳癌、大腸癌など多数の原発がんを若年から生じる非常にまれな常染色体優性遺伝性疾患である。その原因としては胚細胞性由来のp53の変異であることはわかっているが、その詳細な発症の分子メカニズムは未だ明らかとなっていない。
本論文ではLFSの胚細胞性由来のp53変異による癌発症メカニズムを証明するためにLFS患者のFibroblastに山中4因子 (OCT4, SOX2, KLF4, c-MYC )を遺伝子導入することで樹立した人工多能性幹細胞(以下iPSC)を用いて、骨芽細胞へ分化誘導させ骨肉腫が発症する実験系を確立した。本論文に用いたLFS患者はp53 G245D変異を有しており、作製したiPSC由来の間葉系幹細胞(MSCs:Mesenchymal Stem Cells)ではP53変異のドミナントネガティブ効果を介したp53の機能喪失(loss of function)によるp53標的遺伝子p21およびMDM2の発現低下を認めた。さらに、対照群として用いた同家系のp53野生型(WT)の患者由来のiPSCから作製したMSCsではp53活性が保たれており、足場非依存性増殖及びマウス皮下移植下での腫瘍形成能をみとめないのに対して、LFS患者由来の群では足場非依存性増殖および腫瘍形成能の亢進を認め、これによりLFS患者由来のiPSCを介したin vitroの実験系を確立し、LFSの発症メカニズム解明及び治療標的探索への大きな一歩となった。
さらに、著者らはインプリンティング遺伝子群の調節の関与にも着目し、インプリンティング遺伝子H19がIGN componentのDECORIN (DCN)を介する調節が重要であることを証明した。実際、LFS群からのiPSC由来の骨肉腫ではH19の発現が抑制されていること、またH19の強制発現にて腫瘍抑制を認めることから、インプリンティング遺伝子制御 (インプリンティング遺伝子ネットワーク :IGN)も大きく発症に寄与することがわかった。
今回の大きな発見として、家族性腫瘍のFibroblastからiPSCを作製し、骨肉腫発生を可能としたことがあげられる。このような家族性疾患でのiPS技術を応用とした疾患モデル細胞系の研究は近年盛んに行われており、癌分野だけでなく神経疾患など多方面での報告みられる。再生医療だけでなく今後の癌治療におけるオーダーメイド医療にも応用していくことが期待される分野であると考えられた。


(33)2015年5月20日 担当:吉丸 哲郎
MEK Guards Proteome Stability and Inhibits Tumor-Suppressive Amyloidogenesis via HSF1.
Cell, 160, 729-744, 2015

<要旨>
HSF1(Heat shock factor 1)は、熱ショックや蛋白質毒性ストレス(Proteotoxic stress)に応答して活性化する転写因子であり、蛋白質の変性を感知して一連のシャペロン・熱ショック蛋白質(HSP)を発現誘導することで、様々なストレスに対する耐性を獲得し、細胞内蛋白質の恒常的な安定化ならびに細胞の生存に大きく関与している。この分子シャペロンシステムの破綻は神経変性疾患をはじめとした様々な疾患を招く一方、がん細胞ではHSF1が蛋白質恒常性の維持に働くことで細胞死を回避する“Non-oncogene addiction”として機能している。本論文は、HSF1がどのような機構を経て悪性腫瘍の維持・増進に寄与するのかをまとめたものである。
まず、熱ショック誘導因子に依存して活性化されるMEK-ERK経路に着目して、HSF1の関与を検討したところ、MEKはHSF1に直接結合することで、そのSer326をリン酸化していた。また、MEK阻害剤によりHSF1は不活性化し、下流のHSP標的遺伝子群の発現も抑制されたことから、MEKはERKと同様にHSF1も基質としてリン酸化することが初めて明らかとなった。さらに、MEK阻害は、がん細胞においてのみ、その細胞内変性蛋白質を増加させてアミロイド形成を促進し、最終的にアポトーシスを誘導することも確認されたことから、HSF1活性化によるアミロイド形成の阻害ががん細胞の細胞死を回避させている原因と考えられた。興味深いことに、MEK阻害剤とプロテアソーム阻害剤を共投与したとき、相乗的な変性蛋白質の増加、アミロイドの形成、ならびにアポトーシスの誘導が認められ、これらの事実はNOD/SCIDマウスを用いた悪性腫瘍のxenograftモデルにおいても観察された。
 近年、HSF1欠損マウスは化学発がん剤DMBAを添加しても発がん誘導が抑制されることが報告され、HSF1ががん細胞の生存に深く関わっていることが明らかになった。また、今回の論文でもMEK阻害によるHSF1の不活性化がアミロイド形成を介した細胞死を誘導することが明らかになり、HSF1を標的にしたがん治療法は有効かもしれない。MEK阻害によるアミロイド生成の程度ががんの種類によりにバラつきがあるという問題点は残されたままであるが、アミロイド形成を利用したがん細胞死誘導メカニズムを応用することで、新たながん治療法の開発が期待される。


(32)2015年5月13日 担当:木村 竜一朗
TP53 loss creates therapeutic vulnerability in colorectal cancer.
Nature. 2015 Apr 30;520(7549):697-701. doi: 10.1038/nature14418. Epub 2015 Apr 22.

<要旨>
 TP53はp53をコードする癌抑制遺伝子であり、ヒト腫瘍の大半において変異や欠失による不活性化が認められている。これまで、p53の抑制活性を回復させる治療法が試みられてきたが、未だ有効な治療法に結びついていない。一方で、癌抑制遺伝子の不活化機構の1つとしての欠失は、その隣接する「癌の発症には関与しないが細胞の生存、増殖に必須の遺伝子」を同時欠損することがあることが知られている。このような細胞の生存に必須の遺伝子の一部欠損は、癌細胞のこの経路の阻害効果に対して脆弱性を示す結果となる。
 POLR2AはTP53に隣接する遺伝子で、RNAポリメラーゼII複合体の主要サブユニットをコードする。このPOLR2Aは細胞の生存に必須であり、その活性は(毒キノコ由来の環状ペプチドである)α-amanitinによって特異的に阻害される。本論文で筆者らは、このPOLR2A遺伝子がヒト大腸癌においてp53遺伝子とともに高頻度でhemizygous loss(1コピーの欠損)を起こしていることを発見した。POLR2Aの場合、発現レベルと遺伝子のコピー数は密接な比例関係にある。α-amanitinあるいはRNA干渉法を用いてPOLR2Aを抑制すると、hemizygous TP53 lossの大腸癌細胞の増殖、生存、腫瘍形成能が顕著に阻害され、またこの阻害効果はp53タンパク質発現とは無関係であった。さらに、(大腸癌を含む上皮系腫瘍で発現が亢進している)細胞接着分子EpCAMに対する抗体と結合させたα-amanitinは、hemizygous POLR2A lossのヒト大腸癌を移植したマウスモデルにおいて、低用量で腫瘍の完全な退縮を可能とすることが分かった。
 本論文で筆者らは、p53遺伝子の欠損に付随した癌細胞の知られていなかった脆弱性を示しており、またこの事実を基盤とした新しい分子標的治療モデルを主張している。このような発想は、あらゆる癌に共通した新しいコンセプトを提示するという意味で非常に興味深い。一方で、多くの癌においてp53遺伝子は、hemizygous lossに加えて、もう1コピーには点変異が存在していることが多い。今後、このような実際の癌におけるp53ステイタスとPOLR2A阻害効果の相関関係が、臨床応用に重要となってくると考えられる。


(31)2015年4月6日 担当:小松 正人
Ferroptosis as a p53-mediated activity during tumour suppression.
Nature. 2015 Mar 18. doi: 10.1038/nature14344.

<要旨>
p53(TP53)は、細胞が様々なストレスを受容したときに翻訳後修飾されて活性化し、下流遺伝子を転写制御することを通して、細胞周期の停止・apoptosis・老化(senescence)等を誘導する腫瘍抑制因子である。著者らは、以前(Cell, 2012;149(6):1269-83)DNA結合領域に存在するp53-3KR(K117R+K161R+K162R)変異がp21やPUMAといった細胞周期停止・apoptosis関連遺伝子に対する転写制御能は全く喪失している一方で、p53-3KRノックインマウスは腫瘍の自然発生が強く抑制されているという事実から、p53のtumor suppressorとしての機能に代謝関連遺伝子の発現調節が強く関連していることに着目した。本論文ではp53により転写調節される新規の代謝関連遺伝子としてシスチン・グルタミン酸transporterであるSLC7A11に着目している。
 SLC7A11はp53に直接負の転写制御をうけ、先行報告(Cell, 2012;149(6):1269-83)と同様に、p53-3KRはp21/PUMAに対する転写調節を喪失している一方、SLC7A11に対する負の転写制御能は維持していた。SLC7A11により細胞に取り込まれたcystineは、最終的に抗酸化物質であるGSH(Glutathione)の原料となり、鉄依存性細胞死(ferroptosis)の引き金であるlipid peroxidesのinhibitorとなることから、p53(p53-3KR)がferroptosisの惹起に必須である可能性が示唆された。実際にSLC7A11の阻害剤であるerrastin添加はp53-/-細胞に対し全く増殖抑制能を惹起しないが、p53+/+ やp53-3KR 細胞はerrastinに対して非常に高い感受性を示した。これは既存のいくつかの細胞死阻害剤(3-MA, Z-VAD-FMK, necrtostatin-1)では全くrescueされず、ferroptosisの阻害剤であるferrostatin-1の添加でのみresucueされることから、p53のSLC7A11発現抑制がferroptosisに対し感受性高めることが示唆された。
 さらに発生学的な観点から、p53+/+MDM2-/-マウスは通常E3.5-E5.5で致死となるが、p53-3KR/3KRMDM2-/- マウスのE7.5では正常の発生を示す一方で、E14.5では血管形成の喪失から致死になり、これはferrostatin-1の投与でキャンセルされることからferroptosis(の抑制)が発生に重要なことも示された。最終的に、p53のNutlin-3(MDM2-p53の結合阻害因子)を用いた安定化に加え、活性酸素種(ROS)を上乗せすることでferroptosisを効果的に誘導し腫瘍細胞増殖の抑制が得られることも示している。以上よりp53は細胞周期の停止・老化・apoptosisとは無関係に、cytine transporterの発現抑制を介してferroptosis/ROSへの感受性を高め腫瘍抑制として機能するということが示唆された。


(30)2015年3月20日 担当:片桐 豊雅
Cancer-Associated Protein Kinase C Mutations Reveal Kinase’s Roles as Tumor Suppressor.
Cell. 2015 Jan 29;160(3):489-502. doi: 10.1016/j.cell.2015.01.001. Epub 2015 Jan 22.

<要旨>
次世代シーケンス(NGS)解析によるがんのゲノム異常のカタログ化が急速に進み、現在、各変異の意義(ドライバー変異やパッセンジャー変異)について定義されてきている。本論文では、TCGA(the Cancer Genome Atlas)のNGS解析を通じて、これまで癌化を促進すると考えられてきたPKC (Protein Kinase C)に高頻度に認められる体細胞変異によってPKCの機能が失われることを証明し、PKCが癌抑制因子である可能性について言及している。
 PKCは、神戸大学の西塚泰美先生、高井義美先生によって同定された本邦において最も有名なキナーゼの1つであり、発がん物質であるフォルボールエステルが結合することで活性化されることが知られていた。しかしながら、これまでPKCを標的としたキナーゼ阻害剤が開発されてきたが、臨床試験においてその効果は全く認められていなかった。この原因解明のために、著者らは、TCGAの変異データから同定されたPKCの554個の変異のうち、PKCの3つサブファミリー(conventional:α,β1, β2, γ, novel;δ,ε,η,θ, atypical;ζ, λ)全てを網羅する46個の変異に焦点をあて、PKCの機能への影響を調べている。,
その結果、46個中28個の変異(制御領域やキナーゼドメイン内に存在する変異)はPKC活性を促進させるのではなく、完全または部分的に不活性化させるものであり、残りの変異についても活性化させるものではなかった。さらに、PKCβ変異(A509T)を有し、PKCβ活性低下の認める大腸癌細胞株DLD1に、CRISPER/CAs(clustered regulatory interspaced short palindromic repeat/ CRISPER-associated)を利用したゲノム編集技術により、PKC変異を野生型に修復したところ、in vitro実験にて足場非依存性増殖が低下し、さらにin vivo 皮下移植マウスモデルにても腫瘍形成能の低下が認められた。これらに結果から、PKCは癌遺伝子ではなく、がん抑制遺伝子の役割に担うことが示唆され、これまでにPKC標的阻害剤が臨床試験にて奏効しなかった原因であることが考えられ、今後はPKCの活性化を促すことが必要であることがわかった。
 ただ、PKCの活性によって癌細胞の増殖が促進することもこれまで報告されているや、実際にp53やras遺伝子に突然変異のある症例にはPKCの機能の低下があることなどからも、全ての変異のPKCの機能へ与える影響の詳細な解析が必要と考えられる。


(29)2015年3月13日 担当 宮川 義仁
Convergent loss of PTEN leads to clinical resistance to a PI(3)Kα inhibitor.
Nature. 2015 Feb 12;518(7538):240-4

<要旨>
エストロゲンレセプター(ER)陽性乳癌の約40%においてPIK3CAの変異が認められ、特にE542, E545, H1047などの特定のmissense mutationに集中していることが報告されている。本論文では、PI(3)Kα阻害剤BYL719のPhase I臨床試験(NCT01219699)に参画しているPIK3CA変異を有する転移再発乳がん患者の治療経過、特に耐性機構についてゲノムシーケンス解析を通じたゲノム異常から明らかにしている。
 筆者らは、PRを認めた1人の乳がん患者に着目した。この患者の治療経緯は以下の通りである。術後補助療法として化学療法およびホルモン療法(exemestane)を行い、4年後、骨・傍大動脈リンパ節転移による再発、続いてfluvestrant18ヶ月投与、肝転移の出現を認めた。この時点の腫瘍組織からPIK3CA変異が認められ、Phase I試験に参画した。BYL719投与8 cycle目に肝転移縮小、CTにて腫瘍消失の確認、傍大動脈リンパ節転移に変化なしであった。追加2 cycle経過後、左右両肺野に新規病変と両側胸水貯留を認め、BYL719投与中止、2ヵ月後死亡した。剖検にて14ヶ所の転移巣を摘出したが、生存中に確認された5ヶ所の転移巣は腫瘍の増大が認められBYL719 ineffectiveと考えられた。一方、傍大動脈リンパ節は変化なく、BYL719 effectiveな病変と考えられた。
 以上の背景を有する患者のBYL719耐性機序の解明を目的に、原発巣とBYL719投与中に出現した肺転移巣に対して全ゲノムシークエンスを通じたCNV(copy number variation)解析を行った。その結果、転移巣にてPTEN(10q23.3)のsingle copy lossを認めた。次に、各転移巣における遺伝子変異の比較のため、原発巣、BYL719 ineffectiveな病変として上記肺転移巣、BYL719 effectiveな病変として上記傍大動脈リンパ節に対して全エクソンシークエンス(WES)を行った。その結果、肺転移巣にのみPTENのframe shiftを伴うdeletion mutation(del 339fs)を認めた。この3ヶ所の固定標本に対して抗PTEN抗体による免疫染色を行い、肺野のみPTENの発現消失を確認した。さらに、原発巣と14ヶ所の転移巣に対してCustom targeted deep-sequence (IMPACT)を行った結果、原発巣および全ての転移巣においてPIK3CA(E542K, D752G), JAK1(T416fs)の変異が認められ、一方、原発巣を除く転移巣全てにESR1(Y537N), BRCA2(L971S)が認められた。さらに10ヶ所の転移巣からPTENの様々な変異が認められ、またPTENタンパクの発現消失が認められ、BYL719の耐性獲得にはPTENのsingle copy欠失およびdeletionを始めとした体細胞変異による2-hitによることが示唆された。これらの結果は、PIK3CA変異陽性のT47D乳がん細胞におけるshRNAによるPTENの発現抑制が、BYL719投与によるAkt, GSK3β, S6のリン酸化を阻害し、増殖抑制効果も阻害された。これは、PTEN発現抑制がPI(3)βシグナルによる側副伝達経路の活性化によってBYL719耐性獲得されたことを意味し、その耐性克服にはpan-PI(3)K阻害剤や、PI(3)Kα阻害剤とβ阻害剤の併用が効果的であることが分かった。
 今回、分子標的薬剤の耐性機序の一端がゲノム異常によって説明されたが、今後、一つの分子標的薬剤に対して複数ある耐性機序の簡便な検査法と耐性機序毎の対策が早急に必要になると思われた。


(28)2015年3月6日 担当:金 南希 
miR-509 suppresses brain metastasis of breast cancer cells by modulating RhoC and TNF-α.
Oncogene (2014), 1–11

<要旨>
 進行乳癌の約25%は脳転移を来し、その1年生存率は20%未満と極めて予後不良である。これは転移先が脳である外科的処置の難しさや血液脳関門(BBB:Brad Brain Barrier)による抗がん剤の不到達が主要因としてあげられる。このように臨床的重要性にもかかわらず、脳転移の詳細な分子メカニズムおよび病態形成過程は未だよく分かっていない。本論文で、著者らは、これまでに脳転移を来すHER2陽性やトリプルネガティブ乳がん(TNBC)にて特定のmicroRNA(miRNA)が発現亢進していること、予後と関連があることに着目し、miRNAの乳がん脳転移の制御機構について報告している。
 7例の臨床検体の脳転移組織および原発乳がん組織から抽出したRNAを用いたmiRNAの発現プロファイル解析を通じて、各症例に共通して原発巣に比して転移層では著しく発現低下を認めたmiR-509を同定した。続く機能解析より、miR-509は、癌細胞の移動能、浸潤能に重要な役割をもつRhoC遺伝子の3’UTRに直接結合して発現抑制し、その結果、その下流因子であるMMP9を発現抑制、分泌抑制することでMMP9によるBBBの破壊を低下させる「がん抑制miRNA」であることがわかった。また、腫瘍壊死因子であるTNF-αの発現抑制による分泌阻害して、BBBの透過性を低下させることもわかった。特に、miR-509発現をさせた高脳転移乳がん細胞をヌードマウスに注入すると脳転移は顕著に抑制され、臨床検体を用いた予後相関解析から、MMP9またはTNF-αの発現亢進はともに予後不良で有り、特にTNF-α高発現はmiR-509の発現と逆相関を示した。以上の結果から、乳がんでは、miR-509の発現低下によるMMP9およびTNF-αの分泌促進を通じたBBBの破壊及び透過性の亢進によって脳転移が促進される可能性が示唆された。これらのことより、miR-509の発現が乳癌の脳転移のリスクを測るバイオマーカーになり得ること、あるいはmiR-509を用いた新たな治療法となる可能性が示唆された。


(27)2015年2月27日 担当:大豆本 圭
RNA export factor Ddx19 is required for nuclear import of the SRF coactivator MKL1.
Nat Commun. 2015 Jan 14;6:5978.

<要旨>
RNAやタンパク質などの細胞質・核間輸送は細胞の恒常性を保つうえで重要な機構であることに疑いの余地はない。一般的に40kDa程度の分子は、Importinによる核移行シグナル(NLS: nuclear localization signal) の認識を介して核膜孔を通って細胞質から核へ移行する。一方、核分子の細胞質へ移行は、exportinの核外移行シグナル(NES:nuclear export signal)の認識を通じて行われる。これらImportin およびexportin の会合解離にはRan-GTPが関与していることが知られているが、この機構の分子特異性については未だ謎が多い。
 本論文では、筆者らは核と細胞質をシャトルするアクチン結合タンパク質であるMKL1 (Megakaryoplastic leukemia 1)に着目し、その核・細胞質移行の新たなメカニズムについて報告している。筆者らは、まずsiRNAライブラリーを用いたMKL1の核移行阻害分子の探索を行った。その結果、Dead box helicaseファミリーの1つで主にmRNAの核から細胞質移行への関与の報告があるDdx19の発現抑制にてMKL1の核移行が特異的阻害されることを見いだした。この核移行阻害は、mRNA export因子Gle1の発現抑制では起きないことから、MKL1の核移行にはDdx19が重要な役割を担っていることが示唆された。さらに、Ddx19変異体を用いてMKL1の核移行に重要な領域(アミノ酸残基)を調べたところ、mRNA exportに重要なアミノ酸残基の変異体では核移行に影響はなかったが、RNA 結合領域の変異体R371G、R428QではMKL1の核移行阻害が認められた。以上より、Ddx19の核移行機構にはRNA結合能が必要であることが示唆された。
 続いて、Ddx19のMKL1の結合領域探索およびFRETタンパク相互作用検出システムを用いた実験結果から、Ddx19はMKL1のN末端領域のRPELドメインを含む少なくとも2カ所で結合して、Importin (α,β)タンパク質を呼び込み、核移行に導く立体構造(open conformation)とり、一方Ddx19の存在しない場合には、MKL1自身が折りたたまれることでImportin タンパク質が結合できない構造 (close conformation) をとることが分かった。以上より、MKL1の核移行は、Ddx19の結合を通じて立体構造を変化させることによって制御されていることがわかった。しかしながら、Ddx19は、mRNA exportの機能を有しており、このような多機能な分子の各機能の使い分けがどのように規定されているかは今後の解析が待たれるところである。


(26)2015年2月13日 担当:吉丸 哲郎
The Rho GTPase Rnd1 suppresses mammary tumorigenesis and EMT by restraining Ras-MAPK signaling.
Nat Cell Biol, 17, 81-94, 2015

<要旨>
乳がんは遺伝的、分子病態的、臨床的に多様なサブタイプからなる乳腺細胞のがんであり、その発症機序は不明な点が多いが、特に高頻度に転移を伴う乳がんの分子病態および転移機序はいまだ明らかにされていない。筆者らは、細胞接着の制御に中心的な機能を有するRhoファミリーの1つであるRnd1に着目し、Rasの活性化を制御することで乳がん細胞の腫瘍抑制タンパク質として機能することを見出した。
 まず、Rnd1の腫瘍抑制能を検討するため、ヒトの正常乳腺上皮細胞MCF-10A細胞にてshRNAにてRnd1の発現を抑制したところ、Rasおよびその下流のMAPキナーゼ経路の活性化、正常乳腺細胞の制御を逸脱した増殖能亢進、上皮間葉移行による細胞接着の異常、乳腺構造の破壊およびRnd1欠失による正常乳腺細胞のマウスへの未分化かつ浸潤性腫瘍の形成を明らかにした。また、Rnd1の欠失はp27の発現を誘導して強い増殖抑制を誘導するが、Mycの強制発現やp53の欠失によりこの抑制は解除され、悪性化にいたることも判明した。一方、高頻度の転移を誘導する乳がんモデルマウスにRnd1を強制発現したところ、肺転移巣の形成が顕著に抑制された。これは、Rnd1がプレキシンB1と複合体を形成し、プレキシンB1のGAP活性を通じて、もう1つのRhoファミリーであるRap1の活性を抑制することでp120が活性化されて、Rasを制御するという「RND1のRas活性抑制の分子機構」を明らかとした。また、ヒト乳がん組織にてRND1遺伝子座の欠失、RND1遺伝子のエピジェネティックな発現抑制を認め、さらに低頻度ながらRND1遺伝子の変異によるRnd1の不活性化が検出され、RND1遺伝子はさまざまな機序により不活性化されていることが明らかとなった。
 乳がんにおいてRasの悪性変異の頻度は約5%とまれであるが、その下流のMAPキナーゼ経路の活性化が約半数の乳がんにおいて認められており、Rasの変異以外の機序の存在が示唆されていた。さらに、3つの乳がんコホートにおいて、発がん性Rasを発現させて得られた遺伝子変化のパターンがRND1遺伝子の低発現と有意に相関していたことから、高頻度に転移をともなう乳がんにおいて、RND1は発がん性Rasタイプの乳がんを発生させる新たな腫瘍抑制タンパク質のひとつであると考えられた。


(25)2015年2月13日 担当:片桐 豊雅
Clonal evolution in breast cancer revealed by single nucleus genome sequencing.
Nature. 2014 Aug 14;512(7513):155-60. doi: 10.1038/nature13600. Epub 2014 Jul 30.

<要旨>
最近の次世代シーケンス(NGS)解析によって乳がんを含む多くの癌種に特徴的な体細胞変異が報告され、「ドライバー遺伝子」のカタログ化がすすみ、がん発症、進展の分子機構が徐々に明らかにされてきている。しかしながら、同一腫瘍内におけるゲノム変異の多様性については未だ不明である。その答えを出すべく、2011年に単一細胞シーケンシング法が開発され、2013年には効率的なゲノムDNAの増幅方法の開発も進められたが、まだ十分な解明には至っていない。その理由としては、大きく以下の技術的な問題点があげられる;1)DNA増幅の不均一さ、2)決定配列の低いカバー率、3)決定配列の高いエラー率。本論文では、異数性という「がん細胞の特徴」を利用して、乳がん臨床組織サンプルより採取した単一乳がん細胞のG2/M期の核のみから抽出したゲノムDNAを用いて全ゲノム解析およびエクソーム解析を行った。これにより、上述の単一細胞シーケンシングの欠点であったカバー率を平均91%まで達することで克服し、この方法にて単一の乳がん細胞におけるそのゲノムの多様性と進化について報告している。
 まず、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)陽性、Her2陰性のluminalAタイプの乳がん臨床組織の単一細胞の体細胞変異およびコピー数変化について調べたところ、ほとんどの単一細胞において異数性(aneuploidy)が認められていた(clonal mutation)のに対して、これまで腫瘍塊を用いたNGS解析データにて報告されていたPIK3CA,CASP3, FBN2 ,PPP2R5Eなどの複数のドライバー遺伝子の点突然変異が多くの細胞にて共通で認められる(clonal mutation)のみで、多くの変異遺伝子はde novo変異を含む、1,2個の細胞にて認められるのみであった。これは、がん化の初期に異数性のような大きな変化が生じ、その後安定的にクローン化して増加し、その後ドライバー遺伝子による変化が起きて増え続けることを意味するものである。
 さらに、予後不良であるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)臨床組織においては、初期に異数性が生じて安定的にクローン化することはLuminalAタイプの乳がんと同様であったが、多くのドライバー遺伝子の変異が起こることが必要であり(PTEN, TBX3, NOTCH2, JAK1, ARAF, NOTCH3, MAP3K4, NTRK1, ARF4, CDH6, SETBP1, AKPA9, MAP2K7, ECM2, ECM1)、luminal-Aタイプとは異なりTNBCの中でも各サブタイプに分かれることがわかった。これらの知見から、乳がんが異質性(heterogeneity)であることや、その起源が各タイプで異なることが分かり、さらに治療耐性に関与する経路の同定にも役立つことが期待される。本論文では、luminal-AタイプおよびTNBCそれぞれ各1症例のみを調べただけであり、今後の多くの症例を用いたより詳細ながんゲノムの多様性の解明が待たれる。


(24)2015年2月6日 担当:木村 竜一朗
TRIM37 is a new histone H2A ubiquitin ligase and breast cancer oncoprotein.
Nature. 2014 Dec 4;516(7529):116-20.

<要旨>
TRIM37遺伝子は染色体17q23領域に存在しており、最大40%の乳癌において遺伝子の増幅が起きている。このTRIM37はRING finger domainを持ち、構造的にはE3ユビキチンリガーゼとしての特徴を有するが、基質となるタンパク質の存在は未だに知られていない。本論文では、TRIM37がヒストンH2Aをモノユビキチン化し、遺伝子の転写抑制を伴うクロマチン修飾を誘導することを明らかにしている。17q23にて増幅の認められるヒト乳癌細胞株ではTRIM37が高発現しており、一方、ヒストンH2Aのユビキチンリガーゼとして知られているRNF2の発現は低下していた。続いて、17q23増幅が起きているヒト乳癌細胞株を用いた網羅的クロマチン免疫沈降(ChIP-chip)解析から、プロモーター上にTRIM37が結合していて、かつユビキチン化されたヒストンH2Aが豊富に存在する遺伝子が多数同定され、その中には多くの癌抑制遺伝子が含まれていた。しかしながら、ポリコーム抑制複合体(PRC)1のサブユニットであるRNF2とは異なり、TRIM37はPRC2と結合することが分かった。TRIM37、PRC2、およびPRC1は特定の標的遺伝子に共に結合し、転写のサイレンシングを誘導した。また、TRIM37をノックダウンすると、標的遺伝子上におけるユビキチン化ヒストンH2Aの減少、およびPRC2とPRC1の解離が見られ、サイレンシングされた遺伝子の転写再活性化が起こることが分かった。17q23増幅が見られるヒト乳癌細胞株でのTRIM37ノックダウンは、マウス移植モデルにおける腫瘍増殖を抑制する結果となった。一方、TRIM37を過剰発現させた非形質転換細胞が腫瘍形成能を獲得することが分かった。これらの結果、TRIM37は一部の乳癌で過剰発現しているヒストンH2Aユビキチンリガーゼであり、癌抑制遺伝子やその他の遺伝子のサイレンシングを引き起こすことで細胞の形質転換を誘導することが証明された。
 本論文で筆者らは、TRIM37がヒストンH2Aをユビキチン化する新規のユビキチンリガーゼであること、乳癌においては癌抑制遺伝子の遺伝子サイレンシングを通して細胞の形質転換を引き起こすことの2点を明らかにした。これらの新規性は、乳癌に留まらず、他の多くの腫瘍、遺伝子サイレンシングを介する様々な疾患、および生命現象を説明するにあたり極めて重要な知見と言える。一方で、TRIM37と既知のヒストンH2AユビキチンリガーゼRNF2との差異については、組織分布、標的遺伝子、協調・補完関係、それらから導き出される癌発症・進展機構の観点から、今後のさらなる詳細な解析が望まれる。また、今回提唱されたTRIM37による発癌機構モデルが、実際の乳癌における多様な臨床像のどの部分を説明することになるのか、今後の臨床的観点からの大規模で詳細な解析が必須と言える。これらの知見が、将来の全く新しい乳癌分子標的治療薬開発の重要な基盤となる可能性もあると考えられる。


(23)2015年1月30日 担当:小松 正人
The Osteogenic Niche Promotes Early-Stage Bone Colonization of Disseminated Breast Cancer Cells.
Cancer Cell, 2015 Jan 14,pii:S1535-6108(14)00468-1

<要旨>
骨における乳癌細胞と破骨細胞のケモカイン・サイトカインなどを介した分子相互作用は、溶骨性骨転移機構としてよく知られており、現在RANKL阻害剤やbisphosphonate製剤が骨転移治療薬として用いられている。一方で、原発巣から骨に播種した腫瘍細胞(disseminated tumor cells; DTCs)が、骨転移巣を形成する初期の段階で、骨微小環境とどのような関わりをもって腫瘍塊を形成するかは未だ不明である。著者らは、マウス外腸骨動脈に蛍光標識した腫瘍細胞を注入することで、骨特異的な転移モデルを確立し、初期の骨転移巣を可視化することに成功している。免疫蛍光組織化学染色により、初期の骨転移巣は破骨細胞ではなく、むしろ骨芽細胞と共に転移巣を形成していることが判明し、試験管レベルでも分化した破骨細胞や単球などとは腫瘍塊を形成せず、むしろ分化能を有した間葉系幹細胞や骨芽細胞と腫瘍塊を形成することが再現されている。骨転移をきたす頻度が比較的高い乳癌のサブタイプとしては、estrogen receptor陽性のluminal_typeがよく知られており、このタイプの腫瘍は接着因子であるE-cadherinの発現が高く、一方骨微小環境側の細胞はN-cadherinやOB-cadherinの発現が高いことが知られている。実際に転移モデルにおいて、腫瘍細胞と骨微小環境はE-cadherin/N-cadherinを介したheteroな接着(hAJ)を介して存在していることが確認され、臨床検体の遺伝子発現情報解析でも、E-cadherinが高いlumina_type乳癌では骨転移を早期に発症することが確認されている。実験的には、これら接着因子に対する中和抗体の投与で骨転移形成が遅延し、さらにhAJ形成により癌細胞のmTORシグナルが活性化し癌細胞の骨微小環境への定着の原因になっていることも解明し、最終的にはマウス乳癌骨転移自然発症モデルに対するmTOR阻害剤投与は、骨転移の発症を抑制することも証明されている。ただし、hAJを破綻させても原発巣は縮小しないこと、mTOR阻害剤により骨転移を抑制することは可能だが多臓器転移は抑制しないことなど、術後補助療法・再発進行乳癌への応用には限界があると思われるが、未解明であった骨転移初期段階が、溶骨性微小環境ではなく、むしろ造骨性(osteogenic)微小環境中において、癌細胞がhAJ/mTORシグナルを介して生存・増殖していることを解明した先駆的な報告であると思われた。


(22)2015年1月9日 担当:宮川 義仁
FOXA1 repression is associated with loss of BRCA1 and increased promoter methylation and chromatin silencing in breast cancer.
Oncogene advance online publication 22 December 2014; doi: 10.1038/onc.2014.421

<要旨>
家族性乳がんの原因遺伝子BRCA1はこれまでDNAの二本鎖損傷修復や細胞周期チェックポイント制御、 タンパク質ユビキチン化、クロマチン修飾に関与することが知られている。本論文では、BRCA1の新たな役割として、ERαのcofactorであるforkhead転写因子FOXA1を制御することで、ERα陽性乳がん、Luminal typeの分化に関与することを明らかにしている。
はじめに、ヒト乳癌細胞株MCF-7を用いたRNA干渉法実験にて、BRCA1発現抑制がFOXA1プロモーターのメチル化による発現低下を導くこと、さらに、マウス乳腺上皮細胞におけるBrca1過剰発現系によるFoxa1の発現亢進を認め、BRCA1がFOXA1の過剰メチル化(hypermethylation)の抑制およびFOXA1を発現制御することを明らかにした。この結果は、DNMT阻害剤である5-aza-2’dc処理によるFOXA1のmRNAレベルでの発現回復でも確認された。次に、Bisulfite pyrosequencing 解析にてBRCA1の発現低下が同CpG islandのメチル化率が有意に上昇すること、およびDNMT阻害剤である5-aza-2’dc処理によるFOXA1の発現回復やBRCA1発現抑制によるFOXA1のpromoter領域のメチル化亢進を確認した。続いて、Histoneのメチル化 によるFOXA1の転写制御への関与についても調べたところ、ヒストンH3K27 メチル化転移酵素(methyltransferase)EZH2の発現抑制にてFOXA1の発現亢進および、ChIP解析によるFOXA1 promoter領域へのBRCA1, EZH2, DNMT3bの直接的な結合およびBRCA1発現抑制によるH3K27のトリメチル化の亢進を明らかにした。
 最後に、家族性乳癌データベース<kConFab>を通じて、FOXA1の発現とDNAのメチル化が負の相関関係にあること、BRCA1変異とFOXA1のDNAのメチル化亢進、およびRNAレベルでの発現低下に対して、正の相関を示すことを明らかにし、臨床上においてもBRCA1によるFOXA1のメチル化を通じた発現制御機構の可能性を示した。
 本論文は、BRCA1のFOXA1発現制御経路として、①BRCA1、EZH2、DNMT3b複合体によるFOXA1のpromoterメチル化抑制、②BRCA1とEZH2と結合を通じたEZH2活性低下およびH3K27のトリメチル化抑制によるFOXA1の発現促進を明らかにした。しかしながら、BRCA1とFOXA1の発現の有意な相関が認められるのはMCF-7のみであることや、マウス乳腺上皮細胞におけるFoxa1プロモーター領域のメチル化率の低下やMCF-7でのBRCA1発現抑制によるFoxa1プロモーター領域のメチル化率の上昇が数%程度であり、Foxa1, FOXA1の発現制御にどの程度影響があるのかは未知数であることからも追試の結果が待たれる。

2014


(21)2014年12月26日 担当:金 南希
Targeting of miR34a–NOTCH1 Axis Reduced Breast Cancer Stemness and Chemoresistance.
Cancer Res. 2014 Dec 15;74(24):7573-82.

<要旨>
乳がん幹細胞は自己複製能を有し、薬剤耐性に関与することが知られている。最近では、幹細胞性や薬剤耐性には、miRNA(microRNA)の制御異常が関与することも言われているが、その詳細な機構については明らかにされていない。
本論文では、乳がんにおける幹細胞の自己複製や薬剤耐性に関して、miR34a-NOTCH1経路が深く関与していることを明らかにしている。筆者らは、これまでに乳がんにおける薬剤耐性やがん幹細胞の制御に関与すること、およびp53の標的として機能し、p53/miR34の不活性化が癌化・進展に関与することが報告されているmiR34ファミリー(miR34a,b/c)のうち、乳がんを含む多くのがんにおいてその発現低下または不活化されている癌抑制機能を有するmiR34aに着目した。
はじめに、筆者らはアドリアマイシン耐性ERα陽性乳がん細胞(MCF7/ADR)において、miR34aの発現低下およびmiR34aの標的遺伝子であり、幹細胞性に維持に重要な役割を担うNOTCH1遺伝子の発現亢進を見いだした。さらに、miR34aの過剰発現がNOTCH1遺伝子の発現低下を通じてMCF7/ADRのスフィア形成能(幹細胞性)を低下させ、さらに、アドリアマイシンに対する感受性を回復させることがin vitro実験およびヌードマウスを用いたin vivo実験においても明らかとなった。以上のことから、miR34aの発現を利用した乳がん治療耐性の克服が可能なことが示唆された。今後は、乳がん臨床検体におけるmiR34aの予後、悪性度との相関に関する研究やアドリアマイシン以外の郊外剤における耐性への関与についての検討が望まれる。


(20)2014年12月12日 担当:大豆本 圭
RNA G-quadruplexes cause eIF4A dependent oncogene translation in cancer.
Nature. 2014 Sep 4;513(7516):65-70.

<要旨>
ほ乳類細胞におけるタンパク質の翻訳の過程は、mRNAの5‘末端のキャップ構造(5’m7GpppN)に翻訳開始因子群eIFs (eukaryotic initiation factors)が集合し、その認識の下で、mRNAの情報に則してリボソームが呼び込まれてとり行われる。癌細胞では、このキャップ構造依存的なタンパク質翻訳活性化が悪性化に関連していることがこれまでに知られていたが、その詳細な機序は未解明であった。本論文では、eIFsの1つで翻訳開始位置をスキャニングする機能およびヘリカーゼ活性を有するeIF4Aに着目し、その翻訳ターゲットとなるmRNAの特徴を明らかにし、翻訳がT細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の悪性化に重要な機構を担うことを示している。
 まず細胞内(intracellular)Notchをレトロウイルス発現系にて導入することによりT-ALLを発症するモデルマウスにて、eIF4Aを発現させると顕著に早期の発症を示すことがわかった。これはeIF4AがT-ALLの維持機構に関連することを示唆しており、一方でeIF4A標的阻害薬であるSilvestrolがT-ALLに対してナノモル(nM)単位で著効することから、その作用機序はキャップ依存的翻訳阻害によるものであることがわかった。次に、翻訳機構関連分子の同定のために、T-ALL細胞をSilvestrolにて処理後、リボソームフットプリント法による包括的な翻訳リボソームプロファイリング解析を通じて、翻訳機構へ影響する分子の抽出を行った。その結果、翻訳効率が減少している分子群において、5’UTR上に存在する(CGG)4モチーフが多くの分子で共通していることを見出した。さらに、このモチーフが翻訳調節の重要な機能を持っていることが知られているグアニン四重鎖構造であることも判明した。以上のことから、eIF4Aの翻訳ターゲットが5`UTRにグアニン四重鎖構造をもつ分子であること、さらにそのターゲット分子は癌遺伝子や癌関連遺伝子のスーパーエンハンサーと呼ばれる高密度に転写因子が結集するDNA塩基配列であることがわかった。今回、これまで不明であったT-ALLに対するSilvestrolの作用機序が明らかとなり、今後の臨床応用が待望される。また、本論文ではT-ALLを対象としたものであったが、他癌種でもeIF4A依存的な悪性化への翻訳機構があることが示唆され、今後癌種による違いを検討していく必要があると考えられる。


(19)2014年12月5日 担当:吉丸 哲郎
Cancer-Selective Targeting of the NF-κB Survival Pathway with GADD45β/MKK7 Inhibitors.
Cancer Cell, 26, 495-508, 2014

<要旨>
難治性造血器腫瘍の1つである多発性骨髄腫における治療には、近年、その病態形成に重要な役割を果たすNF-κBを標的とするボルテゾミブが臨床応用されている。その一方、耐性症例の出現や末梢神経障害、間質性肺障害などの有害事象が深刻な問題となっている。本論文では、細胞生存に関与するNF-κB経路下流のGADD45β/MKK7複合体に着目し、この相互作用を特異的に阻害するペプチドを同定し、多発性骨髄腫に対する新たな治療薬の可能性について言及している。
著者らは、多発性骨髄腫臨床検体にてGADD45βの発現亢進を明らかし、さらにNF-κBシグナルの下流で細胞生存に関わるプロセスを以下の4つに特定した:①NF-κB 活性化によるGADD45βの発現亢進およびGADD45βによるMKK7の抑制、③MKK7の活性抑制によるその下流分子JNK活性の抑制、④アポトーシスの抑制。
 続いて、GADD45βとMKK7の結合を阻害する分子の同定を目的に、4つのアミノ酸をランダムに重合させたテトラペプチド・ライブラリーを用いたスクリーニングを行った結果、阻害活性を有する2個のペプチドを選抜した。次に、阻害活性を有したまま、血中での安定性に優れたD型アミノ酸に変換(D型ペプチド)させ、さらにペプチドのN末端をベンジルオキシカルボニル基に変換することで高い細胞膜透過性を有し、多発性骨髄腫細胞の増殖阻害を認めることを証明した。最終的には、in silico構造解析からテトラペプチドよりもより安定であるDTP3(D型トリペプチド;D-Tyr-Arg-Phe)を合成した。DTP3は多発性骨髄腫特異的に細胞死を誘導し、正常細胞にほとんど影響を及ぼさなかった。さらに、ヒト多発性骨髄腫細胞の同所性移植マウスにDTP3を投与すると、腫瘍を完全に消滅させることができた。NF-κB経路は多くのヒトの正常臓器の細胞にて重要な機能を担っていることから、その経路の上流分子を標的することによる強い副作用が懸念される。一方、今回創製されたDTP3は、がん細胞特異的なNF-κBの下流分子を標的として、がん細胞死を誘導するものであり、多発性骨髄腫の根治に繋がる可能性を大きく期待させる。


(18)2014年11月28日 担当:木村 竜一朗
ASPP2 controls epithelial plasticity and inhibits metastasis through β-catenin-dependent regulation of ZEB1.
Nat Cell Biol. 2014 Nov;16(11):1092-104.

<要旨>
上皮間葉転換 (Epithelial-Mesenchymal Transition, EMT)と間葉上皮転換 (Mesenchymal-Epithelial Transition, MET)は、腎形成や癌転移の過程にも関与する上皮-間葉細胞の可塑性(plasticity)維持機構の中で中心的役割を果たすことが知られている。本論文では、p53活性化タンパク質でありPAR3結合因子としても知られている癌抑制因子apoptosis-stimulating protein of p53 2 (ASPP2)が、EMT/METの平衡状態をMET側へスイッチする役割を担う分子であることを明らかにした。ASPP2ノックアウトマウスを用いたin vivo解析から、ASPP2は腎形成過程に必須のMETを誘導し、その機序としてASPP2がこれまでに同定されていたp53結合部位とは異なる部位にて、細胞極性を制御するPAR3タンパク質と結合することでMETを誘導することを証明した。さらに、ASPP2は、ASPP2/β-catenin/E-cadherin複合体を形成すること、β-catenin/E-cadherin複合体の安定化に寄与するβ-catenin N末端側のリン酸化を妨げることにより、転写因子であるβ-catenin依存的なZEB1遺伝子発現機構を阻害することが観察された。これらの結果、ASPP2はRas依存的な細胞浸潤、およびin vivoにおける癌転移を阻害する因子であることが分かった。一方、肝細胞癌と乳癌患者における臨床データから、ASPP2の発現低下がEMTを誘導し、予後不良となることも判明した。これらの研究結果は、ASPP2がWNT/β-catenin経路、EMT、および腫瘍転移を抑制し、上皮細胞の細胞極性と可塑性を維持する中心的分子であることを示すものである。
 上皮細胞の維持には、細胞接着分子E-cadherinの発現が必須であり、E-cadherinの消失はEMT誘導の引き金となることが知られている。筆者らは、これまでにASPP2/PAR3複合体が細胞極性を維持する機構を明らかにし、この複合体の存在がE-cadherinと同様に上皮細胞としての性質を決定する必須の因子であることを示してきた。本論文では、さらにASPP2がASPP2/β-catenin/E-cadherin複合体を形成することにより、β-catenin依存的なEMT誘導と腫瘍転移を阻害する分子機構を解明した。また、これらの結果として、ASPP2の発現低下が乳癌と肝癌の腫瘍転移を促進することを臨床検体の観点からも明らかにした点は非常に意義深いと考えられる。一方で、β-cateninの癌発症・進展に与える影響については現在までに多くの研究がある。β-cateninと結合してその機能を阻害するGSK-3β、APC、およびAxinの存在が知られており、例えばAPCの高頻度な遺伝子変異が大腸癌で同定されている。今後、この癌抑制因子ASPP2がこれらのβ-catenin阻害因子とどのように関与するか、新たな分子機構の解明と臨床知見が待たれるところと言える。


(17)2014年11月14日 担当:小松 正人
Rationale for co-targeting IGF-1R and ALK in ALK fusion-positive lung cancer.
Nat. Med. 2014 Sep;20(9):1027-34.

<要旨>
EML4-ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌に対するALK阻害剤(Crizotinib)は、初期は奏功を呈してもいずれ獲得耐性になることが問題となっている。本論文では、著者らは、一例のEML4-ALK陽性の進行非小細胞肺癌の症例が、抗IGF-1R抗体の投与により17ヶ月という長期のpartial responseが得られたことを契機に、EML4-ALK signalingとIGF-IR signalingのクロストークが存在する可能性に着目した。種々のEML4-ALK陽性非小細胞肺癌細胞株に対し、抗IGF-1R療法(抗体、阻害剤)がCrizotinibとの併用で相乗的に殺細胞効果を示し、引き続きEML4-ALK signalingとIGF-IR signalingに共通して作動する分子としてIGF-1Rのアダプター分子であるIRS-1を同定し、実際にALKがIRS-1と結合していることも示している。このことは、ALK阻害剤でIRS-1とALKの結合を阻害し、ALKのシグナル伝達を遮断しても側副経路であるIGF-1Rの活性を抑制することができず、獲得耐性につながることを示唆している。実際にALK阻害剤に対する獲得耐性細胞株を樹立したところ、耐性株にはALKの変異は存在せず、IGF-1R/リン酸化IGF-1Rの発現亢進、IGF-1RのリガンドであるIGF-1の分泌亢進、IRS-1の発現亢進を認め、ALK阻害剤に対する獲得耐性にIGF-1Rによる側副経路のシグナルが密接に関連していることが示唆された。ALK阻害剤投与前後の臨床検体を用いた免疫組織染色解析でも、ALK投与後にリン酸化IGF-1Rの発現亢進、IRS-1の発現亢進を呈する症例が確認されている。また、Crizotinib獲得耐性になった症例に対し第二世代ALK阻害剤が56%の症例で画像上効果があったこと(NEJM,2014;370:1189-97)やCrizotinib耐性の腫瘍がALKのゲートキーパー変異発生頻度が少ないことから、Crizotinib耐性には側副経路であるIGF-1Rの活性化がMajorityを占めている可能性を挙げ、第二世代ALK阻害剤(LDK-378やTAE-684)にて克服できることも示した。
 分子標的治療薬の耐性獲得は、大きく①ゲートキーパー変異、②標的遺伝子の増幅、③側副経路の活性化(例;EGFR阻害剤獲得耐性におけるHGF-Metシグナル等)に分類できるが、本論文におけるCrizotinib耐性機構の一つとして、③のIGF-1Rを介した側副経路の活性化が重要であることが示唆された。以上のことから、このような症例に対する治療には、IGF-1Rの阻害(抗IGF-1R抗体やIGF-1R TKI)や、第二世代ALK阻害剤が有効であることが示唆された。


(16)2014年11月7日 担当:片桐 豊雅
Modification of ASC1 by UFM1 Is Crucial for ERα Transactivation and Breast Cancer Development.
Mol Cell. 2014 Oct 23;56(2):261-74. doi: 10.1016

<要旨>
タンパク質の翻訳後修飾の1つであるユビキチンは、標的となるタンパク質の分解をはじめとする多くの機能制御に重要な役割に担っている。そのユビキチンに似たユビキチン様修飾因子(UBL: ubiquitin-like modifier)も非常に多くの種類存在し、多種多様な細胞制御に重要な役割を担うことも分かってきている。本論文では、近年同定された、新しいUBLであるウフミル化(Ufmylation)の関与するUFM1(Ubiquitin-fold modifier 1)に着目し、その標的タンパク質であり、核内受容体のコアクチベーターASC1(Activating signal cointergator 1)のウフミル化がエストロゲン受容体(ER)の転写活性化に重要であることを証明している。これまで、ERをはじめとする多くの核内受容体の転写活性化に必要なコアクチベーター(またはコリプレッサー)がどのような機序で核内受容体にリクルートされるかは謎であった。
 本論文では、ウフミル化がエストロゲン刺激下においてERにコアクチベーターが集まるための目印になっていることを証明している。筆者らは、はじめにUFM1に結合するタンパク質をIPおよび質量分析法にて検索し、その1つとしてコアクチベーターASC1を同定した。ウフミル化E1リガーゼであるUBA5, E2リガーゼUFC1,およびE3リガーゼUFL1およびUFL1結合タンパク質であるUFBP1との複合体の働きにより、ASC1にポリウフミル化が起きることを明らかにした。さらに、ER陽性乳がん細胞において、エストロゲン(E2)非存在下では、ASC1は脱ウフミル化酵素であるプロテアーゼ(UfSP2)が結合しており、これによりASC1のウフミル化が抑制されている。一方、エストロゲン刺激下では、エストロゲンが結合したERがUfSP2と競合的にASC1と結合し、その結果、ASC1がポリウフミル化され、最終的にコアクチベーターであるSRC1、p300等をリクルートして、ERの転写活性化を促進することが分かった。これは、ASC1過剰発現、ポリウフミル化された細胞ではin vitro, in vivoにて細胞増殖、腫瘍形成を増大させる一方、UfSP2の過剰発現による脱ポリウフミル化による腫瘍抑制を導くことも証明された。新たなUBLの1つのウフミル化が、がん化の一助となっており、この修飾の制御が治療標的となる可能性があることが示唆された。


(15)2014年10月31日 担当:宮川 義仁
Ex vivo culture of circulating breast tumor cells for individualized testing of drug susceptibility. Min Yu et al.
Science 345, 216 (2014);

<要旨>
Circulating tumor cells (CTC)は担癌患者の抹消血中に見られる上皮系細胞で、健常者の血中には認められない。これまで転移性乳癌の患者において診断時の抹消血中のCTC数によって予後に有意差が認められること、また初期治療中のCTC数の増減によっても予後に差が認められること(Lancet Oncol 2014; 15:406-14)が報告されており、CTC数は臨床上予後因子として知られていた。本論文では、マイクロ流体技術を利用したCTC-iChipと呼ぶ新しい物理的手法によってCTCを血球成分から分離して培養し、抗癌剤、ホルモン剤や分子標的薬剤の薬剤感受性の評価を行った。
 はじめに、36人のエストロゲン受容体 (ER)陽性、HER2陰性の転移性乳癌患者を対象とし、それらの採取した抹消血40mlからCTC-iChipによって、まずサイズによって血球を分類し、それによりCTCと白血球のみを分離し、その後磁気ビーズにて標識した血球を偏向させてCTCを分離した。その結果、6人において細胞株の樹立に成功した。これら6人の患者の手術時および転移診断時のFFPE標本に対してSNaPShot (25個の癌関連遺伝子遺伝子における既知の140変異の検索をSanger sequence法にて検索するpanel)を行ったところ、2人からPIK3CAのmissense mutation(H1047R, G1049R)を認めた。一方、樹立したCTC細胞株に対して次世代シークエンス解析にて、上述のPIK3CA変異を確認し、さらに新規のTP53 変異(E285K, R338C, E204)、ESR1 変異(Y537S, D538G, L536P)をそれぞれ3 株で、FGFR2変異(N549K)を1 株で認めた。
 次に、6つのCTC細胞株に対する薬剤感受性を評価した。ESR1に変異(Y537S)のあるCTC 細胞株では抗エストロゲン剤+HSP90阻害剤が奏功することが確認された。これは、既報通り、HSP90が変異ESR1の安定化に寄与し、HSP90阻害剤の投与でESR1タンパクの発現低下が起こることからと考えられる。また、PIK3CA(H1047L)およびFGFR2(N549K)の両方に変異を持つCTC細胞株では、PI3K阻害剤とFGFR阻害剤の併用が奏功した。これまで両薬剤併用による臨床試験は計画されたことなく、今後個々の患者の変異検索とCTC細胞株での作製が新規治療戦略の構築に寄与する可能性も考えられた。
ただ、CTCには腫瘍が血管内に浸潤後流入した癌細胞や上皮間葉移行(EMT)を起こした細胞などが混在していることが予想され、今回のCTC細胞株についてもheteroな細胞集団を評価している可能性がある。
 また、実際の転移巣とextracellular matrix(ECM)の影響を受けないCTC細胞株では薬剤感受性に変化のある可能性も考えられた。実際、転移巣でエストロゲン受容体(ER)陽性であった検体のCTC lineでERの陰転化が確認されており、薬剤感受性試験においてこのCTC細胞株では抗エストロゲン剤の効果が全くなかった。
本論文におけるCTC細胞株での作成に成功した採血は病状がかなり進行した時に採取されたものばかりで、さらに検体採取から薬剤感受性試験まで6ヶ月以上という長期間が経過していることから実臨床ではまだ導入が困難であると思われる。今後CTC lineを個別化医療の一助として用いるためには、CTC 細胞株の構築期間の短縮と薬剤感受性試験で得られた結果が実臨床の結果に反映するかどうかを慎重に判断する必要があると思われた。


(14)2014年10月17日 担当:金 南希
Structure and mechanism of action of the BRCA2 breast cancer tumor suppressor.
Nature Structural & Molecular Biology (2014) doi:10.1038/nsmb.2899

<要旨>
家族性乳がんの30-50%の症例においてBRCA1あるいはBRCA2遺伝子に変異が認められる。BRCA2遺伝子産物はDNA修復酵素RAD51と複合体を形成して相同性組換え修復にてDNA の2本鎖切断(DSB:double strand break)修復機能を有することが、これまで構造解析からも証明されている。しかしながら、BRCA2タンパク質は3418アミノ酸からなる巨大なタンパク質であることから、intactなタンパク質そのものの構造学的および生化学的な機能、特に修復機能については未だ証明されていないのが現状である。
 本論文では、HeLa細胞から精製されたBRCA2を高分解能低温電子顕微鏡像により観察した画像データを基に3Dイメージを構築する新たな方法(単粒子解析)により、BRCA2タンパク全長の構造からその機能を解析することに成功している。この方法による単粒子解析の利点は、タンパク質の結晶を作製することなしに、生体高分子の高分解能立体構造を得ることができる点である。電子顕微鏡を用いた高分解能構造解析の主要な障害の一つに電子線照射による試料損傷があるが、本方法では低温にて試料を冷やすことで、電子線損傷を低減でき、結晶化の困難な試料に対して有効な手法とされる。
本方法によって解析された結果、BRCA2は二量体を形成しており、その構造内にBRCA2結合タンパク質であるRAD51分子4~5個を1セットとして、各2セット結合しており、それに面する部位でDNAと結合して、二重鎖損傷修復の機能が発揮させていることがわかった。さらに、その修復方向は3’-5’の一方向性であり、それは同時に複数個所で行われ、BRCA2の存在によって促進されていることが新たに分かった。
 今回の報告においてもっとも重視すべき点は、タンパク質全長での構造解析に成功しているという点であり、今後、部分長のみの解析しかなされなかったタンパク質に関しても、より詳細なタンパク質機能の解明が可能となることが考えられる。


(13)2014年10月10日 担当:大豆本 圭
A new tumor suppressor role for the Notch pathway in bladder cancer.
Nat Med. 2014 OCt;20(10):1199-205. doi: 10.1038/nm.3678. Epub 2014 Sep 7.

<要旨>
Notch pathwayは、主に一回膜貫通型のNotchレセプター(Notch1, 2, 3, 4) にJAG1などのLigandが細胞外ドメインのEGF-like repeatに結合することで活性化する。その機序としては、細胞内ドメイン(NICD)がγセクレターゼにより切断されて、NICDが核内移行してCSL(CBF1/Su(H)/Lag-1)転写因子複合体と結合することで、その下流因子であるHEY1, HES, p21などを転写活性化することが知られている。これまでに、ヒト癌においてNotch はOncogeneまたはTumor suppressorと相反する機能を有することが報告されているが、膀胱癌においてNotch関連分子の関与の報告がなく、本論文にて初めてNotch signal pathwayの異常が膀胱癌発症の原因であることが証明されている。
 著者らは、膀胱癌においてNotch1染色体座である9番染色長腕の欠失の頻度が高いことに着目し、膀胱癌症例におけるNotch pathway関連因子の変異解析をサンガーシークエンス法にて行ったところ、Notch経路の活性低下を導くin-frame shift , frame shift, missense, nonsense 変異を高頻度に同定した。しかしながら、これらの症例は、各ステージ、悪性度との関係性は認められなかった。また、NOTCH1 locus (9q34.3)に関するcopy number解析を行ったところ、その約半数で欠失を認めた。特に、Mutation/lossを認める症例ではNotch下流因子の発現低下をみとめ、正常な症例と比べて有意に予後不良であった。次に、著者らは、これまで膀胱癌のドライバー変異として報告のあるFGFR3, RAS, Notchとの関係性について調べたところ、これらの遺伝子変異の頻度よりも高い頻度でNotch変異認めた。また、FGFR3/RAS変異に比して、Notch変異を有する症例では高いレベルでpERK亢進を認め、一方、この脱リン酸化にはDUSPがNotch下流として機能することも明らかとなった。Notch pathwayの機能不全モデルマウス(R26rtTA;tetO-Cre;Ncstn flox/flox mice)を用いた解析では早期から浸潤性膀胱癌をみとめ、尿路上皮特異的にNotch pathway機能不全のモデルマウス(UpkⅡ-Cre-eGFP;Ncstn flox/flox)においても、約2ヶ月でCIS、6カ月にて腫瘍を確認した。これらのことから、膀胱癌ではNotch pathwayの異常が最も重要なドライバー変異であることが分かった。今回の報告では、Notch pathwayのTumor suppressorとしての機能の不活化による膀胱癌発症について証明しているが、Notch pathwayの活性が低下を認めない症例も存在し、変異箇所によるNotchの機能の違いがあるのかもしれない。


(12)2014年10月3日 担当:吉丸 哲郎
A Functional Genomic Approach Identifies FAL1 as an Oncogenic Long Noncoding RNA that Associates with BMI1 and Represses p21 Expression in Cancer.
Cancer Cell, 26, 344-357, 2014

<要旨>
 DNAにコードされている遺伝子情報はRNAへと書き換えられ(転写)、そのRNAから機能分子であるタンパク質へと変換(翻訳)されるが、ヒトゲノムの約98%はタンパク質をコードしていないことが明らかとなっている。近年、細胞内に存在するRNAの大規模な解析が行われ、ゲノム上のほぼ全ての領域から転写が起こり、タンパク質をコードしないRNA(non-coding RNA)にも機能があることが明らかとなり、これらが生物の「複雑さ」を規定している可能性が考えられる。本論文では、卵巣癌および乳癌を含む12種類の癌から約14,000個のlong non-coding RNA(lncRNA)のDNAコピー数のプロファイルを構築して、共通して染色体コピー数が変化しているlncRNAを見出し、卵巣癌などの増殖に対する分子メカニズムを考察したものである。
 著者らは、癌細胞で高発現し、コピー数の増加が認められる37個の lncRNAsに着目し、そのうち、第1染色体に増幅されたlncRNA、FAL1(focally amplified lncRNA on chromosome 1)が卵巣癌および乳癌細胞株にて発現亢進を認め、増殖に必須であることを明らかにした。また、各細胞株の同所性移植マウスを用いたin vivo実験でも、shFAL1にて発現抑制するとほぼ完全な抗腫瘍効果が得られた。さらに、FAL1は卵巣癌および乳癌のヒト臨床検体においても、顕著な発現亢進していることが確認され、ヒト卵巣癌検体においてFAL1の高発現が臨床予後の不良と相関する傾向も認められた。
著者らは、さらに卵巣癌におけるFAL1の機能について検討した。その結果、FAL1はBMI1(エピジェネティック抑制分子;ポリコーム抑制複合体PRC1のコアタンパク質)と結合することで、そのタンパク質の安定化に寄与することを示した。さらに、FAL1はBMI1を介して腫瘍抑制遺伝子のひとつp21をdown-regulationすることで、卵巣癌などの増殖を促進していることを明らかにしている。以上のことから、FAL1は転写・エピゲノム制御を介し、癌の発生・進展に重要であると考えられ、今後、卵巣癌や乳癌の予後のバイオマーカーとしての有用性、およびFAL1とBMI1と相互作用をターゲットとする新しい治療法の有効性が期待される。


(11)2014年9月12日 担当:木村 竜一朗
Protein kinase C α is a central signaling node and therapeutic target for breast cancer stem cells.
Cancer Cell. 2013 Sep 9;24(3):347-64.

<要旨>
 上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition, EMT)は、腫瘍の悪性化進展と癌幹細胞の増加を活性化することが知られている。本論文で著者らは、protein kinase C α (PKCα)が癌幹細胞に対する特異的な標的分子となりうることを報告している。非癌幹細胞から癌幹細胞が形成される際には、EGFRシグナリングからPDGFRシグナリングへのシフト、およびその結果としてPKCα依存的な転写因子Fra1の活性化が起こった。また、非癌幹細胞と癌幹細胞内においては、AP-1分子c-FOSとFRA1の発現がスイッチすることが分かった。一方、PKCαとFRA1の発現とトリプルネガティブ乳癌(TNBC)の悪性度には相関が見られ、FRA1の発現消失は間葉上皮転換(mesenchymal-epithelial transition, MET)を誘導する結果となった。これらの研究結果は、癌幹細胞を標的とした臨床応用に極めて重要な知見と言える。
 幹細胞の定義は自己複製能と多分化能を有することであり、乳癌の場合、このような狭義の意味での癌幹細胞の存在は厳密に証明されていない。しかしながら、抗がん剤抵抗性、高転移性などの性質の有無から見た乳癌腫瘍の不均一性(heterogeneity)を説明するにあたり、異なる性質を有する細胞群の存在は正確な臨床像を把握するのに重要な要素と考えられる。本論文におけるEMT依存的な上皮細胞から間葉系細胞の変化、その過程でのPKCα/FRA1 axisの活性化は乳癌の発症・進展機構を解明するのに重要な知見を提供するとともに、TNBCなどの悪性度の高い乳癌における治療の標的となりうると考えられる。


(10)2014年8月26日 担当:小松 正人
PRC2 loss amplifies Ras-driven transcription and confers sensitivity to BRD4-based therapies
Nature. 2014 Aug 13. doi: 10.1038

<要旨>
様々な悪性腫瘍において、RasGAP (RasGTPase activating protein)をコードするNF1 (neurofibromin 1)遺伝子の体細胞変異による機能喪失は、Rasおよびその下流のシグナルの活性化に関与していることが知られ、また常染色体優性遺伝疾患であるneurofibromatosis 1 (NF1)の責任遺伝子でもあることはよく知られている。NF1には全身性の神経線維腫に加え、膠芽腫や肺癌、神経芽細胞腫といった悪性腫瘍が生じることが知られているが、生殖細胞系列でNF1遺伝子およびその近傍の13遺伝子座を含む染色体欠損(NF1 microdeletion)を認める患者は、通常のNF1に比して、数倍の高頻度で種々の悪性腫瘍を併発する。著者らはこのNF1 microdeletion領域にNF1と協調して機能する癌抑制遺伝子の存在の可能性に着目し、51例の悪性神経鞘腫(MPNST, 代表的なNF1関連腫瘍の一つ)のCGHアレイ解析により候補遺伝子を検索した。その結果、NF1 microdeletionを認める症例では、74%の症例にNF1近傍のSUZ12遺伝子というpolycomb repressive complex 2 (PRC2)のsubunitをコードする遺伝子領域にhomozygous deletionを認めた。いくつかのNF1nullの細胞株にSUZ12を導入すると、細胞の増殖が抑制され、またRNA干渉によるSUZ12の発現抑制は細胞の増殖を促進させたことより、NF1関連腫瘍においてSUZ12が腫瘍抑制性遺伝子であることが示された。また、NF1+/-TP53+/-SUZ12+/-遺伝子改変マウスには、MPNSTに加え、高頻度にhigh grade gliomaが発症し、SUZ12はNF1とTP53と協調的に働くことも示された。さらに、これらNF1関連腫瘍におけるSUZ12の機能喪失(PRC2の機能喪失)は、HeK27トリメチル化の減弱およびH3K27アセチル化からBRD4をはじめとするブロモドメイン蛋白のrecruit、最終的に種々の転写因子がrecruitされることによりRas-signalingの標的遺伝子の転写活性が誘導されることが明らかとなった。以上のことから、これらの腫瘍には、BRD4阻害剤であるJQ-1および、Rasの下流のMEKを標的としたMEK阻害剤(PD-0325901)の併用が相乗的な抗腫瘍抑制効果を示すことが明らかとなった。臨床的には、NF1の変異や欠失といったNF1自身のステータスに加え、SUZ12/PRC2の機能喪失を抗H3K27me3抗体による免疫組織染色で間接的に捉えることにより、NF1関連腫瘍に対してBRD4阻害剤/MEK阻害剤の併用療法が新規な治療方法として選択できると思われる。


(9)2014年6月13日 担当:金 南希
KPNA7, a nuclear transport receptor, promotes malignant properties of pancreatic cancer cells in vitro.
Exp Cell Res. 2014 Mar 10;322(1):159-67.

<要旨>
 難治性がんである膵臓癌の治療成績は未だ十分なものではなく、最適な治療法および早期診断法の開発が切望されている。そのため、膵臓癌の発症、進展に関与する遺伝子、その遺伝子産物を同定し、その役割を解明することが重要となっている。
本論文の著者らはこれまでに核内輸送タンパク質であるカリオフェリンα(以下KPNA)ファミリーに着目してきており、そのうち近年新たに同定されたKPNA7が膵臓癌細胞株において発現上昇していることを見いだしていた。本論文では、KPNA7の発現上昇が顕著であるAsPC-1およびHs700T膵臓癌細胞株におけるKPNA7発現抑制によって細胞増殖抑制効果が認められたこと、また癌細胞の特徴である足場非依存性増殖の抑制も認められたことを証明している。さらに、その細胞増殖抑制効果は細胞周期調節因子p21の発現誘導によるG1期での細胞周期停止を導き、Hs700TにおいてはKPNA7の発現抑制によってオートファジー機構の増加も認められた。これらのことは、核内輸送タンパク質であるKPNA7の発現抑制が膵臓癌細胞の増殖、進展を阻害することを初めて実証したものであり、意義深い。KPNA7は、KPNAファミリーのうち、様々な癌において発現亢進を認めているKPNA2とそのアミノ酸配列から高い相同性を有する分子であり、癌化機構においてKPNA7もKPNA2との同様の機能を有する可能性があるかもしれない。一方で、KPNA7は他のKPNAファミリーとは異なり、無刺激な定常状態で核内に局在していることもあり、本論文における発現亢進がKPNA7の核移行機能によるものか、それとも全く核移行とは異なる機能異常によるものかは依然不明であり、今後さらなる検討が必要と思われる。


(8)2014年6月6日 担当:大豆本 圭
Therapeutic targeting of BET bromodomain proteins in castration-resistant prostate cancer
Nature. 2014 Apr 23. doi: 10.1038/nature13229.

<要旨>
前立腺癌はアンドロゲン依存性に増殖することから、その治療にはアンドロゲン作用を抑制するための去勢術や抗アンドロゲン薬によるホルモン療法が主として行われている。しかしながら、これらの治療法は初期には著効する一方、長期間続けると耐性を獲得し、去勢抵抗性前立腺癌 (以下CRPC;castration-resistant prostate cancer)となることが問題となっている。最近、CRPCに対する新規治療薬として抗アンドロゲン薬であるエンザルタミド(MDV3100)やアンドロゲン合成を抑制するCYP17阻害薬であるアビラテロン酢酸エステルが開発され、臨床応用が見込まれているが、その効果は一定であると推測される。
本論文では、CRPCに対しての新規治療薬候補としてブロモドメイン蛋白質をターゲットとしたJQ1低分子阻害薬に着目している。ブロモドメイン蛋白質はブロモドメイン繰り返し配列であるBD1とBD2を有し、このドメインによりヒストンのアセチル化したリジン残基を認識して、制御蛋白質をリクルートすることでクロマチン構造や遺伝子発現の制御に働く。JQ1は、このブロモドメイン蛋白質のアセチル化したリジン残基への結合を阻害することで作用する。本論文では、アンドロゲンレセプターを有する前立腺癌細胞株におけるJQ1の抗腫瘍効果について検討し、低濃度のJQ1にて増殖抑制効果が認められること、その効果はG0/G1arrest、cleaved PARP増加、BCL-xl蛋白の低下、さらに転写レベルでのMYCの発現低下を導くことからであることを証明している。さらに詳細にその機序解明を進めた結果、アンドロゲンレセプターと結合を認めるブロモドメイン蛋白質(BRD2,BRD3,BRD4)の1つであるBRD4蛋白質に着目し、そのBD1ドメインを介してアンドロゲンレセプターと結合すること、その結果、核内へ移行したアンドロゲンレセプターが標的遺伝子を活性化する。一方、JQ1はBRD4により認識されるリジン基に対して競合的に阻害することで、その転写活性を抑制することを明らかにした。筆者らはさらにChIP-seq解析を通じてJQ1によって抑制されるアンドロゲンレセプター標的遺伝子を同定している。マウス皮下移植モデルを用いたIn vivo抗腫瘍効果の検討では、MDV3100と比較してJQ1の安定した抑制効果を確認し、さらにCRPCに対しても効果を発揮することを見出している。以上より、JQ1は前立腺癌の新規治療薬として今後大いに期待されるが、その一方で、ブロモドメイン蛋白質の広範囲にわたる発現様式による副作用が危惧される。また、JQ1は培養細胞株レベルではアンドロゲンレセプター陽性細胞に対して低濃度での顕著な細胞増殖抑制効果を認めているが、in vivo実験では経口投与10mg/kgにて抗腫瘍効果を認めるMDV3100に対して、JQ1は腹腔内投与で50mg/kgと、より高濃度となっており、この抑制効果の特異性について今後のさらなる検討が必要と思われる。


(7)2014年5月30日 担当:吉丸 哲郎
Profilin-1 phosphorylation directs angiocrine expression and glioblastoma progression through HIF-1α accumulation.
Nat. Cell Biol., 16, 445-456, 2014

<要旨>
神経膠腫(グリオーマ)は、最も発生頻度の高い原発性脳腫瘍であり、その主たる組織型である神経膠芽腫の生存期間中央値はわずか14ヶ月と極めて予後不良である。その治療戦略の一つとして、現在血管新生阻害療法が試みられているが、一過性に効果は認められるものの、この腫瘍血管新生のメカニズムの解明が重要となっている。本論文では、脳腫瘍組織の血管内皮細胞においてアクチン結合タンパク質Profilin-1(Pfn1)は、そのリン酸化を介してのVHLとの結合し、その結果HIF-1αの分解が抑制され、HIF-1αによるangiocrineの亢進が促進されて脳腫瘍の進行と悪性化に寄与していることを明らかにしている。
著者らはこれまでにVEDF-A刺激によるSrc活性化を介したPfn1のリン酸化が血管内皮細胞の遊走と血管新生に重要であることを報告していたことから、さまざまなヒト培養細胞株にてPfn1発現解析を行ったところ、各種脳腫瘍細胞、特に多形神経膠芽腫(GBM)細胞で発現が亢進していることを見出した。まず、上皮細胞特異的にPfn1のTyr192リン酸化を欠失したノックインマウスとGBMモデルを作製したところ、リン酸化欠失マウスが野生型より生存率が向上し、腫瘍組織における血管新生や血管の形成異常が抑制されていた。また、そのリン酸化されたPfn1は核膜に局在していたことから、アクチン伸長とは別の機能を有することが示唆された。そこで、Pfn1のその分子機構の解明に着目したところ、Pfn1のリン酸化依存的にangiocrine因子群が発現亢進すること、その発現はHIF-1α依存的であることを明らかにした。さらに、リン酸化Pfn1はE3ユビキチンリガーゼの認識サブユニットVHLと特異的に結合することで、HIF-1αのプロテアソーム分解を回避するというnon-canonical(非古典的)なHIF-1αの活性化機構を提唱している。実際に、GBMの臨床組織切片ではHIF-1αの発現亢進と水酸化が確認された。また、リン酸化Pfn1はグリオーマのグレードと相関すること、公共データベースよりPfn1は膠芽腫で高発現し、予後と相関することを明らかにしている。以上のことから、本論文はこれまで悪性度が高いとされてきたGBMに対する特異的な新しい治療法の可能性を述べている。実際の治療薬の開発という観点から、Pfn1、特にそのリン酸化の抑制、およびVHLを分子標的とすることが考えられるが、その特異性、選択性の問題点があげられ、今後の発展が期待される。


(6)2014年5月23日 担当:木村 竜一朗
NF-κB non-cell-autonomously regulates cancer stem cell populations in the basal-like breast cancer subtype. Yamamoto M, Taguchi Y, Ito-Kureha T, Semba K, Yamaguchi N, Inoue J.
Nat Commun. 2013;4:2299.

<要旨>
 トリプルネガティブ乳癌(TNBC)は、全ての乳癌患者の中で早期の再発頻度が最も高く、内分泌療法や抗HER2療法が適応しないことから、効果的な治療法がなく、極めて予後不良である。一方で、発現解析に基づいたintrinsic サブタイプによって分類されたbasal-like乳癌の多くはTNBCであり、その分子特性として高頻度に恒常的なNF-κB活性化が認められている。この論文では、炎症性サイトカイン、あるいはエピジェネティックなNF-κB inducing kinase (NIK)の発現調節不全により誘導されたNF-κB活性化とTNBCの悪性化に着目し、それが“non-cell-autonomously(非細胞自律的)”に非乳癌幹細胞においてJAG1発現を亢進させることを見出している。このJAG1発現亢進は乳癌幹細胞におけるNOTCHシグナル伝達経路を活性化し、癌幹細胞群の増殖を促す。また、NF-κB依存的なJAG1発現誘導とNOTCH依存的な癌幹細胞増殖は、basal-like乳癌においてのみ起こる現象である。これらの研究結果は、NF-κBが、basal-like乳癌細胞とJAG1発現周辺組織の構成する腫瘍内微小環境の形成による癌幹細胞群の制御の非細胞自律的な役割を担うことを示すものである。本論文は、TNBCにおける恒常的NF-κB活性化がNOTCHシグナル伝達系を介して癌幹細胞の生存、維持、増殖に寄与することを初めて見出したものであり、意義深い研究結果と言える。さらに、筆者らがキーワードとして挙げている“non-cell-autonomously(非細胞自律的)”な「癌幹細胞の活性化機構」は広範ながん腫においてインパクトを有すると考えられる。
 一方、本論文は主としてヒト乳癌培養細胞株による機能解析研究であり、その成果がTNBCの臨床上特徴的なheterogeneous集団を反映するかを実証するアプローチとして、乳癌臨床検体のマイクロアレイ公開データを用いたin vitro実験データとの相関解析を行っている。今後はTCGAデータなどのような多くの症例数を用いた大規模な解析による検証も待たれる。また、既存のNF-κB阻害剤は正常細胞へ影響による毒性から臨床応用が困難な状態にあることから、本研究成果をTNBCの分子特性の1つとして、これを標的とした治療への応用へと結びつけていくべき、今後の研究の進展が大いに期待され、待ち望まれる。


(5)2014年5月16日 担当:小松 正人
Pan-cancer genetic analysis identifies PARK2 as a master regulator of G1/S cyclins
Nature Genetics, 2014 May.4. doi: 10.1038/ng.2981

<要旨>
 サイクリン(Cyclin)・サイクリン依存性キナーゼ(CDK)複合体は細胞周期のdriverとして重要な因子であり、その制御の破綻(例えばCDK阻害因子であるCDKN2Aの欠失・変異)が癌化に寄与していることはよく知られている。またサイクリンの発現調節因子としては、サイクリンD1はE3-ligaseであるFBX4を含むSCF4複合体、サイクリンEはFBXW7を含むSCF7複合体によりユビキチン・プロテアソーム系を介してG1/S遷移にかけて厳密に調節されている。しかし、悪性腫瘍では、これらサイクリンの発現調節がどのように恒常的に維持されているかは未解明な点が多い。本論文では、11種類の悪性腫瘍、4934種類のサンプルを用いたCNV解析(copy numer variation analysis)を通じて、E3-ligaseであるPARK2(Parkin)を含むfocal deletionが約30%の頻度で起こっており、さらに、このfocal deletionがサイクリンD1/EおよびCDK4などのoncogeneの増幅と統計的に有意に逆相関を呈していたこと明らかにすることで、このfocal deletionが発癌のinitiationの段階で生じていることを証明した。実際に、PARK2のサイクリンの発現調節に与える影響に関して、細胞株を用いた実験で検討すると、RNA干渉法によるPARK2の発現抑制はサイクリンD1/Eの蛋白レベルでの蓄積を促進した。サイクリンD1に関してPARK2は、FBX4/CUL1/αβ-crystalin複合体を介して効果的にサイクリンD1をユビキチン化し、サイクリンEに関してはFBXW7/CUL1複合体を介してユビキチン化を促進しプロテアソームによる分解を促進させていることが明らかとなった。また著者らがこれまでに神経膠芽腫にて同定していたミスセンス変異(Nat.Genet, 2010;42:77-82)がサイクリンD1/Eに対するユビキチン化の機能喪失型変異であることも明らかとなった。以上から、癌ゲノムの構造異常の排他性(一方は欠失、一方は増幅)を統計的に解析することにより、悪性腫瘍の増殖・進展に関するbiologial pathwayを類推することが可能となり、今回同定した悪性腫瘍で高頻度にdeletionしているPARK2は、サイクリンD1/Eの発現調節を負に調節することでG1/S期を制御する、強力な癌抑制遺伝子であることが示された。


(4)2014年5月9日 担当:片桐 豊雅
XBP1 promotes triple-negative breast cancer by controlling the HIF1a pathway
Nature. 2014 Apr 3;508(7494):103-7. doi: 10.1038/nature13119.

<要旨>
 乳癌をはじめとする固形がん内部では、その微小環境ストレスに伴った構造異常タンパク質の蓄積がおきて活性化される小胞体ストレス応答(UPR: unfolded protein response)が、腫瘍形成や抗がん剤治療反応性・耐性に関与することが報告されている。故に、がん細胞におけるより詳細なUPRの役割の解明およびそれを標的としたがん治療法の開発が期待されている。
本論文では、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体およびHER2受容体の発現を認めず、治療標的が存在しないことから非常に高い侵襲性で、予後不良であるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)において小胞体ストレスセンサーIRE1下流でUPR特異的転写因子XBP1が活性化されており、TNBCの腫瘍形成能と増殖進展に重要な役割を担っていることが証明されている。TNBC培養細胞株を用いたin vitro in vivo実験系にて、RNAiによる XBP1 の発現抑制が細胞増殖を抑制し、また、CD44 high CD24 low乳がん細胞株において、 XBP1 の発現抑制が腫瘍の増殖や再発を抑制し、また、CD44 high CD24 low 細胞集団を減少させ、その結果アンスラサイクリン系、タキサン系化学療法剤耐性の克服に繋がることを示した。さらに、次世代シーケンサーを用いたChiPseq解析を通じて、XBP1がTNBCで過剰活性化されている低酸素誘導因子HIF1αと転写複合体を形成し、TNBCの腫瘍形成能を促進していることがわかった。さらに、筆者らはTNBC臨床検体を用いたコホートの解析から、 XBP1 遺伝子発現関連する70遺伝子を同定し、この発現パターンがHIF1αおよび低酸素状態によって発現誘導される発現パターンと関与し、予後不良と相関することがわかった。この報告により、TNBCでは、低酸素環境下によって恒常的に活性化されるXBP1経路の活性化が重要な役割を担い、この経路を標的とすること新たな治療戦略になる可能性が示された。
 本論文では、TNBCにおけるXBP1の活性化については証明されているが、その上流である小胞体ストレスセンサーIRE1がどのように活性化されるかは証明されておらず、今後の解析が待たれる。


(3)2014年4月25日 担当:宮川 義仁
27-Hydroxycholesterol Links Hypercholesterolemia and Breast Cancer Pathophysiology.
Science. 2013 Nov 29;342(6162):1094-8. doi:10.1126/science. 1241908.

〈要旨〉
 肥満は閉経前女性の乳癌発症に負の相関が、閉経後では正の相関のあることが大規模症例解析(メタアナリシス)にて報告されている(Lancet 371, 2008, 569-578)。本論文では、乳癌発症のリスクファクターとして高コレステロール血症に着目し、コレステロールの代謝産物である27-Hydroxycholesterol(27-HC)が乳癌の増殖、転移促進に重要であることを証明している。
 筆者らはこれまでに、27-HCがエストロゲン受容体(ER)およびLiver X receptor(LXR)のligandとして働き、骨や血管内皮細胞に発現するERに対するSERM(selective estrogen receptor modulator)として機能することを報告してきた。また、この27-HCの産生および異化には代謝酵素CYP27A1とCYP7B1がそれぞれ作用することが知られている。本論文では、乳癌自然発症モデルマウス(MMTV-PyMT)を用いて樹立したCYP27A1のKO マウス(CYP27A1-/-)が腫瘍の増殖・転移抑制を認めること、一方、CYP7B1のKO マウス(CYP7B1-/-)では増殖・転移促進作用があることを証明している。また、Luminal A typeの臨床症例を用いた相関解析にて、CYP7B1の低発現群で有意に無再発率が低かったが、CYP27A1発現量と予後には相関が認められなかった。これはCYP27A1が主に腫瘍細胞ではなく腫瘍周囲のマクロファージに発現していることからと本論文では考察されている。
 続いて、Human ApoE3 geneを導入した高コレステロール血症誘発マウスを作製し、これに高脂肪食を与えると血清コレステロール値の上昇および腫瘍形成が促進されること、脂質降下薬であるstatin投与によって血清コレステロール値低下および腫瘍抑制が認めることがわかった。さらに、27-HCはLXRに対するagonistic作用およびEMT(epithelial- to-mesenchymal transition)様変化を起すことで、肺転移を促進することが示された。
 以上のことから、27-HCはそのエストロゲン様にERを活性して腫瘍増殖に関与し、一方、LXRに対するagonisticな作用によるEMTやmetastasisに関与することが示唆された。また、血中コレステロールの低下によって腫瘍抑制効果が示されたことから、実臨床ではSERMの適応(日本では適応外)ではない中程度のリスクの乳癌の発症予防に、また内分泌療法の効果増進にstatinなどの脂質降下薬の適応の可能性が示された。
 これまで高コレステロール血症と乳癌発症に関する疫学研究としては、韓国人を対象にしたコホート研究(HR 1.21; 95% CI, 1.04 to 1.41; P trend = .003)があるものの、そのリスクは相対的に高いものではない。本論文で、高コレステロール血症と乳癌発症に27-HCが機能的に重要であることは証明されたが、そのリスクファクターとしての関与(微妙な発現量や機能亢進による)については不明であり、今後、さらなる研究を要すると思われる。また、2つの代謝酵素(CYP27A1,CYP7B1)の遺伝子多型が多種類報告されており、今後、これら遺伝子多型に基づいた酵素活性の個別化を評価した脂質降下薬の投与を臨床応用する(phamacogenomics)ことが考えられる。


(2)2014年4月18日 担当:金 南希
Induction of Paclitaxel Resistance by ERa Mediated Prohibitin Mitochondrial-Nuclear Shuttling.
PLoS ONE 8(12): e83519. doi:10.1371/journal.

<要旨>
 前立腺癌の多くはホルモン療法感受性があるが、耐性を獲得する症例も少なくなく、それらに対する治療には、パクリタキセルをはじめとするタキサンベースの化学療法が臨床応用されている。しかしながら、その多くは最終的に化学療法耐性となり、再発や遠隔転移により死に至ることが深刻な問題となっている。このホルモン療法耐性のメカニズムの解明の糸口として着目されているのが、エストロゲン受容体(ER)関連シグナルであり、その理由として、これまでにエストロゲン(E2)によるヒト前立腺組織の発癌及び腫瘍進行に影響を与えることがある。この関連シグナルの1つとして、ERのco-repressorとしての機能を有し、さらに、細胞老化や発生、また腫瘍抑制機能を有することが報告されている分子Prohibitin(PHB)は、近年その発現抑制によって、卵巣癌細胞の薬剤感受性の回復やパクリタキセル耐性肺癌細胞株・子宮肉腫細胞株の感受性の回復が観察されることが報告されている。本論文では、ホルモン療法耐性前立腺癌細胞株におけるPHBを介したERαの制御に着目した。
 本論文では、アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞株におけるE2刺激による薬剤耐性の亢進することに着目し、アンドロゲン非依存性細胞株においてPHBがE2依存的にミトコンドリアから核へ移行し、ERαに結合することによって薬剤耐性を導くことを証明している。しかしながら、ホルモン療法耐性前立腺癌において、どれほどの濃度のE2が存在しているのか、また前立腺癌細胞におけるERαの局在、特に乳がん細胞と同様に核内に存在するかが不明であった。また、PHBのERαへの結合が直接的であるとの報告をしているが、間接的であることへの疑問も残り、また、本機構がERα依存的な経路であるとの結論ながら、ERαをsiRNAにて発現抑制しても、パクリタキセル耐性の回復が認められないことからも他の経路への関与も示唆された。


(1)2014年4月18日 担当:大豆本 圭
Intrinsic subtypes of high-grade bladder cancer reflect the hallmarks of breast cancer biology.|
PNAS | February 25, 2014 | vol. 111 | no. 8 www.pnas

<要旨>
浸潤性膀胱癌は膀胱全摘術が標準治療であるが、その高い再発率により極めて予後不良である。
本論文では、公開マイクロアレイデータセットを用いて、浸潤性膀胱癌における遺伝子発現解析を行い、特定の遺伝子発現パターンを見出している。
 その遺伝子発現パターンから、2つのクラスターとしてurothelial basal cellとurothelial umbrella cellに特徴づけることができることが判明した。この分類に必要な遺伝子セットはBASE47という47個の遺伝子から構成され、乳がんの発現解析と同様に、前者をBasal type、後者をLuminal typeと定義した。このBASE47を用いて予後解析を施行した結果、Basal typeにおいて予後不良となることを確認した(全生存率p=0.0081、癌特異的生存率p=0.0194)。以上のことから、BASE47は組織型分類に有用であるだけでなく、予後予測にも有用な遺伝子セットであることが示唆された。
 この論文は、マイクロアレイ解析によるRNA発現に基づいた分類であり、確かに発現パターンでType分類は可能であるが、乳がん同様にこれ自体をそのまま臨床応用することは難しいと考えられる。また、乳がんを始め他の発現解析に基づいた分類に比較しても本論文の解析症例数は少ないことから、さらなる多くの症例を用いた検証が必要と考えられる。さらに、最近では次世代シークエンス解析による体細胞変異を有する遺伝子による分類、例えば、The Cancer Genome Atlas Research Networkのような膀胱癌の次世代シークエンス解析データを加味した評価を行うことで、より正確な膀胱癌の生物学的特徴をとらえることが可能であると考えられる。