ThymUS 2004 & Thymus Conference Ring(日本免疫学会ニュースレターの原稿より改変)


2004年11月5日から10日までPuerto RicoのSan Juanにて開催されたThymUS2004に参加した。この会議は、2002年に同じ場所で開催されたThymUSの第2回目に相当する。ThymUSという表記から推察されるとおり、1995年から開催されているオーストラリアのThymOz会議に呼応するかたちで米国の研究者により主催されている研究集会である。主催者は、最近Scripps Floridaに移った気鋭Howard PetrieとOregonにて異彩を放つJanko Nikolich-Zugichの元Sloan-Kettering癌研究所コンビであり、事務局はSloan-Kettering癌研究所のMaria Choiが務めている。

 

T細胞および胸腺に興味をもつ研究者が自発的に主催する参加者100名規模のミニ研究集会は、他にオランダのRolduc会議および我が国のKyoto T cell conference (KTCC)がそれぞれ1989年および1991年から先行してシリーズ開催されている。もちろん、旧来のKeystone会議やGordon会議さらには国際免疫学会など、より大きな規模の集会でも胸腺が話題にされることはある。しかし、それらマンモス集会は、百貨店のようにウィンドウショッピングには便利なものの、専門店のような品揃えやきめこまかいサポートは期待できない。しばしば複数の会場で議論を進行させることで、せっかく参加したのにあれを聞けなかったこの人と話せなかったといった不完全燃焼感におそわれることもあるし、円滑な議事進行を重視せざるを得ないために、考察や議論を充分できずに物足りない思いをさせられることも多い。科学からは縁遠いはずの権威や形式の跋扈に辟易させられたりすることもある。一方、成り立ちはそれぞれ若干異なるものの、古い順にRolduc, KTCC, ThymOz, ThymUSの4シリーズは、胸腺とT細胞を科学的興味の中心に据えて専門性を明確にしているうえ、巨大システムから独立して自発的に科学を謳歌する精神を共有している。この気風を好んで重複参加する研究者も過去10年ほどのうちに増えてきた。小生もそのひとりである。

重複参加者が多くなると、これまで各会議が全く独立して運営されていたことによる不便も生じてきた。例えば2004年には、5月にRolduc会議が開かれたばかりなのに11月にはThymUSが開かれるといったニアミスが起こった。せっかくそれぞれが闊達な精神で、研究領域を活性化し次世代を育もうと開催されてきた4集会なのに、多くの参加者が不便を感じる事態が起きるのであれば、少なくとも開催時期については交通整理すべきであろう。そういった思いで、2004年 5月、Rolduc会議場の地下ビアホールで、この問題について話し合いがもたれた。Rolducを代表してHergen Spits, ThymOzを代表してRichard Boyd, ThymUSを代表してHoward Petrie, そしてKTCCの使者として小生が集まった。深夜に至る話し合いの結果、2005年からはKTCC, ThymOz, Rolduc, ThymUSの順で各極四年に一度の開催にすることが合意された。もちまわり開催にすることで、国際的には一年に一度どこかで胸腺研究の小規模研究集会が開かれることになる。経費や開催月はじめその他の運営については各主催者の自主性に委ねることも合意された、合意は握手と抱擁と冗談と痛飲に引き続がれた。その後、この合意に基づく胸腺研究集会ネットワークは仮にthe thymus conference ringと名付けられ、既にウェブサイトが立ち上げられている。実に、ThymUS2004はこの合意の高揚感のもと開かれたring形成以前最後の胸腺研究国際集会であり、来る2005年4月に開催されるKyoto Thymus/T Cell Conferenceはring形成後初めての国際的胸腺研究集会となる。

 

さて、ThymUS2004である。日本ではすでに秋も深まり冬支度の始まった11月、Chicago経由で南国San Juanに飛んだ。計20時間を超える長旅であり、時差と気候差に閉口した。しかし118名の参加者(日本から8名)とその大多数83名による長短織り交ぜた口演を中心とする濃密な4日半であった。下に添えるセッション構成にて多数の興味深い報告と緊密な議論が繰り広げられた。ここではそのすべてを紹介することはできないが、T細胞への系列決定とNotchシグナルの関与についてたいへん多くの発表があり、Controversies in T cell developmentと名付けられたセッションも設定されて、理解と問題点の整理が試みられたことは指摘しておきたい。なかでも、Cindy Guidosらは、側方シグナルの観点からNotch機能を再検討し、限られたリガンド環境に対して前駆細胞が競合するというニッチ競合モデルを提唱して興味深かった。また、胸腺以外の造血組織でのDelta分子群の発現も複数のグループから示され、生体内でのT細胞への系列決定におけるNotchシグナルの関与に否定的な見解も展開された。他には、Dietmar Kappesらは、自ら見出したCD4T細胞欠損マウスの変異責任遺伝子をポジショナルクローニングにより転写因子THPOKであることを同定したうえで、THPOKの強制発現がクラスIMHC拘束性T細胞をCD4系列へと分化させることを示し、THPOKがCD4T細胞生成を司るマスター因子であることを発表した。

最後に、Nature ImmunologyがスポンサーとなったBest Poster Presentation Awardが、我が国から参加した新田剛君に贈呈されたことは同胞としても協同研究者としても大いなる喜びであったし、farewell receptionでの彼のダンスは受賞の喜びを全身で表現して注目に値するものであったことを付記したい。

 

ThymUS 2004 "International Conference on Lymphopoiesis, T cell differentiation, and Immune Reconstitution"
- Signaling early T lineage differentiation
- alpha beta/gamma delta recombination and DNA repair
- Signaling and selection
- Niches and microenvironments
- T cell reconstitution
- Exploiting advanced technologies
- Controversies in T cell development - lineage potential of early progenitors
- Normal and bnormal T cell responses
- Regulatory cells
- Key events in CD4/CD8 lineage development
- Nuclear factors in T cell differentiation
- Chemokines, cytokines, and homeostasis


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Last updated: March 1, 2005 by Yousuke Takahama