研究の興味と内容


免疫応答の司令塔として生体防御の中心的役割を担うTリンパ球は、造血前駆細胞に由来し胸腺にて分化し選択されます。私たちは、Tリンパ球が胸腺内でどのように分化し選択されるのかまた胸腺はどのようにTリンパ球の分化と選択を支持するのかに興味を持って研究しています。 生命システムの頑強性と適応性の原理解明につながるからですし、免疫疾患発症機構の解明と根本的治療法の開発をもたらすからです。もちろん、胸腺のことがだいすきだからです。

胸腺におけるTリンパ球の分化過程には、生体にとって有用な幼若Tリンパ球だけが成熟を許される「レパトア選択」のプロセスが内包されており、この選択プロセスは「自己と非自己を識別し外来非自己のみ攻撃する」という、私たち人間が地球上で健康に生きていくために必要な免疫システムの根幹的性状の形成に不可欠です。胸腺内で分化を開始したTリンパ球は、遺伝子再構成により任意の特異性を持つ抗原レセプターを発現しますが、その結果、自己成分に強く反応してしまう認識特異性を持った細胞は有害な細胞として排除され(負の選択, 1992)、一方、外来抗原に対して認識特異性を持つ細胞は有用な細胞として生存と成熟を誘導されます(正の選択, 1994)。1種類の抗原レセプターからの信号による分化制御であるにもかかわらず、信号の質と量によって全く正反対の生死運命がもたらされるレパトア選択がそれぞれどのように決定されるかは、私たちを含め多くの研究者が興味を共有して旺盛に研究を進めていますが(2006, 2015)、現在もまだ不明です。Tリンパ球選択の分子機構解明に向けた研究は、先天的なゲノム情報の限界を超越して多様な外部情報に適応する生体の「しなやかな」頑強性と適応性の理解という観点で興味深い学術テーマです。

一方、Tリンパ球の分化は胸腺という小器官の中で起こります。しかし、Tリンパ球を含む血球系細胞の生物学が比較的進んでいるのに対して、血球系細胞の分化や機能を統御するリンパ器官の微小環境に関する分子細胞生物学は遅れてきました。私たちは、胸腺被膜直下の皮質上皮細胞にサイトカインTGFβが発現され幼若Tリンパ球の細胞周期回転と分化を調節していることを明らかにしたのを皮切りに胸腺微小環境の分子本体解明に向けた研究を開始し(1994)、正の選択をうけて成熟するTリンパ球が胸腺皮質から髄質へと移動するには髄質上皮細胞に発現されるCCR7ケモカインシグナルが必須であり(2002, 2004)、ケモカインによる血球系細胞の髄質移動が自己寛容の確立に必須であることを明らかにするとともに(2006, 2009, 2011, 2013, 2017)、胸腺皮質上皮細胞特異的なプロテアソーム構成鎖β5tを同定し、β5tを含む胸腺プロテアソームがCD8陽性キラーTリンパ球生成の至適化に必須であることを明らかにしました(2007, 2010, 2015)。また、皮質上皮細胞と髄質上皮細胞の共通前駆細胞には胎生期に皮質上皮細胞に似た遺伝子発現プロフィールを示す段階が存在すること(2013, 2015)、胸腺ナース細胞が皮質上皮細胞の亜集団でありTリンパ球受容体の二次的遺伝子再構成を支持する微小環境を提供していること(2012)、自己寛容を確立する胸腺髄質の形成が成熟Tリンパ球由来のサイトカインRANKLによって制御されていること(2008, 2011)を明らかにしてきました。非血球系細胞に視点をおいて胸腺の機能とTリンパ球の選択を司る分子本態解明を目指す研究(2013, 2017, 2017)は、血球系細胞に焦点をおいた従来の免疫学研究から明らかにされることのなかった、免疫疾患の画期的な制御法開発を提示すると期待される興味深いテーマです。


私たちは胸腺でのTリンパ球分化を興味の中心に据え、「なぜだろう・なぜかしら」という個人個人のすなおな疑問にすなおに立ち向かうように心がけています。学術とは、あくまで個々の人間による知的活動であるという基本姿勢に立ち、そういった個人が共同して生体の新たな仕組みを解き明かしていく場が研究室であるとの認識を共有することによって、人類の知的財産蓄積に貢献したい、また、免疫疾患の克服に貢献したい、と考えています。研究内容に興味を共有し、研究活動によって自身の発露を目指す、諸君の参加を期待しています。

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Last updated on 16th June 2017