ゲノムの構造と機能に関する主な解析手法と主な課題(○印)
(A): ゲノム構造の直線解析による地図作り(構造解析)
ヒトおよびマウスのゲノム計画では3種類のゲノム地図、すなわち「連鎖から作成される遺伝地図」、「マーカーの位置を示す物理地図」、および「最終的な塩基配列を示す地図」を作成するすることを目標としている。これまでに最初の二つの地図は本質的に完了し、「最終的な塩基配列を示す地図」に関しては、これまでのところ、ヒトでは全配列
(3,000メガベース)の50%に当たる1500メガベースの塩基配列が決定された。西暦2000年の夏から秋にかけてドラフトシーケンスが発表され、西暦2003年には全塩基配列が決定されると予想される。
○染色体およびその領域毎の分担による塩基配列の高速決定
○ゲノム上のcDNA配列とcDNA上のモチーフを認識する方法と予測プログラムの開発
(B):
mRNAの抽出とcDNA配列の決定、cDNAがコードする蛋白の基礎解析(構造・機能解析)
各細胞はcDNAの全クローン約100,000種類の内約30,000種類をmRNAとして発現している。cDNAプロジェクトは、異なる細胞から分離したcDNAの塩基配列を決定することによりヒトの全てのcDNAクローンの塩基配列を決定することを目的としている。選択したcDNAをデータベースで検索し、既知と未知のクローンに分類し、選択したcDNA遺伝子の培養細胞及び体内臓器別の発現を調べる。選択した対象遺伝子から発現・合成させたリコンビナント蛋白の正確な分子量を求める。同時に抗体を作成し細胞内における対象蛋白の量や局在等の基礎的情報を獲得する。さらに、遺伝子配送法の開発に基づく生体に対する遺伝子を標的とした遺伝子治療等の活用法の開発を行う。
○細胞毎で異なる多数のmRNAの発現量を同時に定量するシステムの開発(DNAチップ等)
○標的細胞毎に約10,000個のcDNAのEST (Expressed
Sequence Tag) と呼ばれる部分塩基配列の決定
○cDNAの染色体上の位置の決定
○時期・細胞特異的に発現する遺伝子の発見と発現調節機構の解析
(C):
対象遺伝子の発現または消失による形態や代謝の変化を解析する方法(機能解析)
マウスやショウジョウバエを用いて生体内における遺伝子機能を研究するために、発生工学的方法を用いてゲノムを改変動物(「トランスジェニック動物」、「ノックアウト動物」、および「組織特異的あるいは時期特異的遺伝子の発現の制御機構を備えたマウス」)を作成し、遺伝子変異の結果生じる生体臓器の形態と高次神経機能を含む代謝機能に及ぼす効果を解析する。
○時期・細胞特異的遺伝子の発現および消去法の開発
○ゲノム改変マウスの臓器の発生途上を含めた形態の異常に関する光学顕微鏡・電子顕微鏡・in
situ hybridization・免疫組織化学等を用いる解析法の開発
○ゲノム改変マウスの代謝の変化に関する蛍光励起細胞探索(FACS)系・マススペクトロメトリー(質量分析機) 等を用いる解析法の開発
(D):
罹患患者と疾患動物を対象とする多遺伝子性疾患の病因遺伝子を同定する方法(機能解析)
罹患患者と病態モデル動物を対象として疾患感受性遺伝子を
、マイクロサテライトマーカー多型と単一ヌクレオチド多型(SNP:
Single Nucleotide
Polymorphism)を用いて、病態(例えば、糖尿病の有無等)や定量的形質(例えば、血糖値や体重等)との連鎖と関連をコンピュータープログラムを用いて解析することにより、多遺伝子性疾患の疾患感受性遺伝子を同定する。
○大量のゲノムサンプルの大量のゲノムマーカーの多型の決定法の自動化
○糖尿病・痛風等の代謝疾患、慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患、精神分裂病、痴呆等のヒト罹患患者および疾患モデル動物の「疾患関連遺伝子の存在するゲノム領域」と「連鎖・関連の確率」を多数のゲノム多様性マーカーの多型を用いて解析するためのコンピュータープログラムの開発
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